第44話 ギブロン街防衛戦(三人称視点)
その日。
ギブロン街は震撼する事となった。
冒険者ギルドから大々的に発表されたのは、ギブロン街に向かってスタンピードが起きたという事実である。
そもそもダンジョンからスタンピードが起きる事はほぼほぼない。
その理由としては、ダンジョンの魔物はダンジョンで生まれて、ダンジョンに縛られるからである。
ただし、ダンジョンに縛られるのにはとある条件が必要だ。
その一番の条件が、ダンジョンにマスターがいた場合にのみ、ダンジョンの魔物は眷属としてダンジョンに縛られる
というものだ。
では、マスターがいないダンジョンはどうなるか。
ダンジョン内で生成される魔物も素材も全て自動生成され、全てがダンジョンに縛られなくなる。
つまりそれは、自然に最も近い形でもあるのだ。
そんな魔物達がダンジョンに溢れるようになったら、何が起きるか。
動物なら当然の事だが、魔物自身が獲物を狙うようになる。
そして、段々と数を増やしていく魔物は階層を跨ぐようになり、増えすぎた魔物達はダンジョンから外に出る事ととなる。
それを俗に『スタンピード』と呼ぶ。
◇ ◆ ◇ ◆
「冒険者及び兵士達! 剣を取り、ギブロン街を守るのだ!」
「「「「うおおおおおお!」」」」
ギブロン街に大勢の人の声が鳴り響く。
こちらに迫ってくるスタンピードに対抗するべく、街にいる全ての戦力をかき集めたのである。
「スタンピードの恐ろしさはみんなも知っているだろう! だが! それを知っているからこそこの街に住んでいる多くの命を守るべきだ! 我々が盾となり剣とならねば、彼らは無残にも魔物達に殺されてしまうだろう! 勇敢な我々の仲間達よ! 剣を取れ!」
「「「「うおおおおおお!」」」」
冒険者達と兵士達がそれぞれの武器を空高く掲げて声をあげた。
その様子を見守る住民達も応援と拍手を送り、中には戦いに備えて食事を準備したり、彼らがより戦い易くするために休憩場を設けたりとギブロン街全体が大忙しに見舞われる。
街の遥か彼方に土煙があがっていく。
すぐに街全体に緊急用の鐘の音が鳴り、人々の顔に不安の色が灯る。
「さあ! 俺に続け!」
しかし、そんな不安を払拭するかのように、集まっていた冒険者達に領主となったヴァイオが先導する。
元々街最強の冒険者パーティーの一員である彼を知らない者はいない。
彼の勇姿に街の戦士達も勇気を振り絞り、スタンピードの魔物達と対峙した。
数分後。
遂にやって来た魔物達が戦士達を飲み込む。
しかし、今日の日のために準備していたと思われる最高級装備やどこからは大量に持ち込まれた『ポーション』のおかげで、戦士達は魔物に押される事なく、どんどん魔物の数を減らしていく。
負傷した者は直ちに後方に下げ回復させる柔軟な作戦も相まって、戦士達に死者は出ず、安定した迎撃を続けられた。
「このまま持ちこたえろ! いずれダンジョンのボスがやってくるはずだ! それまで我慢だ!」
ダンジョンのボスを待っている間、ずっと耐え続ける戦士達。
だが、その戦いは予想を遥かに超える数の魔物に飲み込まれようとしていた。
戦士達は傷はないものの、少しずつ溜まる疲労感に足をもつれる人がちらほら出始めると、ケガ人も急速に増え始めた。
「ヴァイオさん! このままではまずい!」
「ちいっ! ランス! 参戦しろ!」
「おうよ!」
対ボス戦まで温存しようとしていたランス達3人を急遽投入させるヴァイオ。
崩れかかった戦士達に強力な助っ人のおかげもあり、再度持ち直した。
「しかし、このままではボスが困るな」
そんなヴァイオのつぶやき通り、未だ姿を見せないスタンピードの
その時。
空の上から一人の影が魔物の群れの中に飛び込む。
いや、爆発ではない。魔物達が押しのけて吹き飛ばした魔物の残骸達だった。
「我の名は『トロッシャ』。『ヘルサイズ』の一人にして此度は其方ら人類に味方する者なり!」
突如として現れた真っ黒い衣装と死神を想像させるような大きな鎌と仮面。
彼女の登場により戦場に一瞬のどよめきが起きるが、彼女は全く構う事無く次々魔物を斬り捨てながら進んで行く。
そのあまりにも圧倒的な力に戦士達の不安が消え去り、雄叫びをあげながら魔物を押し返し始めた。
魔物の数が大半消えた頃、魔物の奥に一際大きい魔物が姿を現す。
その圧倒的な雰囲気の魔物は、大きさもさることながら、鋭い爪や牙を持ち、二本足で立ち上がるとその威圧感を周囲に放った。
誰もが巨大魔物に目を奪われる中、目の前に対峙する小さな人影。
彼女は自らの鎌を構え、魔物に攻撃を仕掛ける。
目にも止まらぬ速さの彼女の力は圧倒的で、巨大魔物といえども、一撃すら当てる事が出来ず、必死に彼女の動きについていこうとするが、全く歯が立たず、傷を増やしていく。
巨大魔物の鋭い爪が黒い魔力を灯すと次の瞬間目の前に大きな黒い爆風を解き放つ。
だが、その爆風もさも当たり前のように左右に
「所詮ただの魔物の分際で、我が主様を侮辱した罪。冥界で悔い改めるがよい」
彼女の鎌がどす黒い光に輝くと、その場から姿を消す。
次の瞬間、魔物の後ろに姿を見せた彼女から、周囲に爆音が鳴り響いて、巨大魔物がまっ二つに切り裂かれて左右に身体を沈める。
巨大魔物の討伐を確認した戦士達からのスタンピードに勝った喜びの歓声がギブロン街の空を埋め尽くした。
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