第36話 緊急会議

「緊急会議を行う」


 食堂のテーブルには俺を始め、レヴィ、アス、アメリア、団長、今回戦いで店を守った女剣士のセーラ、お店の店長役を任せたフレナの6人だ。


「まず状況を教えてくれ」


 代表してフレナが話す。


「はっ。お昼の開店時間に一人の男がやって来ました。珍しくクレームを入れてくる客だったので、叩き出したのですが、どうやらその男がギブロン街の裏社会を牛耳っている連中に繋がっていたようです。その後、休息が終わり、夕方の営業を開始すると、大勢の男達がやって来ました。

 彼らは自分達を『沈黙のサソリ』と名乗っておりました。人数は30人でしたが、こちらのセーラ様とケン様、カール様と戦闘になりました。セーラ様達の方が遥かに強さでは上回っておりましたが、相手の人数が多すぎた事で、店が被害にあいました…………この度は大変――――」


「よい。お前達はいつもよくやってくれている」


「!? あ、ありがたき幸せ」


「俺が怒っていたのは店を守れなかった事に対するモノじゃない。お前達が頑張っている中、俺は何もせずただ待っていた自分自身に怒っている。だから謝らなくてよい」


 フレナは事情を説明し終えたので、俺の言葉を授かって他の眷属達の所に向かい、俺の言葉を伝えて貰った。


「ではフレナが言った相手『沈黙の蠍』とやらをどうするか会議を進める」


「はっ!」


 レヴィが誰よりも真っ先に手を上げる。その瞳には怒りの色が覗ける。


「わたくしに任せてくだされば、今すぐに殲滅して参ります」


「レヴィ」


「はっ」


「殲滅では生温い」


「っ!?」


「あいつらには生き地獄を見て貰わなければ気が済まない」


「はっ! それでしたら、嫉妬の間にございます『拷問の館』に詰めましょう」


「『拷問の館』か…………良いだろう。それとこれからギブロン街について、どうするべきか案はあるか?」


 その時。

 意外な言葉が聞こえてくる。



【街の支配者を倒して、街の支配率を上げる事でダンジョン化とする事が出来ます。ダンジョン化にはダンポ100,000が必要です】



 久しぶりの天の声さんの声だ。


「なるほど。街を支配する方法があるらしい」


「!? おめでとうございます!」


 続いてみんなが「おめでとうございます!」と声をあげる。


「まず、あの街の支配者だった者は死んでいる。次は支配率とやらを増やさなければならないが、これについて知っている者はいるか?」


「はっ! 恐らくですが、ダンジョンマスターでございます主様を崇拝する者が街に住む事で支配率が増えると思われます」


 レヴィの言葉に支配率を意識すると、


【現在、ギブロン街の支配率は6.4%です】


 と、天の声さんの声が聞こえる。


「うむ。どうやらそれで正解のようだ。現在の支配率は6.4%らしいな」


 そもそもあの街に住まわせている崇拝者なんて――――――あ、いたな。あの冒険者達か。

 つまり、支配率というのは、人数よりは、街への影響力が高い者であればあるほど、上がりやすいのか?


【支配率は、街に影響力を持つ住民が高い支配率を有しております】


「支配は人数というより、街に影響を持つ者だそうだ。いま住まわせている冒険者達で6.4%か。ならばもっと手っ取り早く影響力を持つ者をピックアップして支配していく。アス!」


「はっ!」


「レヴィが『沈黙の蠍』とやらを片付けている間、ギブロン街の影響力を持つ者をピックアップしてこい」


「かしこまりました!」


 支配したかった訳ではない。

 だが、こちらに向いた悪意があるなら、その脅威は徹底・・的に排除せねば。

 丁度ダンポも減っていた所だから、『沈黙の蠍』とやらを狩らせて貰う。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 ◆ギブロン街の『沈黙の蠍』のアジト◆



「ちくしょ…………たった3人にここまでやられるとは…………」


「意外にも強い3人でしたから……でも、もう店は再起不能にしてやったんで、あの方の依頼通りに進んだ気がします」


「そうだな…………これなら問題ないだろう。それにしても割に合わない仕事だったな」


「ですね。しかしこの街に我々以上に強い連中が冒険者以外にいるなんて、思いもしませんでしたよ」


 ボロボロになった大勢の『沈黙の蠍』が溜息を吐いていた。

 手当が終わり、一安心していたその時。

 周囲の照らしていたランタンの中のロウソクの火が一斉に消える。


「ん!? なんだ?」


「誰だ! 窓を開けた馬鹿は!」


「いやいや! ランタンの火が風くらいで消えるかよ!?」


 慌てている中、少しずつ暗闇に目が慣れて来た男達は、窓際に一際目立つ存在がいる事に気付く。

 服装からして男ではないと分かる程の、メイド服を着た何者かが窓際に佇んでいるのだ。


「誰だ!」


「窓際に誰かいるぞ!」


 みんな戦闘態勢になるが、休んでいたのもあり、手元に武器はなく、窓際に佇んでいる者を睨みつける。

 外から青日様の光が窓から差し込む。


「は? メイド? 女?」


 佇んでいるのは、他でもないメイド服を身に纏った女性一人だ。



「此度は我が主様の心によくも傷を付けてくれたな」



 美しい声が部屋に響く。

 ギブロン街でも裏社会の掌握してきた『沈黙の蠍』のメンバーは、喧嘩には慣れているはずだ。

 あの忌々しい冒険者と闘争になっても、負けないほどの力を持っていたと自負していた。


 だが。


 目の前のメイドからは果てしない殺気が放たれており、息すら出来ず、身体の震えが止まらず、動く事も出来ない。


「貴様らには、我が主様を傷つけた罪として、この世の地獄を味わってもらうぞ。死んだ方がマシだと思える程の地獄を――――」


 彼女の言葉が終わると、その場にいた男達が気を失い倒れる。


「今すぐに貴様らの四股を引きちぎってやりたいが、我が主様は貴様らを地獄に落とせと命じられた。これから地獄で生き続けるがいい」


 すぐにその場にいた全ての男が消え去る。

 その屋敷に集まっていた全ての人々が、たった一晩で全員消える事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る