第15話 東方の剣を佩く男

 俺は今晩も寝床として高機動車を倉庫から取り出して、サーシャに宣言した。


 「さて、サーシャさんや。今晩の食事は少し豪華に行きますよ。」


 と言うと、サーシャは「えっ、嬉しいです!」とニッコリ笑って答えた。


 俺はア〇ゾンからキャンプ用テーブルやチェア、食器等今晩の夕食に必要な道具を一揃い購入した。テーブルやチェア、食器は*マークのキャンプ用品だ。お高いがしっかりとした作りと品質で、父さんが愛用していたものだ。俺がまだ発病する前の少年の頃、父さんはよくキャンプに連れて行ってくれて、その時*マークのブランドが如何に品質が優れているか語られたもんだよ。


 早速購入したテーブルとチェアを高機動車の後側、草原の丘陵に沈む夕日が良く見える位置に設置した。

 それからカセットコンロと焼肉プレートをテーブルに置き、火を付けてプレートを温め始めた。

 そしてお待ちかね、本日のメインは先ほど狩ったビッグボアのとんトロ肉を倉庫から取り出した。

 本来、肉は熟成させた方が・・・、ってまた教官がうるさかったが、そんな事知らんがな。

 後方支援連隊の皆さんが、血抜き・解体してくれた新鮮な肉!これを焼肉にして食わんでどうすんだってばよ!

 

 俺はとんトロ肉を適当な大きさにカットし、*マークの平皿に並べていった。

 その間、俺はサーシャにお願いして、同じくア〇ゾンから購入した長野県産レタスとサニーレタスを洗ってもらった。

 洗ったレタスとサニーレタスは別の平皿に盛り付けて、あとはお椀に 秘伝 焼肉のたれを多めに入れて準備完了!


 「さあ、それではサーシャさん。焼肉パーティーと行きますか!」


 「はひぃ!トーマ様。」すでにサーシャの目はビッグボアのとんトロにロックオンしている。


 「「いただきます!」」


 俺はとんトロをトングでつまみ、熱した焼肉プレートの上に次々と置いた。


 「ジユー!」


 「くーっ!この音と匂いが堪らん!」


 俺はとんトロをトングで返しながら、焼き具合を確認する。

 サーシャはフォークを右手に焼肉プレートの上で踊るとんトロをこれでもかと凝視している。

 その視線で肉が焼けそうだよ・・・。


 「良し!焼けたよ。このたれに絡ませてから、肉をレタスの葉っぱでくるんで食べるんだ。」


 俺は焼けた肉の三分の二程をサーシャのたれの入ったお椀に入れてやり、残りの自分の分も取ってからサーシャに実演して見せた。

 サーシャはとんトロ肉を二切れフォークに突き刺し、器用に焼肉のたれを付けてから、左手に持ったレタスの葉っぱに肉を載せて、くるっとレタスの葉で肉をくるんでから、パクリと焼肉に噛り付いた。


 「ンフ――――!ほいひいれふ――――!」


 夕日が沈むと、俺はキャンプ用キャンドルに火を灯して焼肉パーリーを続けた。もはや雄大な大自然のパノラマは目に入らなかった。だって肉を焼くのに夢中だからね。


 俺とサーシャは心行くまでビッグボアのとんトロ肉を堪能した。サーシャは一人で2kgは食べたんじゃないだろうか。 


 その晩、俺は夢を見た。

 綺麗な砂浜をグラビアアイドルの様なナイスバデーのマイクロビキニなお姉様を追いかけるという、イカス夢だった・・・・。

 大きなメロンを揺らしながら逃げるお姉様をもう少しで捕まえられるというその瞬間、お姉様のおメロンに触れようとした正にその瞬間、飛び出して来たサーシャに手を齧られた所で目を覚ました。

 

 目を覚ましたら、サーシャは俺の腕を股に挟んで腕を取り、手をガジガジ齧んでいた。いわゆる腕ひしぎ逆十字固めの形だ・・・。サーシャ痛いヨ、これ。


 俺はサーシャの涎と歯型の付いた左腕をサーシャから抜き取ってからマットに立ち上がった。


 「サーシャ、起きろー。」


 俺は寝ぼけたサーシャを起こし、俺達の装備を整え出発の準備をした。


 それから俺とサーシャはファミマのおにぎりとみそ汁で朝食を取った。だが、みそ汁の味ははサーシャにはあまり受け入れられなかったようだ。


 そして二人で歯磨きを終えて、俺達は高機動車に乗り込みバーベキューの丘を後にした。


◇◇◇◇◇


□□□バルガーム・パシャ


 儂らは東の隣国ガルキアからの帰路、セントニア南部の大穀倉地帯北部を通るトポリ街道を通って、ロナー川北の渡しを通過し、ナグルトの街まで後二日程の距離まで商隊を進めていた。


 王国の崩壊から早三年が経った。ガルキアに移り住んだ我一族に手を差し伸べてくれた方々は、王国の内乱やそれ以降の戦乱で皆命を落としてしまった。

 その後儂は我一族が受けた恩義に少しでも報いる為、儂らに手を差し伸べてくれた方々の生き残りの縁者を密かに探し出しては、セントニアに逃れさせて来た。

 セントニアに逃れさせるには、一旦奴隷に身をやつさせることで敵の監視の目を逃れ、無事にセントニアに連れ出す事が出来た。この三年、儂らはこの奴隷取引を隠れ蓑にした救出に、多くの時間を費やした。

