第62話 ダンジョンの死神教

 監獄が完成して五日が経過した。

 初日と二日目はそれほど監獄の恩恵を感じなかったのだが、三日目当たりから監獄の恐ろしさを徐々に知る事となった。


 まず初日にはダンポも数十くらいしか入らず、投資したダンポ100万が無駄ではなかったのだろうかと思っていた。

 ただ、二日目となりそれは百を超えていくと、三日目でその真価が発揮された。

 一番の大きな理由として、三日目に大勢の盗賊・・達がギブロン街に入って来たのだ。

 最初こそ大人しかったのだが、とある宿屋を占拠するとすぐに周囲の女達に手を出し始める。


 今回監獄生成から罪人がどれだけ増えても自動的に収監出来るからこそ、一つ大きなルールを決めた。

 それが、『異性に同意なしでいかがわしい行為を働いた場合、10点』というルールだ。

 つまり、盗賊達が同意なく女達に手を伸ばして触れた瞬間に10点となる。

 次の瞬間、空間に円状の真っ黒い扉が開いて、中からまさに死神が一人につき3体ずつ出て来る。

 出て来た死神は鎌を振る事なく、その手から伸びる鎖で盗賊達をぐるぐるにして『ゲート』の中に引きずり込む。

 こうして大勢の罪人達が収監されて、強制労働によりダンポを産むようになった。


 それともう一つ知った事なんだが、この死神の看守達。

 実は罪人以外には姿が見えないそうだ。

 目の前で盗賊達が消える様を見ていた女達は、何が起きているのか全く分からない様子。

 ただ、最近ギブロン街に広がっており『ダンジョンの死神教』となる教団が生まれており、ギブロン街の全ての住民がその教団を信仰し始めた。

 ちなみに、その信仰相手は、彼らを助ける形となっているダンジョンマスターである俺だ。


【信仰により、ダンジョンポイント30,000を獲得出来ました】


 最近になって、ギブロン街の中央広場では毎日朝に礼拝が行われる。

 全ての住民が出て来て、【ダンジョンの死神】に祈りを捧げるのだ。

 それが日課となったここ数日のギブロン街のおかげで、俺は毎日ダンポ30,000というとんでもない量のダンポを獲得している。

 さらに五日目となった監獄から毎日朝に一度まとまったダンポが届いており、その量が今日で20,000となった。

 これが積み重なったらとんでもなく恐ろしい事となるだろう。




「マスタ~?」


「うむ?」


「どうかなさいましたか?」


「いや、特にな。何となく魔人共がどうしているのかが気になってな」


「うふふ。私が探してまいりますか?」


「いや、それには及ばん。これからCランクガーディアンが生まれれば済む事だ」


「…………」


「それに」


「それに?」


「あまり俺から離れて欲しくないのだ」


「マスタ~☆」


 すぐさま飛んできたアスと唇を重ねる。

 最近、アスやレヴィも大胆になってきた。

 その原因となっているのが――――


「あるじしゃま。私も~」


「ベル★」


「お姉ちゃん……」


 俺が油断していると飛んできては甘えてくるのだ。

 それを許可しているから、怒ったりはしないが、レヴィとアスが随分と妬いているようだったので、二人にもいつでも好きにしてくれていいと話すと、時折飛んできては唇を重ねる生活を送っている。


 ただ、最近は団長とアメリアとあまり一緒の時間を過ごせていない。

 アメリアはとても気が利く子だから、殆どの時間を守護眷属達で埋めていて、自分達の時は基本的に団長アメリアのセットと、リース達のセットにしている。それも日にちは少ない。


「こほん。二人とも。夜以外にはあまりねだってはいけないと言っているだろう」


「「はぃ……」」


 二人が少ししょぼくれて俺の膝の上から降りる。

 なんやかんや姉妹なだけあって、しょぼくれた表情も似てる。




 そんな何も大きな事件が起きず、のんびりとした時間を暫く過ごしていたとある日。


「主様」


 普段なら扉から入るレヴィだが、今日は珍しく玉座の間に直接飛んできた。という事は。


「どうした。レヴィ」


「はっ。どうやら賊がこちらに向かっております」


「賊……? 魔人か?」


「いえ。どうやら人族のようです」


「人族?」


「はっ。どうやら王国側からこちらに侵攻してくるようです。以前逃した騎士の仕業と思われます」


 そういえば、そんな事したっけな……。久しぶり過ぎて忘れていた。


「アス」


「はい。ただいま」


「そいつらはどれくらいで着く?」


「はっ。このままだと5日後かと」


「…………分かった。シャーロットを呼べ」


「「!?」」


「どうした?」


「か、かしこまりました」


 レヴィが急いで団長を呼びに行く。

 アスは少し不安そうな表情で俺をチラッと覗いていた。


「心配するな。お前達にがっかりしたのではない」


 そう話すと、安堵のため息を吐く。

 そもそも俺は毎日守護眷属達には感謝しているのだ。

 ただ、今回は相手が相手なので、せっかくなら自らの手で向かわせようと思う。


 玉座の間にレヴィに誘われて、団長が入って来た。


「お呼びでしょうか。ご主人様」


「シャーロット。お前に一つ提案がある」


「私にでございますか? なんなりと……」


「これはお前でもそう簡単には決められないだろう」


 団長はその美しい瞳を俺に向けて、少し不安そうな表情で見上げた。


「これからお前の部下だった男が率いる兵達がやってくる。それをお前に任せたいと思うが、どうする?」


 きっと彼女に取っては難しい選択だろう――――――そう思っていたのだが、その言葉を聞いた団長は、口の両側を吊り上げ笑みを浮かべた。


「私の忠誠は全てご主人様のモノでございます。必ずや全員――――――






 ダンジョンポイントにして見せます」


 彼女は俺の問いに間髪入れず、そう答えた。

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