第10話 森のギャング

 左目の戦術マップにおびただしい数のバトルラビットの赤いマーキングが、視界からはみ出て表示されている。

 幸いまだ距離は200メートル以上あるのだが、俺達はどうやら半包囲しようと展開してる敵陣に真っすぐ飛び込んでしまったようだ。


 「トーマ様・・・。」


 サーシャが不安そうに俺を見つめている。


 「大丈夫だよ。」俺はできるだけサーシャを安心させるように、落ち着いた声で答えた。そして俺の装備を倉庫から取り出して、サーシャへ渡した。

 

「コンバットナイフ」

「M26破片手榴弾×2」

「MK3A2攻撃手榴弾x2」

「発煙手りゅう弾」

「催涙球2型」

「閃光発音筒」


 「サーシャ、いいかい、良く聞いて。まず、このコンバットナイフを装備して。万が一の場合のサブアームだよ。

 そして、ここからが作戦なんだけど・・・・。」


―――――


 俺とサーシャは戦術データリンクに映し出された敵の布陣と距離を確認しつつ、何も気づいてないふりをしながら慎重に前進した。

 そして作戦通り敵の集団に50メートルまで接近したとき、俺はサーシャに短く指示した。


 「M26グレネード投擲――、今!」


 俺とサーシャはあらかじめ打ち合わせてた通り、俺は前方の敵主力にM26破片手榴弾を投擲した。


 「ドッ、ドーン!」


 殆ど同じタイミングでM26 が起爆し大きな土煙が上がった。


 「MK3A2グレネード投擲――、今!」


 今度はMK3A2攻撃手榴弾を俺は9時方向の敵集団に、サーシャは3時方向の敵集団に投擲し、防御姿勢を取った。


 「ドン、ドーン!」


 MK3A2が起爆し、土煙を上げた。土煙と一緒に白い物体も吹き飛ばされていた。


 「催涙弾投擲―、今!」


 そして催涙弾を8時と4時の方角に投擲し、俺達の背後に回り込もうとしている敵を牽制しつつ、俺とサーシャは前方へ突撃した。


  「タタタタタタ」 「ダダダダダダ」


 俺とサーシャは突撃しながら、白い敵にセミオートの銃撃を浴びせていく。

 待ち伏せするつもりでいた敵にとって、予想外の反撃は効果が大きかったようで、敵は未だに動揺から立ち直れないでいる。「チャンスだ!」

 俺達は散発的に突進してくる白いモコモコ、バトルラビットに、確実に致命傷となる銃弾を撃ち込みながら、敵包囲網の突破を試みた。


 敵のおよそ三分の一が倒された頃、戦況に変化が起こった。


 「キュイ――!キュッ、キュ――!」


 あと少しで敵主力を突破しそうになった時、突然敵主力の後方に位置した集団から鳴き声が上がった。

 ん?俺の知っている兎には声帯がないので、鳴き声を発せないはずなんだが・・・。

 すると鳴き声を聞いた敵は、乱れた包囲網を解いて、散り散りに後退し、主力の後方集団に再集結を図っているようだ。

 これが敵の本陣か?!


 「甘い!立て直しなんてさせんよ!」


 俺は再集結しつつある前方の集団に、20式のハンドガードの下に取り付けてあるベレッタGLX160から40x46mmグレネード弾を3発全弾を立て続けに発射した。


 「ポン!」「ポン!」「ポン!」


 再集結しつつあった敵集団の真ん中で40x46mmグレネード弾がさく裂した。


 「ドーン!」「ドーン!」「ドーン!」


 前方にグレネード弾の爆発によって大きな土煙と白いモコモコたちが飛ばされた。

 しかし、無傷な敵の一部はそれでも俺達に反撃しようと集結しつつ突進して来た。


 前方30メートルの藪の中から、白いモコモコが列を成して飛び出して来た。

 敵はものすごいスピードで2メートル程の跳躍を繰り返しながら突進してくる。後続は巧みに先頭の跳躍する軌道をたどりながら、先頭の体を盾にして極力自分の体を曝さない様に先頭に続く。驚く程の練度だ!これでは正にジェット〇トリームアタックではないか!

