第67話 戦乙女の騎行
ジョバンニのおじさん達と、楽しい筋肉の語らいを終えて、俺は俺達の泊まる離れに戻った。
もちろん、厳しい鍛錬の後には、筋肉を労る入念なストレッチを二人に指導して、豆乳にきな粉マシマシのスペシャルドリンクを一気飲みして鍛錬をシメた。
とても充実した時間だった。
離れの自分達のスイートに戻ると、寝室から嫁ちゃんずの声が聞こえて来たので、寝室のドアを開けたら、フリーズしてしまった。
「「「「おかえりなさいませ」」」」
キングサイズのベッドの上で、嫁ちゃんずがセクシーネグリジェ姿で俺に挨拶したのは良い。最高だ!
「だが、どうしてオリヴィエさんまで、そんな可愛らしい格好でいるのですか?」
オリヴィエさんは、黒のスケスケ・セクシーネグリジェ姿で、顔を真っ赤にしながら、嫁ちゃんずに囲まれてベッドに座っていた。
し、鎮まれ〜マイサンよ!ここで暴走したら、国際問題となって今度こそ命が危ない!
「えっ!か、可愛らしいだなんて、嬉しい♡・・・
た、ただのパジャマパーティーですわ!」
モジモジしているオリヴィエさんの美しい御霊峰が、プルンプルン揺れて・・・嗚呼、尊い・・・
俺は大日本帝国軍の大口径砲身に使用された高張力鋼よりも硬い精神力で、オリヴィエさんの御霊峰から目を逸らして宣言した!
「どうか、お引き取り下さい。
これからは、家族の時間です。」
なんとか逸らした視線の先では、サーシャが前のめりになって御神体を強調しているではないか!
サーシャ、なんて罠だ!目が離せないではないか!
「・・ご、ごめんなさい。失礼しますわ!」
オリヴィエさんは、ベッド脇のソファーからガウンを掴み取ると、寝室から飛び出して行った。
すれ違う際に、オリヴィエさんの目に光る涙が見えてしまった。
「ハァ、・・・」
正しい判断だったが、後味が悪い。
すると、エリクシアが俺の首に手を回して、キスをしてきた。
「旦那様♡ あまり女の子の純情を無碍にするものではありませんわ。
それに旦那様もお求めに・・・」
エリクシアはそれ以上は語らず、黙って自分のお腹に当たっているマイサンにいい子いい子した。
俺はその晩、嫁ちゃんずに軽く叱られながら、体を散々責められた。両手をガウンの腰紐で縛られて・・・。
あれ、こんなのもたまには、い、良いかもです♡
−・−・−・−
翌朝未明、まだ暗い中俺達は起きた。
戦闘服に身を包み離れの玄関を出ると、ジョバンニのおじさんとオリヴィエとガウロが軽装鎧姿で既に待っていた。
「待たせてしまって、すみません。」
「何、我の気が逸ったまでよ。謝罪には及ばん!」
「では、何処か広い空き地に案内下さい。」
「うむ。付いてまいれ!」
おじさんを先頭に早足で進んだ。
オリヴィエさんが、躊躇いがちに俺の腕に触れたが、一気に俺の腕に抱き付いてきた。
「・・・・」
オリヴィエさんは、無言のままで目を潤ませている。
「はあ、昨晩は酷い態度を取りました。あなたを傷つけてしまった事、謝ります。
ただ、ああでもしないと、俺の理性を保てませんでした。
昨夜の貴女は、魅力的すぎました。
俺は、この国が結構気に入っているので、石もて追われる事はしたくないんです。」
オリヴィエさんは、抱きついてる腕に一層力を入れてきた。
顔は見えなかったが、なんか嬉しそうな雰囲気だった。
そして俺達は、騎士団の修練場に案内された。
ここなら、充分な広さがある。
「みんな、端に下がってくれ。」
俺はそう言って、薄明るくなって来た広い修練場の真ん中に歩いて行き、今日の装備を取り出した。
そして、
ロクマルにはエリクシアが機長で、ヴァイオラがコパイ。セレナがキャビンドアに取り付けられたドアガン・
そしてジョバンニおじさんとオリヴィエさんは、ガンナー席にベルトで固定されて着席した。
ガウロは「飛竜を取って来る」と言って、駆け出して行った。
俺はコブラの後席の操縦士席に座り、エンジン始動シークエンスを淡々とこなして行った。
メインローターがゆっくり回転し出すと、サーシャは機体の最終目視確認を行ってから、前席のガンナー席に座った。
サーシャは獣人用に、ケモ耳を出せるガンナーヘルメットとアイピースを付けて、ガンナー席のドアを閉めた。
誰がガンナー・ヘルメットを改造したか分からないが、良く分かっていらっしゃる。創造神様じゃないよね?
「こちらコブラ1。離陸準備完了。」
「こちらブラックホーク1。離陸準備完了です。」
「トーマよ!どこを目指すのだ?」
俺とエリクシアの無線通信にジョバンニのおじさんが入って来た。
ちゃんとへッドセットを着けている様だな。
「ムーアル砦跡!全機発進!」
俺はコレクティブ・ピッチ・バーをゆっくり引いて、メインローターのピッチを
コブラの二枚のローターブレードが、バタバタと独特のブレードスラップ音を発生させると、燃料と武装で4.5トンにも達した機体を空に押し上げた。
コブラの機体を垂直に上昇させると、地平線の向こうから朝日が射して来た。
城の尖塔から、飛竜が二騎飛び出して来たのが眼下に見えた。
ガウロとその僚騎かな?
