第89話 婚礼 その2

 その後俺は、お嫁さん達と誓いの儀を行い、それぞれの左手の薬指に指輪をはめて、口づけを交わした。

 もともと指輪をはめていたサーシャやエリクシア達も、新たに魔力を込めると、創生の水晶が祝福を込めて小さな紫水晶の結晶を、それぞれの宝珠の両脇に添えてくれた。


 サーシャには、ブルーダイアの宝珠。

 エリクシアには、アメジストの宝珠。

 ヴァイオラには、ブラウンダイヤモンドの宝珠。

 オリヴィエには、ルビーの宝珠。

 ミシェルには、エメラルドの宝珠。

 クロシェットには、イエローダイヤモンドの宝珠。


 それぞれの宝珠は神力を纏っており、紫水晶の粒からも何か神聖な力を感じられる。


 するとアフロディーテが神力を解き放ち、黄金の指輪を作った。


 「ダーリン♡ この指輪は『支配の指輪』・・・」


 「おい!」思わず突っ込んでしまった。


 「ふふふ、ごめんなさい。冗談よ♡

 この指輪は、守りの指輪よ。

 私達お嫁さんの愛を集め、愛に応えて、きっとダーリンを守ってくれるわ♡」


 アフロディーテが指輪をはめようとすると、創生の水晶が光って、指輪の内側に水晶で文字を刻んだ。


 「あら、神聖文字でこう彫ってあるわ。『愛の指輪』ですって。」


 そして指輪にキスをして、アフロディーテは俺に『愛の指輪』をはめてくれた。


 お嫁さんたちとの誓いの儀が終わると、創造神様が立ち上がった。


 「七瀬冬馬とその妻たちに祝福を!

 子を生し、育み、そして七瀬冬馬の血統を遍くこの世界に!」


 創造神様の祝福が創生の水晶で増幅されて、星々に木霊すると、お嫁さんたちの指輪の宝珠が輝き始めた。


 「我、商業神たるメルクリウスは、七瀬冬馬とその妻達を祝福する!

 そして、アントナレオの娘たるオリヴィエに、我が加護を授けん!」


 商業神メルクリウス様が立ち上がり、俺達を祝福してくれた。

 そして、オリヴィエに加護を授けると、オリヴィエは嬉しそうに跪いてメルクリウス様の加護を受けた。


 「我、戦と農耕の神たるマーヴォルスは、七瀬冬馬とその妻達を祝福する!

 そして、黄金の戦姫たるエリクシアに、我が加護を授けん!」


 続いてマーヴォルス様が立ち上がり、俺達を祝福してくれた。

 そして驚いた事に、エリクシアにその加護を授けてくれたのだ。


 エリクシアはそれに驚きつつも、畏まってマーヴォルス様の加護を受けた。


 「妾はミナーヴァ。知恵と戦争と芸術の女神であり、そして医師と医療を司る女神でもある。妾は七瀬冬馬とその妻達を祝福する!

 そして、銀狼の母サーシャと白虎のセレナ、麗しのヴァイオラに妾の加護を授けん!」


 続いて祝福を下さったのは、千の技能の女神たるミナーヴァ様だった。

 サーシャとセレナとヴァイオラは驚きながら、跪き加護を受けた。

 セレナはお嫁さんじゃないんだけど、まっ、家族が神様の加護を得られて嬉しいし、いっか!


 「我は火と鍛冶の神、ウルカヌスである!我は七瀬冬馬とその妻達を祝福する!

 そして、七瀬冬馬とオリヴィエに我が加護を授けん!」


 続いて山〇のボトルを片手にウルカヌス様が立ち上がって、俺達を祝福してくれた。

 俺に向かって半分になったボトルを振って見せて、いたずらっぽく笑っておられた。


 俺とオリヴィエは跪いて、火と鍛冶神の加護を受けた。


 「妾は運命の女神フォルトゥーナ。妾は七瀬冬馬とその妻達を祝福する!

 そして、七瀬冬馬の妻達と白虎のセレナに加護を授けましょう!」


 続いてフォルトゥーナ様が俺達を祝福し、そしてお嫁さんたちとセレナに加護を授けてくれた。


 お嫁さんたちとセレナは一斉に跪いて加護を受けた。


 「最後はオラだな。オラはファウヌス。牧神であり、農耕神でもあり、そして財宝の守護者でもあるんだな。オラは七瀬冬馬とその妻達を祝福するだべ!

 獣人の守護神でもあるオラは、銀狼のサーシャと白虎のセレナに加護を与えるべ!

