第92話 再会

 V-22オスプレイは自衛隊に2020年から配備が始まった最新鋭機で、回転翼機と固定翼機の良い所取りしたような、一粒で二度おいしい航空機だった。


 おっ、機長席は、ヘリコプターと同じで右側なんだ。グラスコックピットが如何にも最新鋭機っぽいな。


 俺達は朝のお勤めを中断して、俺達の見送りに集まってくれた聖天宮の皆と別れの挨拶を交わした。


 ミシェルにはたくさんの女性陣が集まり、別れを偲んでいる。


 俺には爺さん達が寄り付く前に、がきんちょ達が群がって来た。


 「王様!草むしりありがとなー!」「草取り、すごく助かったわ!王様!」「王様!また、草むしり手伝いにきてねー!」


 俺が如何に慕われてるか、推して知るべし!


 「それじゃ、世話になったな。また来るよ。」


 俺達は、集まった皆に手を振って、オスプレイに乗り込んだ。

 二十五席もあるキャビンに六人で座るのだから、広々としたものである。

 

 俺は機長席に座り、エリクシアに副操縦士席に着いてもらった。

 オスプレイの巨大なプロップローターが回転し始めると、見送りの皆は驚いて数歩後ずさりしていた。


 俺はスロットルレバーをゆっくり前に倒して、機体を垂直に上昇させた。

 天聖宮の周りをゆっくり旋回しながら高度を上げ、高度5,000メートルで機首を西北西に向けて、巡航速度446 km/hで飛行した。

 目的地は首都クールデヴォワの北の街ヴァランスだ。


 巡航速度もチヌークの240 km/hに比べて、およそ二倍の速さが出せる。


 あっと言う間に聖天宮が小さくなり、雲に隠れて見えなくなった。


―・―・―・―


 俺はヴァランスの街から20キロメートル程離れた空き地にオスプレイを着陸させた。


 ここからは陸路となる。しかしオスティアナ街道に出るまで、悪路を進むことになるので、おれは久しぶりに輸送防護車ブッシュマスターを使うことにした。

 なにせ俺を含めて八人と一匹と妖精の、大所帯になっているからね。


 エリクシアに運転席に着いてもらい、俺は車長席に座った。

 クロシェットがレミントンM24SWSをとりだして、「クロが銃座で哨戒するの!」と言って銃座に立った。


 哨戒よりも、レミントンM24SWSの試射が目的なんだろう。


 「悪路で車が揺れるから、気を付けるんだぞー!」


 そうクロシェットに注意して、エリクシアにはできる限り揺れない様に運転をお願いした。

 エリクシアから帰って来た無言の笑顔が恐ろしい。


◇◇◇◇◇


 「トーマ様。前方に街道が見えました!」


 三時間ほど荒野の悪路に揺られた後、銃座に立っているサーシャが教えてくれた。

 クロシェットは途中、車に酔ってしまい、今はキャビンでダウンしていた。ミシェルの神聖魔法で回復はしたが、今は大人しくシートに座っている。


 「アラン連合王国の街道に比べたら、狭いし道もデコボコしているな。」


 オスティアナ街道をブッシュマスターで走っている感想を俺が漏らすと、エリクシアが答えた。


 「アラン連合王国の街道は、よそとは次元が違います。

 連合王国の人々は、街道と橋と港を作る事に使命感に似た情熱をお持ちの様ですから。ふふふ。

 でもアルマーナ王国の街道も、石畳が敷かれていて、ガルキアやセントニアに比べたら、この国の街道の方が断然素晴らしいですわ。」


 「あら、面白そうなお話しです事。」


 話につられて、オリヴィエが顔を覗かせてきた。


 「アラン連合王国の街道は、国民の情熱で出来ているってお話しをしてたのですよ。オリヴィエ様。」


 「エリクシア様。全くその通りなの。

 アラン連合王国の男共は、自分の筋肉を鍛える事ができるので、重い石を扱う街道整備や、橋梁整備、港湾整備の仕事に人気があるのです。

 おかげで低賃金でも、独身の筋肉バ・・・筋肉愛好家達は喜んで仕事に集まってくるので、とても重宝しましたわ。

 彼ら曰、『器具で鍛えた筋肉より、労働で鍛えた筋肉の方がより美しい』だそうです。」


 えっ!なにそれ、もっとkwskくわしく・・・。


 「個人の力では、連合王国の筋肉男以上の力持ちであるアルマーナ王国の獣人ですが、連合王国の筋肉達に比べて、仕事が大雑把というか、雑ですわね。」


 エリクシアは、先ほどから路面がデコボコして、速度を出せないことに苛立ち始めていた。


 「ほほほ!それは仕方ありませんわ。エリクシア様。

 アルマーナ王国の獣人達が愛してやまない、戦と農耕の神マーヴォルス様からして大雑把なお方だそうですから、アルマーナの国民も何事も大雑把になってしまうのですよ。」