 そして今回の遠征で、ついに最後の恩人の縁者を、とは言っても消息の掴めた者たちの殆どが殺されていたが、それでも生き残った者達全て救出することに成功した。

 これで二度とはガルキアに足を踏み入れる事はあるまい・・・。


 「シャイフ・パシャ!二台目はダメです。車軸が外れて折れてしまった。工人を連れて来ない事には、我等だけでは修理もままならん。」


 この商隊の副長を任せているサク・カルブが状況の報告に来た。鷹の心臓の名を持つこの男は、次代の部族を背負う者へと育つことを期待されている。


 「ナグルトまでは後二日の距離だ。ロナー川の北の渡しの街まで戻ってとして四日は掛かる。ならナグルトまで帰って、そこから工人を連れてきた方が早い。

 儂は女と子供達を連れて先にナグルトへ帰る。サク・カルブはここに残って残りの荷馬車の面倒を見よ。」


 「分かりました。シャイフ。護衛に10人ほど付けます。」


 サク・カルブはそう言うと護衛達のところに行き、次々と指示を出した。

 こんなところでトラブるとは・・・・。


 我が一族が故郷を追われて早50年が経つ。偉大だった祖父に続き、父上もこの世を去り、もはや儂の記憶の中の故郷も、次第にあいまいになってしまった・・・。

 儂は・・・

   ・・・また深い思考の海に潜って行った・・・。


―――――


 商隊を分けてサク・カルブと別れてから一日街道を進んだ。昔はガルキアとの往来で賑わったトポリ街道であったが、今はもう道を行き交う者とて滅多に居らん。じきに北の渡しの街と一緒に廃れてゆくことだろう。


 中天を過ぎる前、つい先ほどに食事を取らせた。用心してバザワの隘路を越える前に、警護の者たちにも休憩と食事を取らせなければならんからの。この谷を丘伝いに右に進めば、やがてバザワの隘路に差し掛かる。そこを過ぎればナグルトまでは半日も掛からん。

 そんなことを考えていると、箱馬車の上に乗って見張りをしていたハザンが声を掛けてきた。


 「シャイフ、変です。バザワの隘路に人が大勢います。」


 ハザンがしわがれた声でそう警戒を伝えてきた。


 「アズラク!警戒しろ!前方のバザワの隘路に人がいる。待ち伏せされているようだ!」


 儂はこの隊の警護を任せている青のアズラクに警戒を命じた。ここに人がいるとなると、間違いなく待ち伏せであろう。

商隊を分けたタイミングで、よりによってこの場所で待ち伏せとはな。

 儂らはどうやら罠に嵌ったらしいの。ならば、敵もおよそ検討が付くというもの。


 「シャイフ・パシャ!待ち伏せはおよそ60から70。どうします突破しますか?」


 「ハハハ、アズラクよ勇ましいな。一人で7人は相手せねばならぬぞ。とはいえ、おそらく後方に回り込んでいる敵もいるはず。ならば、包囲されることのないバザワの隘路を突破する。

 儂も出る!」


 「アズラクよ、今月のは誰か?」


 「はっ!シャイフ。ラムルです。ラムル!御前へ!」


 「はっ!」と返事をして、一人の若者が前に出た。儂らと違って西方の民の顔立ちをしている。


 「ラムルよ、一族の為に死んでくれるか?」


 儂は感情をかみ殺して、そう吐き出した。


 「シャイフ・パシャ!孤児みなしごだった俺を拾って、一族の男として育ててくれたご恩、ここでお返しします。

 野垂れ死ぬはずだった俺を一人前に育ててくれて、しかも女房と子供まで持つことが出来ました。

 この命、ご存分にお使いください。」


 ラムルはそれだけ述べると、儂の前に膝と手をつき服従の姿勢を取った。


 「ラルム。そなたの女房には一族の仕事を与え、生涯苦労の無い生活を約束する。また、そなたの子は我が一族の子として、一族が立派な男に育て上げると約束する。

 荒野の血に誓って!」


 儂はそう誓うと、短剣を抜き取り右手の平を切って血を流し、同じく手の平から血を流したラルムとお互いの手を強く握り締めて、古の血の誓いを行った。


 「ラルム!先陣を任せる!敵に切り込み、敵陣をかく乱させよ!

 カウス!後方の警戒を任せる。ハザンは馬車の上でそのまま哨戒を継続。

 他のものは俺に続け!シャイフも出られる!

 命を惜しむな!名を惜しめー!」


 アズラクが裂ぱくの気合で皆に命じた。

 儂は家伝のシャムシールを腰から抜き、男たちに向かって叫んだ。


 「戦士たちよ!姑息な罠を食い破り、を罠にはめたこと奴らの血肉を以て後悔させてやろうぞ!命をシャムシールに捧げよ!」


 「進め――!」アズラクの鋭い掛け声に、我が戦士たちは突撃した!儂もアズラクのすぐ後ろに付いて突進した。

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