第65話 華の都ティアナ
カテリナ婆さんの寮の風呂で出会った、筋肉ムキムキのおじさんが、相変わらず白い歯をキラキラ光らせながら近づいて来た。
上質な魔獣皮のローブを羽織っているが、何故か上半身は裸!下も短パン姿なんだよ、このおじさんときたら。
俺のそばまで近づくと、マッチョおじさんはいきなり皮のローブを投げ捨て、俺に背を向けてラットスプレッド・バックのポーズを決めた!いい血管出てるよ!
俺も負けずに戦闘服の上着とTシャツを脱ぎ捨て、サイドトライセップスで返礼する。くっ、まだまだ俺の上腕三頭筋では仕上がり切れていないかっ!
俺達が、男同士の熱い挨拶を交わしていると、
子供たちは、何故か怯えたように熱き男二人を遠巻きにしている・・・。
「叔父様、それはもう結構ですから、私を紹介して頂けません事?」
マッチョおじさんは美しいポーズを解きながら、俺に向かって赤毛の美少女を紹介した。
「若者よ。これなるは我が姪に当たるオリヴィエ・ビルチェ・アントナレオ・ヴェスタである。
オリヴィエよ、この善き筋肉の若者は、トーマである。」
オリヴィエと紹介された美少女は、飛行服の上に羽織っているアイボリーのローブの裾を優雅に摘まみながら、優美なカーテシーで挨拶した。
「お初にお目にかかります。オリヴィエ・ビルチェ・アントナレオ・ヴェスタと申します。どうぞオリヴィエとお呼びください。」
オリヴィエと名乗った美少女は、俺の上半身に頬を桃色に染めながら、瞳を潤ませている。
「旅人のトーマ・ナナセです。お見知りおきを。」
「トーマよ。して、其方らが出て来たソレは何なのだ?魔道具か何かであるのか?」
あー、やっぱり気になるよね。でも俺はこの燃えるような赤毛に、茜色の瞳の美少女をもっと見ていたかったのに!エリクシア以上に立派なモノをお持ちなのだ!
「いや、魔道具ではないよ。あれは故郷の乗り物だ。
俺の故郷では、魔導の力がない代わりに『科学』の力が発達したんだ。あの乗り物はその『科学』の力で動いているんだ。」
「ほう、『科学』とな?初耳であるの!」
マッチョおじさんが、大胸筋をパンプアップさせながら答えた。むむむ!全く見事な大胸筋だな!
おれの大胸筋もつられてパンプアップし始めた。
「叔父様。路上での筋肉自慢・・・いえ、立ち話は、あまりお勧めできませんわ。ティアナへまいりましょう。」
赤毛の美少女さんが、俺達の熱き筋肉の対話を諫めながら移動を提案した。
「うむ。オリヴィエが申す事、もっともである。さっ、トーマよ、其方の乗り物で我とオリヴィエを送ってくれぬか。」
「ロクマルだと乗り切れないから、地上を移動する乗り物を出すよ。」
俺はそう答えて、
「ほう、ほう、ほう・・・・」
マッチョおじさんはホウホウと変な声を出しながら、コーキを撫で始めた。
「金属と布で出来ておるのか?これはどうやって動くのか?」
興味津々で尋ねてくる。男って乗り物が好きだからね。
「まあ、百聞は一見にさ。さあ、これに乗ってくれ。」
マッチョおじさんと赤毛の美少女をサーシャと一緒に後席に乗せて、エリクシアには運転席に座ってもらい、俺は車長席に座った。
もう一台のコーキにはヴァイオラの運転でセレナと子供達に乗ってもらった。
「うお――!なんと――!うむむむ――!なんと――!うお――!・・・」
マッチョおじさんが煩い!
コーキが走り出すと、マッチョおじさんが興奮しだして車内をウロチョロ動き出した。その姿は正にゴリラ!
今は運転席と車長席の間にドンと鎮座しながら何やら叫んでいる。
俺はマッチョおじさんの反応に、ある意味満足しながらも、その煩さに辟易していた。
後席ではサーシャと赤毛美少女が楽しそうに会話しているが、時々感じる赤毛美少女の熱い視線が俺を怯えさせる。
・・・サーシャやセレナが、肉をロックオンした時の目と同じなんだよな・・・。
しばらくカティア街道を進むと、遠くに白亜の高い城壁と天空に伸びた高い塔が見えてきた。
「あれぞ我の誇り、ガルバオイの華ティアナである。
ティアナは其方を歓迎いたすぞ!トーマよ。」
胡坐を組みながらであったが、マッチョおじさんのフロントラットスプレッドが美しかった!