 前方の藪から、2本のストリームが俺達に襲い掛かってくる。


 俺は「左」と叫ぶと、サーシャは「右」と答え、白いモコモコのストリームに弾丸を撃ち込んだ。


 俺は跳躍した先頭の軌道を正確にスコープの中心に捕らえて、白いモコモコが跳躍の頂点に達した時、引き金を引いた。


 「ダンダンダンダンダンダンダンダン」


 敵は律義に先頭の跳躍した軌道を後続も辿っているので、俺は先頭のモコモコが跳躍した頂点に照準を固定したまま、次々と後続を打ち落としていった。

 連中のスピードと連携はなかなかのものだが、その直線的な軌道は俺にとって問題ではなかった。

 サーシャも俺と同様に白いモコモコを次々に撃ち落としていた。


 敵の最後尾を撃ち落とした時、敵が第二波の攻撃を仕掛ける為、茂みの奥に集結しているのが戦術マップから見て取れた。

 俺は素早くマガジンチェンジを行い、敵の第二波に備えた。


 敵の第二波は茂みの三か所から突撃を仕掛けてきた。


 俺は「左、中央」と声を掛け、サーシャは「右」とターゲットを取った。


 第二波は第一波の直線的な軌道とは違い、上下左右に立体機動し、俺達の照準から逃れようと戦術を変えてきた。

 俺は左のストリームと中央の二つを受け持ったが、第一波と違い敵の軌道を正確に把握しながら二つのストリームに対応しなければならなくなり、だいぶ白いモコモコに接近を許してしまった。

 しかし、サーシャは自分の受け持った右のストリームを素早い射撃で押し戻し、それで作ったアドバンテージを生かして、真ん中のストリームに牽制射撃を入れて、俺をサポートしてくれた。

 

 中央のストリームは攻撃目標を俺に定めた様で、俺に向かって突進してきている、しかしそれはサーシャに隊列の横腹をさらす悪手で、サーシャは姿が丸見えの敵側面から援護射撃を中央のストリームに叩き込んだ。


 ワンマガジンを打ち尽くす頃には、敵の第二波は全て俺とサーシャによって打ち落とされていた。


 すると敵は、第三波の攻撃を前方茂みの後ろで編成しているのが分かった。第三波は明らかに第一波と二波の数を足したより多い。


 「敵が動き出す前に、前方30メートル、茂みの後ろにスタングレネード。投擲――、今!」


 俺とサーシャは再集結している茂みの向こうの第三波に、スタングレネードを投擲して、防御姿勢を取りながら、両耳を塞いだ。

 

 [バ――ン!、バ――ン!」


 180デシベルの爆発音と100万カンデラの閃光が敵を襲った。野生の魔獣にとって、堪ったものではないないだろう。事実30メートル以上離れているサーシャでさえ、耳を塞いでいても堪えたようだ。


 「突撃ー!」俺はそう叫びながら、茂みの中に突っ込んで行った。サーシャも遅れて俺に続いた。


 敵の第三波は突撃をしようと集結していたところに、突然音と光の暴力に曝され皆身動きが取れなくなっていた。

 俺とサーシャは倒れている白いモコモコ達に素早くとどめの一発を撃ち込んでいった。


 「ギュ―――!!」


 突然、奥の藪から血だらけの白熊と見間違うほど大きな魔獣が飛び出して来た。

 よく見ると、長い耳と大きて鋭く飛び出た前歯。凶悪な赤い瞳・・・こいつもバトルラビットなのか?

 白いモコモコの親分は、おそらく先ほどの40x46mmグレネード弾の攻撃で傷を負ったのだろう、腹部や左肩を大きく損傷している。


 「サーシャ、こいつは俺がヤル!」


 そう言って俺は一歩前に出る。

 

 「さあ、大将同士の一騎打ちと行こうじゃないか!」


 「ギュ!」


 敵の親分は一声短く叫ぶと、猛烈な勢いで突進して来た。

 だが、俺は冷静に20式を構えて、奴の額の中央に照準を合わせ、深く息を吐き切るのと同時に引き金を引いた。


 「ダン!」


 乾いた破裂音が森の中に響き、バトルラビットの親分はゆっくりとその場に崩れ落ちた。

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