 「へえ、神様の性格が、国民性に反映されているのか。おもしろ・・・」


 俺がそう言いかけた時、前方の路上で大きな荷物を担いでいた男が、俺達を振り向いて大きく手を振っていた。


 「・・・エリクシア。止めてくれ。

 ベルちゃん、前方の男、左目に反応が出てないので、安全だと思ってよい?」


 「マスター。アクティブ探知の自己診断は正常です。

 それに、あの男はカグファの同族ですから。大丈夫ですよ。」


 エリクシアは男の手前でブッシュマスターを停車させた。

 そして俺はサーシャに入れ替わってもらい、銃座に立って男に尋ねた。


 「おーい!どうした?」


 男は大きなブッシュマスターに驚いていたが、気を取り直して答えた。


 「一つお尋ねするが、あんたがカビール川の魔晶石の人かい?たしかトーマ様だったかい?」


 「ああ、俺がトーマだ。どうやらその魔晶石の人って呼ばれているみたいだな。」


 おれは胸元から魔晶石の首飾りを取り出して、見せてあげた。


 「おお!確かに確かに!

 あなたに伝言があるんだ。

 今、長老カグファの部族が、ヴァランスの街にキャラバンを移動させて来ている。

 東門の直ぐ傍だ。

 カグファ老があなたに会いたがっているそうだ。どうか、そこに行って会ってくれないか。」


 「カグファ爺さんが?分かった。行ってみるよ。伝言ありがとう。」


 俺はその男に礼を言って、ブッシュマスターを出発させた。


◇◇◇◇◇


 ヴァランスの街に近づくにつれ、街道の路上には行きかう人が多くなり、ブッシュマスターは人々を避けながら進んだ。


 ヴァランスの街の北門に近づいたが、俺達は北門を通らずに城壁に沿って進み、東門を目指した。


 プロセピナと同じくらいの街であろうか、ゴツゴツした石の城壁を右手に進んでいると、東門から少し離れた丘の上に、懐かしいキャラバンが見えてきた。


 「おーい!おーい!」


 キャラバンの入り口に立っていた見張りの男が手を振っている。


 「ナナセ様!ようこそ!」


 見張りに歓迎されながら、俺達はキャラバンの中へブッシュマスターを勧めた。


 天幕に囲まれたキャラバンの中央の広場にブッシュマスターを停車させると、大小の天幕からキャラバンに残っていた人達が顔を覗かせ、俺達を歓迎しに外に出てきてくれた。


 「あー!おじちゃまー!おじちゃまだー!」


 俺がブッシュマスターから降りると、人だかりの中からちっちゃなチシャが飛び出して来た。


 「おじちゃまー!またあえてうれしーの!」


 俺に飛び込んで来たチシャを抱き止めると、チシャは俺の胸に顔を埋めて全身で喜んでいる。


 「ほうほう、これまた取り巻きの女子おなごが増えましたな!しかもみな別嬪ばかりとは、これは重畳重畳!」


 イシュマルを連れて、カグファ爺さんが進み出てきた。


 「あたちもお嫁ちゃまになるー!」と駄々をこねだしたチシャを、キャラバンの女衆が宥めてくれた。やれやれ。


 「久しいなカグファ爺さん!それにイシュマル!変わりはないか?」


 「これだけ年を取ると、変わりようもないが、もう腰が痛うて長旅は御免じゃよ。」


 カグファ爺さんは相変わらずのようだし、イシュマルも相変わらず無口で、黙って俺に頭を下げて挨拶をした。


 「アモン茶がもうなくなってしまったんだ。だから売ってもらいに来たんだ。」


 「ほうほう、それは難儀じゃったのぅ。では、此方へ参られよ。」


 そう言って、カグファ爺さんは俺達を族長の天幕へ案内した。


 天幕の中で、美味しいアモン茶を頂きながら、俺のお嫁ちゃんずを紹介した。


 「こりゃまたたまげたわぃ!ヴェスタの女王様に地母神の聖女様を娶られたか!

 それに街の司祭の話では、地母神様の夫君になられたとか・・・。いやはや、この歳になってこれほど驚かされるとはおもってもおらなんだわぃ。」


 「まあ、それもこれも創造神様のお導きなのだろう。」


 おれはお嫁さんたちを見渡すと、みな嬉しそうに微笑んでいる。


 「ところで、爺さん。なんか俺に用事があるんだって?」


 そう尋ねると、カグファ爺さんとイシュマルの雰囲気が一変した。


 「現在ナナセ殿を付け狙っている者の正体の事じゃ。」

 

 カグファ爺さんは、瞳に激しい憎悪と怒りの光を宿し、ゆっくりと語り始めた。


 「ナナセ殿を付け狙う者、あの唾棄すべき奴等は、我等まつろわぬ民、イシュミルびとの怨敵!

 我等が祖国、大魔導帝国カルディナを滅亡させた者共なのじゃ!」


 爺さんの話に、俺達は凍り付いた。

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