第79話 闇に潜むもの

□□□オリヴィエ


 みなが大きな歓声を上げています。

 近衛達はお互いの肩をたたき合い、遠くの軍艦の海兵たちはお互いに抱き合って喜びを分かち合っていおります。

 私には、そんな皆がとても誇らしく思えて仕方ありません。


 ヴァイオラ様が中距離多目的誘導弾ちゅうたを倉庫へ収納されて、セレナちゃんと手を繋いでこちらに向かってきます。

 本当に仲の良いお二人ですこと。


 サーシャ様が操縦席のハッチからお出になられて、90式戦車の装甲に立たれて海を眺めておられます。


 エリクシア様も90式の砲塔に腰を下ろされて、海に浮かぶ軍艦の白い帆を見つめておられます。


 軍艦からは、たくさんの海兵の皆さんが、こちらに手を振っているのが見えますわ。


 今回大活躍だったベル様は、エリクシア様の胸の上で寛いでいらっしゃいますわ。お疲れ様でした、ベル様。


 皆が勝利の余韻に浸っていると、90式戦車の前に魔法陣が輝きだしました。


 「お客さんですね。この魔力は・・・。」


 ベル様がそう言って、エリクシア様の胸の中に潜り込んで、隠れてしまわれました。


 魔法陣が一瞬眩い輝きを放つと、魔法陣の上に真っ白な少女が立っておりました。


 「白の大賢者テレッサ様!」


 サーシャ様がそう言いながら、90式を降りて白い少女の元へ近づかれます。

 私とエリクシア様もその後に続きました。


 「銀狼の母殿よ、久しいな。息災であったか?」


 白い少女が振り向きながら、サーシャ様に挨拶をなさいました。

 表情は乏しですが、お声に親愛の情が込められているのが分かります。


 「はい!大賢者テレッサ様。あの子、ビィエールィもとっても元気にしてますよ!」


 「ふふふ、それは重畳。聖騎士殿も変わりないようじゃな。」


 「はい、大賢者テレッサ様。つつがなく。」


 そう言ってエリクシア様はサーシャ様に並んで、白い少女に挨拶をなさった。

 ・・・お二人ともこの方を『大賢者テレッサ様』とお呼びになった。この方が、あの伝説の大賢者様なの?


 「大賢者テレッサ様・・・」


 「テレッサで良い。銀狼の母殿よ。そもそも妾自身『大賢者』などと名乗った事すらないのだからな。」


 「では、テレッサ様。こちらの二人をご紹介します。

 トーマ様の新しい家族であるヴァイオラ様とセレナちゃんです。」


 ヴァイオラ様とセレナちゃんの二人が前に進み挨拶されました。


 「お初にお目にかかります。テレッサ様。

 トーマ・ナナセの妻の一人、ヴァイオラと申します。どうかお見知りおき下さいませ。」


 ヴァイオラ様が優雅にカーテシーで腰を折り挨拶した。

 セレナちゃんも、見よう見まねで挨拶をする。


 「はじめまして。テレッサ様。お目に掛かれてうれしいです。」


 「うむ。テレッサである。よしなにの。

 これはまた、心の美しき娘を妻に迎えられたな、旅人殿は。

 魂が清浄な光で満ちておる。

 こなた白虎の娘も尊き心根の持ち主じゃ。善きかな。

 して、そちらの女子は?」


 テレッサ様が私に向かって尋ねられた。


 「お初にお目にかかります。オリヴィエと申します。

 ・・・以後、お見知りおき下さいませ。」


 今は、これしか名乗れない自分が悲しい。


 「ほう、其方はアントナレオの血に連なる者ではないのかの?それがただのオリヴィエと名乗るのか。

 ふむ、面白い。ではただのオリヴィエとして覚えておこうぞ。」


 テレッサ様は黄金の瞳を輝かせて、私を見据えられた。

 ・・身の竦む思いです・・・。


 「テレッサ様はどうして此方へ?海竜ジャバウォックの事でしょうか?」


 エリクシア様がテレッサ様にお尋ねになられた。


 「うむ。長きに渡り、魂の所在が不明であったジャバウォックが、四千年ぶりにその所在を顕にしたのじゃ・・・。

 見極めようと此方に参ったら、既に討伐されておったがのぅ。

 どうやら旅人殿は、よくよく四色竜と縁があると見える。悪縁ではあるがのう・・・。」


 「四色竜とは?」


 エリクシア様が重ねてお尋ねになられた。


 「四色の竜とは、誰が名付けたか、竜種の中でも際立った力を持つ竜の事じゃよ。

 四色と申しても、実は四匹だけではないのじゃがな、ハハハ」


 「黒き森の黒竜ヴァリトラのような竜でしょうか?」


 サーシャ様が首を傾けながら、お尋ねになられた。

 可愛らしい仕草ですわ、サーシャ様!


