第68話 妄執
スピーカーなんて無いんだけど、どうなってんだろ?
ブラックホークは、機体右側を砦に向けてホバリングしている。
ドアを大きく開かれた右側のキャビンからは、セレナの操作で銃座に乗せられた
たちまち城壁のバリスタが粉々に破壊され、バリスタに取り付いていた兵士達が血煙と化した!
「うおー!我にも撃たせよ––!」
ガンナー席に座っていたジョバンニのおじさんが、シートベルトを外してガンナー窓から身を乗り出して火魔法を乱射し出した!
あれ?高度200以上取ってるのに、火魔法が下の敵兵に届いてるよ!
筋肉か?やはり筋肉が魔法の射程を伸ばしたのか?
後でベルちゃんに聞こうっと。今は、戦乙女熱唱してるからね!Δじゃないよ!
「サーシャ、左手のバリスタはエリクシアに任せて、俺達は右側のバリスタを叩くぞ!」
「了解しました!」
俺は980mmとスリムな機体正面を城壁に向けて、できる限り敵から見た正面投影面積が最小になるように機体をホバリングさせた。
サーシャは手元のガンサイトを覗いて、M197 旋回式三銃身20mm機関砲を操作している。
サーシャはユニバーサルターレットを回転させM197の砲身を敵バリスタ陣に向けて、ガンサイトのトリガーを引いた。
20mm三銃身のガトリング砲から、毎分650発の発射レートでタングステン合金弾が発射された!
バリスタ陣はM197ガトリング砲の砲弾を受けて、土煙の中城壁と共に崩れ落ちて行った!
「クリア!サーシャ、次、右隣のバリスタ!射撃用ー意!」
俺はサイクリック・スティックを右に倒して、コブラを右にスライドさせ、次のバリスタ陣正面でホバリングを静止させた。
「正面、
「ダダダダダダ・・・」
M197が重いタングステン合金の弾丸を発射した!
二番目のバリスタ陣が、土煙を立てて城壁から崩れ落ちていった。
俺とサーシャが、バリスタ陣を四箇所破壊した頃、エリクシアから報告が入った。
「旦那様♡、バリスタを三門破壊しました。」
「良し!作戦フェーズ1完了!引き続きフェーズ2へ移行する!全機敵歩兵を掃討せよ!繰り返す!全機敵歩兵を掃討せよ!」
「了解しました!掃討戦へ移行します。」
エリクシアは機体を180度反転させ、今度は機体左側のドアガン、M2キャリバーをセレナに使わせ、地上掃射を始めさせた。
ベルちゃんは、戦乙女の騎行を更に声量を上げて高らかに歌い、オーケストラは彼女に負けぬようその音量を上げた!
戦乙女が、戦場で倒れた兵士達の魂を揺り起こすかのように。
俺はコブラを砦正面まで戻し、高度を更に取ってサーシャに命じた。
「サーシャ、砦の中のゴキブリを叩き出す!TOW対戦車ミサイル発射用意!目標、正面砦入り口!
「TOWミサイル、発射!」
機体左の
TOWミサイルは、サーシャがロックオンした目標に向けて飛翔した。そしてコブラから二本のワイヤーを通じてもたらされる電気信号に従って軌道を修正して、目標の扉に命中した。
扉を突き破ったTOWミサイルは、高性能炸薬の爆発と、ロケットモーターの残余燃料で砦内部を一瞬で火の海に変えた。
「トーマ様、砦の奴隷の皆さんは大丈夫でしょうか?」
「サーシャ、心配ない。奴隷のいる地下牢の入り口は、砦の反対側にあって、砦入り口から最も離れているから大丈夫だ。
それより、城壁内の敵を片付ける!
ハイドラ70ロケット弾発射用意!
発射のタイミングは、サーシャに任せる!地上の敵を殲滅しろ!」
「了解。殲滅します!」
俺は、砦の外から城壁内の地上を上手く狙えるよう、射撃位置を調整しながら、サーシャのハイドラ70ロケット弾発射を支援した。
俺は今回、ハイドラ70に高爆発威力弾頭 〈HE〉とM429 空中起爆近接信管を選択して、ハイドラ70の殺傷力を最大に引き上げていた。
例え、人で無しと罵られようと構わない!こいつらが撒き散らす、不幸の連鎖を俺が断ち切るんだ!
