【10万PV感謝企画】 SS3 もこもこの野望 その2
「あなた達もトーマ様の側にいたいの?」
「でも、ごめんなさい。それは出来ないの。
トーマ様と私はこれからも旅を続けるわ。そこには可愛いだけのあなた達では、居場所がないの。
それは、あなた達の可愛さは、トーマ様の心を癒す事でしょう。でもそれだけではだめなの。せめて、トーマ様のお役に立てない者は、一緒に付いていくことができないの?分かる?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『・・・王様の
神々しいナニカによって、人の子の大きさまで大きくなった十二匹の兎は、今日もナイフを片手に黒き森で狩をしていた。
それは、兎達が進化した翌日、兎達が『楽園』の寝床から起き出すと、七瀬冬馬の高機動車が止めてあった場所、則ち兎達が『王様の御座所』と呼ぶ場所に十二本のナイフと三十本の園芸用スコップが置いてあったのだ。
それ以来、毎朝起きると『王様の御座所』には、何かしら兎達の役に立つ道具が置いてあった。
きっとこれも王様の御加護だと兎達は信じ、毎朝の贈り物を前に王様に感謝を捧げるのが日課となっていた。
それ以来、十二匹の兎はナイフを手に黒き森で狩を行い、その他の小さい兎達は『楽園』の裾野で園芸用のスコップを使い、人を真似て畑を作った。
畑に植える種も、王様の贈り物として贈られてきたものだった。
狩へ出ている大きな兎は、黒き森最弱のグレーマウスを狩っていた。それでも兎達は何度も怪我を負い、『楽園』に逃げ帰っては皆で傷を舐め合って傷を癒した。
不思議なことに、この『楽園』にいると傷の治りが早く感じられた。
そんな生活を続けていたある夜、それは突然起こった。
黒き森から四六時中感じていた絶対的強者の気配が消えたのだ!
深夜にも関わらず、黒き森の絶対的強者の気配の消失は、黒き森とその周辺に住む生き物全てを恐怖させた。
『楽園』の兎達は皆『王様の御座所』に集まり、身を寄せ合って震えていた。
その時、黒き森の奥に光りの柱が立ち登り、その一部が『楽園』に向かって伸びてきた!
その光が、兎達皆を包んだ時、兎達の頭に威厳に満ちた声が響いた。
『願え!』
兎達は、絶対者の声に答え、怯えながらも必死に自分の願いを想い描いた。
『彼の者への借りは、此れにて弁済となさん』
絶対者の声と共に、光りは天上に上って行った。
兎達は、進化の激痛に皆気を失っていた。
すると兎達の上に、星々が集まり眩く輝き出した。やがて星々の輝きは人の姿を形どり、光が収まるとそこには人間の女性の姿をした半透明で淡く光るナニカが浮かんでいた。
シャンパンゴールドでウェーブの掛かった輝く髪が、ナニカの美貌をより際立たせていた。
ナニカは兎を見渡すと、兎達に優しく声を掛けた。
「目覚めない、兎達よ。進化の階梯を登ったあなた方を祝福に参りました。目覚めなさい。」
淡く光るナニカは、兎達に目覚めを促した。
「「「キュ、キュ」」」「「「女神さま・・・」」」
次々と兎達が目を覚まし頭上で輝くナニカに気付き、驚きの声を上げた。
「ふふふっ、私はまだあなた方の女神ではないのですよ。
あら、みんなはその姿を願ったのですね。」
兎達は皆大きな進化を遂げていた。
人の子程の背丈だった十二匹の兎は、皆人間の大人くらいまでに成長しており、体を覆っていた毛皮もなくなり、人間と全く同じ外見に変化していた。頭のウサ耳とお尻の可愛らしいウサ尻尾を除いては。
「大きな子は、雄が八人と雌が四人に進化した訳ね。それで君達はこれからどうしたいのかな?何を願うの?」
八人の男達は立ち上がり、ナニカを見上げ、必死になって自分達の願いを伝えてた。
「・・ぼく、たち・・・いつも、王様、いっしょ・・・王様、まもる!」
男に進化した八人は、皆驚く程のイケメンで、しなやかな筋肉を身に纏い、そしてマッパだった。
ナニカは、頬を桃色に染めながら、男達の股間を凝視している。
すると、今度は女達が立ち上がり、願いを語った。
「・・ワタシ、たち・・・王様の、子・・・うむ、たい・・・いつも・・いっしょ!」
女達も息を呑む程美しく、サーシャやエリクシアと遜色のない美貌と、胸部装甲を誇っている。そしてマッパ。
「ちっ!」ナニカは女達の素晴らしい胸部装甲を一瞥して、忌々しそうに舌を打った。
「男の子も女の子も、このままでは王様の傍には仕えられないの。
それに、女の子の願いはもっと難しいのよ。」
ナニカは兎達を慈しむよう、優しく語りかけた。
「いい事?人が子を産むには、互いに愛し合っていなければ、幸せな子は生まれないのよ。
あなた達がマスターの、いえ、王様の愛を得るには、まずあなた達の愛情を王様に捧げなければならないの。
愛は求めるものではなく、捧げるものなのだから・・・。
そうすれば、いずれ王様からの愛を注いでもらえる日が来るでしょう。
その為にも、まずはあなた達が王様の傍に居られるようにならなければね。
故に、あなた達には王様の傍に仕えるための術を与えましょう!
