第43話 フォルバラの戦い その1
ナグルトの街からトポリ街道を東に進み、バザワのあい路の東側に広がる広大な草原の丘陵をナグルトの住人はフォルバラ草原と呼んでいた。
それはナグルトの地に最初に入植して荒野を切り開いた入植者、鉄拳のフォルバラに因んでつけられた名前であった。
その昔、最初の入植団のリーダーであった鉄拳のフォルバラが、黒き森からあふれ出た魔獣たちと、この地で戦って命を落としたことにちなんで、ナグルトの住人は以来この地をフォルバラ草原と呼ぶようになった。
今このフォルバラの地に八千を超える兵士が陣形を敷き、たった三人の獲物を追い詰めようと陣形を動かしている。
◇◇◇◇◇
「随分と長大な布陣を敷いたもんだな。」俺はそうつぶやきながら、この罠を突破する為の装備を取り出した。
『
俺は家族の命をこの装甲車に託すことにした。
すると、この草原一帯に中年と思われる男の声が響きだした。魔法か何かかな?
「我こそはザキール・フォン・ナグルト伯爵である。
我が息子ザウル・ナグルトを傷付けた無頼者とその一味に告げる。
その方らは理不尽にも、何の落ち度もない我が息子に重大な損傷を与えた。その行い、残虐非道にも余りあるものである。
しかも、我がナグルトの街から逃走するにあたって東門の警護に当たっていた門衛五十名が、その無頼者の手によって殺められ、あまつさえ我がナグルトの無辜の民百名までもが惨たらしく殺害されてしまった!
その罪、万死に値する!
よって、ナグルト領主であるザキール・フォン・ナグルトはそこの大罪人を処罰する為にこの正義の軍を起こしたのである!
我が将兵たちよ!そこな大罪人を生きて我が足元まで連行せよ!生きて連れてきた者には、金貨100枚をその褒賞として下賜する事を約束しよう!
また、その大罪人の連れている女奴隷も無傷のまま、我が元へ連れてまいれ!金貨50枚の褒賞を出そう!
我が正義の将帥達よ!勇めよ兵達よ!名誉と褒賞は思いのままぞ!
全軍突撃開始―――!」
俺は96式装輪装甲車の後部ハッチに手を掛けて、家族を見渡した。
目線が高くなったサーシャ。でもそのブルーダイヤの瞳は、出会った頃のままに俺への信頼で溢れている
黄金の髪を戦闘帽に隠しているエリクシア。そのアメジストの瞳は俺への愛情に満ち満ちている。
ベルちゃんは俺の肩に立って、戦闘帽に捕まりながら、迫りくる軍勢を睨みつけている。
シロは・・・ハッチに上がろうと四苦八苦しているな。ガンバ!
「よし!全員乗車!そして戦闘準備だ!」
エリクシアが運転席に着いた。
俺は銃座について、主兵装の確認を行う。
サーシャは後部ハッチを水平に下ろしたまま、俺達の副兵装を据え付けた。
「エリクシア、用意が整い次第、
「96式装輪装甲車発車させます!」エリクシアがアクセルを踏み込み、装甲車を発車させた。
敵の左翼最東端の部隊が突出して突撃して来た。とは言っても鉄張りのタワーシールドを持った歩兵である。96式装輪装甲車に追いつけるものではない。
すると歩兵の集団を追い越して、敵騎兵が丘の斜面を駆け下りて突進して来た。
騎兵の速度は下り斜面で加速して、時速70キロ程出ている。
思ったより早いな。追いつかれるぞ!
「マスター。敵騎兵20騎接近。距離600メートル。続いてその左後方から更に騎兵20が接近してきます。」
「サーシャ!騎兵、任せた!」とサーシャに短く命令した。
「トーマ様、了解しました!殲滅します!」と答えたサーシャは照準を取って、
「ドントンドンドンドンドン・・・・!」
「・・・・・・・・」叫ぶ間もなく鎧を身に着けた騎兵と馬が血煙をあげて肉塊に変わって行く!
「よし!近づく騎兵を殲滅しろ!サーシャ!」そう命じて俺はマップを確認する。
三時方向の敵歩兵が突出して接近して来る。距離1500!