コブラの左右の
俺のコブラとエリクシアのブラックホークは、砦正面入り口を挟撃できる位置にホバリングし、砦から逃げ出して来るゴロツキ共を、M2キャリバーとM197ガトリング砲で仕留めた。
およそ三十分が過ぎ、砦内部からゴロツキが出て来なくなった。
「全機、一旦距離を取れ!」
俺はブラックホークを砦から下がらせて、コブラを城壁正面500メートルまで後退させた。
「サーシャ、残りのTOWミサイル全弾で、城壁正面扉と城壁を破壊しろ!
TOWミサイル全弾発射用意!
「TOWミサイル、発射します!」
コブラから発射されたTOWミサイルは、正面扉と城壁を順番に吹き飛ばしていった!
土煙が収まると、無残に崩れ落ちた城壁が姿を現した。
「ブラックホーク1、俺はこれから砦内部に突入し、始末を付けて来る!
エリクシアは、引き続き上空から監視してくれ。
誰も砦から逃すな!」
「トーマよ!我も一緒に参るぞ!」
俺達は、崩れた城壁の前に着陸した。
俺がコブラを収納していると、ブラックホークからジョバンニのおじさんと、オリヴィエが降りてきた。
「さあ、トーマよ!参ろうぞ!」
おじさんのメインアームは武骨なガントレットだった。
うん、あれで殴られたら、死ねるな。
俺はエリクシアに上空からの監視を任せて、城壁だった瓦礫を乗り越えて、砦に侵入した。
先頭はサーシャ。いつも通り
その後に20式を装備した俺が続き、オリヴィエを挟んで、ジョバンニのおじさんに殿を任せた。
ベルちゃんも、サーシャと同じ装備(1/12だが)で俺を護衛している。
俺はサーシャをカバーしながら砦内部に侵入した。
一階正面の広間はTOWミサイルで破壊されており、瓦礫を超えて進むと、二階へ続く階段から、二人の兵士が剣と盾を持って襲い掛かって来た。
「左!」「右」
「プシュ!」「ダン!」
「クリア!」「クリア!」
俺達は、ヘッドショットで兵士を倒した。
「ほう!鎧で身を固めた剣士を瞬殺であるか!銀狼も見事なり!」
ジョバンニのおじさんも、流石に今は金属の軽鎧を身につけているので、筋肉の表情が見えないな。
「サーシャ、サプレッサーは外して、隠れてるヤツラに恐怖を味あわせるんだ。」
「はい、トーマ様!」
サーシャはサプレッサーを外して、ノーマルのマズルに付け替えた。
「進もう!」
俺達は、二階を制圧して、三階に進んだ。
三階の突き当たりの部屋に、反応がある。
俺はハンドサインで中に三人いる事を伝え、マッチョおじさんは理解したようで、大きく頷いた。
『カウント、スリー』
サーシャにサインで知らた。
『3、2、1』
「ダン、ダン、ダン」
サーシャのキューちゃん改が、扉の鍵穴を破壊し、俺は扉を蹴破って室内に突入した。
「トーマ様!」「マスター!」
突入すると、俺の頭目掛けてハンドアックスが唸りを上げて飛んで来た!
俺は半身を引いて、ハンドアックスを躱した!
俺の後に飛んで行ったハンドアックスは、ジョバンニのおじさんのガントレットに粉砕されていた。
その間、サーシャは身を屈めて素早く室内に進入し、ハンドアックスをもう一本投げようとしていた男をたおした。
「ダン、ダン!」
俺はサーシャに向かって剣を振りかぶっている男の額の真ん中を撃ち抜いた!
「ダン!」
「貴様達は、何者だ!
何故こんな事をする!」
高そうな鎧に身を包んだ、白髪の男が誰何してきた。
「人に名前を尋ねるなら、ます自分から名乗れと習わなかったのか?
