第24話 ナグルト観光 その2

 ナグルトの街は黒い森の素材を王都センダーラに運ぶ拠点として栄えている街で、またその街道は王都センダーラを超えてはるか西の大国アルマーナ王国の王都まで続いている。一方、南は大河ロナー川を超えて南の大国アラン連合王国に続いているので、交易の拠点としてなかなか栄えている。


 俺達は、市場で気侭な買い物を楽しんだ。


 俺たちの服装は、明らかに他とは違っていたため、目立つと言えば目立ったようだが、この市場で売っているような肌触りの悪い服を今更着ようとは思わなかった。


 ただ、シルクのスカーフを売っている露天商が目に留まったので、俺はサーシャとエリクシアを連れてその露店を覗いた。

 なかなか質の良いシルク製品を扱っている商店で、金額もそこそこだが、まあまあの品ぞろえだった。ただ、やはり前世のような凝ったデザインのスカーフは無かったが、絞り染めのような柄が気に入ったので、鮮やかな朱色とブルーのスカーフを購入した。


 俺はブルーのスカーフをサーシャの首に巻いてあげると、サーシャは大喜びして俺に抱き着いてきた。


 「そしてこれはエリクシアへ。君のその首輪を見るのは、俺にはつらいから、俺の為につけてくれ。」


 そう言って、エリクシアのローブのフードを外して、彼女の奴隷の首輪が見えなくなる様に、奴隷の首輪の上から朱色のスカーフを二重に巻いてあげた。


 するとエリクシアは嬉しそうにスカーフを手で押さえながら微笑んだ。なぜだろう、彼女の笑顔に愁いを感じてしまうのは。


 昼にはナグルト名物の魔獣の肉料理の店に連れて行ってもらって、そこでバトルラビットのステーキを食べた。バトルラビットの肉はこの街でさえ、滅多に手に入らない高級食材だそうだ。

 黒き森では俺とサーシャでさんざん狩ったバトルラビットだったが、意外においしくて、サーシャは3回もお代わりをしていた。奴らこんなに美味しかったのか!顔はヤ〇ザなのに!

 サーシャが肉だけ食べるので、俺はサラダを追加で注文し、黙ってサーシャの前に置いたら、少し涙目になっていたので面白い。


 俺達は食後の腹ごなしに、また市場を回ってみた。すると、市場の喧騒に負けない悲鳴が聞こえてきた。

 俺はサーシャとエリクシアに頷き、その悲鳴の聞こえた方に足を進めた。


 人ごみをかき分けて行くと、そこには日用品の露天商の商品が路上にぶちまけられており、四人の男たちが店主と思われる中年の女性を踏みつけて、何か罵っていた。


 「あの胸当て!」サーシャの気配が一気に剣呑なものになった。


 「炎の描かれた金属の胸当てか。エリクシアこの街にはサラマンド傭兵団の奴ら多いのか?」


 「以前は居なかったのですが、最近になって増えました。どうやら領主様がヤルガの街から呼び寄せた様です。どれくらいの規模かは不明ですが、領主様の威光を笠に着て、このナグルトの街でのやりたい放題の暴虐な振る舞。街に住んでいる者達から等しく顰蹙を買っています。」

  

 「分かった。」俺はそう答えると、中年の女性をいたぶっている傭兵達に近づいて行った。


 「なんだテメーは!」傭兵の一人が俺の接近に気づき、威嚇してきた。


 「おい、その汚ねー足を、その女の人からどけろ!」


 俺はそう丁寧に傭兵達に通告したが、奴らはニヤ付きながら俺に向かって脅してきた。


 「なんだ、まだガキじゃねーか!」

 「オイこらガキ、誰に向かって唾吐いてるか分かってるんだろうな!」

 「おうおう!俺達はサラマンド傭兵団だ!怪我したくなきゃ、ガキはどっかへ失せろ!」


 中年の女性から、いびる相手を俺に変えた男が三人、俺に近づきながら啖呵を切った。自分たちがサラマンド傭兵団の人間である事を誇示するかのように、右手の指で左胸の胸当てを指さしながら。

 一人は未だ女の人を踏みつけながら、ニヤニヤしている。


 俺は、俺達を遠巻きに見ている市場の人間に向けてとぼけて言った。


 「なあ、市場ではいつからトカゲを飼うようになったんだ?臭くてしょうがないんだけど。

 残飯処理で飼ってるなら、ちゃんと躾けなきゃだめだよ!」


 「テメー!」俺が煽ると、手前の傭兵が俺に殴りかかってきた。


 「グへッ!」俺に殴りかかってきた男は、一瞬で路面に背中から投げ飛ばされていた。

 

 俺は男の殴りかかって来る力を利用した合気道の技なんだが、あまりの速さに俺が何をやったのかを目で追えたのはサーシャとエリクシア辺りぐらいかな?

