第42話 包囲網

□□□ ザキール・フォン・ナグルト伯爵


 私は治療を終えて、今はベッドで眠っているザウルを見つめた。

 顔色は土色で、目には痛みのせいで隈ができておる。今も痛むのか、脂汗を浮かべな。


 幾重にも包帯が巻かれた右手は、指が全指欠損していた。

 あまりもの痛々しさに、涙が溢れて来る。

 我が息子をこんな目に合わせた奴には、必ず報いを受けさせねばならぬ!必ず私自らの手で、生まれた事を後悔させてやる!


 「旦那様」家令のアルベルトが入室して来た。父の代から勤めるこの温和な老人も、この度の下賎な輩の暴挙にはいたく腹を立てていた。


 「それで、手配は整ったのか?」年老いた家令に尋ねた。


 「はい、全て整いましてございます。

 領軍五千の招集は完了し、ブラバス坊っちゃまが親率して、先程出陣しました。騎士団三百は御当主の出陣を待つばかりです。」私は頷いて先を続けさせた。


 「また、アルビンツェのカルマン侯爵様に連絡を取り、アルビンツェ領軍の出陣を要請しました。

 この度の乱暴、カルマン侯も酷くご立腹なされて、騎士団二百と領軍二千の派遣をご裁可頂き、既にアルビンツェを出立し、我が軍との会合地に向かっております。」


 「おお、それは頼もしい!流石はカルマン侯だ!

 して、鋼の戦斧傭兵団は如何した?」と重ねて尋ねた。


 「はい、色良い返事を貰ってございます。既にアルビンツェの街を出発し、このナグルトへ向かいつつございます。」


 「良くやった!これで主力は十分だな!

 で、ナグルトの冒険者はどうか?」

これさえ揃えば、策は完成する。


 「はい。ご命令通り、斥候、隠密の技に優れた冒険者を百五十手配いたしました。

 ナグルトの街だけでは揃わなかったので、斡旋所を通して近隣から集めさせております。お陰で、足元を見られて少々お高くなってしまいましたが、こちらも近日中には揃う事と思われます。」


 「分かった。金に糸目をつけるな!必ず腕の良い冒険者を揃えよ!

 この計略の要となるのが冒険者達の斥候なのだからな。

 広い黒き森の何処から賊が出て来るか分からぬが、賊が森から出てきたら直ちに賊を陣形に追い込まなければならぬ!

 そのために、このナグルトの街の第一級冒険者スカーを雇ったのだ。奴に冒険者の斥候隊を指揮させよ!発見した者には依頼料とは別に、たんまりと褒賞を弾むとな!

 よいか、・・・」


 「父様・・・」ベッドで寝ていたザウルが目を覚ました。


 「起きたのか、ザウルよ。良い良い、今しばらく眠っておるが良い。」


 私は、息子の肩に手を置きながら声を掛けた。


 「父様、どうかお願いです!僕を連れて行って下さい!この手でアイツを殺さない事には、僕は、僕は・・・。」


 そう言って嗚咽する息子を見るのは辛かった。

 必ずや、其奴メに絶望の限りを味わい尽くさせてからくびり殺してやる!

 そうだ、其奴を殺す前に、事の発端となったバルガームの奴隷女を奴の目の前でたっぷりと嬲ってから殺してやろう。

 良い!良いぞー!そうだ、その奴隷女を奴の目の前で兵達にたっぷりマワさせた後で、女の穴という穴に焼けた鉄棒を突っ込んで殺してやる〜!

 ヒッヒッヒ!これは堪らん!想像しただけで興奮するわ!

 奴隷女の嬲り方を考えながら、メイドを犯すとしようか!