男の子は今よりバトル執事を目指しなさい。
そして女の子はバトルメイドを目指すのよ。
その為の先生方を連れてきました。」
そう言って、ナニカが両手を広げると、兎達の前に沢山の厳つい小さな妖精が現れた。
「この妖精達は、一人一人が王様の世界で、その道の頂天を極めた方の現し身よ。
格闘技や暗殺術、軍政学や行政学、もちろん肝心の執事道にメイド道の超一流の先生。
この先生方皆にあなた達が認められた時、王様の所へ連れて行きましょう。
だから、励みなさい!」
「・・ひつじ、道?」
「執事よ、し・つ・じ!
まあいいわ。これから執事の何たるかは、教官、いえ、先生方があなた達の骨身に叩き込んでくれるでしょう。」
そして、ナニカは小さな兎達を見回して訪ねた。
「それで、小さな君達は何を願うのかな?」
小さかった兎達は、皆人の子の大きさまで進化していた。それぞれモコモコの毛皮のままで。
「・・・もの、つくる・・・王様、よろこぶ?・・・うれしい・・・」
「そう。分かったわ。
あなた達にも、先生を招聘してあげる。
農学に建築学、鍛冶に工芸、織物。幅広い生産分野の超一流の先生方よ。
みんなも精一杯励みなさい!」
そう言ってナニカは、小さな兎達のために厳つい妖精達を召喚した。
「最後に私からのプレゼント。
あなた達全員の知能と記憶力を高めてあげる。先生方の教えを良く理解し、吸収出来るようにね。
それと、もう一つおまけで、みんなに服をあげるわ。
その他の道具は、どうせあの女が面倒を見るでしょうからね。」
ナニカはそう言って、両手をパンと合わせると、光の波紋が広がって兎達を覆い、光が消えると兎達は皆白い都市迷彩柄の服を着ていた。
大人サイズの兎達は戦闘服で、子供サイズの兎達にはオーバーオールだった。
「みんな、自分の願いのために精一杯努力しなさい、願いの叶う日を信じて。
先生方はその為の手助けを惜しまないでしょう。」
ナニカはそう言って、『楽園』を去ろうとした。
「待って下さい。どうか貴方のお名前を、私達に教えて下さい。」
兎のイケメンが進み出て、ナニカに名を尋ねた。
「私はベル。私の大切な方からこの名を与えられたの。それじゃ、また会いましょう!」
ベルと名乗った女神が去った夜空には、沢山の星々が煌めき踊っていた。
大きな兎達も小さな兎達も、女神ベルの恩寵に感謝し、それぞれ感謝の祈りを捧げた。
◇◇◇◇◇
その日から兎達の生活は激変した。
「ハッ、ハッ、ハッ、なあ、あの教官殿がいつも言っている、ハッ、ハッ、まーよねーずって意味分かるか?ハッ、ハッ。」
気絶した相棒の兎を背負いながら、『楽園』の外周を全力で走っている兎が、隣を走っている兎に訪ねた。
隣の兎も、気絶するまでしごかれた執事見習い兎を背負っいる。
「ハッ、ハッ、ハッ、いや、分からん。軍政学の教官殿に聞いたのだが、ハッ、ハッ、『お前達にはまだ早い!』と言って、教えてくれなかった。ハッ、ハッ」
「コラー、そこのマヨネーズども!お喋りとは、ずいぶん余裕だな!
この訓練が、お嬢様方のお茶会程度に楽な物だと見える!
喜べ!そんなフンコロガシの貴様達には後二十周追加だ!
ムービン!ムービン!ムービン!」
教官の罵声が拡声魔法で飛んで来た。
「サー、イエッサー!」
慌てて速度を上げ出した二人を、先生の指導の下、『楽園』周辺を測量している建築班のモコモコ兎達が笑って見ている。
兎達が大進化を遂げた〈目覚の日〉以来、兎達は厳しい教官達の教えを身につけようと、皆日々懸命に努力していた。
そして、『楽園』の『王様の御座所』には、モコモコ兎の工芸班が作った王様と番の木像の隣に、女神ベルの木像が祀られていた。
まだ、荒々しい出来であったが、兎達のひたむきな思いが伝わる、素朴な木像だった。
そして、女神ベルの胸部は、絶望的に平らかだった。
兎達の写実主義が生んだ、原始宗教芸術であった。
「プークスクス、イイキミだ事!あの女、最近ちょーっと調子に乗ってるから、ホントにいい気味!」
どこかの、女神のあざ笑う声が虚空に響いた。
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