第8話 よろしく、キューちゃん

 女神様も天界へ戻られたし、俺達はお昼にしよう。お腹すいたよ。


 「さて、サーシャ。ちょっと遅いけどお昼にしよっか。」


 「はい、トーマ様。でもごめんなさい。食料の入った袋は逃げる途中で無くしてしまって・・・。なにか獣を狩ろうと思ったのですが、レッドオーガのせいで、森のこの辺りからは獣の気配が全然しないんです。きっとみなレッドオーガを恐れて、隠れてるんじゃないかと・・・。私、少し走って遠くの獲物を狩ってきます!兎くらいだったら、素手でも狩れますし!」


 サーシャはそう言って走り出そうとしている。


 「ちょっと待ってサーシャ。狩りに行く必要無いから!いいからこっちに来て座って。」


 そう言って、俺はファミリーマートのアイコンから俺達の遅い昼食を選んだ。


 バターの香り広がる!海老グラタン 4P×2個

 ファミチキ 2P×2個

 カラーフォーク・スプーン 2P×1個

 紙コップ 1P×1個


 合計:15ポイント

 功績ポイント:400 →385ポイント

 

 ファミマの食品が目の前にドサッと落ちてきた。助かった、ファミチキはきちんと紙の袋に包まれている。

 俺はグラタンの蓋に袋から取り出したファミチキを載せて、スプーンとフォークを付けてサーシャに渡した。

 サーシャは俺の前に女の子座りをして腰を下ろしているが、ファミチキを見た途端、しっぽをブンブン振りまわし、まん丸とした目はファミチキをロックオンしていた。


 「さあ、食べよう!いただきます。」


 「あのぉ、トーマ様。食事前の祈りの聖句は唱えないのでしょうか?」

 

 「うん、そうだね。俺の故郷では、食事を取る前に別段特定の神様にお祈りはしないんだよ。でも、俺達に食事をもたらしてくれた神様や自然、食材となった動物や野菜や穀物、そしてそれらを調理してくれた人たち全てに感謝の気持ちを捧げる意味で『いただきます』って言うんだよ。そして、食事は美味しく食べることが礼儀なんだ。」


 「そうなんですね、分かりました。では私も『いただきます』!」


 サーシャは元気に『いただきます』して、にっこり微笑んだまま、尻尾をパタパタさせている。


 「ん?どうしたんだい?サーシャ。さあ、お食べ。」


 「ええと、トーマ様。狼の群れでは、群れの長が最初に肉を食べるです。それで女達や子供は一番最後に残ったお肉を頂くのです。賢い子狼は、それをじっと我慢して待つものなのですよ。」

 

 サーシャはチョコンと座りながら、胸をそらしてじっと我慢できるいい子狼ぶりをアピールしている。


 「あのね、サーシャ。俺は狼じゃないから、普通の狼の群れのルールは分からないんだ。だから、これからは俺の群れのルールとして、食事はみんなで一緒に食べる事とする!いいね?」


 「はい、分かりました!」


 サーシャはとびっきりの笑顔を浮かべてそう答えた。


 「じゃ、あったかいうちに食べよう!」


 サーシャはフォークをファミチキにブスリと差して、大きな口を開けファミチキに齧り付いた。


 「ンフ―――!ほひふぃひれふ!」

 

 うん、良く伝わったよ。

 サーシャは両目を閉じ、口いっぱいに頬張ったファミチキをモキュモキュ食べていた。どんだけ口に入れたんだよ・・・。


 「トーマ様、これすっごく美味しいです!なんのお肉ですか?」


 「気に入ってくれた良かったよ。これはとり肉。鶏の肉だよ。サーシャは肉が好きなのかい?」


 「はい!お肉が大好きです!村にいた頃は、毎日たくさん食べてました!

 村一番の戦士で猟師でもあった父さまは、毎日雪熊や大角山羊や天狼大鹿なんかを狩って来ては、私たちに食べさせてくれました。父さまは毎日我が家の竈に、新鮮な獲物がグリルされていない時がない事をいつも自慢してました。

 一人前の雄狼は、決して群れと雌を飢えさせないものなのだそうです。

 このお肉、鶏のお肉ですか。初めて食べました!とても美味しいお肉ですね!」


 サーシャはどこか遠く見るように、でも少し嬉しそうに父親の話を語ってくれた。でも最後の方はファミチキの消えてしまったグラタンの蓋を寂しそうに眺めながらだったんだけど。


 「サーシャ、良かったら俺の分もお食べ。」


 お俺はそう言って自分のファミチキをサーシャの前に置いた。

 サーシャは目をうるうるさせながら、もらうかどうか迷ってアタフタしている。


 「俺の群れのルール!一つ、みんなで一緒に食べる事。二つ、食事は美味しく食べる事。三つ、子供は遠慮しないでお腹いっぱい食べる事。いいね?」

 

