第81話 オリヴィエの決意
オリヴィエの投下した爆弾から立ち直った人々が、オリヴィエの元に駆け寄って、オリヴィエに抗議の声を上げている。
特にガウロは顔を真っ赤にして、オリヴィエに詰め寄っている。
俺達家族は、貴賓席の端に避難して、成り行きを見守っていたが、シロはセレナの胸から飛び出して行き、オリヴィエの足元で、オリヴィエに詰め寄る国の高官達を威嚇している。
「ウウウ!ガルルルル・・・!」
カッコイイぞ!シロ!
円形劇場の市民達も、戸惑いの声を上げいる。
すると劇場で整列してた海兵達が、突然足を踏み初めて、拍子を取って静かに声を上げ始めた。
「・・クィーン・・クィーン・・クィーン・・!」
海兵の隣りで整列していた近衛騎士達も、自分のシールドを叩き初めて海兵の声に合わせ始めた。
「「・・クィーン・・クィーン・・クィーン・・!」」
やがて、「クィーン」と叫ぶ声は、円形劇場を巻き込み、そして瞬く間にヴェスタの街全体に広がって行った!
「み、みんな・・・」
オリヴィエは、苦しそうに顔を歪めて俯いた。
「「「・・クィーン・・クィーン・・クィーン・・!」」」
この街が、この国が、この若い女王を求めているんだ。
オリヴィエは顔を上げて、ゆっくりと語り始めた。
「みなさん、聞いてください。」
決して大きな声ではなかったが、オリヴィエが語りかけると、群衆の静かな熱狂が一瞬で鎮まった。
「みなさん、王位を途中で放り投げる私を許してください。
・・・わたし、今恋しています。
その方は旅人で、只人の常識で縛る事の出来ない方なのです。
わたしが王の権威を身に纏っている限り、決してわたしに振り向いて下さらない方なのです。
その方は『ナグルトの狂犬』、『ビザーナの英雄』、『ムーアル砦の処刑人』又は『
わたし、その方の側にいたい!その方と一緒に歩んで行きたい!もう、この思いを押さえる事は出来ないの!
だから、ごめんなさい。わがままを言ってしまって。
ごめんなさい。みんなを裏切るようなことになって・・。
ごめんなさい・・・。どうかゆるして・・・。」
オリヴィエは、一人の少女として、自分の感情を吐露する事しかできなかった。
そしてオリヴィエは、そのまま演壇で泣き崩れてしまった。
オリヴィエの正直な心を打ち明けられたヴェスタ市民や凱旋式典に参加している将兵達は、みな戸惑ってしまいざわついている。
「・・・そんな事言われたって、いきなり女王様にいなくなられちまったら・・・」
「グダグダ言ってるんじゃないよ!」
オリヴィエに反対の声を上げた市民を、大声で一人のおばさんが怒り始めた。
あの声は、市場でオリヴィエに声を掛けてきたおばさんかな?
「あの小さかったお嬢様が、こんな立派な女性に成長なさって、そんでもって添い遂げたい男を見つけたんだ!
あたいら大人は、黙ってお嬢様の恋路を応援するのが大人の務めってもんだよ!違うかい?
あんたんとこの娘に惚れた男が出來たって言ったら、あんたはそんな男は諦めて、家業の果物屋を継げって家に縛り付けるのかい?
そんな道理の通らないことぬかすようなら、もうあんたんトコとの付き合いは考えさせてもらうよ!」
おばさんに大声で怒られたおじさんは、ばつの悪そうな表情であわてて言った。
「そ、そんなこたあ言う分けねえ!
おらぁ、黙って娘を応援してやらあ!俺の娘が選んだ男だ!娘の目に間違いはねえって信じる!」
おばさんはそれを聞いて、嬉しそうに笑いながらおじさんの背中をバシバシ叩いて言った。
「あはははは!そうこなくちゃ!
それじゃ、お嬢様だっておんなじ事だよ!
