第62話 カティア街道の旅路 その2

 ガルキアの傭兵崩れ達に占拠されていた駅舎の村を救った後、俺達は礼を言う村人と別れてカティア街道を南に進んだ。


 暫く進むと今度はカティア街道にバリケードを築いて旅人を待ち伏せしているガルキアの盗賊達に出会った。


 こんな奴等が頻繁に出没するものだから、俺は高機動車コーキを収納して96式装輪装甲車クーガで移動していた。


 バリケードの男達も、俺とサーシャによるクーガからの5.56mm機関銃MNIMIの遠距離射撃で排除し、バリケードをクーガで突破して進んだ。


 プロセピナからカティア街道を南に150キロメートル程進む間に、駅舎の村を五つほど通過したが、駅舎間の街道では必ず一、二回こんなガルキアの盗賊を撃退しながら進んだ。


 一体どれ程の悪党がガルキアからアラン連合王国に侵入したというんだ?


 夕暮れ前に俺達は野営の準備に入った。

 カティア街道から少し離れた草むらにクーガを停車し、全員降車した。

 クーガは倉庫で整備に回し、俺は代わりに輸送防護車ブッシュマスターを出して、緊急時のシェルターとした。


 俺はまずヴァイオラに土魔法で50メートル四方の草むらを平らに整地してもらった。

 ヴァイオラは土魔法の使い手だった。貴族の血統には、魔法を使える才能が発現する確率が高いのだそうだ。


 そして俺は、まず整地した中央にサーシャと二人でシートを広げ、その中央にドンと野外浴槽を鎮座させた。

 俺とサーシャが野外浴槽の位置を調整している間に、エリクシアとヴァイオラがシャワースタンドを配置し、あわせてお風呂椅子と洗面器を配置していった。


 えっ?業務用天幕忘れてるって?我が異世界ナナセ家では、露天風呂がデフォルトなのですよ!


 そしてお風呂エリアの周囲に、排水用側溝を土魔法でヴァイオラに作ってもらっている間に、俺は10トン貯水タンクと野外入浴セット二型のトレーラーを配置し、サーシャとエリクシアが配管していった。


 どうかね諸君!ナナセ家の連携は!


 その間、セレナが子供達を指揮して宿営用天幕シュクテンのテンちゃんを設営していった。

 露天風呂を挟んで北側に男の子用のテンちゃんと女の子用のテンちゃんを張り、露天風呂の南側には俺達家族のテンちゃんを張ってくれた。


 俺は子供たち用に、コー〇マンのエアマットを十個購入して、シーツや枕等の寝具もそろえてあげた。

 どうやら今晩セレナは、女の子テントで寝るそうだ。楽しそうだな。


 ナナセ家『富士の湯』は、プラスチックの簀子を脱衣所としてヴァイオラが配置して完成した。

 早速ボイラーに火を入れて、浴槽にお湯を張り始めた。


 その間、俺は野外炊具一号(改)を野外入浴セット二型の脇に取り出して、晩御飯の調理に取り掛かった。


 俺はオーク肉と各種野菜を取り出し、サーシャと一緒に野菜の皮むきを始めた。

 一方で、エリクシアに米の研ぎ方を教えて、二十人分の米を炊いてもらった。

 そして俺はみんな大好き、日本のカレーをこの世界に布教するべく、カレー作りに取り掛かったのだ。


 空が赤く染まり始めた頃、辺りにカレーのスパイシーな香りが漂って、腹ペコな子供たちが、野外炊具の周りに集まってきた。もちろんセレナも一緒な。

 

 子供たちは、これまで経験した事のない未知の香りに、みな興味深々なようだ。カレーの香りは本能を揺さぶるからな!

 ふふふ、まずは掴みはOKのようだ!


 俺は子供たちの皿に炊きたてのご飯をよそって、サーシャが笑いながら「たくさん食べるのですよ!」とカレーをかけてあげる。

 カレーライスをもらった子供は、大事そうに両手でお皿を持って、慎重にテーブルまで移動した。

 テーブルは、ヴァイオラがまたまた土魔法で作った、ローベンチとローテーブルだ。

 ヴァイオラの土魔法、大活躍だな!


 みんなが手にスプーンを持って着席する。

 するとサーシャがナナセ家の食事ルールを子供たちに語って聞かせた。


 「良いですか?トーマ様の群れのルールです!

一つ、みんなで一緒に食べる事。

二つ、食事は美味しく食べる事。

三つ、子供は遠慮しないでお腹いっぱい食べる事。

 どうです?簡単でしょ?

 そして、食べる前には両手を合わせて、全てのものに感謝して『いただきます』と唱えるのです。

 感謝を捧げる相手は、みな自由に心の中で思い浮かべるのですよ。」


 うん、サーシャは良いお母さんになれるな。


 「みんな良いかな?それじゃ、いただきます!」

 『いただきます!』


 みんな元気にいただきますして、初カレーライスに挑んだ。


 「「「「!!!・・・・・」」」」


 「どうだ?美味しいか?オーク肉と野菜たっぷりのカレーだぞ!

