第93話 最強魔人と最強眷属

「ますたぁ…………大変…………」


 ルゼが深刻な表情で玉座の間に入ってくる。

 最近になってから両足で歩くようになった彼女だが、急いでいる時は、相変わらず四つん這いでやってくる。


「ルゼ。どうした」


「魔人が……」


「魔人? オメガの事か?」


 頷いて肯定する。


「凄く……濃い……匂い…………」


「ふむ。濃いというのは、強くなったという事か。デルタと比べてどれくらいだ?」


「ずっと……濃い…………」


 ルゼがここまで言うのだから、余程濃い・・匂いか。

 というと、デルタが角二つの魔人だった事から、もしやオメガは角三つの魔人になった?

 デルタ曰く、オメガは元々は三つだったらしいが、魔人喰いから逃れるため、角を失って二本になったと聞いている。

 なのに濃い匂いという事は、この短い間に三つに変わったと見ていいか。


「ルゼ。知らせてくれてありがとう。――――アス!」


 アスを呼ぶとすぐに魔方陣が現れて、アスが玉座の間に直接飛んできた。


「マスタ~☆ お呼びでしょうか」


「ルゼから最後の魔人の匂いが濃くなったそうだ。デルタよりも遥かの濃さのようだ」


「なるほど☆ となると、角が三つになった可能性がありますね」


「ああ。以前デルタとの戦いを考えるとマモ一人で対処できたのだが、あれよりも遥かに強くなった魔人はどうだろうか」


 少し考え込んだアスが重い口を開いた。


「少なくともマモ一人では勝てないでしょう。負ける事はないけど、決して勝てないと思います」


「ふむ……」


「ただ、相手が強くなったとしても今回は――――あの子がいますから。こと戦闘に限っては、サンは最強です」


 意外にもサンの名前が上がる事に驚いた。

 彼女の力はみんなの中でも異質なモノではあるが、それが戦闘にも活かせるのか。


 アスの指示でサンがやってきた。


「主。お呼びでしょうか」


「サン。新たな敵が現れた。その対策にサンの名前があがってな」


「かしこまりました。必ず捕らえて来ます」


 相手が誰かとも聞かず、自信ありげに答える彼女がとても頼もしい。


「ただ、念のためアス達も共に行ってくれ」


「かしこまりました。みんなで向かいます」


「ああ。ルゼは常にアスに報告するようにな」


「あい……っ!」




 ◇ ◆ ◇ ◆




 数日後。


 アス達が動いたのが見えた。

 恐らくオメガが動いたのだろう。


 モニターで彼女達の行方を追う。

 今までなら街までしかモニターで覗けなかったのだが、広範囲の拠点全てが支配下となり、野良のダンジョンが全て消えた事により、街の周辺もモニターで眺める事ができるようになった。

 彼女達は東北側の街に転送して、真っすぐ北側を目指して走り始める。

 意外にも外で走っている彼女達の姿を直接見れるのは、これで初めてだな。

 木々の上を颯爽と走る姿に、いつもとは違う凛々しい姿に少し感動を覚えるほどだ。


 凄まじい速度で進んでいた彼女達がとある場所で降り立った。


「サン」


「うん」


「一人がやりやすい?」


「うん。範囲・・で戦うから」


「分かった。危なさそうな時はマモと割り込むよ」


「わかった」


 戦闘ではレヴィではなくアスがリーダーになるのか。これも初めて知った事だな。

 数秒後、ルゼが指さした場所に向かってサンが飛んでいく。


 サンが飛んだ先をモニターで先回りしてみると、魔族が十数人歩いていた。

 会話から、魔族の生き残りらしいが、今の魔族は勇者と戦っていたと聞いているから、勇者に負けたのだろう。

 姫と呼ばれた魔族の話からも、魔王が勇者に負けるだろうと話している。


 その時、後方から一人の女が前に出てきた。

 モニター越しからでも、彼女から溢れる威圧感からは凄まじいモノを感じる。

 間違いなく、例のオメガという魔人なのだろう。

 それにしても、人族と全く区別がつかない。


 少し言い争いになったが、予想通りオメガが全て仕組んでいたんだな。


 一瞬で姫魔族以外の魔族がその場に倒れる。




「すぐに死なないでくださいね? 貴方達は私が勇者を喰うための養分になって貰いますから~!」




 そう話すオメガが喜びに震えて笑い出す。

 次の瞬間、


「雑魚の分際でよく吠える」


 声と共に、オメガの身体が大きく吹き飛んだ。


 声の主は、もちろんサンである。


「えっ!?」


 サンは魔族達を見回すと、聖水を取り出し、彼らに振りかけた。

 みるみるうちに怪我が回復していく。


「あ、貴方は?」


「…………お前達。既に主の所有物」


 ええええ!?

 俺の所有物!?


「…………死神教という教団の主様ですか?」


「うん。ここに入ったら全て主の所有物」


「そう……ですか。少し考えさせてください」


「拒否権はない」


「…………」


 …………サンさん。一体何を話しているのだ。

 それはともかく、モニターに怒りに染まったオメガが立ち上がるのが見える。


 次の瞬間、守護眷属達でも一瞬では到底届かない距離を、瞬きする間に現れたオメガがサンを殴りつける。

 それを予想していたかのように、彼女の殴りを平手で受け止めると、周囲に爆炎が広がっていく。

 たった一撃で地面が広範囲に割れるくらいにオメガの力が強い事が見て取れる。


 しかし、その攻撃を受けても平然としているサンも中々凄い。


 オメガが次々高速で攻撃を続けるが、全て見切っているかのように平手で防いでいく。

 その隙間にサンの平手がオメガの身体に触れると同時に、またもや爆音を響かせながら後方に吹き飛んだ。

 全身が血まみれになったオメガの目は真っ赤に染まり、怒りのあまり大声で叫んだ。

 ただの咆哮に周囲の木々が吹き飛んで、まるで台風にでもあったかのようにオメガを中心に無残な景色に変わる。

 両手を合わせたオメガの全身から禍々しいオーラと共に夜の暗闇すら飲み込める暗黒の球体が現れる。

 叫びと共に暗黒の球体を投げ込むと、大地を抉りながら音すら遅れて聞こえてくるかのような速さでサンに向かった。


 しかし、サンはいとも簡単に飛んできた球体を空の上に打ち上げる。

 上空に跳ね飛ばされた球体が爆発すると、暗い夜空をも飲み込む巨大な爆発にオメガの力を目の当たりにした。

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