第32話 小さな幸せ
サーシャは頑張ってブッシュマスターをカグファ爺さんたちのキャラバンまで走らせてくれた。ゆっくりとね。
「トーマ様、みんなのキャラバンに到着しました。」サーシャがそう教えてくれた。
「ありがとう、サーシャ。さっ、エリクシア。大丈夫かい?」
「はい、トーマ様。もう大丈夫です。」エリクシアは目を真っ赤にしながら、俺にそう答え気丈に微笑んで見せた。美少女は泣き顔まで美しいんだな・・・。
「よーし、みんな!キャラバンに着いたぞ。さあ、降りてくれ。」
俺がそう皆に声を掛けると、皆ぞろぞろとブッシュマスターから降りていく。強かにイシュタルを踏みつけながら・・・。すまんイシュタル君。
皆がブッシュマスターから降車すると、カグファ爺さんが進み出て俺に深く頭を下げていった。
「ナナセ殿、この度のお礼をしたいので、どうかキャラバンで一泊して行ってはくれないじゃろうか?」とカグファ爺さんは何かを悟ったように、目に涙を浮かべながら俺に語った。
「カグファ爺さん。悪いがそれは出来ない。
すぐにでも領主の追っ手が、このブッシュマスターの轍をたどって追って来るだろう。だから俺はここで爺さんたちと戦闘した跡を残して、立ち去らなければならないんだ。
そうしなければ爺さんたちが疑われてしまう。」
「しかし!」爺さんとイシュマルが食い下がって来た。
「なあに、またいつか会えるさ!」俺は努めて明るく答えた。分れは笑顔でするもんだと、父さんが言ってたからね。
「おじちゃま!行っちゃうの?」チシャが泣きながら尋ねてきた。
「そうだよ。お兄ちゃんは、これからまだ用事があるので、行かなきゃ。」
チシャの目の高さにしゃがんでそう答えると、チシャは黙って俺に抱き着いてきて、頬にキスをしてくれた。
「また、あえるの?」
「ああ、またすぐ会えるさ。」・・・・・
俺達はカグファ爺さん達に十分離れてもらい、手榴弾とMINIMIを地面に撃って、如何にも戦闘があったような跡を偽装した。
そして、キャラバンの入り口に集まったカグファ爺さんの一族たちに見送られながら、トポリ街道を東に向かった。
◇◇◇◇◇
トポリ街道を一時間ほど東へ進み、そこで街道から外れて草原に入るようハンドルを切った。
トポリ街道を離れて、更に二時間ほど草原をブッシュマスターで走った。そこで俺達は一旦ブッシュマスターを降りて倉庫に収納し、今度は高機動車に乗り換えて更に二時間ほど走らせた。
「よし、マップで見るとだいぶナグルトの街から離れて、黒き森に近づいたな。ベルちゃん、ナグルトからの追っ手はどんな感じだい?」
[トポリ街道から逸れる地点まで追跡の騎馬隊が追ってきましたが、草原に入ったことを確認したら街に戻りました。現在追跡者は確認できません。]
「ベルちゃん、ありがとう。それじゃ、今晩俺達はここで野営しよう。」
時間は既に深夜近くになっている。だいぶ遅い時間だから晩御飯は軽く済ませたいところだが、なにせ腹ペコ狼がウチにはいるからな~。
「という訳でサーシャ、お腹すいたろう?寝る前に何食べたい?
