第78話 団結
□□□オリヴィエ
私は今90式戦車の砲手席ハッチから体を出して移動している。
隣の車長席ハッチからは、エリクシア様も同様に上半身を車外に出されて、周囲の状況を監視なさってます。
操縦手にはサーシャ様が搭乗されて、90式戦車を運転なさっています。
何故私がトーマ様の超兵器に搭乗しているのかと言うと、オライオン城から出立するに当たり、エリクシア様が私を三等陸曹に任官なされたからです。
私は濁流の様に流れ込んできた知識と情報に耐えかねて、床に膝をついてしまったほどでした。
でも、こうして90式戦車に乗車してみて分かるわ。これがトーマ様のお力の一端なのだと。
オライオン城から出立する際、案の定ガウロと揉めてしまいました。
ガウロは私を鳥籠の鳥にしたいみたいだけど、そうはいかない!
私もトーマ様のお役に立ちたいのだから。
最後は嫌だったけれど、王権を行使して私の出陣をガウロに認めさせちゃった。
ごめんなさいガウロ。これまでの事も含めて、後でたっぷり謝るから許してくださいね。
ガウロは仕方なく私の命に服従したけど、でも近衛を随伴させる事だけは譲らなかったわ。
仰々しい近衛の出発を待っていたら、機を逃してしまう。
だから私はエリクシア様達にお願いして、護衛の近衛を置き去りにしてヴェスタの城門を後にしたの。
でも彼らは、エリクシア様が郊外でこの90式戦車を倉庫から取り出している間に、やっと先発の近衛小隊が馬で追いついて来たわ。
大分慌てていたけれど、これくらいの事に対応してもらわなくちゃ。
そして今、私たちは水竜マラクと海軍の軍艦との戦いが一望できるであろう、ロナー川河口の灯火台を目指しているところ。
私たちの90式戦車の前には、ヴァイオラ様とセレナちゃんが搭乗した
ちゅうたは高機動車がベースだから、移動に何ら問題なし!
でも、この恐ろしく高度に組織化された機能が、トーマ様のお力の本質。
トーマ様に充分な人的資源が揃った時、この世界のどの国もトーマ様には太刀打ちできないでしょうね。
でも、それも全てトーマ様のお心次第。
「前方2000!ロナー川の河口で第二・第五艦隊と水竜マラクとの戦闘が始まっているわ!みんな灯火台の上に展開して!」
ベル様の声が、頭の中に直接響いてきます。これが念話と言うものなのね。
・・・ドドドドーン・・・
前方から遠雷の様に、海軍の魔導砲の砲撃音が響いてくる。
砲火台の上に停車した90式戦車の後方に離れて整列した近衛騎士団の騎士達、今は大分追いついて大隊規模かしら、から海軍の果敢な攻撃に称賛の声が上がっているわね。
実際、なんて勇敢な人たちなんだろう!誇らしく思う!
「ヴァイオラ!ちゅうたの発射機と照準装置を展開!
セレナ!誘導弾を赤外線レーザーでピンポイントで水竜マラクに誘導!
多目的誘導弾、発射用ー意!」
ベル様が
「90式戦車はそのまま待機!射撃準備を整えて!」
「さあ、オリヴィエ様。車内に入って、射撃準備をしましょう。
初弾、APFSDS(120mm TKG JM33装弾筒付翼安定徹甲弾)装填お願い!
次弾はHEAT-MP(120mm TKG JM12A1対戦車りゅう弾)!」
「初弾、APFSDS(120mm TKG JM33装弾筒付翼安定徹甲弾)装填!
次弾にHEAT-MP(120mm TKG JM12A1対戦車りゅう弾)!
了解しました!」
私は正面の照準パネルを見ながら、照準ハンドルを操作して砲塔を旋回し、水竜マラクに照準を合わせて追尾スイッチを押した。
その時、海軍の大型軍艦に乗り上がって、船首構造物を破壊した水竜マラクの首の付け根に、船尾の魔導砲から発射されたモリが命中したのがはっきりとパネルに映し出された!
「やったわ!」「だめー!それはフラグ!」
私が歓声を上げると、ベル様がお叱りになられた。『フラグ』って何でしょう?
ふと注意を逸らした瞬間、軍艦の右舷海面が山の様に盛り上がって、水竜マラクを倒したヴェスタの軍艦に大量の海水が津波の様に打ち付けられた!
「えっ!どこから現れたというの?海竜ジャバウォック!」
ベル様が悲鳴を上げた!
海竜ジャバウォックは、海軍の大きな軍艦より圧倒的に巨大な体で軍艦に乗り上げ、軍艦を真っ二つに押し割ってしまいました。
「セレナ!多目的誘導弾、
「多目的誘導弾、発射します!」
「シュッコォォォォォ――――――!ドゴーン!」
「ギャガァ―――――!」
海竜ジャバウォックが悲鳴を上げて、こちらを振り返って睨みつけてます!
「グゥギャ―――――!」
海竜ジャバウォックが天に向かって、魔力を込めた咆哮を上げたました!
すると心臓を鷲掴みにされたように、体が硬直し呼吸をする事すら一瞬忘れてしまいました。
この鋼の超兵器に守られていても、恐怖で今すぐ逃げ出したい!助けて、トーマ様・・・!
◆◇◆◇◆
海竜ジャバウォックの咆哮は、ジャバウォックの圧倒的な魔力を纏って、『竜の威圧』となって5キロメートル圏内の全ての生き物の魂を凍らせた。
魂の格が低い生物は、『竜の威圧』を浴びただけで絶命した。
「みんなー!ベルの歌を聞きなさい!」
フェアリー・ベルは
すると、灯火台の前の海面に、巨大なフェアリー・ベルの幻影が映し出され、両腕を拡げて海竜ジャバウォックを阻むように立っている。
そしてフェアリー・ベルの幻影と共に、美しい音楽がこの戦域全体に響いた。
90式戦車の中にも、フェアリー・ベルの音楽が届いている。
このフェアリー・ベルの音楽を聴いた者は全て、先ほど感じた恐怖が薄れていくのが感じられ、魂を縛る鎖から解放された!
