第34話 胎動する世界

□□□黒太子マキシミリア・トゥルス・ポルトマス・ブリタリア


 時刻はそろそろ深夜を回る頃だろうか、バルガーム・パシャが報告の為に入室してきた。


 「殿下、状況が判明いたしました。」


 バルガーム・パシャは余のソファーの前に直立しながらそう口を切った。

 余は身振りでバルガーム・パシャの着席を促しながら、その先を続けさせた。


 「サラマンド傭兵団の損害ですが、このナグルトの街に潜伏していたサラマンド傭兵団の団員五十二名全員が死亡。その中には副団長の毒の手オゴシュも含まれております。

 これは先ほどの報告の通りです。

 それにより、護衛を失ったダゴス商会の送り込んだ商人二十四名が流浪の民達の手によって消されました。

 これでダゴスがナグルトの街に送り込んだ手下達は、全て排除されました。


 次に衛士隊ですが、東門の守りについていた衛士六十名の内三十八名が死亡。七名が傷を受けて現在治療中です。ただ、この現在治療中の衛士は皆四肢欠損なので、原隊復帰は不可能な状況です。


 これにより、国軍第三軍の百人隊二番隊が東門の警備に付きました。これにナグルト伯が抗議しましたが、サラマンド傭兵団の壊滅と賊の東門突破を許した事実を重く見た国軍第三軍ウラル司令はナグルトの街全域に戒厳令を敷くのを取りやめる交換条件として、東門の警備を国軍が行う事をナグルト伯に認めさせました。


 また、ナグルト伯はナグルト領の騎士団に彼の方の追跡を命じましたが、鉄馬車の轍がトポリ街から逸れた地点で捜索を断念、ナグルトに引き返してきました。


 これにより、ナグルト伯の権威は大いに失墜し国軍側の権威が増した為、今後ナグルトの街の運営は王弟殿下の代官が優位に進める事が予想されます。


 最後に流浪の民のキャラバンで、彼の方との戦闘が有ったと衛士本部に報告が上がっております。戦闘の跡地を衛士が確認しております。相当激しい戦闘が有ったことが見て取れる痕跡だとの報告です。流浪の民の警護三名が死亡、二十八名の負傷を確認したと衛士が報告しています。」


 報告の最後の流浪の民との戦闘は、偽装で有る事は既に聞き及んでおる。

 それよりも、余はこの事態のありようには驚かずにはいられなかった。

 ナグルト伯の権威の失墜は元々はバルガーム・パシャが画策していた事だった。その原因がバルガーム・パシャから彼の者に変わっただけで、別段驚きはせぬが、その過程の数字には脅威を感じずにはいられない。 


 決して弱兵ではないサラマンド傭兵団の団員五十二名と衛士三十八名が彼の者によって殲滅された。

 しかもバルガーム・パシャの話では、一方的な虐殺で、相手は反撃すらできなかったと言うではないか!


 そんなことは余の『黒旗軍』の精鋭でも不可能である!


 これが果たして一市井の民が手にして良い『力』だと言うのか!

 まして彼の者は女神の寵愛まで厚く受けておる。


 このままでは、余の大望の最大の障害になるやもしれぬ・・・。


 「バルガームよ、彼の者を野放しにして置くわけにはいかぬ。余の隷下に入れば良し、かなわぬのなら・・・・鈴が必要となるな・・・。」


 「殿下、その儀に関して我らは手を引かせていただきとうございます。ご容赦を。」


 「裏切ると言うのか?バルガーム!」


 「いえ、違います。我等は今後も殿下の覇業のお手伝いをさせていただきます。しかしながら、彼の者にも殿下と同様なを行いたいと考えております。」


 「続けよ」余はバルガーム・パシャの真意を測ろうと、バルガームの眼を睨みつけながら先を促した。


 「以前申し上げました通り、儂は我が一族の安息の地を求めております。それが一族五十年の悲願であります故。故に、我らはこれまで王の器で有れせれらます殿下に、微力ながらご協力いたしてまいりました。そして、今後もそれは変わりませぬ。

 ただ、我らの前に彼のお方が現れました。しかも地母神様を伴われて。我等に彼のお方に期待するなと申されるのは、それはご無理というものでございます。

 我らは等しく彼のお方の行く末に期待を寄せておるのです。」


 「ならば!余が彼の者を含めてこの西方文明圏オキシデンテに余の覇業を敷いて見せようぞ!

 バルガーム・パシャよ!もはや余の計画は止められぬ!である!

 故に、余の計画における其の方の役割を違える事は許さぬ!

 余の計画の為に一層励め!

