第66話 対話

 俺達はその晩、城内の離宮に招待されて、マッチョおじさんの家族とオリヴィエとその副官も交えて食事を取ることとなった。

 子供たちの食事は、俺達が宿泊する離れ、と言っても客室が沢山あってホテルと言っても過言ではない大きさ、のメイドさん達が世話してくれるとの事だったので、ヴァイオラとセレナも一緒に参加している。


 そんな訳で嫁ちゃんずは、非公式とはいえ王族との食事にお呼ばれするのにふさわしい衣装を、短時間で用意すべく奮闘した。 

 嫁ちゃんずはベルちゃんの協力のもと、日本のネット画像を立体投影してもらいながら、エリクシアとヴァイオラの意見を取り入れてドレスを選んで行った。

 最後はベルちゃんチートで、選んだドレスを嫁ちゃん達のサイズに合わせて具現化してもらったようだ。


 「みんな、とてもきれいだよ。それにとてもセクシーで、他の男には見せたくないくらいだ。」


 みんなが選んだのは、俺の好みのマーメイドスタイルのドレスだった。でもそれぞれ意匠が異なっており、みなよく似合っている。

 俺はみんなに軽くキスをしながら、みんなを称賛した。

 俺?俺は今回陸上自衛官常装夏服を装備した。冬服じゃ熱いからね。


 俺達は時間になり迎えに現れた女官さんに案内されて、王族の離宮へとやって来た。

 

 離宮の大きな玄関の扉を衛兵に開けてもらうと、中から賑やかな子供たちの声が流れ出てきた。


 「かあ様!お兄ちゃまが、いじわるするの!」「アル兄さん!それ貸してよ!」「お姉ちゃま、だっこー!」・・・・


 「よ、幼稚園か!来るとこ間違えたか?」


 「いいえ、間違いございませんわ。トーマ様。」


 結い上げた美しい赤い髪に、可愛らしい銀のティアラを乗せて、黒のローブ・デコルテに身を包んだオリヴィエさんが隣に並んでいた。


 「ジョヴァンニ叔父様は、結婚以来ずっとエマリアを妊娠させているので、従兄弟たちが一体今何人いるのか、私にもわからないのですの。

 さあ、参りましょ。」


 赤毛さんは、クスリと笑って黒いシルクのオペラグローブを着用した右手を差し出し、俺に無言でエスコートを促した。


 俺は促されるままに赤毛さんをエスコートして、賑やかなダイニングルームへ入って行った。


 入室すると正面には開放的なテラスとなっており、テラスのベンチには、マッチョおじさんが座っていた。

 おじさんにはちびっ子が三、四人取り付いている。いや、ちびっ子ではなく王子王女か。


 テラスに近い室内のソファーにはエマリアさんが大きなお腹に手を当てながら座っており、隣に座った小さな女の子がエマリアさんに絵本を読んで聴かせている。


 「待たせてしまったかしら?エマリア?

 そして、こんばんわ。えっと・・ユ、ユーフィリア?」


 「べーっ!」


 どうやら、違ったようだ。


 「デイジー、お父様を呼んできてちょうだい。

 さあ、みなさんお掛けになって。」


 俺はたくさんあるソファーのなかで、適当に家族で座ろうとすると、俺の左肘に回した手に力を込めて俺を引き留めた。

 

 オリヴィエさんは俺をエマリアさんの正面のソファーに誘導し、嫁ちゃんずは隣のソファーに腰をおろした。


 「お嬢様、とてもお綺麗ですわ。やはり花は見てもらってこそ、咲き誇った甲斐があると言う事かしら?」


 エマリアさんの言葉に、オリヴィエは頬を染めて俯いてしまった。すると四、五人の子供を抱えながらマッチョおじさんが挨拶してきた。


 「さあ、皆で食事を始めよう!今宵はトーマの為に、筋肉に良い料理を用意しておるぞ!」


 マッチョおじさんは、相変わらず裸の上半身に短い紫のマントを羽織っているだけだ。

 みんなでダイニングルームの大きなテーブルに着席した。

 何と言っても、大人が九人とちびちゃんたち十一人が一度に座れるテーブルである。

 俺はマッチョおじさんの向かいの席に案内された。


 皆が何とか席に着くと、皆大人しく手を組んで祈りの姿勢を取った。


 「我等をこの地に誘いしメルクリウス神よ、今宵の糧に感謝を捧げます。」


 「「「今宵の糧に感謝を」」」


 みんながマッチョおじさんに続いて、神に感謝の祈りを捧げた。


 すると、大勢の給仕が料理や飲み物を運んできた。


 「諸君!我の姪達に加え、トーマとその家族と共に食卓を囲む幸運を祝して乾杯しよう。乾杯!」


 ちびちゃんたちはみなミルクのグラスを持ち、大人達にもワインのグラスと一緒に何故かミルクがあったが、大人はみなワインで乾杯した。


 ミルクに口を付けた子供たちが、みな顔を顰めている。セレナもか?