「マスター。我々の左後方からも騎兵が接近しています。敵は我々をロナー川で挟み込む位置に主力を集結させています。この後方に回った騎兵は、我々をそこに追い込む作戦です。」
敵の斜線陣が変形し、中央に厚みが出来、このまま前進するとロナー川と敵主力に挟まれる位置に追い込まれて、包囲網が完成してしまう。
「エリクシア!クーガーを南西、方位225に向けろ!
包囲陣に閉じ込められる前に、敵鶴翼の薄い翼を突破する!」
「了解しました!」エリクシアの返事に頷き、俺は銃座で今回の主兵装『96式40mm自動てき弾銃』を構え、コッキングハンドルを引いた。
前方2000にの小隊が4つ、小さなファランクス隊形でそれぞれ連携しながら突っ込んでくる。軽装歩兵ながら、前衛の持つ鉄張りのタワーシールドに身を隠し、密集しながら突撃してくる。
敵の百人隊か?
手前の小隊が距離1000を切った時、俺は96式40mm自動てき弾銃の射撃レバーを両手の親指で押して、ダイキン工業謹製40mmグレネードの連射を開始した。
一発371gもあるグレネードを連射するのだ!
その真価は対人戦闘においてこそ発揮される!
「バンバンバン、バンバンバン、バンバンバン!」俺は三発バーストを三度敵小隊に斉射し、敵陣に土と血肉が混ざった土煙が舞い上がった。
移動中にも関わらず、俺達の射撃は10式戦車の行進間射撃の様に正確だった。
ベルちゃんが魔改造した右目の射撃ディスプレイは、戦闘機の射撃管制システム同様に、彼我の移動速度と方角、火器の射線軸を瞬時に計算して、目標への偏差射撃照準点を表示してくれる。まさにヘッド・アップ・ディスプレイそのものだった!
エリクシアは壊滅した小隊に
「ドンドンドンドンドン・・・・・!」サーシャが後方に回り込んだ騎兵に、M2キャリバーによる12.7x99mm NATO弾の通常弾を、毎分約500発のレートで死のシャワーを浴びせる。
俺は更に前方と左手の敵歩兵小隊を96式40mm自動てき弾銃で殲滅した。
良し!前方に突破口が開いた!
「マスター!方位300、仰角30に敵竜騎兵ワイバーン五騎が接近。距離3000!」
空飛ぶトカゲ、キター!
「エリクシア!ワイバーンだ!距離1200で96式装輪装甲車を止めてくれ!」
エリクシアがクーガーを停車した。俺はMINIMIと、俺達三人分のカールグスタフを出して、急いでHE441B榴弾をそれぞれ装填し、最後にパンツァーファウスト3に110mmHEAT弾をプローブを押し込んだまま装填した。今回は榴弾として使う。
俺はパンツァーファウスト3を持って銃座に立ち、ワイバーンに目を向けた。距離500!
俺は後方を目視確認した。「バック・ブラスタ・イズ・クリア!」
俺はサイトを覗き込み、五騎編隊の先頭である中央のワイバーンに照準を合わせた。
サイトを覗き込んだ俺の右目には、ターゲットのワイバーンの速度と飛行方位が緑色のベクトル線で表示され、ベクトル線とサイトの照準を正しい偏差照準位置に合わせると、ワイバーンに赤いロックオン表示が重なった!距離220!
「ファイアリング、ファイアリング、ファイアリング!」
俺はトリガーを引いた!
「バン!シュュュ–––––・・・・ドーン!」
俺は命中を確認もせず、パンツァーファウスト3を収納し、すぐさまカールグスタフを構えてサイトを覗き込んだ。
爆煙の中から、ワイバーンと騎士が墜落するのがチラリと見えたが、俺は構わず2番目のターゲットをロックオンし、トリガーを引いた。
「バン!シュュ–––––・・・・ドーン!」
敵は二騎目のワイバーンが撃墜され、編隊をといて退避飛行に移る。しかし俺は退避するワイバーンをカールグスタフでロックオンし、次々と撃墜した。
最後の一騎にはMINIMIの弾丸を浴びせたが、逃げられたよ!チッ!
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