第44話 フォルバラの戦い その2

 竜騎士を撃退して、俺達は敵主力が集結している大きな丘の裏側の丘に回り込んで96式装輪装甲車クーガーを止めた。


 「三千は集まっているな。良し!サーシャとエリクシアはクーガーの両脇に12.7mm重機関銃M2キャリバーとカールグスタフを用意して配置に着いてくれ。

 俺はこのまま、この銃座から指揮を取る!」


 「「はい!」」


 サーシャは一旦キャリバーを倉庫に収納した。倉庫に入れて後方支援連隊にメンテ・補給に出すと一時間使えなくなる。今回は移動の為の収納なのでメンテ・補給はしない。

 サーシャはクーガーの右側にキャリバーの三脚トライポッドを設置し、エリクシアは左側にキャリバーを設置して戦闘準備を整えた。


 そして俺は96式40mm自動てき弾銃の弾倉の給弾ベルトを交換してから、ベルちゃんに指示を出した。


 「ベルちゃん、小隊長経由で中隊司令に隷下の81mm迫撃砲L16ハンマー砲撃支援要請と、射撃観測をお願い。

 正面敵の周囲に砲撃して、敵を俺達の正面に押し出すよう誘導してくれ。くれぐれも敵司令部は逃がさないでね!」


 「了解しました。マスター。」


 ベルちゃんは、マップを展開し、それを拡大して戦術グリッドを表示させて、砲撃目標のマーカーを順番に表示させていった。


 「えっ、もう中隊本部に話し付けちゃったの?」


 「私を誰だと思ってるんですか?【ワンマンアーミー】システム内の小隊長も中隊長も連隊長もみんな私のファンなのですよ!ついでに師団長もHoIマルチプレイ仲間です。なんで陸将なのに大和を量産したがるのか全く理解できませんが。

 今も小隊長経由で中隊長に話を付けたら、連隊長が出てきて『120mm迫撃砲 RTヘヴィハンマー中隊いるか?』って聞かれたので、断っておきました。」

 さすが電子の妖精!何でもありだな。

 ベルちゃんの頭上に光の輪が展開した。

 

 「フェアリー・クィーンより81mm迫撃砲小隊各員デルタチームへ、これよりエフェアリー・クィーンがFO前進観測員及びFDC射撃指揮所を務める。


 デルタ小隊へ射撃命令!

 面制圧射撃、目標、敵歩兵陣地!

 効力射砲、小隊!

 観測者、フェアリー・クィーン!

 装薬2、榴弾瞬発3発!」

 「えっ?ベルちゃん!試射は?試射!」ベルちゃんがとんでもない指令を飛ばした。


 「いいか、野郎ドモ!効力射一発目から、命中させていけ!お前達ならできる!砲兵魂を見せてみろー!!

 命中率が一番良かったチームには、可愛いサーシャのゲキレア・デザートピンク迷彩服画像データを記憶野にアップロードしてやる!ボスの目線だからエロイぞ!

 命令終わり!」 


オイ!俺の嫁、ダシにするんじゃねえ!


 「続いてデルタ小隊へ射撃指示行くよ!


81mm迫撃砲小隊各員デルタチームへ、効力射。

榴弾瞬発、装薬2。

方位角、

第1、××××。

第2、××××。

第3、××××。

3発、射角、0920。

指命15秒、全弾斉射、装填待て。」


 「ベルちゃん、後は任せた!画像データは後で俺にもオクレ!」

 

 俺は支援砲撃の射撃観測はベルちゃんに丸投げして、96式40mm自動てき弾銃の銃座についた。


 「デルタチーム、効力射、撃ち方用意…、撃てテー

 効力射、初弾、弾ちゃーく…、今!」ベルちゃんが飛び上がりながら叫んだ!


 「ドーン」「ひゃっほーい!」ベルちゃんが壊れた・・・。


 敵本陣の丘の奥に爆煙が上がった。

 マップの砲撃グリッドを見る。おいおい、試射なしなのに初弾から正確に命中させるかよ!流石は自衛隊の皆様!職人の技だよね。


 「サーシャ、エリクシア!敵がこちらに向かって逃げて来たら、容赦なく殲滅しろ!