 「ハハ、ミルクは苦手な子は苦手だからな。セレナ、君も苦手だったのかい?」


 「いえ、ご主人様。ミルクかと思って口を付けたら、豆の味だったのでビックリしたのです。」


 「豆乳?」


 「はっはっはっ!無論だとも。豆のミルクは筋肉が喜ぶからの!それに鳥の肉もな!」


 なるほど。テーブルには豆料理と肉料理だらけだな。

 オリヴィエさんが、頭を抱えてるが気のせいだろう。


 その後食事は、エマリアさんが豊富な話題を女性陣に振って、楽しいひと時を過ごした。

 そして食事が終わると、ちびちゃんたちは次々と女官さん達に連れられて退出して行った。

 もう、おやすみの時間かな。


 「レディー達よ、では我も失礼しよう。どうかゆっくり寛いでくれたまえ。

 奥よ、後は任せたぞ。

 さあ、トーマとガウロは我に付いてまいれ!」


 エリクシアさんは、「承知しました」と答えて俺達に手を振って送り出した。


 そして、俺とオリヴィエの副官ガウロ、彼もアントナレオの人間だそうだ、は何故かマッチョおじさんにトレーニングルームに連れてこられた。


 そして、トレーニングウェアに着替えて、と言っても上半身裸に短パンだけだが、俺達三人はアブドミナルマシンの様な台に寝て、腹筋を鍛えている。


 「「「フッ、フッ、フッ・・・」」」


 マッチョおじさんは、恐ろしさ事にベンチプレス用の重り30kgを胸に抱えながら、俺以上のスピードで鍛錬している。


 「フッ、フッ、フッ、トーマよ。プロセピナの街での一件、感謝しておるぞ。フッ、フッ、フッ」


 おじさんは腹筋鍛錬の速度を落とさずに礼を言った。ガウロは表情を変えず、腹筋を鍛えている。


 「フッ、フッ、気にしないでくれ。いい加減、セントニアの奴等には我慢出来なくなったので、やったまでだ。

 俺の我儘みたいなものだよ。フッ、フッ、フッ、お陰で今じゃ立派な賞金首だ!フッ、フッ、フッ」


 「フッ、フッ、フッ、それでもトーマに救われた者もおる。我としては、トーマに感謝しなければならぬ。フッ、フッ、フッ」


 そ、そろそろ腹筋が悲鳴を上げている。が、ここからだ!


 「フッ!フッ!フッ!ジョバンニのおじさんは王様なんだろ。フッ!フッ!王様は、無闇に頭を下げるもんじゃないんだろ?フッ!フッ!フッ!」


 「フッ、フッ、フッ、だからこうしてここにおる!筋肉で語りあっている者同士、そこに王の権威も権力も無い!あるのは等しき筋肉の躍動のみ!

 筋肉に優劣はあっても、貴賤などなし!フッ、フッ、フッ」


 「だ–––!限界だ!」


 俺はアブドミナルマシンに伸びて、心地よい腹筋の痛みに浸っている。


 「分かった。ジョバンニのおじさんの感謝をうけよう。」


 「フッ、フッ、フッ、うむ。ついでに我の長女デイジーももらってくれないか?エマリア似で、将来美人になる事請け合おう!フッ、フッ」


 「確かに、エマリアさんは美人で素晴らしい女性だ。

 だが、断わる!」


 「何故か!?」


 おじさんが鍛錬を止めて、驚愕の表情で俺を見た。


 「そのデイジーちゃんは何歳だよ!」


 「四歳だが、それが何か?」


 「幼すぎるだろうが!ウチのセレナより小さいんだぞ!」


 「なに、後十年もすれば・・」


 「そう言う話しじゃない!

 それよりジョバンニのおじさんよ。俺の賞金首にハエが群がって来てるみたいなんだが、始末して良いか?

 ちょとばかり派手になるが。」


 俺はそう言って、隣のチェストプレスマシーンの様な器具に移って、大胸筋を鍛錬し始めた。うん?ちと重いか?


 「ほう、ハエ退治であるか!我も帯同しよう。いつにする?」


 マッチョおじさんも隣のチェストプレスマシーンに移って器具にたくさんウエイトを積み始めたよ。


 「フッ、フッ、フッ、明朝未明!遅れたら置いて行く!フッ、フッ、フッ」


 「フン、フン、フン、委細承知!フン、フン、フン」


 ガウロも俺の隣でチェストプレスマシーンで大胸筋を鍛え始めた。

 

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