第28話 永遠の祈り

 俺は俺の全ての思いを込めて、エリクシアにキスをした。

 そして「俺もエリクシアを愛してる。決してエリクシアを死なせはしない!」と誓った。


 俺とエリクシアの口付けをガン見しつつ、サーシャは溜息と共に呟いた。


 「はぁ、偉大な群れの主は、優秀な雌をたくさん従えるものなのです♪」


 どこか嬉しそうなサーシャであった。


 すると、馬車はバルガーム・パシャの本邸に到着した様子だった。

 本邸の玄関では、バルガーム・パシャご本人が出迎えてくれていた。手を繋いで馬車から降りて来た俺とエリクシアを見て、奴は「ほう」と片眉を上げて呟いただけで、俺達を応接室に案内した。

 察してくれたかな?


 応接室に入り、俺を中央に左手にエリクシアが、右手にサーシャがソファーに腰を下ろした。


 「まず初めに断っておく。俺はエリクシアを娶る。」


 そう、胸を張って宣言すると、エリクシアは頬を赤く染めて俯き、サーシャは鼻をフンスカ鳴らして胸をそらし、凄く得意そうだ。なんでサーシャがえばってんの?


 「ほう、してその対価は?」


 「対価は俺の命!エリクシアへの報酬は俺の残りの人生全てだ!」


 エリクシアは両目を見開き、ポロポロ涙を流しながら、晴れやかにこう応えた。


 「わたくしもこの身、この残り少なき命、我が全てをトーマ・ナナセ様に捧げます!」


 「トーマ殿とサーシャ殿の決意は承った。だが、エリクシア殿の呪いカースは如何に?」


 パルガム・パシャが核心に切り込んできた。

 俺は不遜な笑みを浮かべてこう言った。


 「なに、簡単な事だ。俺が黒き森のドラゴンを倒す!

 それでどうだい?そこのお客人!」


 俺は応接室のドアに向かってそう言った。


 「ハッ!いつから気付いておった?いや、ザラマンドの魔道具も存外大した事はないと言う事か?」


 応接室のドアを勢い良く開けて入室して来たのは、強烈なカリスマを発する若い男だった。

 黒髪に深いエメラルド色の瞳は、それを見る者に冷酷な冷たさを感じさせ、黒いシルクのシャツと黒い柔らかな皮のパンツは無駄な装飾が一切なく、精強な感じがする。

 うん、出来る男感が半端ナイよ。このイケメンめ!


 そしてもう一つ、応接室のドアの脇に光の柱が立った。


 「あら、トーマ君。いつから気づいてたの?」


 「そっちの男だけでなく、アーちゃん様まで盗み聞きしてたの?」


 俺は呆れながらアーちゃん様に尋ねたが、俺以外は皆突然の女神の顕現に恐れ驚き、その場に膝をつき両手を胸にクロスして祈りの姿勢を取った。


 「あら、トーマ君が契りを結ぶ、其れ即ち妾との結縁でもあるのよ。その大事な瞬間に仲間外れは、あんまりじゃない!