 そうだ、先日入ったばかりのメイドにしよう・・・・・・

 

◇◇◇◇◇


 黒竜ヴァリトラを倒した今、俺達に予定などないので、この泉に三日間逗留した。

 その間何してたかって?もちろんヴァリトラと戦った疲れを癒やしてたんだよ・・・嘘です。

 若きリビドーの赴くまま、サーシャとエリクシアが悲鳴をあげて失神するまで、寝食を忘れて盛ってました。スンマセン、ハッスルシスギマスタ。

 最後には久しぶりにベルちゃんキックをくらったよ。いい加減にしろって・・・。

 

 俺達は、三人の思い出の地となった泉を後にした。

 出発する頃には、泉の小島に黄色の花だけでなく、白い花まで咲き誇っていた。 

 不思議な泉だった。


 俺達は、次の目標をアルマーナ王国に定めた。そこに居るサーシャの叔父さんに会うために。

 そして俺達は黒き森を出るために動き始めた。だが、決まった方角に向けてではない。

 俺達はひたすらビッグボアを追い求めて森を進んだ。一応森の外縁部に向かってはいる。

 だが、ビッグボアを狩るためには妥協はしなかった。

 何せ腹ペコ狼が二匹になったし、それよりサーシャが「お腹のやや子の為に今のうちに狩り貯めします!」って張り切ってるんだよね。あなた、まだ妊娠してないんですけど。


 一つ驚いたのはイヌっころだ。


 ある時皆んながコイツ何食べるんだろって話になった。おもむろにサーシャが指をコイツの口に突っ込んで確認したんだが、イヌっころの歯はもう全て永久歯だった。

 なので肉を食べさせても良いとのことだったが、こいつ俺達が食べる物なら何でも食べるんだよね。


 一度俺が食堂から取り出した函館ラーメン(ご当地ラーメン企画!函館駐屯地の皆様ご推薦)を横取りしてスープまでしっかりと舐め干して、俺とガチバドルに発展した事もあった。


 コイツの食事の事で頭を悩ませてたら、ベルちゃんがあっさり解決してくれたよ。


 「ビエールィはフェンリルなので、食事を取る必要はないですよ。基本、良質な魔素マナがあればそれで充分です。

 ウチには良質な魔素マナタンクがありますからね。」


 ベルちゃんはそう言って、俺をチラ見した。

 何故か二人の嫁もウンウン頷いている。ワカラン。


 「なので、みんなの愛情表現として、ビィエールィが好む物を何でも与えて大丈夫ですよ!」と一件落着してくれた。


 何でも良いとの事だったので、俺は夕食で注文した生ビールをイヌっころに飲ませてみたら、めちゃ気に入ったようで、二人で大ジョッキ五杯を空けてしまった。俺二、イヌ三な。

 まっ男同士、酒飲み友達が出来たと喜んでたら、コイツ雌だったよ!

 どうりで「ハチ」って名前付けようとしたら怒ったわけだよな。

 お前なんかにビィエールィなんて名前は勿体ない!これからは「シロ」って呼んでやる!


◇◇◇◇◇


 黒竜ヴァリトラの瘴気が晴れた森は快適で、色んな獲物とエンカウントした。その都度ベルちゃんに確認して、美味しい肉だけ狩らせて頂きました。


 俺たちはそんな気侭な狩を十日程行った。

 森の中でも大分気温が上がり、本気であの泉が恋しくなったころ、俺達は黒き森を抜けた。

 ナグルトの街から大分東に離れた場所だった。


 森を抜けて草原に足を踏み入れると、突然嫌な感覚に襲われた。


 「マスター!」「トーマ様!」


 ベルちゃんとサーシャが警告して来た!


 「ベルちゃん、敵か?」と尋ねる。


 「はい、マスター。敵です。

 ナグルトの領軍が主軸の敵で、兵力は八千四百五十六です。

 東西5キロにわたる斜線陣で待ち構えています。

 このまま私たちをロナー川に追い詰める作戦ですね。」


 たった三人と一匹と1/12を捕まえるのにこれ程の人数を揃えるとはな。

 相手の本気ぶりが伺えるよ。


 「ではこちらも遠慮なく全力でお相手させてもらいますか!」


 俺は獰猛な笑を浮かべながら、そう宣言した。


 「トーマ様のクロい笑顔が素敵です!」サーシャが頬に両手を当てながらモジモジ腰を振って言った。


 「皆んな、かかるぞ!」俺はどこかの艦長風に命令した!

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