 そんで、七瀬冬馬には財宝を与えるんだべ。」


 最後はファウヌス様が立ち上がって、俺達を祝福してくれた。

 俺とサーシャとセレナは、畏まってファウヌス様の加護を受けた。


 すると創造神様が再び進み出て、優しく語り始めた。


 「ミシェルよ、我が娘アフロディーテに代わり、汝に褒美を授けよう。

 よくぞ我が娘の神託を成就させた。

 その褒美として、汝に神聖魔法の奥義を授けよう。

 汝の家族と世の人の為に使うが良い。」


 「創造神様。アフロディーテ様。感謝致します。」


 ミシェルは深く跪いて、創造神様に感謝を捧げた。


 「さて、クロシェットよ。そなたにはフォルトゥーナが加護を授けたが、そなたにはとの特別な縁がある故、我が神族はあまり干渉できぬのじゃ。許せよ。

 だが、我等神族は等しく七瀬冬馬の妻たちを祝福しておる事を知るが良い。」


 創造神様が優しくクロシェットに語り掛けた。

 するとベルちゃんがクロシェットから飛び上がって、創造神様に対面した。


 ベルちゃんは感情の抜けた表情で、神威を発しながら創造神様と何か無言で語り合っている。


 「ふぉふぉふぉ!相変わらずに手厳しいのお。

 じゃが、これも我等の認知が及ばぬ、因果律のもたらした悪戯なのかもしれないのぉ。

 いずれにせよ、我等の縁はこうして結実した。

 今はそれを寿ごうではないか。」


 再び創造神様とベルちゃんは黙って見つめ合って、そして満足そうに頷いた。


 「さあ、世界よ、星々よ!七瀬冬馬とその妻達を今一度祝福し、別れの時と致そう!」


 創造神様は両手を広げて水晶の間に集まった人々の起立を促し、そして高らかに宣言した。


 「星の子ベルトーマ万歳!世界に遍くその名を知らしめよ!」


 「「「「「「「ベルトーマ万歳!」」」」」」

 「「「「「「「「ベルトーマ万歳!」」」」」」」


 神々がそれに唱和すると、水晶の間に集まった人達もそれに唱和した。


 神々と人々の祝福を創生の水晶が増幅し全宇宙に拡散させた。

 するとドームの星々が祝福の光を降らせて、俺達を祝福してくれた。

 星々の祝福の光は、お嫁さん達の首元に集まって、光のネックレスとなり、紫水晶の宝珠の中に、光でバラの花を模った、銀のネックレスとなった。

 セレナも自分の胸元に形を成したネックレスに驚いている。


 俺達が星々のプレゼントに驚いていると、神々が天界に昇って行かれた。


 俺達は皆再度跪いて、神々を天界に送った。

 

□□□ 戦士長バルド


 一体どれくらい時間が経ったのであろうか・・・。

 奴らに闇の中に引き摺り込まれて、この空間に連れてこられた。

 

 闇の中で四肢を鎖で縛られ、ひたすら鞭で打たれた。


 奴ら、俺を殺さないよう延命しながら拷問をし続けてる。

 しかし、俺だって苦痛との付き合い方は、兄貴から散々仕込まれている。

 意識を肉体から切り離し、冷静に肉体の苦痛を俯瞰するんだ。よーし、まだやれる。


 「・・・この男、自分の苦痛には耐性があるか・・・」

 「・・では、他の手を・・・」


 暫く鞭打つ手が止まった。

 少しでも、体力を回復させぬば。

 俺は目を閉じて、呼吸に意識を集中した。

 

 暫くして、闇の中の気配に怯え、いや恐怖が広がった。


 小さな灯りが灯された。


 「・・・あなた・・・」


 「むっ!クロエ!」


 裸にされたクロエが、闇から吊るされた鎖で両手を高々と縛られている。

 美しいかったクロエの体中に、無残な拷問の跡が見て取れた。


 くっ!クロエの自慢だった耳と尻尾が切断・・・!尻尾は引き千切られたのか!・・傷口からは、まだ血が滴っている!・・クロエ!


 「・・・さあ、話して貰おう・・・」

 「・・・この女の事を・・・」


 そう言って、人で無しどもは銀狼の少女の映像を投影した。


 銀狼種自体希少種なのだが、この少女には見覚えがない。

 どこか兄嫁ねえさんと似ているが・・・。

 だがサーシャとは歳格好が違いすぎる。


 「知らんと何度も言ってあるではないか!いい加減にしろ!」


 「・・・では、お前の妻が拷問されるのを見ていろ・・・」

 「・・・話したくなったら、話せ・・・」


 「止めろー!クロエには手を出すなー!」


 「あ゛––––!」


 奴等は俺の頭を固定し、瞼も閉じないよう器具で固定して、クロエを拷問する一部始終を俺に見せつけた!


 「クロエ・・・!殺してやる!お前らみんなコロシテヤル!」


 手足の爪を全部剥がされ、両手の末節骨をペンチで粉砕されたクロエは、気絶する事も許されず、只々激痛を反芻させられている!


 「お願いだ!もうやめてくれ。クロエが、クロエが死んでしまう!」


 「・・・この女の事を話せ・・・」


 「本当に知らないんだ!もう、やめてくれ・・・」


 「・・・この女の生皮を剥ぐ・・・」

 「・・・どこまで耐えられるか・・・」


 「止めろー!この畜生共ー!殺してやる!必ず殺してやる––!」


 「・・・あ・な・た・・あ゛––!」


 俺は全身の魔力を暴発させて、鎖と縛を破壊しようと暴れたが、全身の魔力が鎖に吸収されて、鎖を引きちぎる事が出来ない!


 「・・あ・な・た・た・す・・」


 「クロエ––––!ガッ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・」


◆◇◆◇◆


 バルドの背後の影が、バルドの後頭部に手を当てて、一気に魔力を流し込んだ。

 

 バルドは、クロエの断末魔の声を聞き、動揺したその瞬間を狙われ精神魔法によって支配されてしまった。


 「・・・如何ですか、マスター・・・」


 バルドに精神魔法を掛けたのは、『指』だった。


 「・・・本当に何も知らんようだ・・・」


 「・・・では・・・」


 「・・・ああ。罠の餌として使え・・・。息子はアノ計画に利用しろ・・・」


 「「・・・ご尊命、承りました・・・」」


 

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