第33話 飲食店の開店
やる事が決まったら、凄まじい速度で事が進んでいく。
金属のインゴットは、レヴィの眷属となっている4人冒険者達が上手く捌いてくれているらしく、初めてこの世界の貨幣を見られた。
この世界の貨幣は、全部で4種類あり、小銅貨、銅貨、銀貨、金貨が存在する。
一番メインとなるのが銅貨で、銅貨1枚で質の悪いパンが一つ買えるほど。
そんな感じからして銅貨1枚を前世でいうなら100円とする。
小銅貨100枚で銅貨1枚。つまり、1円に相当する。
銅貨100枚で銀貨1枚なので、銀貨1枚は1万円に相当し、その100枚で金貨1枚なので、金貨1枚は100万円相当だ。
ただ、ここで前世と大きく違うのは、物価そのものだ。
例えば、質の悪いパンが一つで銅貨1枚だとして、その他の商品の値段を聞く感じ、圧倒的に食材の値段が高い。
それを証明するかのように、下働きで一日12時間労働が普通のこの世界で、12時間の日給は、たったの銅貨2枚だ。
円換算なら200円というとんでもない劣悪な環境である。そんな事もあって、みんな一日一食のパン一つな日々も当たり前のようにあるそうだ。
それに比べて、うちのダンジョン1層の食材が手に入り、しかも質の悪いパンなんかと比べ物にならない美味しい野菜や果物が手に入るから、とんでもなく大人気となっている。
さらにレヴィが仕入れた情報によると、最近では領主がいないおかげか、食料品が出回るようになり、それなりに貨幣も回るようで、質の悪いパンが銅貨1枚ではもう売れず、値下げして小銅貨10枚に激減しているそうだ。
それを考えれば、今のギブロン街は住みやすい街になったと言えるだろう。
レヴィから逐一で報告が届き、遂にはギブロン街にお店を出す所まで進んだ。
◇
ギブロン街、飲食店『ご主人様』。
とんでもない速度で開店したその店から、とてつもなく良い匂いが周囲に広がり始める。
マサムネの提案で焼きとうもろこしにアメリア特製醤油を塗り、店内の特大窓の場所で焼く。
甘い匂いが特大窓を通して、店の周囲に広がるのだ。
その匂いに通りかかる者は全員が全員、足を止めて新しい飲食店とやらを見つめる。
店の入り口に大きく書かれている『ヤキトウモロコシ1つ銅貨3枚』の看板に釣られ、一人の冒険者が店の入り口ではなく、隣の店員の窓口に立つ。
これもマサムネの提案で、中に入らずとも『ヤキトウモロコシ』を売れるようにした出店形式のやり方だ。
こういう店が全く存在しないギブロン街の大人達がその場を離れず、様子を見る中、一人の子供が腹を鳴らしながら近づいた。
「あ、あの…………」
「いらっしゃいませ、小さきお客様」
窓の中から優しい笑みを浮かべた女性店員が迎え入れる。
「お金はないんですけど……これで買えませんか?」
子供が渡したのは、小さな硝子玉だった。
「小魔石でございますね。もちろん、受け付けております」
『ヤキトウモロコシ1つ銅貨3枚』の看板の下に注意書きが書かれており、貨幣以外の資材での買い物も可能。と書かれていて、子供はそれで手に持った魔石を差し出してみた形だ。
「ですが、小魔石一つでは値段が合いません」
一瞬で子供の顔が曇る。
小魔石1つは、換金しても銅貨1枚にしかならない。
「申し訳ございませんが、
その言葉に子供の表情が一気に明るくなった。
「はい! それでお願いします!」
「かしこまりました。ではこちらに」
子供から小魔石1つを受け取った店員は、美味しそうなヤキトウモロコシを綺麗に半分にし、子供に手渡した。
「それほど熱くないので、かぶりついても問題ありません。芯は硬くて食べれないので、森にでも捨ててくださいね~」
「は~い! 綺麗な店員お姉ちゃん! ありがとう!」
子供は貰ったヤキトウモロコシにかぶりつく。
その姿を周囲の大人達が見つめる中、子供は声一つ発することなく、その大きな目に大きな涙を浮かべては、無我夢中でヤキトウモロコシにかぶりついた。
「う、美味いのか!? どっちなんだ!?」
しびれを切らした大人が子供に言葉を投げかける。
目に大きな涙を浮かべた少年が大人を見つめる。そして。
「う、美味すぎて喋る時間ももったいないよ!」
少年の言葉が店の前に響いた瞬間、集まっていた大人達が流れ込むように店の前に並んだ。
「お客様~物は沢山ありますので、列を乱さないようにしてください~」
店員に注意されながら、大人達は早く自分の番がこないかとソワソワしていた。
順番になり、ヤキトウモロコシを食べた大人達は全員が美味すぎると叫ぶほどであった。
◇
「主様。飲食店が順調にスタートしました」
レヴィが早速報告に来てくれた。
モニターではダンジョンの中しか見れないので、外の事は全く分からない。
「ご苦労。引き続き頑張ってくれ」
「はいっ!」
その場から姿を消したレヴィがダンジョンから外に出掛ける。
「ご主人様~ヤキトウモロコシをお持ちしました~」
山盛りのヤキトウモロコシを持ったアメリアが入ってくる。
ヤキトウモロコシはアメリアが開発した特製醬油をふんだんに塗って焼いたトウモロコシで、程よいしょっぱさからくる強烈な甘みがたまらない一品だ。
主食というよりは、間食でよく食べるのだが、俺がモリモリ食べるのを見て、定期的に作ってくれるようになった。
今では飲食店の看板メニューでもあるはずだ。
「レヴィから順調に進んでいると報告があった」
「本当ですか! とても嬉しいです!」
「うむ。アメリアのレシピのおかげだ」
「えへへ~ご主人様のためになるのなら、とても嬉しいです!」
嬉しそうに笑うアメリアにドキッとしてしまう。
「あら? ご主人様? どうかしましたか?」
「い、いや。何でもない」
ああ。何でもないとも。俺はな。
俺の俺はどうやら反応してしまったようで、下の膨らみがあがってくる。
「ご主人様! も、申し訳ございません! 気が付かずに失礼しました!」
そう言いながら、駆け足で俺の足元にやってくるアメリア。
「い、いや、そ、そう訳では…………」
だが既に手を伸ばしたアメリアを拒否する事など、出来るはずもなく。
俺の一週間に溜まったモノをアメリアの中に吐き出す。
く、くっ…………ダンジョンマスターとしての威厳が…………。
久しぶりにアメリアの素晴らしさを堪能していて気づいていなかった。
扉の隙間から俺を見つめている視線がある事を。
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