 これより、オールウェポンズフリー!兵装使用自由!」


 ベルちゃんによって絶妙にコントロールされたハンマーの効力射により、敵兵は本陣の丘を混乱し逃げ惑っていた。

 そして、ナグルトの街側の斜面、つまり俺達が陣取る丘側の斜面には砲撃がない事に気付き、動ける歩兵は隊列を乱して、我先に俺達の丘を目指して逃げて来た。


 「距離800!各員!撃ち方、初め!」


 俺の指示によって二門のキャリバーと96式40mm自動てき弾銃が一斉に斉射を開始した。


 「「ダンダンダンダンダン・・・!」」「バンバンバンバンバン・・・!」


 二門のキャリバーの射線に入った者は、皆血煙と化し、敵陣丘の麓には40mmグレネードの爆炎が咲き乱れ、土煙が大きく上がった!


 サーシャとエリクシアはキャリバーの射撃で敵兵を上手く誘導して密集させ、トドメのカールグスタフの榴弾を発射した時、それが起こった。


 「ウギャー!」


 サーシャのカールグスタフのバックブラストを受けて、軽装の男が一人吹き飛ばされていた。


 「キューちゃん!」サーシャが短く叫ぶと、FN P90キューちゃんがサーシャの手元に召喚されて来た。

 

 おい!視線操作の建前はどうした!キューちゃんも、自分から出てくるんじゃねぇ!


 サーシャは空中でキューちゃんを掴み、後ろを振り向きざまにP90を連射した!


 「ゔわー!」「ギャー!」「ウガー!」いつの間にか後方に接近されていた!


 「エリクシア!」俺は叫ぶと共に銃座を飛び出し、エリクシアに近づいていた男達にSFP9を打ち込んだ!


 「ダンダンダンダン!」「ダンダン!」


 俺はエリクシアに接近していた男達をSFP9で倒し、エリクシアは自分にのしかかろうとしていた男を、彼女のSFP9の9mm弾を打ち込んで倒した。


 「エリクシア、大丈夫か?」俺はエリクシアの手を取って彼女を引き起こした。


 「チッ!気付かれっちまったか。」


 突然クーガーの後部から、男が姿を現した。

 俺より背が高く、濃いブラウンの髪は短く切られ、顎ひげを生やした鋭い目つきの男だった。

 何よりその左頬にある大きな傷が特徴的だった。


 「俺は一級冒険者のスカーって者だ。なあ、お前さんとそこの戦姫さんよ。大人しく捕まっちゃくれないか?

 ナグルト伯爵がお前さん方に、たんまりと懸賞金を掛けたんでな。

 どうだい?俺の老後の幸せの為に、捕まってくれないか?」


 「えっ!スカー!」とエリクシアが息を呑む!


 「随分と勝手な物言いじゃないか。ちなみに俺とエリクシアが捕まったらどうなるんだ?」俺は慎重に奴から距離を取るように移動する。


 「まあ、そんなに警戒するなよ。

 なあに、ナグルト伯爵に捕まったら、ちょーっと拷問されて、絶望を十分に味わされたら、なんつってたかなー?なんせ何十通りものキモイ話を聞かされたんで、良く覚えてないんだわ。

 ああ、そうだった。お前さんの前でオークの媚薬をたっぷり戦姫に使い、兵達が満足するまで彼女を何度何度も犯させて、戦姫がよがり狂う様をじっくりと見せつけてから、お前さんの目の前で戦姫のアソコの穴や尻の穴に焼けた鉄棒を突っ込んで殺してから・・・まだ聞くかい?」


 「いや、もういい。」俺はあまりの怒りに我を忘れ、SFP9をヤツに撃った!


 「ダンダン!」驚く事に、ヤツは俺の射撃をかわした!この距離でだぞ!


 俺は殺気を感じて左手でコンバットナイフを抜き、首筋に迫った冷たい気配をナイフで受け止めた!


