第69話 乙女の陰謀
スカーは俺とサーシャの銃撃を浴びながら、木窓を突き破って砦の三階から飛び降りて行った。
サーシャが直ぐにスカーの飛び出した窓に駆け寄り、スカーに攻撃しようとしたが、スカーの姿を見失ったようだ。
「ベルちゃん?」
俺はベルちゃんに説明を求めた。
「スカーは、恐ろしい事に【隠密・隠蔽】のスキルを格段にレベルアップさせたようです。この短期間で。
そう、それは『進化』と呼べる程に。
スカーがマスターに突進するまで、ベルには魔力も存在も検知できませんでした。
今は、アカシックレコードにも、奴がこの部屋にいたログが記録されております。
ですがベルがスカーの存在に気付くまでと、存在を見失った今は、アカシックレコードの記録ですら、己の存在を『隠蔽』しています!」
「トーマよ、スカーとは?」
ジョバンニのおじさんとオリヴィエさんが向かいのソファーに腰を下ろした。
「スカーはナグルトの一級冒険者だ。
ナグルト伯爵との決戦の際、今みたいに奴の奇襲を受けたんだ。
全く執念深い奴だよ!懸賞金のせいなのかね?ふうっ。」
スカーの事を考えると、ため息しか出てこないよ。
「それは違います。マスター。
スカーがマスターを付け狙うのは、マスターが弟の仇だからです。」
「弟の仇?」
俺はベルちゃんを、両手の手のひらに乗せて聞き返した。
「スカーの弟は、ナグルトの街の東門の衛士でした。」
「すると・・・」
「その通りです。まつろわぬ民の子供たちを救出して、ナグルトから脱出する際、マスターの銃弾に倒されました。」
「そう言う訳だったのか。
・・・だが、次こそ決着をつける!」
ベルちゃんの警戒網を、こうも易々と突破できる相手を放置できない!
家族に危険が及んでしまう!
◇◇◇◇◇
俺達は、燃料と弾薬の補給と、機体の整備を兼ねて、
その際、俺はコブラからTOW対戦車ミサイルを外して、ハイドラ70ロケット弾のランチャーを四個、スタブ・ウィングに装備するように変更した。
それから、ジョバンニのおじさんがブラックホークのドアガンのM2キャリバーを撃たせろとうるさいので、セレナに大きな子供の面倒をお願いしてしまった。
セレナよ、すまん!
そして再び俺達は編隊を組んで、リニミの街近くに潜伏しているガルキアの残党を殲滅に向かった。
◇◇◇◇◇
[七瀬冬馬はガルキア軍残党を撃破しました。功績ポイントを27,575 ポイント獲得しました。功績ポイント:127,372→154,947
功績ポイントが合計154,947 ポイントになりました。二等陸佐に昇級出来ます。昇級しますか?]
俺達は、リニミの街の郊外に潜伏していたガルキア軍閥の残党を殲滅した。
俺達の攻撃に、密集防御隊形で対応したゴロツキ共は、ハイドラ70の容赦のない攻撃で打倒され、逃げ延びようとした兵もブラックホークからの地上掃射で皆撃ち倒された。
ゴロツキ共の潜伏拠点近くにコブラとブラックホークを下ろして休憩していた俺に、システム・ベルちゃんのお告げが響いて来たのだった。
「システム・ベルちゃん。二等陸佐に昇級お願いします!」
[七瀬冬馬は二等陸佐に昇級しました。昇級した事により次の装備が使用可能となりました。
『AH-64D』
『CH-47J/JA』
以上です。功績ポイント:154,947 →10,947 ポイント]
俺はコブラとブラックホークを収納して、チヌークを取り出し、広い貨物室に皆を収容してティアナへ戻った。
もう昼過ぎになってしまったが、昼食はティアナへ戻ってからでいいだろう。
ところでオリヴィエの副官ガウロがどうなったかと言うと、俺達がスカーを取り逃がした頃にようやくムーアル砦に僚騎と共に飛竜に乗って到着し、ジョバンニのおじさんは彼に休む間も与えず砦に囚われていた人たちの面倒と戦闘の後処理を命じた。
「がんばれ、ガウロ!」と励まして、俺達はガルキア残党の殲滅にムーアル砦を離れたのだった。
そして今、俺はチヌークをイケロン城の騎士団修練場に着陸させるべくアプローチしていた。
修練場で鍛錬に励んでいた若い騎士たちは、突然現れた巨大なチヌークに驚いていたが、チヌーク側面のドアから身を乗り出して大声で叫んでいるジョバンニのおじさんを目にして騒ぎを収めた。
「トーマよ!大儀であった!我は色々と後始末をせねばならぬので先に行く!また夕食で合おう!」
チヌークが修練場に着地すると、ローターの回転が止まるのも待たずに、オリヴィエと共に城内へ戻って行った。
「いいさ、俺達はゆっくり休ませてもらうよ。」
俺はチヌークを収容して、離れに戻って行った。
先ずはお風呂だ、お風呂ー!
