第64話 賞金首

 翌朝、俺はヴァイオラと抱き合ったまま目覚めた。


 「シクシクシク・・・シクシク」


 俺の枕元で、ベルちゃんが女の子座りをして泣いていた。


 「ど、どうしたの?ベルちゃん?」


 俺はヴァイオラを抱きかかえたまま、小さな声でベルちゃんに尋ねた。


 「ベルと言うこんないい女がありながら、マスターはベルには見向きもせず、新しい女を次々とこんなにこさえて!

 ウキィ―――ッ!おっぱいですか!やっぱ、おっきなおっぱいがいいのですか!」


 ベルちゃんは取り乱し、俺の頬をポカポカ叩きながら詰った。


 「いやいや、自分のサイズよ良く見てみよっか?」


 俺はベルちゃんの手が届かないように頭を逸らして言った。


 「5Aカップですが、なにか?」


 ベルちゃんが自分の胸に手を当てて、恨めしそうに答えた。ちょっとやさぐれてますよ、お嬢さん。てか、5Aって何?聞いた事無いんだけど?


 「いや、そのサイズじゃなくて、全体だよ全体。せめて1/1サイズになってから言おうね?」


 「フフフフフッ!言質は取りましたからね、言質は!」


 ない胸をそらし、勝ち誇ったように仁王立ちしながら、ベルちゃんが宣言した。


 「うん~。旦那様?」


 ヴァイオラが目を覚まし、体を起こそうとして色っぽい声を上げた。


 「おはよう、ヴァイオラ。」


 俺はそう言って、ヴァイオラの蒲色の髪にキスをした。


 「ん~、旦那様~」


 だんだんヒートアップしてきたぞー!


 「朝っぱらから、ベルの目の前でイチャコラするなー!」


 ベルちゃんドロップキックが俺の鼻に炸裂した!


 「ウギャー!」


 俺が鼻を押さえて悶絶したせいで、エクスカリバーが鞘から抜けてしまったではないか!


 「旦那様♡、おはようございます。」「トーマ様、おはようございます。」


 俺の声で、二人も目を覚ましたようだ。


 「さあ、さっさと着替えて支度するのです!

 ちょっと面倒な事態が起こっているのですよ!」

 

 俺達はベルちゃんに急かされて戦闘服に着替えた。

 朝日はまだ昇ってないが、空はもう明るかった。


 「っと!その前に、ヴァイオラ。ちょっとここにきて、膝をついてくれないかい?」


 俺は着替えたヴァイオラにそう言った。

 ヴァイオラは「はい。旦那様。」と答えて、俺の前に両膝をついた。


 俺はヴァイオラの頭にそっと右手を載せて「〔バディー〕」と唱えた。


 二人の体が光に包まれ、彼女の頭に乗せた右手を通して、俺の中から大量に何かが彼女に流れていくのが分かった。

 

 「あっ、うんっ!」ヴァイオラは情報の激流に耐えているようだ。


 [バディー名ヴァイオラに統合型バディーシステムをインストールしました。]


 「よし、これで君とはもう一つ、新しい絆ができたね。」


 「はい、旦那様!とても嬉しいです!」


 ヴァイオラは、美しい笑顔で答えた。サーシャとエリクシアも、ヴァイオラを祝福してくれた。


 そして俺達は昨日夕食を食べたベンチに移って、エリクシアに入れてもらったアモン茶を飲みながら、ベルちゃんの話を聞いた。


 「昨夜セントニア国王から勅令が発せられました。

 生死の如何を問わず、トーマ・ナナセをセントニア王国に引き渡した者には、白金貨千枚をその褒賞として渡すと。

 更に、奴隷エリクシアにも同じく白金貨二十枚を褒賞とすると。

 この情報はセントニア王都の犯罪ギルドを通じて、アラン連合王国の悪党や、この国に潜伏しているガルキアの傭兵崩れや盗賊達に伝わりました。

 その結果、昨晩よりアラン連合王国中の札付きの悪党や、ガルキアの悪党共がカティア街道に向けて集結しています。

 良かったですね、マスター。むくつけき男共にモテモテで!」


 俺はアモン茶に口を付けながら考えた。

 嫁達が心配そうにしている。


 「・・・・なんてこった!俺の首の賞金が、アネモネの身請け代金より安いんだが・・・・うガガガggg!」


 ベルちゃんが、また1/12サイズのP90を俺の顔に連射してくる。痛いよ!それ!


 「旦那様。申し訳ございません・・・。」


 ヴァイオラがしっとりとした、鼻に掛かったアルトの美声を震わせて謝った。


 「もう、トーマ様。ヴァイオラ様が可愛そうですよ!」


 サーシャにまで怒られてしまった。

 