ちなみに夜寝る前に食べると、太って虫歯になるよ。」
「えっ、そんな~」サーシャは思いもよらぬ事を言われ、ショックでアワアワしている。
「トーマ様、そんなことを言ってサーシャさんをいじめないでください。」エリクシアが優しい笑みを浮かべながら、窘めた。
「ごめん、ごめん。じゃ、サーシャは何が食べたい?」と俺が尋ねると。
「えっと、ファミチキが食べたいです・・。」モジモジしながらサーシャが答えた。
「よし、分かった。ファミチキね。それじゃエリクシアは何が食べたい?」
「では、私はチーズが食べたいですわ。」少し頬を染めながらそう答えた。
俺はファミリーマートのメニューを見ながら、商品を選んだ。
・ファミチキ 2P×5個
・チーズが主役!チーズサンド 3P×3個
・チーズに溺れたオムレツ 4P×3個
・スモークチーズ 2P×1個
合計: 33ポイント
功績ポイント: 4,027 →3,994 ポイント
俺は高機動車の後席にレージャーシートを敷いてから、アウトドアキャンドルを灯して食事の用意を始めた。
サーシャにはガスコンロを出してもらって、お湯を沸かす様にお願いした。コーンスープがあったからね。その間俺はキャンプ用の*マークの皿に購入した商品を並べた。
「ちょっと、トーマ君!なんか忘れてやしませんか?」
あー、甘味大好き女神様から直接コールが来ちゃったよ。
「ちょっと、ちょっと!なんか失礼な事考えてない?んー??」
また天罰が下ると嫌なので、俺は素直にデザートを選ぶことにした。
・アールグレイ香る紅茶のバウムクーヘン 2P×1個
・香ばし生地のクッキーシュー 1P×3個
合計:6ポイント
功績ポイント:3,994→3,988 ポイント
俺がデザートを購入したのを見て、サーシャが尋ねた。
「あっ、地母神様ですか?トーマ様?」
「おっ、良く分かったね。」と褒めると、サーシャは嬉しそうに笑った。
俺達はファミマデザートをアーちゃん様にお供えした。
「アーちゃん様。俺達を祝福してくれたお礼に、甘味を奉納します。どうかお納めください。
それから、もうウチのベルちゃんと喧嘩しないでくださいね。」
「し―――っ!あの子が出てきたらどうするのよ!
もう、トーマ君ったらとんでもない娘を誑かしちゃって!おかげで怖ーいお目付け役が出来ちゃったから、もうおイタが出来ないじゃないのよ~!!どうしてくれるのよー、プンスカプン!
それじゃ、あの子が戻ってくる前に帰るわ!
サーちゃんとエッちゃんもバイバーイ!」
サーシャ達に手を振りながらアーちゃん様は消えていった。チェッ!甘味はしっかりとお持ち帰りになりましたよ。
「アーちゃん様が帰られたので、いただきますか!」
サーシャは皿の上に山盛りのファミチキに興奮し、エリクシアはチーズオムレツを大層喜んでくれた。
―――――
俺達は楽しく食事を終えて、寝る準備をした。
いつも通りサーシャの仕上げ磨きをしていると、エリクシアが物欲しそうな目で見つめるので、「エリクシアにもやってあげようか?」とつい聞いてしまった。
するとエリクシアは嬉しそうに黄金の輝きを振りまきながら「はい、お願いします!」と言って自分の歯ブラシを渡してきた。優しくエリクシアの歯を磨いてあげたのだが、なんかエリクシアが悩まし気な声を漏らすんだが・・・ナゼダ?
俺達は歯磨きを終えて、寝床のエアマットを高機動車の後席に敷いた。さすがに三人で寝るとなると狭い。今日は仕方ないけど、なんか考えよう。
サーシャとエリクシアがマットの上に肌着の着替えを出し始めたので、俺は外に出ようとした。
「あら、夫婦ですから構いませんよ。」何故かエリクシアとサーシャが極上の笑顔を見せている。
「お、おう」俺は何とか返事をして、自分の着替えを取り出した。キャンドルライトに浮かぶ女神たち(形而上の残念なあの方ではない)のお着替えに俺の熱き血潮が沸き立ってきた。特にマイサンが・・・。
俺もゆとりある素振りを見せつつ、前かがみになりながら、自分の着替えを行った。パンツがはきにくかったよ。
俺達は、身を寄り添って床に就いた。
俺の左側にはいつもの様にサーシャが丸まっている。
俺の右手にはエリクシアが俺の胸に頬を寄せて寝息を立てている。
俺は魂の渇きが癒されるような安らぎを感じながら、満ち足りて眠りに落ちた。
この幸せを守らなければ・・・。
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