□□□ジョヴァンニ・ビルチェ・ガルバオイ・ティアナ
「という訳である。至急リニミの街に潜伏している、ガルキアの残党三十名を捕らえるのだ!逃すでないぞ!」
「はっ!必ずや!」
我から渡された沢山の司令書を手に、副官のミナルディーは我の執務室から出て行った。
「それで、あの方達の戦いは如何でしたの?」
奥がハーブティーを飲みながら尋ねた。
「・・・正直恐ろしい。
人間の領域を超越しておる!正しくドラゴンに匹敵する力だな。」
「あのお方は、黒竜も討伐なさっております。生きる伝説ですもの。
我ら只人が恐怖して、当たりまえですわ。叔父様。」
エマリアの対面に腰を下ろしておるオリヴィエが、紅茶を飲みながら言った。
「旦那様。恐怖は本質を見誤らせます。どうか、平常なお心で彼の者と相対くださいますよう。」
流石は我の妃!
「奥よ、分かっておる。あの善なる筋肉が失われぬ限り、我と敵対する事はない。」
我はワインをグラスに注いで、香りを楽しんでから、口に含んだ。芳醇な味が口に広がった。
「とは言え、此度の事。如何様に彼奴に報いるべきであるか?」
「地位や名誉では、あのお方の心には響きませんわ。絶対に。
金はあっても困らないでしょうが、それでは我らビルチェの名誉に関わりますわ。叔父様。」
「ふむむむ!せめてデイジーが、あと三年早く生まれておれば!くっ!」
「四歳が七歳になったとて、笑われるばかりですわよ、叔父様!」
あんなにも愛くるしいデイジーであるぞ!
「旦那様。それならば、公皇猊下に働きかけ、トーマ・ナナセに連合王国の加護を与えればよろしいかと。
トーマ・ナナセに危害を与えた者は、個人や団体を問わず、その者は連合王国の敵であると宣言するのです。
連合王国の敵は、一切の取引が出来なくなります。なにせ、メルクリウス神様の神罰により、その者が触れた貨幣はその価値を失って泥と化すのですから。」
「だが、奥よ。もしそんな事をしたら・・・」
「ええ、本当にそんな事はしません。本当にそんな事をしてしまったら、オキシデンテの基軸通貨たるドーラの価値が崩落してしまいますから。
ですから、これは脅しです。
抑止力として、連合王国の宣言とメルクリウス神様の神罰の伝説をオキシデンテ中に流布するのです。」
「成る程のぅ。これは名案であるぞ!奥よ!」
「さすがはアントナレオの才媛と謳われたエマリア!これで、デイジーを降嫁させずにすむわね。
我がアントナレオも、この策に賛同しますわ!叔父様!」
「では、早速公皇猊下に上程しよう!」
「それで、お嬢様は何を企んでおられるのですか?」
オリヴィエは悪戯っ子の表情でとんでもない企みを告げた・・・。
おおっ、メルクリウス神よ・・・
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