第70話 贈るおもい
その後俺達は楽しい日々を過ごした。
毎日午後になるとエマリアさんは、嫁ちゃんずとセレナを自分のサロンに招き、自分と仲の良いティアナの貴婦人方に紹介したり、芸術家を呼んで俺の家族を楽しませてくれた。
意外な事に、エマリアさんのサロンで大人気だったのがベルちゃんだった。
ベルちゃんは、アカシックレコードの記録を総動員して、詩歌や楽曲、歴史や哲学をサロンメンバーに披露して、ティアナの若い俊才達を次々と弟子にしてしまった。
その間俺は、オリヴィエさんの副官ガウロとすっかり仲良くなり、ガウロを連れ回してジムで一緒に鍛錬したり、騎士団の修練場で若い騎士達と共に修練したりした。
ガウロは、一流の剣の使い手で、俺も剣術ではガウロに何度もボコられたが、代わりに無手のマーシャルアーツでガウロを何度もボコり返した。
そうやってガウロとじゃれていると、決まってオリヴィエさんがぷりぷり怒ってやって来て、「ガウロあなただけナナセ様と遊んで狡いです!私の仕事を手伝いなさい!」と泣きながらガウロを拉致して行った。
しかし、一時間もするとガウロはしれっと戻って来て、何てことなかったように言うのだった。
「俺の分は片付けてきた。書類を三倍にしてお嬢様の机に置いて来たので、まあ今日はもう来ないだろうな。
さっ、それよりトーマ!さっきの技もう一度見せろよ!」
こいつ、どんな事務処理能力してんだ!オリヴィエさんが哀れでならない。
そして、夕食の時間はジョバンニ一家とオリヴィエ達と我が家族とで、気の置けない夕食タイムだ。
エマリアさんの豊富で楽しい話題と、ベルちゃん達のサロンでの活躍?など話に花を咲かせながら、美味しい豆料理を頂いた。
食卓に着く頃は、しかばねのようだったオリヴィエさんも、その頃には復活してガウロの不誠実を非難するのだが、決まってガウロに言い負かされる。
ガウロの方が役者が一枚上という事だ。
ジョバンニ一家の子供たちも、俺達にも慣れて、デイジーちゃんの一つ年下の双子の姉妹は、すっかりセレナに懐いて甘えている。
セレナめ可愛い妹達ができて幸せそうだ。
デイジーちゃんも何故か俺に懐いてきて、よく俺の膝の上に抱っこしてくるようになった。すると決まって、
「あらあら、デイジー!素敵ね!
早速、花嫁修行しましょうね!」と母親。
「デイジーを嫁に出すのは悲しくあるが、トーマが相手なら是非もない!幸せになるのだぞ!デイジー!」と父親。
そんな会話を毎晩繰り返した。何て両親だ!
食後、俺はジョバンニのおじさんとガウロの三人で、ジムで楽しい鍛錬を行い、その間女性陣は女子会で盛り上がっていた。
それはそれでいい。だが問題はその後だった!
俺がトレーニング後の汗を拭きながら俺達の居室に戻ると、決まってオリヴィエさんが寝室のベッドの上で、俺を待っているのだ!
嫁ちゃんたちと一緒にスケスケのセクシーネグリジェ姿でな!
オリヴィエさんは誰に教わったのか、顔を真っ赤にしながら俺の顔を自分の胸に埋めて、「ぱふぱふ、ぱふぱふ・・・」と可愛らしい声で囁きながら、俺の顔をそのエリクシアよりご立派な御霊峰に挟んでくれる!
嗚呼、亀〇人よ、心の師匠よ!あなたの教えは間違っておりませんでした。この乳圧!頬触り!この世にこれより尊きものはありません!
俺は毎回血涙を流しながら、オリヴィエさんの至高の『ぱふぱふ』から顔を引き離し、オリヴィエさんを寝室の外に追い出すのだった。
翌日俺は毎回ガウロに抗議するのであったが、奴は何を言ってるんだコイツてな顔をしてこう言うのだった。
「俺にはお前が理解できん!あんなにいい女に言い寄られて、何が不服なんだ!」
逆に怒られる始末・・・。
「オリヴィエはこの国の王族、ヴェスタの小女王だろうが!
どんなにいい女でも、そんな女に手が出せるか!」
「お互いに好きなのだから、遠慮なく手を出せばいいじゃないか。
トーマがオリヴィエの王配となるなら、俺は歓迎するぞ!
なんなら、今ここで跪いて剣を捧げようか?ほれ!」
ガウロが本当に跪いて、佩剣を差し出すではないか!
「ガウロ止めろ!冗談でもだ!
俺はどこまで行っても旅人だ!気ままな旅人でありたいんだ!
柵だらけの王様なんて、まっぴら御免だよ!