 我が家のカレーには、ヨーグルトはもちろん、隠し味にメ〇ジの板チョコレートが・・・」


 「「「「・・・・・・」」」」


 みんな夢中になってカレーライスを食べており、誰も俺の話しを気にも止めてくれなかった・・・


 「ふふふ、旦那様。とても美味しうございますよ♡」「ええ、ご主人様。とっても、美味しいですわ!」


 優しいエリクシアとヴァイオラが慰めてくれた。

 サーシャとセレナは、オーク肉の塊に夢中だ・・・。二人は肉マシマシだからな。

 ベルちゃんまで、1/12サイズのスプーンで俺のカレーを真剣に突っついている。

 いいんだ。カレーの美味しさが伝われば。俺はそれだけでいいんだ・・・。


 俺は涙しながら、カレーを食べた。カレーが辛かったからでも、ベルちゃんに大分食べられたからでもないんだ。


 子供たちは、お代わりもして、たくさん食べてくれた。

 子供はカレーを食べると、みんな良い笑顔になる!カレー・マジックだよな!


 食後、いっぱいになったお腹を抱えて、みんなで食器を洗った。そのために野外炊具一号(改)で、お湯を沸かしてたからね。お湯が有れば油も簡単に洗える。


 その後で、みんなで子供たちをお風呂に入れた。


 子供とは言え、男の子には我が嫁ちゃんずの軟肌は見せられん!絶対にだ!

 嫁ちゃんずには、テンちゃんでTシャツと短パン姿に着替えてもらい、お風呂の介助を手伝ってもらった。

 セレナは女の子たちと一緒にお風呂タイムだ。


 俺達は、シャワースタンドの前に子供たちを座らせて、シャワーを浴びさせた。

 セレナともう一人、一番幼い女の子が、俺におねだりして来たので、野外浴槽の脇に座らせて、湯船から直接お湯を汲んで全身にお湯を掛けてあげた。

 セレナはケモ耳を両手でパタンして、目をギュッと閉じて頭からお湯を掛けられている。その仕草が可愛い。小さかったサーシャもこんな感じだったな~。


 セレナともう一人の女の子の頭を、ダ◯のシャンプーで泡だらけにして洗ってあげるた。

 二人ともキャッキャと声を上げて喜んでいる。

 シャンプーを流してやると、セレナは倉庫から◯ブのボディソープを取り出して、使い方をもう一人の子に教えてあげた。


 「こうやって手でよく泡立てたら、体の前に塗り付けて〜、よーく伸ばしたら〜」


 セレナはいきなりもう一人の女の子に抱きついて、自分の胸でその子の背中を洗いだした。


 「キャー!セレナちゃん、くすぐったい!」


 抱きつかれた子が身を捩って叫ぶ。


 「大丈夫だよ!エミーちゃん。ウチじゃいつもお姉ちゃんたちが、ご主人様をこうやって洗ってあげてるんだよ!

 こうやるとご主人様は、いつも『ウホッウホッ!』ってとっても喜ぶんだから!」


 俺がさっさと振り向くと、体を洗う手を止めて、セレナたちの無邪気なプレイに頬を染めながらガン見していたガキ共が、一斉に顔を背けた。

 嫁ちゃんずと女の子たちは、みな苦笑いしている。


 「あ、あのな、セレナさんや。それはねもっと大人になってから、大好きな男の人にしてあげるんだよ。だから、誰にでもやっていいもんじゃないんですよ。」


 大人の余裕を見せつつ、上手く諭せただろう。


 「はーい!ご主人様。ヴァイオラお姉さんくらいお胸が大きくなったら、ご主人様にして上げますからね!」


 眩しい笑顔でそう答えられた!

 諭されてないー!


 体を洗い終えた子供たちは、大人が三十人入れる広い浴槽にのんびりと浸かっている。


 こんな時って、男の子と女の子って分かれてまとまるもんだよな。

 キャピキャピ盛り上がってる女の子たちの輪を、離れた浴槽の隅で鼻までお湯に浸かってまとまっていた男共が、チラチラ羨ましそうな視線を投げていた。

 ガンバレ少年よ!

 

 真っ赤に茹で上がった子供たちをお風呂から上げて、タオルで拭いてやり、俺の用意したTシャツとパンツに着替えさせた。

 女の子は特にコットンの肌触りに喜んでいた。

 

 そして仕上げには、俺直々の指導による歯磨き教室だ。

 目的地に送り届けるまでに、正しい歯磨き術を伝授してやる!


 それが終わると子供たちは、男の子と女の子に分かれてテンちゃんに入って行き、眠りについた。

 大分疲れていたようで、みんなすぐに眠りに落ちたよ。


 ふっ・・・やっと大人の時間だ!

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