第85話 ミシェル

 俺のナイーブな心の与り知らぬところで、俺の嫁さん枠拡大の話が進んでいた。


 いや、アーちゃん様は確かにエロカワイイし、もう関係を持ってるからいいんだけどさ、ミシェルさんは別だ!


 確かに、見た目、目隠しは除く、とプロポーションは素敵なんだけど、今日会ったばかりの美少女をお嫁さんにだなんて・・・良いのか?

 イヤイヤ、押し付けられるのは我慢ならん!


 「ちょ、ちょっと!みんな待ってくれ!

 そんな勝手に話を進めないでくれよ。

 アーちゃん様はまあ、神様だってことは置いといても・・ゴニョゴニョ。ミシェルさんはダメでしょ。

 今日初めて会ったばかりだし。なにより、本人の気持ちってものがあるでしょうよ!」


 俺がそう抗議すると、何故か皆は冷たい視線で俺を見つめている。

 セレナは何のことか分からずに、ポカンとしているのが、唯一の救いだ!


 「トーマ様、お口とジュニア様の反応があべこべなのですが・・・。」

 「旦那様。ジュニア様は既に臨戦態勢でございます。」


 サーシャとエリクシアの氷の視線が、マイサンを射竦める!


 「いやいや、ジュニアは仕方ないの!そ、そう生理現象なんだから・・・。男の・・・・」


 「「「「「「「・・・・」」」」」」」


 「そんな事より、ミシェルさんの気持はどうなの?

 こんな大事な事、他人に決められるのは嫌だよね?ねっ?」


 「・・・ナナセ様・・・・。うっうぅぅ・・・」


 ミシェルさんが急に泣き出してしまった。


 「マスターのバカチン―――!」


 真っ赤なボディースーツ姿に早変わりしたベルちゃんの、ベルちゃん・スーパー・フライング・ドロップ・キックが、いつもの三倍の速度で俺の顔面に炸裂した!

 

 「グアッ!」 


 口の中が切れて、血の味がする!


 ベルちゃん、さっきから絶対大きくなってるよね?スケールが1/8にアップグレードしてるよ!

 

 「ベルちゃん!ちょっ、まて!そのサイズのキューちゃん改で撃たれたら、絶対ただじゃ済まないから!待て待て待て!」


 ベルちゃんが無慈悲に1/8サイズのキューちゃん改FN P90 TRのコッキングハンドルを引いて、レーザーサイトの赤い光線を俺の額にポイントしていた。


 「ねえ、トーマ君。

 あんまり女心が分からないニブチンさんだと、私達お嫁さん泣いちゃうよ!」


 いや、アーちゃん様。今シレっと自分もお嫁さんに含めてたよね!何既成事実作ろうとしてんの!


 「ミシェルはあなたのお嫁さんになる為に、ここで育てられた孤児だったの。

 赤ちゃんだったミシェルは、十六年前の雪の日に、ある街の聖教会救済施設の門前に捨てられてたわ。」


 いまだ激しく泣き崩れるミシェルさんを、ヴァイオラとオリヴィエが抱きかかえて慰めている。


 「三歳で私の神託の巫女に選ばれ、この天聖宮に移り住んできたの。

 そしてこの地で私はミシェルに一つの神託を授けたわ。

 将来この世界に訪れる神の使徒に嫁ぎ、一生その人を支えなさいと。

 それ以来ミシェルは、瞳を布で隠して心のまなこで世界を見る苦行を始めたわ。


 どうしてか分かる?

 それは全てあなたの為なのよ、トーマ君。」


 アフロディーテ様は、慈愛の表情で愛おしそうにミシェルを見つめている。


 「ミシェルは三歳にして、この世には善意だけではなく、それと同じくらいの悪意に満ちている事を理解していたの。

 そして、将来現れる貴方の為に、世の中の悪意を見抜く『まなこ』で貴方を守ろうと決意したのよ。」

 