ウチのセレナでも知ってるぞ。」
俺は、この白髪のオッサンの大きな仕事机の前にある、高そうなソファーに腰を下ろした。
「ぐぬぬ!生意気な若造め!
儂はウラジミール伯爵である!」
「なあ、おじさん。ウラジミール伯爵って聞いた事ある?」
「寡聞にして、聞いた事がないの。」
ジョバンニねおじさんも、上手くとぼけてくれた。
サーシャは入り口近くで、通路とこの白髪おじさんを警戒している。
オリヴィエは、ジョバンニのおじさんの傍で話しを面白そうな表情て聞いていた。
「なあ、地元の人間が知らない伯爵って、自称の伯爵様ですか?
あのぅ、頭大丈夫ですか?」
「おのれ!儂を侮辱すると許さぬぞ!
我はガルキア王国伯爵である!控えよ!」
「へー、ガルキアのね。何でまたガルキアの伯爵様が、こんなアラン連合王国の片田舎の、そのまた朽ちた砦になんか居るんだい?」
俺はテーブルにあったワインの瓶を取り、ベルちゃんに確認したら、ベルちゃんが頷いてOKしてくれた。
「お前に話しても分からぬだろうが、儂はガルキアでの戦で戦局が不利になり、ここで雌伏して時が至るのを待っておるのじゃ。」
「ふーん、雌伏ねー。」
俺はワインの瓶に口を付けて、一口飲んだ。渋いワインで、俺の好みではなかった。
「雌伏と言う割には、随分と派手にこの国を荒らし廻ってるじゃないか。どうしてなんだい?」
「当たり前じゃ!この国の連中は、長きに渡りガルキアやセントニアから
不当に富を巻き上げておったのじゃ!
故に、儂がこうして雌伏しておる今こそ、その一方的に搾取した富を儂に返却せねばならぬのじゃ!」
「富を返すって、これをお返しします。どうか使って下さいって差し出したのかい?随分と殊勝なヤツがいたもんだ。」
「愚かな!そんな白痴が居るものか!我が精鋭の武力で徴用したのよ。
この国の愚か者達が持っていても不要な物を、儂が有意義に使ってやるのじゃ!この高貴な儂がな!」
「・・・度し難い・・」
「な、何?なんと申した?」
「全く持って度し難い!って言ったんだ!
不当に巻き上げられただと?
自分の必要な物を買った対価だろ!
物を買う時は、調子の良い事言っておいて、被害者面するんじゃねえ!
持っていても不要な富だ?
その富を稼ぐ為に、一体どれ程の汗を流したと思ってるんだ!
人が幸せを夢見て、コツコツと蓄えた富が不要な訳があるか!
人様の富を吸い上げる、しかも暴力で!
お前のやってる事は、盗賊と一緒だ!」
「な、何だと!この若造が!」
「まだ名乗ってなかったな。
俺の名はトーマ!
お前達が『ナグルトの狂犬』と呼ぶ男だ!
そして地獄の土産に覚えておけ!俺はお前達理不尽をもたらす者の天敵だ!」
「なっ・・・」「ダン、ダン!」
俺は眉間と心臓に一発ずつ、SFP9の9mmパラベラム弾を撃ち込んだ!
「マスター!」
「・・・シィッ!」
白髪のオッサンにSFP9を撃ち込んだ瞬間、ベルちゃんが警告を発し、1/12サイズのキューちゃん改を連射した!
冷たい殺気が俺の急所を狙う!
俺は間一髪短剣の切先を躱し、手に持っていたワインの瓶を暗殺者の顔に投げつけた!
瓶を躱す際、暗殺者の左頬に大きな傷跡を目に止めた!
「スカー!」
スカーは、一瞬俺と視線を交わし、木窓に向かって跳躍した!
「ダダダダダダ!」「ダンダンダンダンダン!」
サーシャがキューちゃん改をフルオートで叩き込み、俺はSFP9を撃ち込んだ!
「・・・ん・・・」
スカーは木窓を打ち破り、砦の三階から外に飛び出して行った。
床に奴の血痕が残っていた。
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