 「そう、且つてのヴァリトラも四色の一匹であった。」


 テレッサ様は遠くを見つめられながら、続けられました。


 「人にとっては遥かな昔、およそ五千年前。

 カルディナ大魔導帝国の崩壊によって、世を紡ぐ糸が乱れに乱れておった昔。我等の眷属であった竜達が突然我等に反旗を翻したのじゃ。

 カルディナを滅亡させた黒のヴァリトラ然り。そして数多の同族の竜を屠った青のジャバウォックも然り。

 長きに渡る混乱の世を経て、ヴァリトラは黒き森に籠り、ジャバウォックは姿を消し去ったのじゃ。」


 テレッサ様は海竜ジバャウォックの沈んだ海面を眺めながら、語られました。


 「故に、ジャバウォックの亡骸を改めさせてもらおうぞ、オリヴィエ殿よ。」


 テレッサ様が私を向いて、そう仰りました。


 「お気が済まれるまで、お調べください。とは言っても、肝心の海竜ジャバウォックは海に沈んでしまいましたが・・・。」


 テレッサ様は黙って頷かれると、海竜ジャバウォックが沈んだ海に向かって歩まれて、岬の端で立ち止まると、そこで魔法を詠唱なされました。


 すると、海面が二つに割れて海底を露出させながら、一本の道となって海底に眠っていた海竜ジャバウォックの亡骸が顕に!


 テレッサ様は岬の崖から空中に歩み出され、そのまま空中を海竜ジャバウォックの元まで歩いて行かれました。

 

 海竜ジャバウォックの真上に差し掛かった時、テレッサ様は強大な魔力の発散と共に怒りの叫びを上げられた!


 「おのれ、ルトゥムー!許さぬ―――!」


 そして辺りを見渡し、水平線の一点を凝視なさると、先ほどとは比較にならない程の暴力的な魔力を発散されて、その魔力を一瞬で収束なさり、凝視されている水平線めがけて直視できない程眩い光線を放たれた!


 「・・・・ドーン!ガシャン!・・バーン!」


 光線は何かに当たると、ガラスの砕けるような音を立てて、大きな爆発を起こしました。


 すると、爆炎の中から帆まで真っ黒な帆船が現れ、炎と黒煙を上げながら折れたマストを引きずって、水平線の彼方へ消え去っていきました。


 テレッサ様は、黒い不吉な帆船が去って行くのをじっと眺められておりました。

 そしてため息を一つつかれると、海竜ジャバウォックから光の玉を抜き取り、海竜ジャバウォックの亡骸が眠る海底を再び海水で満たして、こちらにお戻りになりました。


 そしてエリクシア様に向かい頭をお下げになってこう仰いました。


 「いと恐ろしきお方よ。あ奴らは妾の目を盗み、まんまとジャバウォックの竜髄を持ち去ってしまいました。

 事ここに至れば看過する事できませぬ。

 白の塔にて、お待ちしておると旅人殿へお伝えくだされ。」


 テレッサ様は頭を上げられると、私に向かって仰いました。


 「オリヴィエ殿よ。汝にこれを授けよう。」


 そう言われると、子供の頭ほどある大きな真珠色の魔石を私に手渡されました。


 「それでは、銀狼の母殿よ、皆の者よ。ザラマンドの白の塔でまた会おう。」


 そう言ってテレッサ様は転移なされて行かれました。


 サーシャ様とヴァイオラ様も困惑しつつ、エリクシア様の胸元をご覧になっております。

 でも当のベル様は、一向にお顔をお出しになりません。


 エリクシアも困惑しながら、「旦那様の所に帰りましょう。」と仰いました。


◇◇◇◇◇


 みんなでオライオン城の離れに戻ってまいりました。

 もちろん事後処理は全てガウロに丸っと投げてね。


 トーマ様のスイートに入ると、奥の寝室から笑い声が聞こえてきます!


 「トーマ様!」「「旦那様!」」


 サーシャ様達三人が寝室へ飛び込んで行かれました。

 私もセレナちゃんと一緒に寝室に入ると・・・・ベッドの上でトーマ様がビィエールィにお顔を舐められながら、笑っていらっしゃいます!


 でも、トーマ様!お体が金色に光っておられますよ!


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