第100話 グランドダンジョンの攻防(三人称視点)
◆グランドダンジョン最下層、玉座の間◆
「主様!」
大きな涙を浮かべて、レヴィが玉座にうなだれているマスターを揺すり始める。
「あらあら? 気を失ってしまったか~これだと交渉ができないね~。――――――――これから力づくで行かせて貰うよ。なるほど~場所はそこか。王都からだいぶ遠いね。でも大丈夫。僕達には空を飛ぶ手立てもあるから!」
そう話す少年の言葉通り、モニターに映っていた王都の景色に大きな飛空艇が一隻舞い降りる。
空から降りて来る飛空艇は、祝福されているかの如く、美しい光を浴びて光り輝いていた。
地上に降り立った飛空艇に乗り込むのは、黒い天使の羽根を持つ勇者とその仲間5人である。
飛空艇は勢いをそのままに空を飛び立ち、グランドダンジョンに向かって全速力で突き進んでいった。
王都に残る最強戦力七天使とデス部隊の突撃も激しさを増していき、王都の姿は荒れ荒んでいく。
お互いがお互いに同じ姿なのもあり、お互いに最後の一手を決められずにいた。
◆グランドダンジョン上空◆
数時間後。
グランドダンジョンの上空に飛空艇が現れて一気に降下していいき、丁度空の上に到着した時に飛空艇が爆発に包まれる。
爆炎と共に炎が燃え広がり、飛空艇はそのまま力なく地面に落ちて、大きな爆音を響かせて爆発してその姿を消した。
グランドダンジョンの入口には6人の人が降り立つ。
それぞれ背中に黒い天使の羽根が生えており、その目にはハイライトが消えており、感情が全く感じられない。
全員がダンジョンの中に入っていくと、そこに広がるのは大きな扉が6つ並んでいて、固く閉められていた。
その前の床部分にはそれぞれが立てる台座が用意されていて、その上に立つ事を暗示させている。
勇者達は無言のまま、その指示通りにそれぞれ台座の上に立つと、そのまま床が消え、床の下に落ちていった。
◆グランドダンジョン2層◆
そこに降り立ったのは、茶色の短髪で活発そうな顔の少女だった。
その背中には大きな弓がかけられていて、両手に短剣を持っている。
それに対峙するのは、少女と同じくらいの年齢で金髪の中に目立つ大きな黒いねじれ角は二本。
「誰……?」
「…………アグニス」
「そっか…………来ると死ぬよ?」
「…………無理。身体が言う事を聞かない」
「そっか。でも…………ここは、通さない」
ベルが言葉を終えた直後にアグニスが飛び上がる。
短剣から弓に持ち替えて、無数の矢を撃ち続けた。
眠そうなベルは、自身を目掛けて降り注ぐ矢を全て避けていく。
弓に大きな魔力が集まり始める次の瞬間、ベルの頭部から金色に光る大きな魔力が高速でアグニスに飛ぶ。
直撃したアグニスが大きく後方に吹き飛んでいくか、その両手は生きているかのように動き、弓に大きな魔力が集まり始める。
数秒後、禍々しい矢状の大きな攻撃がベルを襲う。
しかし、既に
突撃するベルの全身からは黄金色に光る魔力が闘牛の形を燈り、地面に落ちたアグニスにトドメを刺した。
◆グランドダンジョン3層◆
「…………殺して」
「そう? 容赦はしないよ?」
「…………ああ。身体が乗っ取られたんだ。辛うじて言葉だけ喋れるようになった。悪いがこいつは強い。油断せず殺してくれよ」
マモの前で自分を殺せと話すのは、巨大な身体を持ち、その両手に大きなハンマーを持つ騎士である。
「名前くらい名乗りなよ。覚えてあげるから」
「…………そうだな。俺はブリダリオ。平原の騎士と呼ばれているぜ。これでも少し名のある騎士だ」
「そう。まぁ普通に出会ってたらご飯くらい奢られてもよかったよ」
「…………そうか。それはとても残念だ」
言葉を終えたブリダリオは両手に持ったハンマーを振り上げて一瞬でマモにやってきた。
巨体からは思えないほどの速さと共に、マモを叩きつけると周囲に爆音が響き、マモが立っていた地面に大きな亀裂が走る。
すぐに連続でハンマーを叩き付けるが、マモは傷一つ付かない。
「元々火力には自信がありそうだけど、残念ながら僕にはそういうのは効かないからね。その
マモが片手でハンマーを受けとめ、全力で追い返すと、ブリダリオの巨体はハンマーと共に後ろに大きく反っていく。
その腹部をマモは全力の殴りでブリダリオを殴り込んだ。
