アラン連合王国編

第46話 ロナー川を渡れ

 ナグルト伯爵の軍を打ち破った後、フォルバラの地を離れた俺達は、軽装甲機動車ラブ に乗り換えて、ナグルトから王都を経由し、目的のアルマーナ王国へと至るアルピア街道を西に向け走っていた。


 ラブに乗り換える前に、俺は大量の功績ポイントの獲得を告げられ、新装備を手に入れた。


 [七瀬冬馬は功績ポイントを64,450ポイント獲得しました。功績ポイントが合計67,817 ポイントになりました。3等陸尉に昇級出来ます。・・・]


 [七瀬冬馬は3等陸尉に昇級しました。昇級した事により次の装備が使用可能となりました。また、戦車長の技能を取得しました。

 『91式携帯地対空誘導弾(改)』

 『3 1/2tトラック(現行型)』

 『89式装甲戦闘車』

 『16式機動戦闘車』

 以上です。功績ポイント:67,817 →7,217 ポイント]


 俺達はついに戦車を手に入れてしまった!16式機動戦闘車キドセンって戦車でいいよね?ね?


 そして俺はサーシャとエリクシアをそれぞれ陸曹長に昇級させた。


◇◇◇◇◇


 俺達は軽装甲機動車ラブで、アルピア街道を一路西に向かってドライブしている。


 運転席にはエリクシア。車長席には俺。

 それではサーシャはどこに座っているでしょう?・・・答えは俺の膝の上。

 十六歳のナイスバディーなレディーに成長したサーシャが俺に抱っこしているんだ。

 俺の首に両腕を回して、ケモ耳を俺の顔にこすり付けてくる。ついでに立派な御神体も・・・。

 エリクシアはさっきから「サーシャさん、運転代わってくださいましー!サーシャさーん!」と喚いているし、ベルちゃんはサーシャとは反対側の頬に張り付いてスリスリしている。シロは俺の足元で、俺の戦闘靴をガシガシ齧っている・・・・。カオスだ!


◇◇◇◇◇


 しばらくラブは順調にアルピア街道を走った。

 するとエリクシアが急にラブを停車させ、ドアを開けて降車した。「はぁ、時間切れですか・・・仕方ありませんねぇ〜。はぁ」とサーシャがため息を付きながら、俺の膝から降りてラブを降車していった。

 するとエリクシアが車長席に乗り込んで来て、「旦那様~♡」と極上の笑顔で俺に抱き着き、抱っこしてきた。


 サーシャは運転席に着くと、急にアクセルを踏んでラブを乱暴に発進させた。

 

 エリクシアはそんな事を気にも留めずに、俺の首に両腕を回して、麗しのご霊峰を俺の胸にこれでもかと押し付けて、俺の頬に自分の頬をスリスリさせながら「ふふふ~ん♪」と喜んでいる。


 あ~、愛されてるな~俺。


 そんな事(サーシャとエリクシアの交代)を何度か繰り返していると、ベルちゃんが警告してきた。


 「マスター。お取込み中、失礼します。」イヤ、取り込んでないから!


 「進路前方1キロメートルで、アルビンツェ領軍約六千が防御陣を構築して待ち構えています。」ベルちゃんが俺の右耳を引っ張りながら報告してきた。


 「やはり何事もなく通してはくれないのね、ハァ」


 俺はマップを開いて地形を確認した。


 「サーシャ。進路を南南西、方位205に取ってくれ。戦闘は避けたい。」


 俺は敵との会敵を避ける為、進路を南南西に取り、アルビンツェの街から離れるように荒野を進んだ。


 その後、俺達の行く手にはアルビンツェの騎士団や国軍騎士団が行く手を阻み、次第に目的である西方のアルマーナ王国国境から引き離され、南のアラン連合王国国境であるロナー川に近づきつつあった。

 突破する事は容易いが、家族に何の危害も加えていない相手を傷付けるのは、ちょっと違うと思うんだ。だから・・・


 「ちっ!仕方ない。アルマーナ王国国境へ向かうのは諦めて、アラン連合王国との国境を越えて、追っ手の軍勢を巻こう!

 サーシャ、ロナー川の河原まで下りてくれ。」


 サーシャは俺の指示に頷き、ラブをロナー川の河原に近づけて行った。


 俺はラブを収納して、ロナー川の川岸に立った。

 対岸まで150メートルあり、水量も多い立派な大河であった。しかも水の流れも早い!


 俺は装備の渡河ボートを取り出して川に浮かべた。サーシャはボートのオールを持って、心配そうに水の流れを見ている。

 エリクシアは揺れるボートを手で抑えながら、不安を隠せない様子だ。

 みんな、俺も同意見だよ!


 困った時だからこそ、仲間の協力が必要なんだ!と言うわけで


 「ベルえも〜ん!手漕ぎボートじゃ無理d・ブヘシッ!」


 言い終わる前に、ベルちゃんフライング・ドロップキックが、俺の顔面に炸裂した!


 「誰が『ベルえも〜ん!』ですか!私はあんな過保護じゃありませんよ!」ベルちゃんがプリプリ怒っている。おいおい、国民的タヌキをディスるのはやめてくれ!


 「でもこの川をたった三人の人力で渡るって、何の拷問?渡り切るより、海に流されちゃうよ!ドンブラコって。

 ねえ、ベルちゃん!愛してるから、隠しコマンドでお願い!」そう言って、ベルちゃんを拝み倒した。


 「しょうが無いマスターですね!マスターには、ベルが付いていないと、ほんとーにダメみたいですね!