女王様の仕事におしつぶされて、泣きながらあたしらの町に逃げ込んできたお嬢様は、言わばあたしらの娘みたいなものじゃないか!
みんなで面倒見てやった、可愛い娘さね。
だったら、娘の幸せを一番に考えてやらずにどうすんだい!」
「お、おう!それもそうだな!
せめて市場の仲間達ぐらいは、お嬢様の幸せのために応援しなきゃならねいな!」
おばさんは大きく笑いながら、オリヴィエに声をかけた。
「お嬢様ー!しっかりその男、捕まえるんだよ!
なーに、男なんざ胃袋を握っちまえばチョロいもんさ!
子供が出来たら、あたしらに見せに帰って来ておくれよー!」
「そうだ、そうだ!お嬢様ー!新鮮なガージュ、又たんまり仕入れとくから、いつでも食べに帰っておいでー!」
二人に続いて、市場町のおじさんやおばさん達が、次々と祝福や応援の言葉を叫んでいく。
すると、ちらほらと円形劇場の観客席からも、オリヴィエを祝福する声が上がり始めた。
「・・・みんな・・・。」
それでも、中にはオリヴィエの退位に納得してない声も多数あり、円形劇場内は険悪な雰囲気に変わって行った。
その時、円形劇場に三匹の飛竜が舞い降りてきた。
「皆の者!控えよ!公皇猊下の勅使である!控えよー!」
別れて数日しか経ってなかったが、懐かしい筋肉が飛竜を駆って飛んできた。
ジョバンニのおじさんは、飛竜から飛び降りると、貴賓席に駆け上がって来て、跪いている群衆に満足しながら演壇に立った。
「公皇猊下からの勅命を伝える。
本来公皇猊下にビルチェ相続に関与する権限はないのだが、アントナレオを除く
公皇猊下及び
また、これにより空位となるアントナレオのビルチェにはオリヴィエの実兄ガウロがこれを継承するものとし、これによりガウロをアントナレオ家の家長に任じ、ガウロ・ビルチェ・アントナレオ・ヴェスタを襲名させるものとする!
アントナレオ家の一切の資産はガウロ・ビルチェ・アントナレオ・ヴェスタが継承するものとする。
また、オリヴィエ・アントナレオは、女侯爵に叙爵しアントナレオ・ヴェスタ家より、生涯年金を支給するものとする。
オリヴィエ・アントナレオ女侯爵に領地は認めぬが、ヴェスタの北にある冬の離宮とそれに隣接する葡萄園をオリヴィエ・アントナレオに下賜し、オリヴィエ・アントナレオに代わり実兄のガウロ・ビルチェ・アントナレオ・ヴェスタがそれを管理するものとする。
以上である!」
オリヴィエが先か、枢密会議が先かは分からないが、おおよそ先ほどオリヴィエが宣言した内容を公皇と枢密会議が追認した形となった。
「おチビちゃん、良かったの。
そなたの母であるアルゼリーナ姉上の愛した冬の離宮は、引き続きそなたの物だ。
いつでも帰って来て良いのだよ。
これくらいなら、トーマも重荷には感じまい?」
マッチョおじさんが、面白そうな顔をしながらこちらを見ている。
オリヴィエはすがすがしい顔をしながら、俺に掛寄って来て言った。
「トーマ様。これで私はただのオリヴィエとなりました。
どうか、私をあなた様の旅路にお連れ下さい。」
そう言って、優雅なカーテシーで俺に頭を下げて懇願した。
「トーマ!わがままな妹だが、どうか妹を頼む!」
ガウロもオリヴィエの隣に立って、俺にそう言った。
まあ、王様になってしまったら、衆目の中頭は下げられんわな。
「オリヴィエの覚悟は良く分かった。
こちらから、お願いする。
どうか、俺に付いてきてくれ。」
「はい!喜んで!」
オリヴィエは目を潤ませながら、俺に抱き着いて来た。
「トーマよ!どうじゃ、ついでにウチのデイジーも貰ってくれぬか?」
「だんじて断る!
四歳の娘の父親が、変な事言うな!」
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