第89話 魔王(三人称視点)

 ◆魔王城◆


「くっ…………まさか勇者がここまで…………」


「魔王デスハード。貴様がゆっくりしてくれたおかげで、俺様は強くなれたぞ。感謝するぜ」


「ぐぅ…………」


 勇者パーティーメンバーに囲まれ、全身をボロボロにされた魔王デスハード。

 悪魔デモン族と呼ばれる魔族の中でも随一の力を持つ種族であり、その頂点で魔族の王として君臨している魔王である。

 既に魔王の力の元となっている両翼や角、武器は全て折られ、息の虫の本人が残るのみだった。


「オメガめ……我々を裏切ったな。だが全てお前らの想い通りにはさせない!」


「ふん! 長年魔族の座に君臨したんだから、そろそろ退場してくれ」


「させん! 生き残るのは我々魔族だ! いつか――――魔人喰いに貴様ら人類も魔人も全員喰わ――――」


 言葉を最後まで続けることができず、魔王の首が地面に落ちる。


「ふん。魔人喰い、魔人喰いとうるさいんだよ。オメガもデルタもお前も。そんなやつなんか俺が斬ってやる。だから貴様はその夢を俺に託してせいぜい空の向こうで指を咥えて見てな」


「でぃ、ディーザ! 遂にやったな!」


 魔王の死を確認して喜ぶパーティーメンバーにディーザも笑顔で応える。

 暴虐の勇者と呼ばれるようになっても尚、パーティーメンバーにだけは絶対の優しさを見せるディーザに、メンバーも最大の信頼を寄せるからこそ、今代の勇者パーティーは最強と云われている。

 それが遂に魔王まで討伐して、人族の悲願であった平和を手に入れたのだ。


「ディーザ。これからどうするんだ?」


「そうだな。魔王は死んだが、その子供は生きているはずだ。噂によれば、あっちの方が強いかも知れないという。そっちを追う・・ぞ。まぁその前に魔族を殲滅してからだな」


「分かった。現役の魔王を倒したくらいで喜ばないのがディーザらしいな。俺らも最後まで共に行くぞ」


「ああ。みんな。よろしく頼む」


「「「「お~!」」」」


 魔王の子供を追いかけようと決意したその瞬間。

 死んだはずの魔王の身体から禍々しいオーラが放たれる。


「っ!? へ、ヘイン!」


 ディーザの声が響く中、魔王の身体からどす黒いエネルギーが周囲に放たれ、数秒後に大爆発を起こした。




 ◆とある魔族一行◆




「はぁはぁ…………ちっ。まだ追いかけてくるか」


 魔族を追いかける人影にうんざりしたかのように、魔族は黒い魔法を放つ。

 魔法が炸裂して大きな爆発が起きると、跡地には数体の人族の死体が転がっていた。


「人族のアサシン部隊もしつこいわね」


「姫。そろそろ例の領に入ります」


「分かったわ。このまま速度を落とさずに行くわよ。お父様の無念を必ず晴らさないと!」


「「「了解!」」」


 女魔族が率いる魔族の一団は大きな怪我もないまま、追いかけて来る人族のアサシン達を葬りながらとある領域に入っていった。




「姫。ここなら安全でしょう」


「はぁ…………やっとここまで来たわね。勇者はまだみたいね」


「ええ。デスハード様はそう簡単にやられたりはしないはずです」


「…………」


 巨大な身体を持つ魔族の言葉に、姫と呼ばれた女魔族は首を横に振る。


「ううん。お父様は間違いなく死ぬわ。あの勇者は今までの勇者とはあまりにも違うモノ」


「そ、それは…………」


「いいの。悲しいけど、力の前で滅ぶのはいつの時代も定めだから。でもそれを簡単に受け入れるほどに私は落ちぶれていないわ。このまま勇者にただ殺されてたまるものですか」


 女魔族の決意に、一緒に逃げてきた魔族達の瞳に希望の炎が通った。




 しかし、




「誰!?」


 女魔族の声と殺気が暗い森の中に響き渡る。


「ふっふっふっ。さすがですね。魔王の娘。アスタリア姫」


 中から現れたのは、メイド服を着ている女――――セーラであった。


「オメガ…………貴様。よくも裏切ってくれたわね」


「ふふっ。裏切るなど、とんでもない」


「ふざけないで! 勇者にを渡したのもあんたでしょう!」


「それは誤解です。あれは私ではなく――――デルタというもう一人の魔人ですよ?」


「…………デルタを利用したのね?」


「くっくっ、あはは、あはははははははー!」


 目頭を押さえて大声で笑うオメガに魔人達が構える。

 オメガがどれくらい強いかを知っているからこそ、彼女の挙動一つ一つに注意を払う。


「大きな誤解ですよ~だって――――――利用したのではなく、元々・・がそのつもりでしたからね」


「っ!? あんたね! デルタは仲間じゃないの!?」


「仲間? 御冗談を。デルタも他の魔人も――――私が元に戻るためのです」


 そう話したセーラの身体が変化していく。

 メイド服が破けて、中から現すのは紫の強靭な身体。

 頭部もどんどん変わっていき、遂には魔人の姿に変わっていった。


 そして、その頭部に見えていたのは――――


「っ!? 3本…………つまり、あんたはそのを手に入れるためにこんな事を!」


「ふふふっ。ええ。正解です!」


 答えると同時に目を開くと、姫以外の魔人達がその場で倒れ込む。


「くっ!」


 急いで両手に魔法を灯らせてオメガに放つ。

 すぐに周りの魔人達を確認する姫だったが、一瞬のうちに全員が戦闘不能になった。


「くっくっくっ。私がそう簡単に殺す訳ないでしょう? 彼らには貴方を痛みつける様を見て貰わないと」


「…………ゲスめ」


「あーははははは~! そう褒められるモノでもありませんがね!」


 瞬きするほどの一瞬でオメガによって腹部を蹴られた姫は、後方にある岩に激突しておびただしい量の血を吐き出した。


「すぐに死なないでくださいね? 貴方達は私が勇者を喰うための養分になって貰いますから~!」


 その表情が歓喜に染まるオメガ。


 だが、その場所に一人の女の声が響いた。






「雑魚の分際でよく吠える」







 声と共に、オメガは今まで受けた事もない衝撃を受けて理解できないまま後方に大きく吹き飛んだ。

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