 「ギーン」


 やつの短剣を、なんとか止める事が出来た!が、ヤツの動きが早すぎて、分からなかったぞ!


 「聖騎士武技スキル・ヘイスト!」エリクシアの支援魔法だ!助かる!


 スカーは鍔迫り合いで、更に力を込めながら冷たく暗い響きの声で言った。

 「ほう?今のを防ぐかよ!殺しに行ったのに。怒りで我を忘れながら、良くやる。

 それに戦姫の連携もいいナッ!」


 「ダンダンダン!」

 ヤツは後ろに下りながら俺の胴を一閃する!

 俺は身を捻りながら、ヤツに銃口を向け三度引き金を引いた!


 ヤツの剣戟は俺の防弾チョッキ3型君が防ぎ、俺の銃弾の一発がヤツの脇腹を傷つけた!

 拳銃弾や砲弾片を防ぐ防弾チョッキ3型様を舐めるな!しかも防弾盾セラミックプレート付きだ!

 この最強コンボを突破したきゃ、エクスカリバーでも持って来い!


 スカーは左の脇腹を押さえ、血を流しながら後退して行く。15メートル程距離を取った瞬間、ヤツは陶器の小壺を地面に叩きつけ、煙に紛れて逃走した。

 

 俺とスカーが戦っている間、ベルちゃんは迫撃砲の効力射を統制し続け、サーシャはキャリバーとカールグスタフで逃げて来る兵士を掃討していた。


 「エリクシア、ありがとう。補助魔法のおかげでヤツに当てられたよ。」俺はエリクシアの右肩をポンと叩いた。


 「いえ、当然の事をしたまでです。旦那様。

 でも、第一級冒険者のスカーを退けられて幸運でした。」


 「ああ、恐ろしいヤツだったよ。それよりこの始末をつけよう。」そう言って俺は銃座に戻った。


 「ベルちゃん、ご苦労様。で、状況は?」と妖精っ娘を労う。


 「狙い通り、敵司令部を丘の頂きに孤立させました。

 それより、敵の接近を察知出来ませんでした。ごめんなさい、マスター。 

 接近を許した原因は分かりました!次は接近を許しません。」


 「うん、俺も焦ったよ!サーシャのバックブラストのおかげだな!幸運だったよ。

 失敗の原因が分かっているなら、後はそれの対策をすればいい!任せるよ、ベルちゃん!」そう言うと「はい、マスター!任せてください!」とベルちゃんが元気に答えた。


 三千を超えて布陣していた軍勢は霧散し、今辛うじて部隊を維持出来ているのは丘の頂きに閉じ込められた敵司令部二百のみであった。


 「各員、撃ち方、止め!

 サーシャありがとう!助かったよ。

 二人とも乗車してくれ。決着を付けに行こう!」


 「「はい!」」二人が装備を収納し、車内に戻ってきた。

 ベルちゃんは、迫撃砲ブラボーチームの皆様を労っていた。


 「お前達、良くやった!ボスはブラボーチームの戦果に大変満足している!

 喜べ!ボスはお前達の働きに、褒美としてエリクシアの極上メイド姿画像をお許しになられた!

 お前達全員の記憶野にアップしたので、楽しめ!ヒゲッ!」俺はベルちゃんにデコピンを喰らわせた。


 「『楽しめ!』じゃないよ!人の嫁、何してくれんの!」


 「いいじゃないですか!減るもんじゃあるまいし!

 器の小さい男は、女に愛想尽かされてNTRルートまっしぐらですよ!

 あっ、でもマスターはNTRモノも好物でしたね!」


 「「NTRモノ?」」嫁達が曇りのない眼で俺を見つめる・・・心がイタイです。俺はな、く、空想するのが好きなだけなんだ!


 「それに写真データ一つで、ハンマー隊の皆様が喜んでくれるならいいじゃないですか。

 彼等、次はもっといい仕事しますぜ、ボス!」


 「はぁ、分かったよ。もう好きにして。」


 「もちのろんです!」


 もう疲れた。さっさと終わらせよう。

 俺はエリクシアにクーガーを発車させて、敵本陣に向かった。

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