第16話 バザワの戦い

 俺とサーシャは高機動車に揺られながら、草原のなだらかな丘陵を走っていた。サーシャの身長では、車長席に座ると前方の視界が良く見えないので、俺はア〇ゾンから15㎝もの厚さがある高反発マットを購入して、車長席に敷いてあげた。サーシャのお尻は万難を排して守らねば!


 座面が高くなって、視界も良くなり、サーシャはご機嫌だ。キャッキャしながら、窓の外を流れる景色を見ている。眺めるだけでななく、窓から手を出して、空気の抵抗に手をヒラヒラさせて遊んでいる。子供の頃誰しもがやるアレだよ。

 サーシャがご機嫌なのに事に俺も気分が良くなり、ついつい下手糞な鼻歌を歌いだした。


 「海の~声が~・・・・、ララーラーララ♪」


 なだらかなに続く草原がなんだか海に見えてきたので、つい「海の声」を歌ってしまった。良いんだよ、古くたって!好きなんだから。歌詞はサビのとこしか覚えてないし。


 「ふふ、面白いお歌ですね。 ラララ~、海の声よ~」


 サーシャもご機嫌に一緒になって、聞きかじりで歌っている。ラララがほとんどだけど、二人で歌うとなんか楽しいな!


 [マスター、前方で戦闘が発生します。攻撃側戦闘員73。防御側戦闘員11、非戦闘員15。非戦闘員の内子供が9です。距離400メートル。丘の裏側です。

 別働として騎馬15、南側の丘を迂回して防衛側の後方に移動中です。」


 「サーシャ、戦闘準備!前方の丘の裏側で戦闘。防御側が不利。また防御側には非戦闘員と子供が9人いる。戦闘に介入し、防御側を支援する。」


 「はい、了解しました。」


 サーシャはP90キューちゃんのコッキングハンドルを引き、膝の上に乗せた。


 俺は高機動車のアクセルを吹かしコーキを加速させた。この草地で出せる限界まで速度を上げて、丘を道なりに回り込んでいく。200メートル程前方のあい路で馬車を倒してバリケードが作られており、その手前に止まっている大きな箱馬車を武装した男達がとり囲んでいた。


 「あの胸当ては!」


 サーシャはそう叫ぶと車長席の窓から半身を乗り出し、フルオートでP90の牽制射撃を行った。俺はバリケードの100メートル程手前に高機動車を止めようと減速する。未だ止まりきらない内にサーシャは高機動車から飛び降りて、前方へ突進していった。

 俺は高機動車を止め、車からあわてて飛び降りた。俺は走りながら89式のコッキングハンドルを引き、サーシャの後を全力で追いかけた。


 サーシャは、襲撃を受けている黒っぽいローブを着けた男たちの後衛に大声で「助太刀する!」と声を掛けながら突撃して行く。


 その前方では戦端が切り開かれていた。

 サーシャの援護射撃に怯んだ攻撃側のバリケード内側に、黒っぽいローブを着た男が単騎で突入。自らが傷つくのも顧みずに周りにいる男達の何人かを切り伏せたが、だがそこまでだった。攻撃側の男達に囲まれて剣を突き立てられるのが見えた。

 しかし、単独で突入した男のおかげで、バリケードで攻撃側の男たちが混乱している。その混乱に黒っぽいローブを着けた男たちが、隊列を組んで切り込んで行った。


 大きな箱馬車を襲っている一団は服装はバラバラだが、皆一様に左胸に鈍く光る金属の胸当てを付けているのが見えた。

 サーシャは容赦なくその男たちにP90キューちゃんの5.7㎜弾を叩き込んでいった。

 

 俺はサーシャを弓で狙っている射手達から狙いを定め、フルオートで射手共を仕留めていった。

 射手達が撃たれる気配を感じ、サーシャは感謝の視線を送ってきた。

 敵の中には丸い盾、バックラーと言うやつか、を構えてサーシャに突進してくる奴もいたが、木製の盾程度ではP90の弾丸を防ぐことはできない。サーシャは木盾を気にせず、盾で隠せていない急所を冷静に射抜いて盾の男を仕留めていた。

 

 胸当ての一団の戦闘員が半分になるのに、状況開始から5分も掛からなかっただろう。

 次々と仲間が倒されていく様子を目の当たりにして、襲撃者の生き残りたちは重い装備を投げ捨ててバリケードの向こうへ逃げていく。

 俺とサーシャはすかさずバリケードを利用して精密射撃の体勢を取った。

 俺は「左」と叫び、サーシャは「右」と答えて、それぞれ敵にターゲットを取る。 


 「ダン、ダン、ダン、ダン」


 逃げだした奴らは4人ほどいたが、50メートルも逃げられない内に全て俺とサーシャによって仕留められた。

 逃げ遅れた奴らが3人ほどいたが、武器を捨てて箱馬車の護衛達に降伏していた。


 「シャイフ!カルフ、アドゥ!」後方を警戒していた男が大声で知らせてきた。

 振り返ると後方に止めた高機動車の更に後方の丘を回り込んでくる騎馬の一団が見えた。

 俺とサーシャは大きな箱馬車まで駆け戻り、馬車を両側から挟むように布陣し、ひざ撃ちの姿勢で敵に照準を合わせた。

 先頭までの距離。250メートル。俺とサーシャは敵の騎馬兵に対して、単発の精密射撃を浴びせた。

 銃声に驚いた馬たちが、乗り手を振り落としたり、騎手が乗馬を抑えるのに精いっぱいで、襲撃者達は突撃するどころではない。

 移動しなくなった敵など、俺とサーシャにとっては標的でしかない。

 馬上の騎手から優先して、落馬した騎手達も全てヘッドショットで撃ち倒した。


 [盗賊を討伐しました。功績ポイント4,150 を獲得しました。功績ポイント:233 →4,383 ポイント。]


 俺とサーシャが残弾を確認し、マガジンチェンジしていると、防御側のリーダーと思しき男がこちらに寄ってきて俺に声を掛けた。

 他の護衛達と同じ黒いローブを身に纏った長身の男で、ナイフのような目が印象的だった。


 「マーシャドゥ、ヘラート。マルガミラ バルガーム・パシャ。」


 男はローブのフードから頭を出しながら俺に声を掛けてきた。黒いローブが似合う長身の男で、特徴的な鷲鼻と口髭が見る者に精悍な印象を抱かせる、そんな男だった。

 整髪油で綺麗に撫でつけられた黒髪の左側に、ひと房の白い髪が後ろに撫でつけられていた。

 すまんが何を言ってるのかさっぱり分からん。


 「助けてくれてありがとう。私の名はバルガーム・パシャだ。と言ってます。」


 おお、俺には可愛くて優秀は通訳さんがいたよ!

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