 俺自身が驚くくらいの早業だったんだけど。


 「テメー!ガキが!」

 「覚悟しやがれー!」


 俺をいびろうとした傭兵の残り二人が、剣を抜き振りかぶって向かって来た。


 俺は左側の男の太刀筋を紙一重で左に躱し、男の鳩尾に右膝を思いっきり打ち込み、ガラ空きになったヤツの首筋に右肘を叩き落とした。


 もう一人の傭兵が、今倒したヤツを回り込んで、剣を振りかぶりって突っ込んで来る。

 俺は奴の呼吸に合わせ、剣を振り下ろそうとした瞬間、右の掌底をヤツの剣の柄頭めがけて突き上げた。

 俺を斬ろうとした傭兵は、下から突き上げられた掌底に剣を打ち上げられ、驚いている隙を突いて一本背負いで投げ飛ばした。

 投げを打つ時、俺の体もコイツと一緒に倒れ込んで、コイツを地面に叩きつける瞬間、俺は自分の右肘をコイツの胸元に入れて、俺の全体重を俺の肘に乗せて奴の胸に叩き込んだ。

 肋骨が折れる感触が伝わって来たよ。

 

 俺が傭兵の上に倒れ込み、肋骨をへし折ると、中年の女性を踏みつけてたヤツが、今の動きを俺の隙と見て斬りかかってきた。


 まっ、隙はないんだけどね。「サーシャ!」と俺が叫ぶ。


 「させません!」サーシャはそう叫び、俺の目にも捉えるのが難しい程素早い足さばきで、俺に剣を向けてるヤツの喉元に17.8cmの凶悪なコンバットナイフを突き付けた。


 「トーマ様。殺しますか?」サーシャは憎悪の牙を抑え、俺に尋ねた。


 「ソイツの喉を切ったら、せっかくの綺麗なスカーフが血で汚れてしまうから、おやめなさい。その代わり、ソイツの膝を潰しておしまいなさい。」何故か俺はサーシャに丁寧に命令した。皆んな見てるしね。


 サーシャはホルスターからSFP9を抜くと、立ち尽くしている傭兵の右膝に、至近距離からSFP9の9㎜弾を撃ち込み、膝の関節を破壊した。

 そして俺も剣を向けてきた傭兵二人の膝をSFP9で打ち抜き、そして最初に投げ飛ばした奴の腹を半長靴3型で踏みつけながらエリクシアに尋ねた。


 「なあエリクシア。コイツラの膝って元通りに治療できるのかい?」


 「いいえ、ナナセ様。軽い外傷なら、ポーションや治癒の魔法で治せますが、砕かれた骨は高位の聖職者だけが使える、上位の神聖魔法でなければ治療できません。そして、このナグルトの街には上級神聖魔法を使える高位の聖職者はおりません。」


 俺は爽やかな笑顔で、踏みつけている傭兵に言葉を掛けた。やっぱ笑顔って大事だよな!うん。


 「なあお前。これで膝を撃ち抜かれたら、一生使い物にならないんだってよ。俺は寛大な男だ。俺に剣を向けた相手には容赦しないが、お前は俺に剣を向けてない。どうする?何なら、その腰の剣を抜いてみるか?」


 「トーマ様。すごく凶悪なお顔してますよ・・・。素敵です!」サーシャお黙り。


 俺に踏まれている男はガタガタ震えながら、首を横に大きく振って抵抗の意思がないことを必死にアピールしている。


 「なら、見逃してやる。とっととコイツラを連れでこの街から出て行け!もし、この街でもう一度お前を見かけたら、今度は容赦なくお前の心臓をこれで撃ち抜く。そうなったらどうなるか分かるな?」

 

 俺は傭兵を脅しつけると、そいつの腹をけり飛ばして開放した。うん、俺ってばやっぱ優しいな。


 俺に蹴り飛ばされた傭兵は、膝を抱えて呻いている仲間たちを引きずりながら、市場から逃げ去って行った。


 [チンピラ(サラマンド傭兵団)を撃退しました。功績ポイントを200ポイント獲得しました。功績ポイント:3,989 →4,189 ]

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