彼の身体が大きく反ると共に、頭部と足が地面に埋まっていく。
マモは油断することなく、そのまま彼の腹部を殴り続けたが、次第に動かなくなったブリダリオの身体を抜き出して、巨体を引きずってどこかに歩きだした。
◆グランドダンジョン4階◆
「…………私の相手は可愛らしいお嬢さんなのね」
戦場とは思えないドレス姿の女性がゆっくりと歩き始めた。
「お嬢さんではない。そういう貴方こそ、そういう姿で戦場とは面白いね」
「…………ええ。どうやらこの
「悪魔?」
「…………私の身体を乗っ取った悪魔よ。今は何とか会話しかできないけどね。この身体であんな事や、こんな事されてしまってね。できればここで貴方に終わらせて欲しいのさ」
「そう。どのみち、ここに来た以上、私からは逃げられない」
「…………それは助かった。もうああいう想いはしたくなかったから」
「すぐに楽にしてあげるわ。名前は?」
「…………ミリアンデ。元々は娼婦よ」
「職業はどうでもいい」
「…………知っておいてほしかったのよ。誇りでもあったから」
彼女は少し悲しそうな表情を浮かべて、両手に短い杖を持ちだした。
ミリアンデの周囲に色とりどりの魔法玉が現れる。
たった数秒でそれぞれが属性を持つ巨大な魔法玉となり、サンに向かって発射される。
だが、それぞれの魔法玉に手で触れると、
次々放たれる魔法に手に触れる度に魔力の残滓と化していく。
数分に渡る魔法の攻勢も、一発も当たる事なく全て消えていった。
「これくらいなら少し戦った感じは出たんじゃない?」
そう呟いたサンは目にも止まらぬ速さでミリアンデの頭部に手を当てると、彼女の頭部に大きな光が走り、そのまま倒れ込んだ。
倒れた彼女の亡骸を引きずり、どこかに連れて行くサンであった。
◆グランドダンジョン5階◆
「…………ねえ。どうか僕の命を絶ってくれないかい?」
「……ここに来たら…………殺すよ……」
「…………そうか。それは良かった。これで僕の身体を変な悪魔に乗っ取られなくてよかった」
「乗っ取られ……てる?」
「…………そうなんだよ。この身体はもう
「そう…………分からないけど……それでいいなら…………」
「…………ありがとう。僕はヘイン。もう会えないと思うけど、勇者パーティーに入ってよかったよ」
嬉しみを浮かべる彼は、表情と裏腹に殺気めいた大槍を持ち出して全力で突いてきた。
強烈な風を纏って地面を抉りながらルゼに襲い掛かる。
四つん這いのまま、横に一飛びして避ける。そこに再度ヘインの突撃攻撃がくるが、それが当たる事なく全部避けていく。
普通の相手なら避ける事すら難しい攻撃を簡単そうに避けていくルゼ。
暫く攻防は続いていたが、方向転換の際に一瞬止まるヘインにルゼのドロップキックが炸裂して吹き飛ばされる。
たった一撃でボロボロになった彼が起き上がる頃に、空中から強襲してきたルゼの攻撃に強烈な攻撃により地面に大きな亀裂を生むと同時に、ヘインの全身が砕けた。
◆グランドダンジョン6層◆
「…………お願いがございます。どうか私をここで止めて頂けませんか?」
「ここを通るのであれば、私の手によって殺されるでしょう。頼まれなくてもね」
「…………そうですか。それは本当によかった……」
「いつでもどうぞ」
「…………はい。どうか私に罰を与えてくださいませ」
そう話した聖女キアラは両手に光の魔法を纏わせると、巨大な眩い光をレヴィに向かって解き放った。
大きな光は触れたモノを
その後続に次々光の魔法がレヴィに放たれる。
綺麗なメイド服をなびかせて、光の魔法を颯爽と避けていく。
だが避けたはずの光の魔法がレヴィの後方から方向を転換して前後から襲ってくる。
現状をいち早く判断したレヴィが空高く飛び上がるが、無数の光魔法はそのままレヴィを追いかけ続ける。
そのまま走り回り、聖女と少しずつ距離を縮めていくが、放たれた魔法によって中々近寄れない。
むしろ、放たれた無数の魔法により逃げ場を防がれて、行き場を失った。
「仕方ありませんね」
メイド服の中から大きな刀を二振り出して両手に持った。
そして、向かってくる光の魔法を一刀両断で斬り捨てていく。
魔法を放っていた悲しむ涙を流す聖女ごと、真っ二つにしていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます