第61話 カティア街道の旅路 その1

 俺達はプロセピナの城外で高機動車こーきに俺達家族と奴隷の子供たち十人で乗り込んだ。

 子供たちはみな突然現れた大きな高機動車に驚いた表情を見せているが、ナグルトの『まつろわぬ民』の子供たちの様に大騒ぎすることはなく、なんとなくガッカリしている自分がいた。


 エリクシアが運転席で、俺がセレナを抱っこして車長席。サーシャとヴァイオラが子供たちと一緒に後席に乗り込んだ。

 子供たちが全員後席に座る事が出来ないので、俺はア〇ゾンから高反発クッションを購入して、後席に座れなかった子供を床に座らせてクッションを使わせた。

 

 プロセピナ‐ティアナ間の街道は、セントニアのそれとは大違いで、現代世界の道路と遜色がないほど立派なものだった。


 道幅は6メートル程あって、大きめの馬車が余裕をもってすれ違えるよう考慮されていた。

 この広い道幅の街道には、両端に向けて軽いテーパーがつけられており、平らに削られた重厚な石が敷き詰められている。道の両端には2メートル程の歩道まであった。


 この異世界の高速道路とも言えるカティア街道は、このプロセピナから始まり、小王都ティアナを経て、南のアントナレオ小王国にある交通の要衝都市キャンディアへと至る、このアラン連合王国の大動脈なのだそうだ。

 全部ヴァイオラから聞いた話しではあるが。


 だから、このカティア街道は普段なら商隊の馬車が連なり、徒歩で移動する旅人も多くて活気のある街道なのだそうだが、今は人影すら見る事も出来ない。

 ガルキアの武装集団の影響がここまで顕著に表れているとは・・・。

 

 俺達は、この世界の高速道路であるカティア街道を時速60キロメートル程で快適に飛ばした。

 街道に人影はないし、路面状態も快適で驚く程振動が少ないので、これ程のスピードが出せた。もちろん、その気になればもっと出せるが、安全マージンを考えないとな。この車には、幼い子供が乗っているんだから。

 てか、さっきからハンドルを握っているエリクシアが怖い・・・。


 「ふふふ、そうよ!もっと咆哮を上げて疾走しなさい!ふふふ・・・」


 とぶつぶつ呟いて、アクセルを踏み込もうとするんだ。


 「エ、エリクシアさん、スピード落そっか!子供達乗ってるしー!ねっ!ねっ?」


 俺が注意すると、「はい、旦那様♡」と言って減速するが、またすぐにアクセルを踏み込むんだ。

 時速50マイル以下になると、爆発する呪いでもかけられたか?ん?50マイルって何キロだ?


 ところで、この高機動車に初めて乗った大人達は皆、その移動速度と快適さに驚き、運転中の車内をアチコチ動いては驚きの声を上げるのが様式美となっていたのだが、この子たちには、それが当てはまらなかった。

 この子供たちは目をまん丸に見開いて、食い入るようにフロントガラスから見える光景に目を奪われてはいるものの、みんな大人しく腰をおろしていて、バルガーム・パシャ達の様にウロチョロする者はいなかった。良く躾けられている子たちだ。

 なんだかこの子たちの方が、大人に見えるぞバルガーム・パシャよ!


 俺は途中頻繁に休憩を取って、子供たちの負担にならないよう気を付けた。

 その度に、運転手を交代したのだが、嫁ちゃん達は俺にハンドルを持たせてはくれず、セレナの抱っこ椅子を命じた。

 そんな何度目かの休憩の時、奴隷の子供たちも俺達に慣れて来たのか、自然に嫁ちゃんずと打ち解けて、気軽に話すようになっていたのだが、何故か俺には話しかけてこなかった。さ、寂しくなんかないやい!


 「マスター。この先の駅舎の様子が変です。どうやら、ガルキアの傭兵達に占拠されたようです。」


 ベルちゃんが、俺の肩にとまってそう告げた。


 「駅舎の役人や、駅舎に建っている宿屋の女子供を人質に取って、駅舎の村全体を支配しているようですね。」


 「流石ベルちゃん!それじゃ、その悪者全員に赤でマーキングしてくれる?」


 俺が褒めると、ない胸を逸らして短く答えた。


 「マスター。了解しました。」


 「ヴァイオラ、駅舎って?」


 「国が作った、国営の宿です。

 カティア街道のような主要街道には、およそ30キロメートル毎に設けられており、国の許可書を持った者なら、無料でこれに宿泊休憩できます。また、馬の交換も可能です。

 一般的に駅舎の敷地内には民間人向けの宿屋もあって、こちらは有料で利用できます。

 先程も通過した、街道脇にあった壁に囲まれた小規模な村がそうですね。」


 俺は無視して通過しても良かったんだが、『人質を取って支配する』ってのが我慢ならない!

 害虫は排除するべし!だよな。


 俺達は高機動車こーきから96式装輪装甲車クーガに乗り換えて進んだ。これから起こる状況から子供たちを守る為だ。


 そして俺達は街道を進み、問題の駅舎の門の前にクーガを横付けして停車した。

 駅舎は大人の背丈ぐらいの煉瓦製の壁で囲まれており、木製の門が大きく開かれていた。


 俺はクーガの車長ハッチから飛び出して、クーガの装甲に立っって素早く状況を確認した。ベルちゃんの事前情報通りだな。

 俺は特殊戦仕様のMP7を手に、門のところに立っている、ガラの悪そうな男達に声を掛けた。既にレーザーサイトのスイッチは入れてある。


 「なあ、中で休憩を取りたいんだが、入ってもいいか?」


 錆の浮いたチェーンメイルと傷だらけのラウンドシールドに手入れの悪い短槍を手にした門番の男が二人、顔を見合わせて答えた。


 「そこの別嬪さん達は良いが、男はダメだ。中に入れる訳には行かねえ。」「お嬢ちゃん達には、俺達の相手をしてもらうんで、休憩どころじゃないだろうがな!へっへっへっ」


 エリクシアは怒りのオーラを纏いながら、無言で運転席ハッチから立ち上がり、俺と同じ特殊戦仕様のMP7のレーザーサイトのスイッチを入れて、コッキングハンドルを引いて構えた。


 ヴァイオラも同じ特殊戦仕様のMP7を装備し、クーガ後席上部ハッチから身を乗り出して警戒している。


 そして、サーシャだ。今回サーシャが手にしているのは、ベルちゃんの手によってオリジナルのキューちゃんFN P90から進化カスタマイズしたキューちゃん改FN P90 TRだった!

 キューちゃん改上部にはピカティニーレールと上部側面にM-LOKがあって、今回からピカティニーレールにはチューブ径30mmのドットサイトがマウントされており、側面のM-LOKには俺達同様PEQ-16レーザーサイトが取り付けられており、凶悪な赤いレーザー光を既に発している。

 そしてマズルには待望のサプレッサーが取り付けられており、もはやキューちゃん改に死角はなかった。


 キューちゃん改を手にしたサーシャはクーガの銃座に立っており、既にキューちゃん改のレーザーサイトで門番の男の額に赤い死のドットを描いていた。


 サーシャに続いてエリクシアも、もう一人の男の額にポイントした。


 「そうか、残念だ。

 状況開始!撃ててー!」


 「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」


 俺が命じると、サーシャとエリクシアは素早く引き金を引き、男達を倒した。


 俺は、そのままクーガの上部装甲から飛び降りて、門をくぐった。


 門をくぐると、正面は広場になっており、井戸がある。井戸を挟んで、右手には大きな駅舎の建物が建っており、左手には民間の宿屋が三軒ほど建っていた。

 井戸の奥には大きな厩が建っており、その後ろには民家が数件立っているだけの、小さな駅舎の村だった。


 「誰だ!お前はー!」


 俺が広場まで入って行くと、銅鑼の様な声が響くと共に、広場の周りの建物から男達がぞろぞろと出てきた。

 怯えた男たちの後ろに、赤いマークが頭の上に表示されている、ガラの悪い男たちがニヤニヤと嫌な笑いを浮かべて続いて来た。

 怯えた男たちは皆素手だったが、後ろに隠れた男たちは皆ロングソードで武装していた。

 また、広場に面した建物の窓には、人影が見えており、クロスボウを携帯していると、事前にベルちゃんが警告してくれていた。


 「なあ、なんでガルキアのドブネズミ共が、このアラン連合王国でお日様の下に出てくるんだ?ドブネズミの住み家は、暗い下水道の中だって相場が決まっている事知らないのか?」


 「てめー!」


 俺が煽ると、武器を手にした男たちが一斉に飛び掛かろうとした。


 「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」・・・


 俺とサーシャとエリクシアで広場全体をカバーできるように陣形を取って、まずは建物の中からクロスボウで狙っている敵から排除した。

 広場に出て俺達に向かってロングソードを振り上げてきた男たちは、入り口に停めたクーガからヴァイオラが仕留めている。

 いつの間にかセレナもクーガの銃座から身を乗り出して、MP7を構えて射撃に加わっている。

 

 5丁のPDW個人携行火器よって、武装していた傭兵崩れ共はあっと言う間に制圧された。


 しかし、駅舎の扉から若い女性の喉元にナイフを突きつけて、髭面の男が出てきた。


 「だ、誰なんだテメーは!あっと言う間に仲間を殺しやがって!そ、その変な武器を捨てやがれ!そ、そうでないと、この女を殺すぞー!」


 髭面の男は、震えながら大声で喚いた。


 俺はMP7を足元に置いて、男に話しかけた。

 すでに4本に赤い死の光線が男の頭に集まっている。


 「なあ、そうやってこの村を支配したのか?何故だ?」


 男はゆっくりと俺に近づいてくる。


 「そ、そんなの決まってる!食うためだ!

 ガルキアじゃ戦ばっかで、このままじゃいつ俺達が殺されるか分かんねえ。だから、のんびりと金勘定ばかりしているコイツラブタどもから巻き上げて何が悪い!

 どうせコイツラだって、ガルキアの戦争でたんまり儲けたんだろう?だったら、それを俺達が・・・」


 「もういい、黙れ!」


 「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」「ぷしゅ!」


 俺が髭面の言葉を遮ると、みんなはトリガーを引き、始末した。


 そんなに広くない駅舎の広場には、二十七人の死体と建物の中に六人の死体が転がった。

 駅舎の村の人々は、お互いに抱き合って恐怖から解放されたことを喜んでいた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る