 「すまないヴァイオラ。悪い冗談だった。本当にごめん。

 それより、移動の件だが、俺に考えがあるから、まかせてくれ。

 そんじゃあ、皆を起こして朝食にしようか。」


―・―・―・―


 俺は朝食にみんなでサラダとナポリタンを作った。

 サラダは女の子チームで、パスタを茹でるのは男の子チームだ。総監督はサーシャ。

 俺はパスタに絡めるナポリタンソースを、エリクシアとヴァイオラと一緒に作った。


 女の子たちは、ヘルシーなイタリアンドレッシングに喜び、男の子たちは甘めのナポリタンソースがお気に召したようだった。

 自分で作ったら何でも美味しく感じるよね。


 そして、子供達とヴァイオラに洗い物をお願いしている間に、俺とサーシャとエリクシアで野営で使用した道具を全て倉庫に収納した。


 子供達も昨日着ていた服に着替えている。


 俺は輸送防護車ブッシュマスターを回収して、広くなった野営の跡地からみんなに下がってもらい、そこに今日の装備を取り出した。


 UH-60JAブラックホーク、通称ロクマルだ。


 今日使用するロクマルは、ガンナー席二席とキャビンに簡易座席が十一席がレイアウトされているタイプだ。

 パイロンには大きな増槽が取り付けられており、これにより航続距離1300キロメートルを可能としている。


 俺は機体右側の機長席に座り、左側の副操縦席にはエリクシアに座ってもらった。固定翼機の機長席は左側なのに、どうして回転翼機の機長席は右側なんだろ?


 操縦席の後ろにあるガンナー席にはサーシャとヴァイオラに座ってもらう。

 でも今はキャビンに子供を乗せたり、子供たちのシートベルトを締めたりして補助に回ってもらった。


 その間に、俺とエリクシアはエンジン始動シークエンスを淡々とこなしていった。


 毎回不思議に思う。これだけ複雑なロクマルの計器類を見ても、体が何をすべきかちゃんと覚えてるんだ。

 子供の頃に乗った自転車の乗り方を、ずっと大人になってからも覚えてる、そんな感覚だった。

 これがスキル【ワンマンアーミー】の本当の恐ろしさなのだろう。

 数多の自衛官によって培われた、超一流の技術と経験が、自分の体にコピーされているのだから。

 

 エリクシアとチェックリストを確認していると、子供たちを席に着かせてベルト確認OKとサーシャが報告してきた。


 俺は左エンジンから始動し、順次右エンジンも始動した。

 続いてローターを回転させ始めると、サーシャが機外に降りて左右増槽についていたグランドセフティーピンのフラッグを外して回収してきた。


 「これより離陸する。」


 ロクマルのIHI謹製T700-IHI-401Cターボシャフトエンジン二基が、金属的なエンジン音を轟かせる。

 メインローターがバタバタと言う特徴的な回転音を立てはじめた時、機体がフッと地面から離れた。


 「「「!!!ッ」」」


 子供たちの、叫び声にならない叫びが感じられた。


 ロクマルはグングン高度を上げて、早朝の澄んだ空気を切り裂いて飛翔していく。

 すると、地平から登った朝日がロクマルを照らした。


 「「「「うわ――!」」」」


 みんな機体左手から差し込んだ眩しい朝日に、目を窄めながら見入っている。


 UH-60JAブラックホークは高度2000メートルを、時速235キロメートルの巡航速度で、一路小王都ティアナを目指して空を駆けた。


□□□ジョヴァンニ・ビルチェ・ガルバオイ・ティアナ


 我は愛竜ディーンを駆って、我が都ティアナを目指している。

 無論、ガルキアの賊を討伐する作戦に参加したかったのだが、なにやらオリヴィエの謀の方が面白そうで・・・ゲフンゲフン!今回は、若手を鍛えるために、プロセピナ侯爵に指揮を委ねて、オリヴィエと共にティアナへ向かっていた。

 

 オリヴィエは騎竜のエテージアに乗って、我の左翼についている。オリヴィエの更に左翼の位置にはオリヴィエの副官であるガウロが、騎竜シファントで編隊を組んでいる。

 我の右翼には、我の副官であるミナルディ―が位置しておる。


 オリヴィエの騎竜エテージアは雌竜で、本来アントナレオ家の王騎はガウロの駆っている雄竜のシファントなのだが、何故かオリヴィエは雌竜の騎竜エテージアを自分の騎竜と定め、雄竜シファントをガウロに譲ってしまった。

 何を考えておるのか。きっと我に理解できるところではない、女の秘事とやらに係る事なのであろう。


 「陛下!二時の方角上方に怪しい影!」


 副官のミナルディ―が伝声の魔導具で警告してきた。

 確かに我より遥か上空を、我が騎竜ディーンの全力での飛行速度に匹敵する速度で飛行している何かがおる。


 「ぬぬ!あの方角は、我が都ティアナではないか?」


 「叔父様!前方のあれは!」


 「オリヴィエよ!急ぐぞ!付いてまいれ!」


 我は騎竜ディーンを急がせた。



◇◇◇◇◇


 俺は小王都ティアナの手前20キロメートル程から徐々に高度を下げて、都市の手前5キロメートルほどでカティア街道脇の空き地に着陸した。

 ローターが停止すると、それに合わせるかのように20メートル程離れた場所にドラゴンが四匹降りて来たよ。

 

 「ん?ドラゴンに人が乗っているのか?」


 「旦那様。アラン連合王国の竜騎士です。この国の竜騎士団は有名で、セントニアのワイバーンとは違い、本物の飛竜をを使役します。」


 エリクシアが警戒の声を発した。


 俺はロクマルのドアを開けて、機外に降りた。

 すると、中央の大きな飛竜からも見知った顔が下りて、近づいて来た。


 「また会えたの!若者よ。これは僥倖なり!

 して、若者よ。汝の筋肉は汝に微笑んでいるかね?」


 プロセピナにあるニュクスの宴亭の寮の風呂場で合った、茹で上がった筋肉オジサンだった。

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