 俺はミシェルさんの目隠しの意味を知って、愕然とした。


 「ねえ、これだけは分かって。

 三歳の童女が、自らの意思で光を遮った決意の重さを。

 そして、暗闇の中、十年以上に渡って一心に願い追い求めてきた微かな光が、トーマ君、あなただと言う事を。


 これ以上の献身と愛を、私は知らないわ・・・。」


 俺はミシェルに歩み寄って跪き、ミシェルの手を取って言った。


 「さっきはすまなかった。

 一つだけ聞かせてくれ。俺の事好きか?」


 ミシェルは俺の手を自分の頬に当てて答えた。


 「十三年前のあの日、アフロディーテ様にあなた様の事を聞かされた時から、ずっと変わらずにお慕いしておりました。

 愛しております。トーマ様。」


 「ありがとう。ミシェル。

 これから二人で愛を育んで行こう。」


 そして俺はそっとミシェルの唇に、優しいキスを贈ってあげた。

 俺はこの子の積み重ねてきた十余年の思いに、報いてやりたい・・・。



 「・・・ねっ、セレナ。やっぱりオッパイよ!大事なのはオッパイなのよ!」


 「・・・ベル様。それなら大丈夫です。かか様も立派なものを持ってましたから。私も大きくなったら・・・」


 「・・・チッ!・・・」



◆◇◆◇◆


 暗闇より暗く深き所でディギトゥスは、足元にひれ伏している四つの影を見下ろしていた。

 しかし、黒曜石の様なマスクからは、何の感情も窺う事は出来ない。


 「彼の者は、飛行器でローリーの街から飛び去って行った・・・。方角からして、目的地は・・・おそらく天聖宮!」


 「「「「・・・・」」」」


 「あの場所は、我等が近づく事が叶わぬ聖域。・・・・彼の者を絡め取る罠が必要だ・・・。」


 「・・・マスター。彼の者の飛行器により、奴の行き先が見当も付きませぬ・・・」


 染みの様に闇にひれ伏していた影が、発言した。


 「・・・マスター。彼の者を罠に嵌めても、奴には強力な武具が御座います・・・。ローリーでの罠も、その武具によって突破されました・・・。」


 別の影も懸念を伝える。


 「・・・彼の者の行方を掴むために、セントニアの懸賞金を白金貨五千枚に上げさせよ・・・・・。」


 「・・・・ご尊命、承りました・・・・。」


 そう答えると、影の一つが足元の闇に沈んで行った。


 「・・・王都クールデヴォワの犯罪者ギルドに、依頼を出すのだ。彼の者の暗殺を・・・。報酬は白金貨三千枚用意する・・・。」


 「・・・・ご尊命、承りました・・・・。」


 影がもう一つ、闇に沈んで行った。


 『指』は深く思考の海に沈んで行った。

 その間、残った影は身じろぎ一つせずに、『指』の指示をじっと息を殺して待っている。

 

 「・・・やはり、もう一手必要だ・・・。彼の者に付き従っている銀狼の娘・・・・。・・・確か王都クールデヴォワの戦士長も銀狼種ではなかったか?」


 「・・・はい、その通りでございます。マスター・・・」


 「・・・その者を捕らえて尋問せよ。白狼の娘に連なる者であったなら・・・」


 「・・・・ご尊命、承りました・・・・。」


 「・・・さあ、見せてもらおうか、神の使徒の実力とやらを。

 舞台は整えてやる・・・」


 そして『指』は、残っていた影に最後の指令を与えたのだった。


◇◇◇◇◇


 ミシェルの件がひと段落すると、アフロディーテ様が俺達に告げた。


 「私には天界での勤めがあります。

 ですから皆と一緒に暮らせるのは、皆の天命が尽き魂が昇天してからになります。

 だから、ダーリン♡それまでは通い妻だっちゃ♡」


 アーちゃん様。キャラがブレまくりですよ・・・。


 「今は一旦天界に戻らねばなりませんが、その前に・・・」


 アーちゃん様はそう言って、創世の水晶の北面の壁際にある、壁と一体となった巨大な椅子の脇に立って、神力を込めて語り始めた。


 「天聖宮にいる者よ、妾は女神アフロディーテ。今すぐ水晶の間に集まりなさい。」


 天聖宮にいた者は、急な女神からの呼び出しに、みな慌てて水晶の間に駆け込んで来た。

 なんか、すまないね、みんな。


 俺達家族は、アフロディーテ様の脇に控えて話を見守っていた。


 すると、皆と同じ白いローブを纏った豊かな白い髭の老人が一歩進み出て報告した。


 「地母神アフロディーテ様。子供たちも含め、天聖宮に居る者全て、お呼びによりまかり越しましてございます。」


 指輪のお話しのガン〇ルフによく似た老人が恭しく跪くと、老人の後ろにいた皆が一斉にその場に跪いた。


 「急な招集にも関わらず、集まってくれて感謝します。」


 アフロディーテ様は微笑みながら語り始めた。


 「ここに集まってもらった訳は、みなに伝える事がある為です。」


 アフロディーテ様のその一言で、皆に緊張が走った。


 「あら、悪い事ではないのですよ。

 信託の巫女であるミシェルが、約束の使徒である七瀬冬馬に嫁ぐ事が決まりました。

 そこで、この天聖宮の水晶の間にて、三日後の日没。神々の列席を頂き、創造神様の使徒である七瀬冬馬とその花嫁達の婚礼の儀を執り行います。

 皆にはその準備をお願いしますね。」


 「な、何とそれは目出度い!謹んで承りましてございます。」


 ガン〇ルフ爺さんは、相好を崩しながらそう答えた。


 「では、ダーリン♡また三日後にだっちゃ♡」


 アーちゃん様はそう言って、俺にディープなキスをして天界に帰って言った。

 

 「「「・・・・!・・・・」」」


 ほら、皆驚いてるじゃないか!


====================


 本年最後の投稿となります。


 今年十月末の投稿開始以降、沢山の方にお読み頂き、本当にありがとうございます。

 また、温かなご声援、ありがとうございます。本当に励みになっております。


 みなさまが読後に♡をポチして頂く度に、私の動画資料研究(ただの逃避との声も)中の携帯にバナー表示されて、何度執筆に戻った事か数え切れません。


 この怠惰な私が、これまで毎日投稿出来たのは、みなさまの♡ポチの賜物なのです!


 さて、過ぎゆく2021年の年の瀬を、どうかごゆるりとお健やかにお過ごし下さい。


 また、年明けの投稿でお目に掛かれますよう、楽しみにしております。


 みなさま、どうか良いお年を!

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