第49話 ひとりぼっちのセレナ その1

 俺が湯◯婆にエリーゼの身請け代として黒竜ヴァリトラの鱗を三枚渡した時、キューちゃんFN P90の発射音が聞こえた。


 「ベルちゃん!」俺が尋ねると。


 「心配ありません、マスター。アルビンツェ領主が送り込んで来た密偵が雇ったこの街の冒険者四名が、サーシャが残ったアンビを襲おうとして、逆に撃退されました。

 雇われた冒険者の接近は、ベルが事前に警告しましたので、サーシャは冒険者を待ち受けて掃討できました。」


 「分かった!それじゃ、俺達はこれからこの街を出るよ。エリーゼ、元気に暮らせよ!セレナの事は任せてくれ。」


 「ちょっ」「待ちな!このまま、はいそうですかとは行かないんだよ。まず、お前様とその物騒なお仲間にはここに留まってもらわないと。病人も一緒で構わないから。

 お前様にこのまま出て行かれては、こっちが困るからね。」


 そんな事があって、俺達は歓楽街の外にあるニュクスの宴亭の寮に泊まってセレナの看護にあたる事にした。

 エリーゼも俺達と一緒だ。

 

 プロセピナの街の西門近くにある広い敷地に建てられた簡素な外観の建物だった。

 寮の門をくぐり中庭に入ると、そこには灯篭の灯りに映し出された様々な植生と色彩にあふれていた。


 「ここは病気になったり、妊娠した店の娼妓達が療養する為の寮なのです。」とエリーゼが教えてくれた。


 俺は寮にいる警護の男衆の手を借りて、セレナを担架に乗せて俺達の部屋に運んでもらった。担架の傍らにはずっとエリーゼが付いて、セレナの輸液セットも手に持って運んでくれた。


 俺達は、運河に面した二階の広い部屋があてがわれた。リビングに簡易ベッドを用意してもらい、そこにセレナを寝かせて4人で交代して看病する事にした。

 するとエリーゼが、今晩の夜番を買って出た。とういうか強引に自薦したので、夜番はエリーゼに任せる事にして、俺達は寝室で休むことにした。

 もちろん大人しくその晩は寝たよ。まあ、サーシャとエリクシアを、手で何回か満足させてあげてからだけどね。それが何か?


―・―・―・―


 「ナナセ様!大変!セレナがいないの!」エリーゼがそう言って俺達の寝室に飛び込んで来た。窓の外は薄明るくなっていた。


 「キャッ!」キングサイズのベッドで寝ていた俺達、多分俺を見たエリーゼが悲鳴を上げて目を両手でふさいだんだ。・・・でもキミ、指の隙間から見てるよね?


 俺達はいつも原始の姿に戻って抱き合って寝ている。裸族と言うやつだな。 

 サーシャが俺の温もりを直接肌で感じて寝たい、と言い出してからこうなった。

 立派なキングサイズのベッドの真ん中で俺は大の字になって寝ていた。左にはサーシャが、右にはエリクシアがそれぞれの御神体を押し付けて、足を絡ませて寝ている。もちろんマイサンは、キングサイズで凛々しくスタンダップしているよ。

 どうやらエリーゼは凛々しいマイサンに驚いた様だ。しっかりロックオンしてるけどね。


 「どうかなさいました?エリーゼ様?」エリクシアが体を起こし、シーツを片手で持って胸を隠しながら、もう片方の手でマイサンをシーツで隠してくれた。さり気ない気遣いが嬉しい!


 「エリクシア様、こんな時間に申し訳ございません。ですが、セレナがいないのです!

 サーシャ様が輸液の袋をお取り替えになった後、つい気が緩んでしまい眠ってしまった様で・・・。

 その間に、セレナが自分で管と針を抜いていなくなってしまいました。

 申し訳ございません!でも、どうか・・・」


 「分かった。もともと、ずっと気を張り詰めて看護する必要がないと言ってあるんだ。だから自分を責める必要はないよ。」俺は涙目になっているエリーゼを慰めた。そしてエリクシアが掛けくれたシーツで出来たシングルポールテントに抱きついて遊んでいる、今回の問題の元凶に尋ねた。


 「ベルちゃん、どゆ事?もちろん、説明してくれるよね?」


 ベルちゃんはシングルポールテントのポールを抱きしめ、シーツに顔を埋めながら答えた。


 「ベルは悪くないのです。

 あのは自分の生を諦め、死を迎え入れてました。それが皆の懸命な看護により、奇跡的に生を得ました。正に九死に一生のことなのです。

 ですが、あのは今朝方未明に目覚めた時、自分が死に切れてなかった事に絶望し、自らの死を望んでここを出て行ったのです。

 ベルには人の心が理解できません!でも、論理に反してあのを行かせてやるべきだ、と思ったのです。何故このような判断に至ったのか、今でもベルには分かりません。これが感情というものなのでしょうか?マスター?

