第4話 レッドオーガ

 あれから3時間ほど森の中を進んだ。時間は戦術マップ上に表示されていたので分かった。そろそろ正午になる頃だ。

 しっかしこの森、生き物の気配が全然しないんだが・・、どうしてだ?

 俺の病気が発病する前の子供の頃、父さんや母さんと一緒に行ったキャンプ場でさえ、もっと生き物の気配がしていたものだが・・・。なんとなくこの辺の森全体が、何かに怯えて息をひそめているような感じがする・・・。


 そんな事を思っていると、ベルちゃんが緊急事態を告げた。


[前方1時30分の方角に人間二人を検知しました。距離は200メートル。内一人は子供です。攻撃を受けている模様です。ターゲットを赤でマークしました。]


 「チッ!」


 俺はすぐさま全力でダッシュした。

 間に合ってくれ!

 薮や茂みになど構わずに、戦術マップのマーカーを目指して最短距離を突き進む。低い藪や茂みは陸上競技のハードルの要領で飛び越え、自分でも驚く程のスピードで疾走した。武器弾薬を含めると、結構な重量を装備してるんだけどな俺・・。      

 敵マーカーの脇の数字がドンドン小さくなる。100メートルを一気に駆け抜けると、前方に敵を捉えた。


 大きい!かなりの巨体だ。2メートル以上あるんじゃないか?

 まずい!真っ赤な巨人が手を振り上げて、足下から逃れようとしている人に振り下ろした。


 「アマーン!」


 子供の絹を切り裂くような叫び声が聞こえる。

 俺は急に胸の中に沸き起こった激しい怒りの感情を無理やり抑え込んで、セレクターを「レ」に素早く切り替え、その場に立ち止まり赤い巨人を照準に捕らえて引き金を引いた。戦術マップの距離95メートル。


 「ダダダダダダン」


 赤い巨人から血煙が上がる。

 俺は巨人の注意を子供から引き離すよう巨人をけん制射撃をしながら、俺が子供に近づけるよう位置取りを計算し、慎重に奴を誘導した。俺は移動しながら、奴との間に障害がクリアーになったタイミングで牽制弾の引き金を引き続けた。


 「グッ、ガアグォォォォォー!」


 どうやら俺の牽制弾は地味に奴に効いているようだ!奴はたたらを踏んでいる。

 しかし、奴は俺が竦んでしまう程の威圧を込めた怒りの咆哮を上げた。


 「ゴガァァァァ―――!」


 「驚いたよ!でも顔がガラ空きだっ!」


 竦んだのも一瞬!俺は奴の顔面にマガジンの残り全弾を打ち込んだ。しかし、数発が奴の左目に命中した衝撃で奴の姿勢を大きく崩した為、それ以外は外してしまった。


 「ちっ!」


 俺は舌打ちしながら、マガジンをリリースし、弾納から新しいマガジンを取り出し20式に装填した。

 コッキングハンドルを引き、視線を奴に向けると、驚く事にヤツは傷付いた左目を手で押さえながら俺に向かって突進してきた!

 無傷の右目をカッと見開き、殺意と憎悪込めた視線を俺に投げかけ、右手の拳を固く握りしめながら雄叫びを上げた!


 「ゴグアァァァァ―――!!」


 叫びながらもヤツは物凄い速さで突っ込んで来て、ヤツの体がどんどん大きく見えて来た。

 それでも俺は自分でビックリする程冷静だった。


 「よーしそのまま来い!」


 俺は短い連射を奴の顔に集めて、奴の腕で顔をガードさせた。

 奴が己の手で自らの視界を隠した瞬間、俺はすかさずベレッタGLX160のトリガーを引いた。重くてもGLX160を装着してて良かったよ。

 ポン!という音と共に40x46mmグレネード弾がGLX160から発射された。

 俺はすかさず右手すぐ隣の巨木の陰に隠れて衝撃に備えた。隠れる瞬間、奴が手でグレネード弾を防ごうと右手を突き出しているのがチラっと見えた。


 「ズドーン」


 グレネード弾が起爆した。


 「やったか?」


 俺は土煙が立っているのを確認し、マーカーに向けてカンで20式の5.56mm弾をワンマガジン土煙の中に叩き込んでから、俺は子供の元へ全力でダッシュした。

 藪を突き抜けると、前方に倒れた大人の上に覆い被さりながら、大きな泣き声を上げている銀色の髪の子供が目に入った。


 「大丈夫か?」


 声を掛けると、子供はビクリと顔を俺に向けて一瞬目が合ったが、その子は何を思ったか直ぐ俺の左手に視線を切り、クリっとした目を更に大きく見開き、大きな悲鳴を上げた。


 「キャー!」


 俺はすかさず左に体を捻りながら腰だめに20式の引き金を引いた。


 「カチ」


 た、弾が出ないー!

 

 「しまった、さっきので空だった!」


 俺は20式を手放し20式のスリングに任せて小銃を落下させ、SFP9をホルスターから抜こうとするが、右手がちぎれ、腹から内臓を垂らしながらも左手で俺を殴ろうとヤツの赤い巨体が俺にのしかかって来た。

 

 「クソッ!」


 俺は奴の左手をかわしながら奴の懐に左の腰から飛び込み、奴の左手を俺の左肩に巻き込みながら奴を俺の腰の上に乗せて思いっきり奴を投げ飛ばした。

 一本背負いってやつだな。


 地面に奴を叩き付けると、すかさずホルスターからSFP9を抜き取り、銃口を奴の右目に当ててマガジンが空になるまで引き金を引いた。


 「ダンダンダンダン・・・」


 SFP9がホールドオープンして初めて全弾撃ち尽くした事に気付いた。

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