第69話 インセイン

 シャルルの検証が終わったので、玉座の間に戻った。


「マスタ~☆ シャルルちゃんの原因が分かったのですか?」


「ああ。とても単純なものだった」


「ほえ?」


「…………俺はこの世界について、どうしても不思議に思える部分があった」


「不思議な部分ですか?」


「ああ。この世界で生まれた全ての者が、成人に到達した時点で覚えるインセインというスキルだ」


 アメリアに教わったそれは、この世界の常識・・を強制的にインプットさせるスキルだ。

 だからなのか、この世界の成人はみんな大人・・になっている。


「ギブロン街だけなのかも知れないが、この世界に同性愛者が見当たらないのは、俺にとってある意味違和感でもあった」


「同性愛ですか……確かに見かけないですね」


「そうだ。これだけ広い世界で社会があるのに、みんながに対しては決まったモノを持っている。あの『インセイン』というスキルのせいなのだろう」


「成人した者はすぐに繁殖行動をしますものね」


 アスの言葉通り、この世界で成人した者は少なからず配偶者を求める。

 成人してすぐに夫婦になる者は殆どというか、寧ろ全員と言っても過言ではない。

 途中で離婚してしまう夫婦もいるが、当たり前のようにすぐに再婚してまた子を産む。


 ここで子を産むというのにも一つ大きな違和感を感じる。

 これはとても良い事なのだが――――――この世界に死産・・は存在しないのだ。

 実はこれも気になっていて、レヴィに調べさせていた。

 ギブロン街だけでなく、王国全土で生まれなかった子供が存在しない事を知った。

 それも『インセイン』というスキルの効果が及んでいるのではないかと予測できる。


「今回シャルルは間違いなく例外中の例外だ。彼女は――――――『インセイン』が覚醒する前に、同性――――いや、シャーロットを心から愛してしまったのだろう」


「心からですか?」


「ああ。理由は知らないが、もしかしたらシャルルは最初から何らかの病気を抱えていたと思われる。それはこの世界に対して違和感を感じる病気だったに違いない。彼女が幼い頃から姉であるシャーロットを愛して、それが歳を重ねて『インセイン』を授かってしまった」


「ふむふむ」


「だから彼女の中での『常識』は『常識ではなくなった』んだと思う。それを証拠に、『インセイン』を授かった普通の女性は男の裸に必ず反応する。それはダンジョンの中だろうが、家だろうが、街だろうが、関係なく反応する。『インセイン』によってそう仕組まれたからだ。だが稀に『インセインの意志』に逆らえる存在も存在する。それがシャルルである、シャーロットでもあると考えられる」


「シャーロットちゃんもですか?」


「ああ。彼女は王国にいた頃から男に全く興味がなく、自分に勝てる男を探していたと言っていた。それはある意味『インセインの意志』に反するのだ」


「どうして反するのですか? 男を探しているように見えますけど……」


「そこなのだ。シャーロットの意志は『自分より強い男性』であり、『インセインの意志』を持ってしても、目の前に裸の男性がいようが全く反応しなかったのだ。少なくとも『インセインの意志』は全ての異性に対して反応するように仕組まれている。シャーロットもまたその意志に反しているのだ」


「なるほど!」


「その妹であるシャルルは、シャーロットをはるかに超えた――――ある種、を持っていたのだろう。そして成人となった彼女は『インセインの意志』をも喰い殺したと思う。だが、スキルに『インセイン』がある以上、必ずその反動を受けるようになっているだろう。それが顕著に表れたのが、シャーロットや俺の前で性格が豹変するあれだろう」


「確かに彼女の豹変っぷりは異常ですよね☆」


「うむ。異性でもなく、同性でもなく、ただ一人、自身の姉であるシャーロットにだけ『恋』をし、恋を発動した瞬間『インセイン』によって同性愛が禁じられているから、その反動で行動と言動が逆転し始める。中々面白い仕掛けだと思うぞ。『インセインの意志』とやらは」


「うふふ。私としては下僕共は全員斬ってしまってもいいと思っていたんですけど☆ マスタ~は慈悲深いのです☆」


「もちろんだ。以前にも話したが、アス達を支えてくれる眷属達を重宝したいのだからな。彼らについて知っておくのも大切だろう」


「マスタ~」


 アスがそのまま俺の胸に飛びついてきた。

 唇を求める視線に抗う事ができず、彼女を唇と交わす。

 …………もしかして、俺の中にも『インセイン』というスキルが眠っていたりするのかな?


「マスタ~これからシャルルちゃんはどうなさるんですか?」


「そうだな。何とかあの『インセイン』を封印させてみたい」


「うふふ。お手伝いします☆」


「ありがとう。ただそれについても、試したい事があるのだ」


「どんな事ですか?」


「以前アスが話していた守護眷属達にはそれぞれ大きな力があると言っていたな?」


「はい☆」


「もしかしたら新しい守護眷属によって、それが達成できるのではないかと思ってな。直近ではCランクガーディアンだったな」


「それですと、たぶん無理だと思いますが、もしかしたらその次の子ならできるかも知れません」


「ほお?」


「次の子は恐らくルゼだと思いますが、その子はどちらかというと――――――犬ですから」


 い、犬!?


「でも彼女が目覚めたら魔人共を駆逐しやすいので、シャーロットちゃんのあの件と一緒に進めるのは良いかも知れません☆」


「なるほど。それでダンポを確保できる訳か。分かった。当面はダンポを増やす方向に進める」


「かしこまりました☆」

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