俺は思わず大腿四頭筋に力を入れた、車長席から腰を浮かし、いわゆる空気椅子でおじさんのフロントラットスプレッドに答えた。
俺は震える大腿四頭筋の悲鳴に喜びを感じていると、コーキはティアナの巨大な城門に到着した。
すると城門には鋼色の胸当てに、みな見事なシックスパックを晒した城門の衛士達が、一糸乱れず整列して俺達をそのままティアナの城壁内へ進入させた。
ティアナの街並みは、建物すべてが城壁と同じ白亜の石でできており、城門から入った目抜き通りは、カティア街道以上の道幅で、20メートル以上の幅があった。
この広い目抜き通りも人や荷馬車であふれているが、中央の褐色の石を敷き詰められた道には人がおらず、コーキはその専用道を都市の中心にある巨大な城砦に向けて走っている。
ティアナの街の人々は、プロセピナの人々に比べて、衣類はゆったりとした絹製の衣類が主流で、肌の露出が多く、しかしそこに装飾品を付けている人が殆どであった。
専用の道を通ると、しばらくして俺達は天を衝く沢山の尖塔を擁した巨大な城砦に到着した。
「我の居城、イケロン城である。友とその一行を歓迎しよう!」
マッチョおじさんは胸をそらし、堂々と宣言し、俺はついに力尽きて車長席に腰を落としてしまった。とにかく大きな城であった。
城門には、見事に鍛えられた筋肉を、急所を守るだけの最小限の鋼の武具で身を包んだ騎士たちが整列しており、その主を迎えた。
そして、重厚な金属の城門の扉には、先ほど騎竜を先に城まで連れ帰った男二人が俺達一行を待っていた。
―・―・―・―
俺達家族と子供たちは、マッチョおじさんに先導されて、この巨大な城砦、そう無駄に巨大な城の中を案内されていた。
行きかう女官はみな、露出の多い黒っぽいロングドレス姿であったが、問題は男共である。
武官は腰にショートソードを佩いており、文官はみな書類の束を持っていて、容易に見分けられるのだが、それ以外が皆同じ。短いマントを羽織って、上半身裸で短パン姿。そして皆鍛えられた体をしている・・・。
「なあ、ジョヴァンニのおじさんよ。武官は分かるが、文官まで鍛えられた体をしているのはなんでだ?」
そう尋ねると、マッチョおじさんは信じられないものでも見た様な驚愕の顔で答えた。
「何を申す!トーマよ!
健全な肉体にこそ、健全な精神が宿る!美しい筋肉こそが、精神を研ぎ澄ませるのだ!
文官こそ健全な精神が必要ではないか!違うかね?」
「トーマ様、ご安心ください。少なくとも我がヴェスタは、そうではございませんゆえ。
我がヴェスタの文官は、筋肉ではなく、その知性と業務処理能力で評価しております。
相違ありませんわね?ガウロ?」
「・・・・・」「えっ!そんな、まさか!・・・・」
あ~、赤毛美少女のオリヴィエさんが、ショックに打ち拉がれているよ・・・。
余りのショックに固まってしまった赤毛の美少女を、マッチョおじさんが容赦なく引っ張って廊下をすすんだ・・・。
そして俺達は、豪華な応接間に到着した。
子供たちは、そのまま俺達と別れて、俺達も宿泊する離れに案内されて行った。それを見届けにヴァイオラとセレナが子供たちについて行ってくれた。
俺達は、マッチョおじさんと赤毛のオリヴィエの向かいのソファーに腰を下ろした。サーシャとエリクシアが俺を挟んで座った。
女官が俺達に良い香りのする紅茶を配っていると、オリヴィエに似た赤毛の妊婦が入室してきた。
「旦那様、お帰りなさいませ。そして、オリヴィエお嬢様。ようこそお越しくださいました。」
マッチョおじさんは立ち上がって、妊婦さんにキスをして挨拶し、それに続いてオリヴィエさんも妊婦さんを抱擁してあいさつをかわした。
それにしても、恐ろしく巨大な御神体をお持ちのご婦人である。サーシャ換算で二倍はあるか?
「エマリア、久しいですね!
あら、またご懐妊?あなた、結婚して以来お腹に子を抱いていない期間が無いのではなくて?」
「ふふふ、オリヴィエお嬢様。相変わらずお美しい!
女は、愛しい殿方の
お嬢様もその内お分かりになりましてよ。」
ウチのサーシャとエリクシアもブンブン首を縦に振っている。
「陛下。こちらの方々をご紹介下さいまし。」
マッチョおじさんは、優しく奥さんの手を引きながら、俺達に近づいて来た。
「奥よ、この若者がトーマだ。どうだ、善き筋肉であろう?」
しまった。初対面なのに、上半身裸のままだった!
優しそうな奥さんは、慈母の笑顔で俺に挨拶した。
「まあ、素敵な筋肉さんね。
エマリア・ビルチェ・アントナレオ・ガルバオイ・ティアナよ。名前の通り、アントナレオ家から嫁いで来たの。といっても、傍流の傍流ですけど。
旦那様が、あなたの事とても嬉しそうに話してくれたのですよ。狂犬さん。
セントニア国王は、ビザーナでの惨敗を受けて、口から泡を吹いて卒倒したそうよ。」
エマリアさんは、コロコロと笑いを浮かべながらそう言った。可愛らしい女性だ。
「狂犬は心外ですが、トーマ・ナナセです。お邪魔いたします。」
「こちらの女性は?」
エマリアさんが嫁ちゃんずに尋ねた。
「エリクシアです。よしなに。」「サーシャです。はじめまして。」
エリクシアは優雅に、サーシャは可愛らしくカーテシーであいさつした。
「まあ、素敵なお嬢様方です事。オリヴィエお嬢様も負けていられませんわね。」
年上なのだが、何とも可愛らしいエマリアさんの登場で、賑やかなお茶会となった。
それにしても、巨大な御神体である。お、重そう・・・。
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