 でも、はっきり言える事は、自ら死を望む者にいくら治療を施しても、そこにあるのは緩慢な死だけです。」


 ベルちゃんは、自分の初めての感情にとまどい、救いを求めるように我がシングルポールテントのポールをギュッと抱きしめた。オウッフ!


 「白虎種は、恐ろしいほど勇敢で誇り高く、死が訪れる最後の瞬間まで死に立ち向かう種族だと、とう様から聞いたことがあります。

 あの傷から察するに、あのは想像を絶する生の苦しみを味わいつくして、最後の瞬間を迎えたのではないのでしょうか・・・。

 なので、死ななかった。いえ、死ねなかったと知った瞬間、あのは心の支えを失ったのではないかと思うのです・・・。」サーシャはそう言って身を起こした。ねえ、その眩しい御神体を隠してください・・・シリアスになれません。


 「俺にもあの子の気持ちは分からないが、まずあの子の行方を追って、身柄を確保しよう。ベルちゃん、あの子の居場所は分かっているよね?」サーシャとエリクシアが訝しげな顔を向けるが、そんなことは、まあどうでも良い。


 「はい、マスター。あのの居場所は把握しております。

 あのがこの寮を出て直ぐに例のマーカーを着けた冒険者二人に攫われました。現在は奴隷商の商館に捕らえられおります。そこには、アルビンツェから来た冒険者五人全員が揃っています。」

 

 俺達は装備を整え、湯婆◯の店の寮を出て、高機動車コーキに乗った。エリーゼも付いて来ると言い張り、仕方なくエリクシアの予備の戦闘服に着替えさせてからコーキに載せた。


 今回、俺とエリクシアは 4.6mm短機関銃(B)MP7にサプレッサーとドットサイトとレーザーサイトを付けた特殊部隊装備で武装した。

 サーシャは、うん、いつものキューちゃんな。だってMP7持たせようとすると、サーシャが涙目になるからさぁ。

 今度ベルちゃんに、P90のカスタマイズお願いしてみよ。


 そして俺達は明るくなり始めたプロセピナの街中をコーキで急いだ。

 サーシャが運転席で、俺は車長席。今回エリクシアとエリーゼは後席だ。


 目的の奴隷商の商館は南門地区にあり、俺達は商館の一ブロック手前でコーキを降りた。


 バルガーム・パシャの奴隷商館より大分小振りで、地上は三階建だが地下は二階まであるそうだ。

 俺はまず二階の一室に捕らえられているセレナの所まで一気に突入し、セレナを確保する作戦を立てた。

 作戦と言うほどの作戦ではないが、俺達三人は、ベルちゃんからがアップした商館見取り図をマップで確認しながら、突入の手順確認とリスクの洗い出しの為のブリーフィングをその場で行った。


 ブリーフィングを終えて、俺達は静かに移動を開始した。

 サーシャが先頭で斥候。二番手が俺でサーシャのカバー。次に非武装のエリーゼが続き、後衛がエリクシアの隊列で進んだ。


 豪華な作りの奴隷商館の入り口で止まり、ドアの前でキューちゃんを構えているサーシャにハンドサインを送った。『ヤレ!』


 「ダダダダダ!」サーシャは無言でキューちゃんを連射してから銃口を下げると、エリクシアがすかさずドアを引き開けた!


 俺はドアが開くと同時に商館内へ突入した。「クリア!」


 俺が入り口の部屋の制圧を確認すると、サーシャは奥のドアに駆け寄り、ドアを開いた。


 開いたドアから俺を先頭に突入し、俺が通路の右を、サーシャが通路の左を確認した。「「クリア!」」


 続いて俺とサーシャは通路正面に有る階段を慎重に登った。俺のMP7に取り付けたレーザーサイトから照射された赤いレーザー光線が、階段の上に伸びている。


 「タンタン!」二階の手摺りから顔を覗かせた男の頭に二発撃ち込み無力化した。

 俺とサーシャは背中合わせで、サーシャが前方の階段を、俺が上の手摺りを警戒して階段を二階まで登った。


 二階に着くと、エリクシアが階段の三階方向を警戒した。

 二階通路の角に身を隠した敵の反応が左目の戦術ディスプレイに映った。


 俺とサーシャはカウント3のハンドサインで同時に飛び出し、サーシャが左、俺が右の敵をそれぞれ制圧した。


 「ダダダ!」「タンタン、タンタン!」


 「「クリア」」


 俺達は、二階通路を左に進み、すぐ右手の部屋へ侵入した。


 何に使う部屋なのか不明だが、大きな棚に木の箱が並べてあり、一番奥に大きな麻の袋が置いてあった。


 俺は無言でエリクシアに合図し、麻袋の確認を指示した。その間、サーシャは部屋の入り口から、二階通路を警戒している。


 エリクシアが麻袋の口を縛っていた紐をナイフで切って、袋の口を開くと濃いグレーに大きな白い斑点のあるトラ耳が、ピョコンと飛び出して来た。

 直ぐにエリーゼが駆け寄り、エリクシアを手伝ってセレナを麻袋から取り出した。


 「セレナ!」エリーゼがセレナを抱きしめて囁いた。


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