第一、そんなんになってしまったら、気ままにケモ耳っ娘をモフれないじゃないか!」
そんな平穏な日常はあっという間に過ぎ去り、ムーアル砦を襲撃してから早一週間が過ぎ、翌日ティアナを去る事をジョバンニのおじさんに伝えた。
「トーマよ、ならば明日ガルバティオ小王国中の貴族を集めて謁見式を行う。どうかそれに参加して欲しい。」
ジョバンニのおじさんは、いきなり面倒な事を言い出した。
「ジョバンニのおじさんよ。おじさんの頼みであるなら仕方ない。参加するが、俺はあなたに頭は下げないよ!それでもいいのかい?」
「無論である!トーマは我が盟友!我に頭を下げる必要などあるものか!」
ジョバンニのおじさんは僧帽筋をパンプアップさせながら答えた。僧帽筋が心外であると抗議している。
「分かった。」
俺はそう短く答えた。
毎晩恒例となった、オリヴィエさんの『ぱふぱふ』をしばし堪能し、しかる後オリヴィエさんにお引き取り願った翌日、俺は陸上自衛隊常装夏服に身を包んでイケロン城の謁見の間の前に立っていた。
嫁ちゃんずとセレナも同じ常装夏服を着用している。
「旅人、トーマ・ナナセ様!ご入来!」
謁見の間の儀礼官が大声で俺の入室を告げると、謁見の間の大きな扉が開かれた。
まず目に入っのは、謁見の間に吊るされた巨大なシャンデリアで、窓のない謁見の間を眩い光のシャワーで照らしている。魔道具の一種なのだろう。
シャンデリアの下には、赤い絨毯が敷かれた通路となっており、その左右にはこの国の文武百官が立派なマントを羽織って並んでいた。
この国の貴族や高官が整列し、俺を値踏みするなか、俺達は中央の赤い絨毯の上を進んで行った。
俺を先頭に、嫁ちゃん達は一歩下がって続いて来た。
謁見の間の奥には、高くなった台上に玉座があって、ジョバンニのおじさんとエマリアさんが正装で着座していた。
エマリアさんはクリーム色のドレス姿で、今日もとても美しかった。
一方、ジョバンニのおじさんは、王冠を頭に乗せて、豪奢な毛皮のマントと大きな王錫を手にしているが、相変わらず上半身が裸!
俺は慌てて謁見の間に並んでいる貴族や高官たちを見渡すと、やはり豪華なマントの下は上半身裸だった。
裸族の集会かよ!
ジョバンニのおじさん達の玉座の脇には、オリヴィエさんの席が用意されており、ロイヤルパープルのドレスに身を包んだオリヴィエさんはとても美しく輝いていた。
中央の絨毯を、玉座の手前15メートルで絨毯が切れているところまで進んで、俺は仁王立ちにジョバンニのおじさんを見上げた。
「・・・無礼な!」「跪かぬか!」・・・・
謁見の間の列席者たちから非難の声が上がった。
「控えよ!我が盟友トーマを非難する事は許さぬ!」
ジョバンニのおじさんは、威厳のある声で謁見の間に上がった非難の声を一蹴した。
そして、玉座から立ち上がり、謁見の間の隅々にまで届く大きな声で宣言した。
「プロセピナにおけるセントニア軍撃退。ムーアル砦におけるガルキア残党勢力の掃討。
これらの功績に報いる為、我がガルバオイ小王国は白金貨五千枚を以ってトーマ・ナナセの功に報いるものとする!
加えて、公皇猊下より勅命が発せられた。
今後トーマ・ナナセに害為す者は、このアラン連合王国の敵と成る事をここに宣言する!」
ジョバンニのおじさんはそう宣言すると、大きな羊皮紙を広げて階下の全家臣に示して見せた。
「ここに公皇猊下の親筆によるご署名と、我等選皇四家全てのビルチェによる署名がこの宣言になされた!
トーマよ、どうかこの宣言文を受け取って欲しい。
貨幣と違って、邪魔になるものでもあるまい。
これが我等連合王国のお主に対する誠意の証なのだから。」
ジョバンニのおじさんが直々に玉座を降りてきて、俺に羊皮紙の宣言文を手渡した。
「ありがとう。謹んでこの国の誠意を受け取るよ。」
「万歳!
「「「「万歳!アレアート・トーマ!万歳!アラン連合王国!」」」」
ジョバンニのおじさんの声に、謁見の間のに列席した文武百官は腹の底からの大声で唱和した!
謁見の間に唱和の声が響くと、イケロン城の大鐘楼の大鐘が鳴り響き、それに合わせてティアナの街中の鐘が鳴り響いた。
「
いずこであろうとも、連合王国は全力でそなたを庇護し支援するであろう。
それはこの宣言文を携えるお主の子孫たちも同じである。
さあ、この善き日に旅立たれるが良い!
さらばだ友よ!そしてまたいつの日か相見えん!」
そう言って、ジョバンニのおじさんは俺をきつく抱きしめた。
おじさんの全身の筋肉たちが別れを悲しんでくれている。
俺の筋肉もそれに答えて、全力でおじさんを抱き返した!
俺達はイケロン城正面の英雄広場まで移動して、旅立ちの用意を整えた。
倉庫から
俺は今回チヌークの操縦をエリクシアとヴァイオラに任せて、出発の用意が整うまで、ジョバンニ一家の子供たちと別れの挨拶をしていた。
セレナはお気に入りの双子のルビーちゃんとサファイアちゃんと抱き合って、号泣している双子ちゃんに別れを告げていた。
俺には最後にデイジーちゃんが抱き着いてきて、「叔父ちゃまのお嫁ちゃんになってあげるから、迎えにきてね!」と言って俺に大人のキスをしてくれた。お、おませさんだ。
「トーマ様、離陸の用意が整いました。」
サーシャが別れの時を告げてくれた。
「ジョバンニのおじさん。それにエマリアさん。世話になった。
また会うその日まで・・・息災で!」
「
俺とジョバンニのおじさんは固く握手して別れを告げた。
「体に気を付けるのですよ!トーマさん。
それとこの次に会う時は、義父さん、義母さんと呼んでくれて構わないのですからね。」
エマリアさんはそう言って、優しく俺を抱擁してくれた。
俺はチヌークの後部ハッチから乗り込み、エリクシアに離陸を指示した。
開いたままの後部ハッチから、見送りに来てくれた皆にずっと手を振り続けた。ティアナの街が見えなくなるまで。
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