第14話 黒き森をぬけて
サーシャの水浴びを終えた後、今度は俺がサーシャに洗ってもらうことになったんだ。
情けだと思って、どうか細かいことは聞かないでくれ・・・。ただただ、俺は堂々と立ち向かったんだよ。
でもサーシャは何故か俺の体の前を洗う際、ニコニコと喜んでいたんだよな・・・。
サーシャに体を洗ってもらった後、俺はバスタオルでサーシャの体を包み込み、ゴシゴシ体を拭いてあげた。
「キャッ、くすぐったいです!フアッ、キャハハハ・・」
バスタオルの中で、くすぐったがってサーシャが身をよじる。俺は面白くなって、バスタオルの上からサーシャをくすぐって遊んだ。その後俺はサーシャに反撃されたことは言うまでもない・・・。何やってんだオレ!
その後肌着替えの肌着を着けてから、二人で歯を磨いた。もちろんサーシャの仕上げ磨きはしっかり俺が磨いてあげたさ。
そして水浴び道具を片付けてから俺は高機動車の中に入り、コー〇マンのマットを敷いて寝床を作った。
俺は今日着けてた装備全てを倉庫に収納し、後方支援連隊のメンテに回した。後方支援連隊では銃器のメンテだけでなく、衣類のクリーニングもやってくれるのだ。翌日には新品同様に、ひょっとしたら本当に新品になって戻って来る。
そして俺はMP7、サーシャはSFP9を倉庫から出して、今晩のメインアームとして枕元に置いた。
「それじゃ、寝よっか。お休み、サーシャ。」
「はい。おやすみなさい、トーマ様。」
今晩も俺がマットに横たわると、サーシャは俺の左わきに潜り込んで来て、背中を俺の脇腹にくっ付けて、丸くなって眠った。
今はここがサーシャの定位置なのだろう・・・。
―――――
翌朝の夜明け頃に俺達は起き出して、装備を整えてから顔を洗い朝食の用意をした。
全粒粉サンド サラダミックスとたまごサンドと素材をたのしむコーンポタージュで朝食を取った。
合計: 13ポイント
功績ポイント:1,463 →1,450 ポイント
サーシャはコーンポタージュが気に入ったようなので、お代わりを作ってあげた。
それにしても紙コップでは味気ない。後で何か良い食器を探しとこ。
食事を済ませ、洗面と歯磨きを済ませた俺達は、装備を20式と
俺達はサーシャを前衛にして森を進んだ。サーシャは獣人の中でもとりわけ優秀な銀狼種のハンターとしての能力が、斥候役にピッタリだ。今日は極力魔獣との戦闘は避けて、距離を稼ぐことを目標にした。
それでも、俺達を目視すると、狂ったように突進して来るビッグボアとかビッグボアとか、あえて言おうビッグボアを何匹か仕留め、それ以外は逃げるのに任せた。
このビッグボアって奴、本当に全力突進しかしないんだよ。この種族には「退却」という概念がないのかもしれんな・・・やっぱ猪だからなのか?
途中休憩をはさんで昼近くになった頃、森の様相が一変した。
これまで身を寄せる様に生い茂っていた巨木が、心なしか細くなり、木と木の間隔もずっと広くなって来た。更には森の中には所々獣道までが見られるようになった。何より、森の中がだいぶ明るくなってきたんだよね。
「これならいけるかな?」
俺は倉庫から偵察用オートバイKLX250を取り出した。
「サーシャ、これに乗って。」
俺がKLX250のシートを叩きながらそう言うと、サーシャは「はい!」と元気に返事して、KLX250のシートに跨った。
「おーし!乗れたね!」
サーシャの身長ではシートに跨ると両足は地面に付かなかったが、少し腰をずらしオートバイの車体を斜めにすると何とか足が届いた。
サーシャは嬉しそうにニッコリ笑いながら、エンジンをスタートさせた。大丈夫そうだね。
俺もKLX250を取り出してからシートに跨って、エンジンをスタートさせた。
「だいぶ歩きやすくなったとはいえ森の中だ。十分気を付けて運転するんだよ。それと俺が先頭で進むから、サーシャはできるだけ俺が走った通りに走ってくれ。分ったね?」
「はい、分かりました。トーマ様。」サーシャは元気にそう答えた。
「よーし、じゃ出発だ。」
俺はアクセルを吹かし、KLX250をゆっくり走らせた。できるだけ獣道など障害の少なそうで走りやすそうな道を選んで走る。
それでも時速30~40㎞くらいの速度が出せる様になり、俺達は南西の方角を目指して進んだ。
殆どの魔獣はKLX250二台のエンジン音に驚き、身を隠すのだが、中には俺達に向かって突進してくる奴もいた。そうビッグボアな。
だが、KLX250で悪路の運転も慣れて来た俺達は、そんな奴らを置き去りに進むことが出来た。
それから13時頃まで走り、休憩に良さそうな空き地を見つけ、お昼休憩を取ることにした。
サーシャに昼食のリクエストを尋ねると、肉まんが食べたいというので、てりやき肉まん(マヨ入り)と黒豚まんを購入して食べた。
「ンフ―――!何ですかコレ――!」って叫んで興奮していた。甘辛い醤油味にマヨネーズは悪魔のレシピである。サーシャも照り焼き肉まんがとても気に入ったようだ。
俺達は、食事休憩の間に倉庫に戻して後方支援連隊で整備・補給していたKLX250を取り出して出発した。倉庫に戻したばかりでは、『整備中』の表示がKLX250の文字の上に表示されていたが、一時間ほどの食事休憩後には『整備中』の表示は消えていた。
森の中をKLX250で走るのが面白くなってきた。索敵はベルちゃんに任せて、俺は出来るだけ安全なコースを選択しながら走ったが、それでも時々ジャンプなんかして楽しんだ。
サーシャは俺以上に運転が上手く、キャーキャー叫びながら俺より高くジャンプしていたよ。
そして、そろそろ今晩の野営を考え始めたころ、サーシャが後ろから叫んできた。
「トーマ様!森がそろそろ終わります!」
確かに木と木の間隔がこれまでにないくらいグッと広くなり、断然走り易くなった。
「トーマ様、森を抜けます!」
サーシャがそう声を掛けると同時に、俺達は森を抜けた。目の前の広い草原に出たところで、俺達はKLX250を止めた。
「やっと森を抜けられたね。」そう俺がサーシャに話しかけると、サーシャはどこか寂し気に森を振り返りながら俺に答えた。
「はい、そうですね。本当にいろんなことがありました。この森では・・・。」
俺とサーシャはそれぞれの思いにしばし浸ってから、どちらからともなくお互いに見つめ合った。そして同時に頷くと、黒き森を後にしてKLX250を走らせた。
◇◇◇◇◇
この広い草原は、大きな丘陵がどこまでも地平線まで連なっていた。そして草原の丘陵が夕日に染まるころ、俺達はとある丘の上にカワサキKLX250を止めた。
「よーし、サーシャ。今日はここで野営しよう。」
「はい、トーマ様。
わー、見てくださいトーマ様!夕日がとてもきれいですよ!
それに草原を吹く風がとても気持ちいいです。」
サーシャはそう言って、ゴーグルとタクティカルヘルメットを取って小脇に抱え、頭を左右に振って髪を撫でつけながら、心地よさそうに目を細めた。
サーシャの銀色の髪とピンと立った狼の耳が草原の風に揺れ、夕日の光を浴びて金色に輝いていた。その容貌は凛としてとても美しかった・・・。可憐だ。
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