 はい、これどうぞ!」ちょ、チョロいよベルちゃん!


 ベルちゃんは、口では嫌そうにしながら、船外機付きの戦闘強襲偵察用舟艇CRRCを出してくれた。ハリウッド映画によく出て来る、特殊部隊が使うゴムボートみたいなヤツな。


 俺達は、早速CRRCに乗り込んで川を渡り始めた。

 乗員十名だから、俺達が乗ると広く感じる。

 結構馬力の有る船外機だったようで、流れの早い川面をグングン進んで行く。

 サーシャとエリクシアはCRRCから川に手を入れて、水流を掬ってキャッキャと遊んでいる。嗚呼、尊し!


 俺はCRRCを対岸に近づけて、下流に進みながら上陸地点を探した。

 左舷のアラン連合王国側には、低い山が川岸にまで迫って連なっている。

 マップを見ると、このまま下流に進めば、国境の街プロセピナがある。


 とりあえずその街を目指すとしよう。ああ、風呂に入りたい・・・。


□□□セレナ


 もう二日、何も食べていない。

 両の目の視力と左手を失った私を、奴隷として買い取る物好きもおらず、この街の路上で物乞いをするしか、私に術はなかった。

 そしてついに昨日、役立たずな私は奴隷商館から追い出され、住む場所さえも失ってしまった。


 私は川の船着場に続く運河橋の上にうずくまり、お金をもらう為の小箱を前に置いた。

 私は帽子を深く被り、千切れた耳を誰にも見られない様に隠して、掠れる声をあげた。


 「・・・どうか、・・・お恵み・・ください・・」


 もう、うまく声を出す事もできないや・・・。


 川風が帽子を飛ばそうとする。意地悪さんね。・・・あまり動きたくないのだけど、重い右手で帽子を押さえた。

 大森猫に食いちぎられた私の左手と耳としっぽ・・・。かか様に似てて大好きだったのに・・・。今は誰にも見られたくないの。


 よく黒き森の大森猫達から逃げられたと思うわ。この怪我で、命があっただけでも奇跡なのにね。

 そんな奇跡ですら、私の苦しみを引き延ばすだけでしかなかったの・・・。

 でもこれで・・もうすぐそれも終われるかな。私もかか様の所へ行けるわね。とと様とあに様は無事に逃げられたかしら?

 みんな私を許してね・・・もうこれ以上頑張れないみたい・・・


 「ああっ!」私は誰かから強く肩を突かれ、橋に右手を突いて蹲った。

 誰かが小箱とお金を持って走り去って行く気配が・・・。

 ついさっき、割れた声をした「船頭」さんと呼ばれていた人が、入れてくれたお金だった。

 本当は、お金をもらっても、それを食べ物に変えに行く力も残っていないのにね・・・。

 いいえ、きっとお金をもらった時だけは、まだ人と繋がってる!人から思いやってもらえる!って気持ちに縋りたいだけなのかも。


 どうか、そのお金であなたの命が一食分だけでも繋がりますように。

 それは私から、あなたへの贈り物・・・。

 

 「うっ、・・んーっ・・・」私は肩を突かれた衝撃で体が苦しくなり、橋に頭をつけて体を丸めて痛みに耐えた。

 

 ・・・かか様、わたし白虎の子らしく最後まで運命に立ち向かえているかな・・・一人は辛いよ・・・かか様・・・


―・―・―・―


 そろそろ夕方かしら、夕暮れの匂いがするわ・・・。

 私はこのまま横になりたかったけど、こんな私に女の人が声をかけて来た。


 「セレナ!セレナじゃないかい?アタシだよアネモネだよ!分かるかい?」


 懐かしい声と匂いが、私を抱き起こす。いけないの、アネモネさんの服が汚れてしまう・・・


 「そうかい。とうとう奴隷商から追い出されちまったんだね・・・」「おい!アネモネ!そんな汚いボロ切れはほっといて、さっさと行くぞ!」聞いた事のない男の人の声が、アネモネさんを急かした。


 「待っておくんなまし、旦那。」アネモネさんは凛として答えると、そっと私の右手に紙の包みを握らせた。


 「砂糖菓子だよ。いいかい。見つからない様に食べな。また、様子を見に来るからね!」


 そう言い残すと、アネモネさんは人混みの雑踏の中に消えて行った。


 「・・・ありがとう・・・」


 アネモネさんは、ガルキアで奴隷商の商館にいた頃から、私の面倒を良く見てくれた。優しい人だったなぁ。

 プロセピナに来る時も、捨てられるはずだった私を庇って、一緒に奴隷として連れてきてくれた。

 そしてこんな私にも仕事を与えてくれて、商館のなかで私を生かしてくれた。でも、そんな幸運もアネモネさんが娼館に売られて行ってしまうまで。

 アネモネさんが居なくなった商館に、私を庇ってくれる人は誰も居なかった。


 私は千切れた左腕で紙の包みを胸に挟み、小さな砂糖菓子の粒を取り出して、ゆっくりと口に入れた。右手もうまく動かせなくなっちゃった・・・。


 二日ぶりの食べ物だった・・・。


 甘い味が口に広がって、少しだけ心がポカポカした。


 かか様、もう少し生きられそうです・・・

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