 「はい!」サーシャは元気に返事して、俺があげたファミチキを幸せそうに頬張った。

 俺はそんなサーシャを眺めつつ、美味しくグラタンを頂いた。


 俺達は、そうして遅めの昼食を食べ終えた。

 その後、サーシャの装備を選ぶことにしたんだが、サーシャの装備をどうしようかと考えていると、ベルちゃんが女神様からのメッセージを伝えてくれた。


 [マスター。地母神様からのメッセージです。

 『アロー!アーちゃんだよ!サーちゃんの装備はアーちゃんに!ウフ♡私がコーディネートして可愛いのを選んであげたからね。やっぱ女の子は可愛くなくちゃ!装備は倉庫に入れてあるから見てチェケラッ!チャオー!』以上です・・・」


 ベルちゃん乙!女神様、絶対ねらってこれやってるよな~。クールなベルちゃんがアゲアゲなアーちゃんのメッセージを読み上げると、シュールだ。

 気を取り直して倉庫のアイコンを見ようとしたら、メールのアイコンが何故か電話のアイコンに代わっていた・・・。さらばメールよ。短い付き合いだったな。

 電話のアイコンには驚かせられたが、俺は倉庫のアイコンを開いてみた。


 『サーシャ専用装備/アーちゃんコーデ』

 ・タクティカルヘルメット(サーちゃん専用)

 ・コンバットスーツ上下×2

 ・ボディーアーマー

 ・プロテクター(ニーパッド、エルボーパッド)

 ・コンバットグローブ×2

 ・コンバットブーツ

 ・インナーセット×4

 ・靴下×4

 ・タクティカルゴーグル

 ・マルチポーチ


『FN P90』

『*スペアマガジン×4』

『P90弾納』


 「FN P90だって!・・・・。」俺は我が目を疑ったよ。

 俺は自衛隊の装備なのだが、アーちゃんが選んだサーシャの装備は・・・自由だった。そんなことを考えているとまたぞろ頭の中のウンチク―ズが「どうせ防衛装備庁か特戦あたりがPDWの研究・評価とかの名目で調達したんだろ」だとか、「どうして64式じゃないんだー!」なんて騒いだ奴は、ほかの連中から「少女虐待ジャー!」ってボコられたり・・・カオスだよ。

 いい加減頭の声って言うのもあれなので、これからは教官達って呼んであげよう。まっ、基本教官達の事は無視なんだけどね。


 俺はPXからOD色のレジャーシートを購入して、サーシャの足元に敷いてやり、その上に装備を出してあげた。


 「サーシャ。これに着替えてくれるかな?靴を脱いで、この敷物に上がって着替えるといいよ。」


 サーシャ「はい」と答えて靴を脱ぎ、レジャーシートの上に上がって、服を脱ぎ始めた。

 俺は紳士である。ラッキースケベなんて1ピコグラムも期待してないので、さりげなくサーシャに背を向けた。

 これが大人の余裕というものだよ、諸君!


 「トーマ様、着替えました。」


 サーシャの声に振り向くと、そこには胸がキュンキュンする程可愛い兵士が爆誕してた。これがというものなのか!

 白っぽい都市迷彩柄のコンバットスーツが良く似合っている。なにより、銀色の耳がピョンと飛び出たタクティカルヘルメットが素晴らしい!正に神クオリティー!アーちゃん、GJ!


 「ちゃんと一人で着られたようだね。とっても似合っているよ。きついとことかない?」


 サーシャはぴょんぴょんと体を動かしながら「大丈夫です。ピッタリです。」と答えた。


 「それじゃ、次はメインアームとしてこれを渡すね。」


 俺は倉庫からFN P90とマガジンと弾納を取り出して、レジャーシートに置いた。

 

 「まあ、とっても可愛らしいですね!この子の名前ななんというのですか?トーマ様。」


 サーシャはP90を一目見るなり、にっこりと笑ってそう尋ねた。


 「ファブリックナショナル プロジェクト ナインティーだよ。FN P90って書くんだ。」


 「FN P90ちゃんですか。じゃこの子の名前なピーch」


 「ちょっと待ったー!それはダメ、色々と大人の事情があるからダメー!」


 サーシャはせっかく考えた名前を全否定されて悲しそうだったが、すぐに別の名前を思いついたようだ。


 「じゃ、90からキューちゃんはどうですか?よろしく、キューちゃん!」


 レジャーシートの上にはサーシャの脱いだ服と、予備のコンバットスーツが畳まれて置いてあった。予備のコンバットスーツのカモ柄はやはりデザートピンクだったよ!

 アーちゃん様のトラップは、少女の純真な感性によって無事回避されたのだった。

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