 トーマ君のイケズー!」


 アーちゃん様のオーラが、背後に雷鳴の効果を演出している。物騒な演出は止めにしてほしいものだ。サーシャが怯えて俺の足に縋り付いてるじゃないか。


 「お鎮まりください、地母神アフロディーテ様。」


 俺は素早くファミマからティラミスクリームシフォン マリトッツォ風を購入し、スプーンを付けてアーちゃん様に奉納した。

捧げ持ったファミマスイーツがシュッと消えた。


 「ゥオッホン!我が使徒の贄に免じ、怒りを鎮めましょう。

 さて、エリクシア・ファブリスよ、これへ。」


 アーちゃん様はエリクシアに前に来るよう指し示し、エリクシアは頭を垂れたまま俺の左隣に移動して、また跪いた。


 「エリクシア・ファブリスよ、面を上げなさい。」アーちゃん様に促され、エリクシアが顔を上げて、アーちゃん様を見つめた。


 「まあ、見目麗しい事。トーマ君にお似合いですね。

 エリクシア・ファブリスよ、汝はこれなる七瀬冬馬を夫とし、向後の春秋を七瀬冬馬と共に、お互いを支えあって歩むことを誓いますか?」


 「はい、地母神様。わが父ガルシウスと母マルシアの名に於いて誓います。

 死が二人を分かつ瞬間まで、ナナセ・トーマ様と共に。

 たとえ我が身が朽ちようとも、我が魂はトーマ様と共に在ります。」


 「エリクシア、そなたの呪いは気にしておりませんよ。安心なさい。

 ・・・さて、七瀬冬馬よ・・・以下略!」


 「えっ、そんなアフロディーテ様!」


 「いいのよ!トーマ君はどうせこれからもたくさんの女達と契るのですから、その度にいちいち君に聞いていられないわ!

 ねっ、サーシャちゃん?」


 「はいっ!アフロディーテ様!立派な雄狼はたくさんの優秀な雌を群れに従えるのです!」サーシャが興奮して答える。


 「ほら見なさい。はい、いいからエリクシアとバディーの契りを結びなさい。」


 俺はアーちゃん様の雑な対応に少し傷つきながら、エリクシアの前に跪き、その美しい手を取りながら尋ねた。


 「エリクシア。俺は遥か異郷の旅人だから、君に安住の住み家を与えられないけど、一生君を愛し大事にする。幸せにするよ。だから、俺と結婚してくれるかい?」


 「はい、トーマ様。喜んで!」


 「あっ、アーちゃん様、指輪用意してないんだけど・・・。」


 [マスター。これをエリクシアにお渡しください。]


 突然ベルちゃんが話しかけてくると、俺の目の前に眩い光が集まって、可愛いアメジスト色の宝珠が煌めく指輪を形作った。


 俺はベルちゃんの指輪を受け取ると、エリクシアの左手の薬指にそれをはめてあげた。


 そして、エリクシアの頭にそっと右手を載せて「〔バディー〕」と唱えた。


 二人の体が光に包まれ、彼女の頭に乗せた右手を通して、俺の中からまた何かが大量に彼女に流れていくのが分かった。

 

 「う、んっ」エリクシアは情報の激流に耐えているようだ。


 [バディー名エリクシアに統合型バディーシステムをインストールしました。エリクシアを任官しますか。]


 「ベルちゃん、お願いします。エリクシアを一等陸士に任官します。」


 [長瀬冬馬はワンマンアーミー『組長』の権限に於いて、バディー名エリクシアを一等陸士に任官しました。

 バディー名エリクシアに一等陸士までの装備を使用する事が出来るようになりました。それに伴い、倉庫の使用権を組長から付与されました。]


 エリクシアとのバディーの契りは無事終わったようだ。だがアーちゃん様の様子がおかしい。


 「・・・・・何故が・・・・・ユグドラシルに・・干渉している?・・・・・・この次元の事象にも・・・・・」


 「アーちゃん!アーちゃん様!どうしました?」


 「えっ!あ、えっと・・・トーマ君ごめんなさい、今すぐ創造神様に会わなければならない用事が出来ました。すぐ天界へ戻ります。」


 そう言ってアーちゃん様は天界へ戻られた。一体どうしたんだろう?


 すると大きく「フー」と息を吐き出して、黒衣の男が立ち上がり、俺に向かって言った。


 「今のが地母神アフロディーテ様か。まさか天聖宮の姫巫女以外の只人が、地母神様とお会いする事が出来るとはな。重畳至極!

 さあ、皆の者、腰を下ろして少し話そうではないか。」


 男はそう言うと、先ほどまでバルガーム・パシャが座っていたソファーに深く腰を下ろした。ダレダッケ、コイツ?

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