俺の操縦するコブラと、エリクシアが操縦するブラックホークは、高度2,000メートルを時速220キロメートルで飛行した。
目的地のムーアル砦までは、およそ三十分の飛行時間である。
「ベルちゃん。みんなに状況を説明してくれ。」
ベルちゃんは、1/12サイズのAH-1Sガンナーヘルメットを被って、その小さなマイクを使って状況説明を始めた。
「発、フェアリー・クィーン。宛、皆の衆。傾聴せよ!
セントニアの懸賞金情報に踊らされたクズ共は、現在ムーアル砦跡に集結中。その数五百にまで増加。
奴らはマスターが、砦跡近くの街リニミに立ち寄ったら、街ごと襲うつもりです。
街には既にクズの仲間三十人が潜伏しており、リニミを囲んでカティア街道の周辺には、百人規模の別働隊が五隊潜んでいます。
マスターが、ティアナ北部の罠を突破したので、クズ共はこのリニミで決着を付けるつもりです。
全く、誰かがカティア街道の警備を薄くしてしまったので、この国の悪共や、ガルキアのゴロツキ共にいい様にやられてますね!」
「ぐぬぬぬ」
ジョバンニおじさんの悔しがる声が、レシーバーから聞こえてくる。
「それで俺達は、敵のムーアル砦跡を強襲する。
ベルちゃん。ムーアル砦跡の概要を説明してくれ。」
「はい、マスター。
ムーアル砦は、アラン人の祖先がこの地に入植して来る前、先住民であるムーアル人が築いた砦です。
メルクリウス神の加護を保持していた、初代アラン連合王国国王バルダスは、ガルバオイ、アントナレオ、パルテンツィオ及びトラドニコの四人の建国の盟友、神の加護を分け与えた仲間を従えて、ムーアル人を彼らの土地から追い払い、ムーアル砦に追い詰めて殲滅しました。
それ以来三千年に渡り、この地はバルダスとその仲間の血統に支配されて、ムーアル砦の廃墟は歴史に忘れ去られておりました。」
ムーアル人の滅亡に手を下した者の子孫が二人、ブラックホークに搭乗してるとはな。
「そして四年前から、ガルキアの内乱に敗北し、ガルキアから逃れてきた軍閥がこのムーアル砦跡を拠点とし、アラン連合王国の統治の綻びを策動し、独立を目指しております。
それで今回、マスターの懸賞金を軍資金とし、更にマスターの首を原資としてセントニアの軍事的援助を引き出す計画をたてたのです。
元々ビザーナに集結していたセントニア軍は、ムーアル砦跡に潜伏しているガルキアのゴロツキ共の挙兵に合わせて、プロセピナを騒乱のどさくさに占領する為の軍でした。
それをどこかの暴れん坊が、気に入らないと言う理由で、粉砕してしまいましたが。」
「すると、もしかして?」
嫌な予感がしたので、尋ねた。
「はい、その通りです。
マスターに援軍を壊滅させられたガルキアのゴロツキは激怒し、懸賞金が掛かってなくてもマスターを抹殺するつもりでした。腹いせのために。
よかったですね、マスター!
奴ら懸賞金のお陰でやる気倍増ですよ!お見事です!」
非常ーにばつが悪ぞ!
「それよりベルちゃん。敵の配置はどうなってるの?」
まずい話題は逸さねば!
「敵は三千年前の城壁を土魔法とレンガで、簡易的に修復してます。
城門も青銅張りの厚い木製に作り替え、城壁には王国の竜騎士対策にバリスタを七門用意しております。
敵は現在見張りの兵士を除いて、皆砦内部に居ります。
あと、地下牢には、カティア街道で捕らえた男女が三十人奴隷として拘束されています。
おめでとう、ティアナの小王様。
現在貴方の軍は、ガルバオイ小王国に於いて、二番目の規模の軍となりました。」
うわー、ベルちゃん大人気ねー!
「必要とあらば、直ぐに逆転してみせるわ!」
吠えるなよおじさん!耳が痛くなるじゃないか!
俺達は、既に砦の機能を復活させたムーアル砦の北の山地を大きく迂回した。そして砦の東側の平野に出てからは、太陽を背に砦に向かった。
「前方距離三千、砦確認。昇った朝日を背に、高度200で突撃する。200以下だと、敵魔法の射程に入るので注意!
全員攻撃用意!攻撃目標、敵バリスタ!」
コブラとブラックホークの編隊は、太陽の中に隠れながら砦に接近した。
するとベルちゃんが突破あの有名なワーグナーの楽劇を歌い出した!
「ぱんぱかぱーぱ、ぱんぱかぱーぱ」
するとベルちゃんのアカペラにオーケストラの音が重なって聞こえてきた!
よーし、気分は第一騎兵師団だ!突撃––!
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