♪今 あなた〇声が聴こ〇る~「ここ〇おいで」と~♪
♪淋しさ〇 負けそうな わ〇しに~♪
「私にできる事をやらなければ!」
オリヴィエはハッチを開けて、90式戦車の装甲に立ち、近衛騎士団に向けて力の限り叫んだ!
「私の騎士達よ!アントナレオの戦士たちよ!
恐れるな!武器を取りなさい!
わが父、戦友の本当の仇がそこにいます!
七年前の雪辱を晴らすのは今!私と共に戦いなさい!」
フェアリー・ベルが、オリヴィエの叫びを陸上から海上の兵達全てへ念話で伝えた!
「シュッコォォォォォ――――――!ドゴーン!」
セレナは恐怖から立ち直ると、すかさず多目的誘導弾を発射した!
「ギャ!グガァ―――――!」
♪今 あなた〇姿が見〇る~歩いて〇る~♪
♪目を閉じ〇 待って〇る わたしに~♪
♪昨日ま〇 涙でく〇ってた~心は今~♪
海竜ジャバウォックが水上に出した長い首をしならせて、フェアリー・ベルの幻影に向かって突進しだした。
「シュッコォォォォォ――――――!ドゴーン!」
「ギャァ―――――!」
「近衛魔法士隊!女王陛下に防御魔法展開ー!」
「キャラベルは舵を化け物に戻せー!戦友の恨みを!陛下の仇を討てー!」
「50㎜魔導砲全門撃て――!」
「取り舵いっぱーい!左舷砲門をヤツに向けろ――!キャラベル隊!我に続け――!」
♪おぼえていま〇か 目〇目が合った時を~♪
♪おぼえていま〇か 手〇手が触れあった時~♪
「シュッコォォォォォ――――――!ドゴーン!」
「ドドドドド――ン!」「ドドドドドドド――ン!」
「ギャ、ギャァ―――――!」
♪それは始めて〇 愛〇旅立ちでした~♪
♪I L〇VE Y〇U, S〇~♪
オリヴィエは90式の車内へ戻り、砲手席へ着いた。
「今です!みんなー!すべてを海竜ジャバウォックへぶつけて―――!」
「多目的誘導弾、発射します!」
「APFSDS発射―――!」
「100㎜魔導砲!撃て―――!」
「50㎜魔導砲!て―!」
「シュッコォォォォォ――――――!ドゴーン!」
「ドォ―――ン!」
「ドドドドドドドドド――ン!」
「ドドドドド―――ン!」
海竜ジャバウォックの巨体が水しぶきと血煙に覆われた!
♪今 あなた〇視線感じ〇~離れ〇ても~♪
♪体中が〇暖かくなる〇~♪
「みんなー!ヤツの首の付け根を狙って!鱗の損傷が一番激しいわ!」
「シュッコォォォォォ――――――!ドゴーン!」
「ドォ―――ン!」
「ドドドドドドドドド――ン!」
「ドドドドド―――ン!」
海竜ジャバウォックが魔力を集中させ、コールドブレスを灯火台に向けて吐き出した!
「近衛魔法士隊!全力でプロテクションー!」
「ドドドドドドドドド――ン!」
「ドドドドド―――ン!」
♪今 あなた〇愛信じます~ど〇ぞ私を~♪
♪遠くから見守〇て下さい~♪
♪昨日ま〇 涙でくも〇てた~世界〇今~♪
「海面が凍った!足場が出来たぞ!」
「騎士団突撃!我に続け――!」
「シュッコォォォォォ――――――!ドゴーン!」
「ドォ―――ン!」
「ドドドドドドドドド――ン!」
「ドドドドド―――ン!」
「多目的誘導弾、打ち尽くしました!セレナ、外で79式対舟艇対戦車誘導弾を討ちます!」
「この歌に導かれし全海軍艦艇!全海軍海兵達よ!友の流した血を贖う時が来た!命を惜しむな!クイーンの剣と成れー!全艦艇突撃――!我に続け―――!」
♪おぼえていま〇か 目〇目が合った時を~♪
♪おぼえていま〇か 手〇手が触れあった時~♪
「騎士団各騎!各個に接近して、魔法を撃てー!」
「船首及び船尾砲座はモリを撃ち尽くせ――!」
「ドォ―――ン!」
「ドドドドドドドドド――ン!」
「ドドドドド―――ン!」
「ギャァ―――――!」
♪それは始めて〇 愛〇旅立ちでした~♪
♪I L〇VE Y〇U, S〇~♪
「オリヴィエ様、海竜ジャバウォックの体が持ち上がって、心臓が狙えます!そこを狙って!」
「APFSDS装填!発射―――!」
「ドォ―――ン!」
「フッ!ガッ・・・・!」
♪もう ひとりぼ〇ちじゃない~♪
♪あなた〇いるから・・・・Ah~
海竜ジャバウォックが自分の流した血で真っ赤に染まった海の中に、静かに沈んで行った・・・。
その光景を目にして、一瞬戦場に静寂が広がった。
「オリヴィエ様、勝利の勝鬨を!」
90式戦車の脇に立っていたガウロが、オリヴィエの行動を促した。
「みんなー!アントナレオは誇りを取り戻しました!私たちの勝利よ―――!」
「「「「オオ――――!」」」
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