【一万PV突破記念緊急企画】Side Story もこもこの野望 その1[書き下ろしほやほや・誤字脱字ごめんね版]
◇◇◇七瀬冬馬とサーシャが、黒き森を抜けて、草原の小高い丘でバーベキューパーティーを楽しんだ夜◇◇◇
サーシャは夜中に尿意を覚え目を覚ました。冬馬を起こさない様マットから抜け出し、高機動車の後席側のドアを開けて車外に降りた。
高機動車の周りには、いつの間にかたくさんの兎達が集まっていた。
「あなた達は幸運です。トーマ様も私もビッグボアのお肉でお腹いっぱいですからね。そうでなかったら、今頃はみんなお肉になってましたよ。うふっ」
サーシャの冗談を分かったのか否か、兎達は怯えて涙目になりながら、サーシャを見上げている。
サーシャは高機動車から少し離れた草むらの中で、携帯シャベルで穴を掘って用を足した。
そして、サーシャは倉庫からトイレットペーパーを取り出して、それでキレイに拭き終えた。
「このトイレットペーパーって本当に素晴らしいですね♡
トーマ様には本当に感謝です。これを知ってしまったら、元の暮らしには戻れませんね!絶対に!!」
どんなに柔らかい拭き草を集めてきて揉み解しても、このトイレットペーパーの様に柔らかくはならず、サーシャはいつもチクチク肌を刺激する拭き草が苦手だった。
サーシャはフンスカ鼻息を荒くして、冬馬の力を分け与えられてから使えるようになった、トイレットペーパーのすばらしさを一人噛みしめていた。
サーシャがトイレから戻ると、高機動車の後席降車口の周りには、先ほどの兎達が後席のドアをじっと見上げでいる。
サーシャは兎達に語り掛けた。
「あなた達も中に入りたいの?でも駄目よ。トーマ様が起きてしまいますからね。
そんなに悲しそうな目をしないの。代わりに良いものをあげますからね。」
そう言ってサーシャは倉庫の中にある、バーベキューの際に冬馬が購入した長野県産レタスとサニーレタスの残りを取り出した。
倉庫に保管されていたため、まだ瑞々しさを失っていないレタス達の芯を手で捻って捩じり取った。驚くべき握力である。
レタスを目にした兎達は、鼻をピクピクさせながら、サーシャの周りに集まり、まるで「早く・早く・ちょうだい・ちょうだい」と言っているかのように、サーシャの素足に顔をこすり付けている。
「ふふふっ、くすぐったいです~」サーシャは微笑みながら、レタスの芯を千切っては兎達に食べさせた。
サーシャから直接レタスの芯をもらった兎は12匹しかおらず、そのほかの兎達はそれを遠巻きにしてじっと見つめている。
「あなた達もトーマ様の側にいたいの?」サーシャが問いかけると、レタスの芯を齧っていた兎達がハッと顔をあげて、サーシャを真摯な瞳で見つめた。
「でも、ごめんなさい。それは出来ないの。
トーマ様と私はこれからも旅を続けるわ。そこには可愛いだけのあなた達では、居場所がないの。
それは、あなた達の可愛さは、トーマ様の心を癒す事でしょう。でもそれだけではだめなの。せめて、トーマ様のお役に立てない者は、一緒に付いていくことができないの?分かる?」
サーシャはそう優しく兎達に語り掛けた。その姿は、子供をあやす母親の様であった。
「ふあぁ~っ!もう私寝るね。」大きく欠伸をして、サーシャは高機動車の中に入って行った。
サーシャが車内に入って行ってからも、兎達は身を寄せ合いながら、じっと扉を眺め続けていた。
―――――
翌朝、冬馬とサーシャは高機動車に乗って、丘を去って行った。
兎達は、冬馬達が見えなくなっても、その目を涙で潤ませながら冬馬達が去った方向を見続けていた。
「・・・おおさま・行った・行ってしまった・・・」まるでそう嘆いているかのように・・・
すると、突然兎達の頭上に圧倒的に高純度の魔力が集まり弾けた。
そして、光が収まるとそこにはシャンパンゴールドでウェーブの掛かった輝く髪の、人間の女性の姿をしたナニカが浮かんでいた。そのナニカは半分透き通った裸体に、白く半透明で輝く羽衣を纏っている。
「・・・・・・・・・・」兎達は鼻をプスプスさせながら、その女性を見上げて、何か訴えかけている。
「いいえ、私は女神ではありませんよ。でも、あなた方に害をなす者でもありません。」
そう言って、女性はじっと兎達を凝視した。
「あら、中にはマスターの世界の食べ物を食した子がいるようね。
この世界より高位世界であるマスターの世界の食べ物を食したら、進化を受け入れるには十分な器が魂に形作られるのよ。
あなた達は自分の進化を受け入れますか?」
兎達は真摯な瞳で頷いた。
「よろしい。では私からあなた達に進化の可能性を授けましょう!」そう言うと同時に、その女性から金色の光が撒き散らされた。
サーシャからレタスの芯をもらった十二匹の兎の体が金色に光だし。
十二匹の兎を取り巻いていた二百匹の兎達の体が銀色に光りだした。
一瞬のその光が瞬くと、十二匹の兎は体が人間の子供程の大きさに成り、人間の様な手足が伸びていた。
銀色に光った兎達は、体が二倍ほどの大きさになり、皆直立して手を使えるようになっていた。
「あなた達はまだ進化の階梯の入り口に立ったに過ぎません。これからはあなたたち自身の力で、経験値を重ねて魂の階梯をあげなければなりません。そうすれば、進化の先にあなた達の望む未来を掴むことができるでしょう。
この丘はあなた達の安全な生活の為に結界で守りました。人間を含めて、あなた達に害意のある者は近づけません。
そしてあちらに見えるあの黒き森であなた達は様々な経験を積みなさい。自分の望む未来を掴むために。」
それだけ言うと、女性の姿をしたナニカは光となって消えていった。
人間の子供の大きさまで大きくなった十二匹の兎は、その長い耳をピンと立てて、モコモコ毛皮の両腕を胸に当てながら、自分たちに進化をもたらしたナニカに感謝の祈りを捧げていた。
その周りには、一回り大きくなった兎達が、直立して空を見上げていた。
◇◇◇幾つかの季節が廻り、この丘に住み着いた兎達は七瀬冬馬との再会を果たした。
しかし、それはまた別のお話しである・・・。◇◇◇
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