 その上で、が余の関知するところではない。」


 「はっ!尊命承りましてございます。」バルガーム・パシャはソファーから降りて、床に膝をつき首を垂れた。


 「予定通り、夜明けとともに国に戻る。その後は計画書に基づいて作戦を開始する。

 良いか、女神フォルトゥーナのコインは放たれたのだ!もはや、後戻りは許さぬぞ!」


◇◇◇◇◇


 リアル美肉したベルちゃん1/12サイズが仲間に加わり、俺達は北東へ高機動車コーキを走らせた。

 目指すは黒き森の最深部に居る黒竜ヴァリトラだ。そこにある黒冥宮でヴァリトラは、深く長い微睡に付いていると伝えられているそうだ。西方世界の御伽噺ではそう語られているそうだ・・・。ホントかね。


 草原の海を車に揺られながら運転して、そろそろ休憩を考え始めた午前十時頃、俺達は再び黒き森に到着した。


 相変わらず見たものに畏怖すら感じさせる、西域最大の森がその威容を晒していた。


 「よし、ここからは偵察用オートバイ《KLX250》に乗り換えて、オートバイで行けるところまで行くとしよう。」


 そして俺達は高機動車を降りて、それを倉庫に収納し、代わりにKLX250をそれぞれ取り出し乗車した。

 美女にオートバイは良く似合うよな(俺主観)、今度エリクシアに水着姿で乗ってくれと頼んでみようかな・・・。


◇◇◇◇◇


 俺達は隊列を組んで黒き森の中をKLX250で進んでいる。俺が先頭で、エリクシアが中衛、サーシャが後衛だ。エリクシアはまだ森の中の運転に悪戦苦闘しているが、中々上手なものだ。


 「よーし、ここで食事休憩としよう!」


 俺は森の空き地にKLX250を止めて、サーシャとエリクシアに伝えた。

 KLX250を収納し、整備・補給に回して、レジャーシートを森の落ち葉の上に敷いた。

 そしてこれが今回の新兵器!ナグルトの街で買った『魔獣除けの魔道具』だー!


 「マスター。魔道具を持ち上げて、なにカッコつけてるんですか。」ベルちゃんが突っ込む。

 しかし、サーシャとエリクシアはニコニコしながらパチパチと拍手をしてくれている。さすが我が狼っ娘と我が嫁よ!

 

 「えっと、この魔道具を四隅に置けばいいんだよね?」使った事ないからね、素直に使い方を聞いた。


 「ええ。トーマ様。もう少し離しておいても大丈夫ですよ。」美しいエリクシアが優しく答えてくれた。


 魔導具を設置した俺はレジャーシートに座って、お昼の食事を取りだした。


 「ジャーン!自衛隊ご自慢の戦闘糧食II型パックメシ――!」俺が取り出した袋を見て、エリクシアとサーシャも同じものを倉庫から取り出した。


 「これはね、我が自衛隊が技術と経験の全てを投じて開発した戦闘糧食でね、野外で簡単に温かい食事が取れる優れモノなんだよ!しかもI型に比べてかなり美味しい!らしい。」


 そう説明しながら、袋を開けようとするが、なかなか開かない・・。チッ!噂通りではないか自衛隊の戦闘糧食II型め!空挺投下にも耐えられる包装袋とは伊達ではない!

 俺は手で空けるのを諦めて、ナイフを使って開封した。


 「これが今日の昼ごはんだけど、二人の中身は何だった?」


 「私はハヤシハンバーグです。」「わたくしは豚角煮ですわ。」二人とも食べたことがないメニューなので、不思議そうに答えた。


 「そうか、それは美味しそうだね。俺は、ウィンナーカレーだ。」


 俺は二人に温め方を説明しながら、包装袋に加熱剤を入れて、水筒から水を注ぎ、切り口を丁寧に折り返して中の熱気が逃げないように密封した。

 またまた頭の中の教官達が「そもそも日本のカレーライスの歴史は、帝国海軍にあり・・・(以下略)」とか「缶切りで開ける戦闘糧食I型の方が風情があった」とかいう教官もいたが、俺の父さんは普通に戦闘糧食II型の方が美味しいって言ってたぞ。戦闘糧食I型は味付けがしょっぱかったそうだ。


 サーシャの髪をエリクシアが、尻尾を俺がブラッシングして温まるのを待っていたよ。サーシャがメチャ幸せそうだったな。これってグルーミングになるのか?


 俺達はそれぞれ主食を取り出して、ビニール袋を被せた飯盒に付属の先割れスプーンを使って入れた。そして、これもビニール袋を被せた飯盒の蓋に副食をよそって食事の用意を終えた。


 本来は副食の袋にご飯を入れたり、ご飯のパックのご飯を片側に寄せてスペースを作って、そこに副食をよそって食べたりして、飯盒+ビニール袋はパックメシでは使わんのじゃーと教官殿が教えてくれたのだが、今日はレディの初パックメシなんだから、これでいいじゃん。

 こうすれば飯盒が汚れないので、食後ビニール袋を捨てるだけで洗わずに済むしね・・・まあ、俺の場合汚れても後方支援部隊の皆様が洗ってくれるのだが・・・。

 

 「それじゃ、「「「いただきます!」」」。」


 うん、自衛隊のカレーは美味しい!陸自の野外炊飯では、後方支援の部隊毎にカレーの味付けが違っていて、それぞれが皆自慢の味付けになっていると父さんが教えてくれたな。一度ごちそうになりたいもんだよ。


 二人とも自衛隊の戦闘糧食II型に満足のようで、サーシャのハンバーグにカレーをかけてあげたら、とても喜んでたよ「美味しい!」って。

 エリクシアは豚の角煮をスプーンであーんして食べさせてくれた。ああっ、なんか新婚さんみたいって、俺達新婚か!

 

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