第19話 黄金のエリクシア

 俺とサーシャは、商館の2階の豪華な応接室に通された。バルガーム・パシャは店の者に指示を出してくると言って、部屋を出て行った。

 バルガーム・パシャと入れ代わりに入って来た少女を見た瞬間、部屋の中が急に明るくなったのかと錯覚してしまうほど美しい、黄金色に輝く少女だった。


 その少女は明るく輝く黄金の髪を綺麗に編み上げ、ノースリーブの白いドレスから覗く白い手は、白磁の様に繊細で、触れてしまったら壊れてしまいそうな程の儚げな美しさだ。見事に大きく盛り上がった胸元は、上品なレースで覆われ、その胸を強調する様にキュっと細くくびれた腰には、綺麗なロイヤルパープルの帯が巻かれ、彼女のアメジスト色の瞳に良く似合っていた。


 ティーセットのワゴンを押しながら入室して来た彼女は、惚けた表情でガン見している俺を見て、クスッと微笑んでお茶の用意を優雅な手つきで始めた。


 「イテッ!」


 あんまり見とれていたせいか、頬をプックリ膨らませたサーシャに太腿をつねられてしまった。

 そんなサーシャもとっても可愛い!イテテ、ユルシテ。

 思わずプックリと膨れたサーシャの頬を、プスプス指で突いてしまったよ。


 黄金の髪の少女が、お茶をソファーの前のテーブルに置いてくれた。所作の一つ一つが流れるように優雅だ。

 お茶の香りに紛れて、金木犀の香りが舞っている。彼女の香りだろうか?心が安らぐ香だ。

 俺はフルーティーな香のお茶に口をつけると、バルガーム・パシャが戻って来て、俺の対面に腰を下ろした。


 彼は手に持って来た小箱を開けると、中から台座に乗った子供の拳程の透明な玉を取り出した。

 そしで台座の模様に指を触れて、何か呟くと透明な玉が微かに光りだした。


 「さっ、これで直接話せますな。」


 耳に聞こえる声とは別に、直接バルガーム・パシャの声が頭の中に響いて来た。サーシャにも同じく頭の中に声が届いた様で、驚いた表情を俺に向けている。


 「驚かれましたかな?これは一つ先ほどのお返しと言う事で。」


 バルガーム・パシャはそう言うとニヤニヤしながらお茶に口を付けた。ニャロメー!


 「これは言葉を通訳する魔道具です。色んな国のお客様と取引きがあるので、これがあると中々便利なのですよ。これは後程ナナセ様に差し上げます。」


 やっと剣と魔法の世界らしくなって来たな!


 「それではまず先程命を救ってくれたお礼と、この街まで送ってくれたお礼をいたしましょう。

 おい!持ってきなさい。」


 バルガーム・パシャはそう言って手を叩くと、ドアがノックされ、金色の髪の少女がそれに応対し、ベルベットの巾着袋をトレーに乗せて戻り、それをバルガーム・パシャの前に置いた。


 「これがそのお礼になります。白金貨で20枚ございます。我らの命をお救いいただき、深く感謝いたします。どうかお納め下さい。」


 パルガム・パシャはそう言って頭を深く下げた。彼の後に控えて立っていた黄金の髪の少女も、バルガーム・パシャに合わせて美しい所作で頭を深く下げた。


 「正直に言って、俺にはこれがどれ程の価値なのか全く分からない。何せこの国の金さえ見た事がないんだ。だが、バルガーム・パシャが収めて欲しいと言うのであれば、ありがたく収めよう。」


 俺はそう言って、白金貨の袋を中身も見ずに個人ロッカーに収納した。


 「ナナセ殿はインベントリーの魔法もお使いになるのか?」


 バルガーム・パシャは俺に尋ねた。


 「いや、俺は魔法が全く使えないんだ。だが、代わりにいくつか便利なスキルが使える。さっきの乗り物なんかもそうだ。」


 「それは素晴らしい。スキルを一つでも使えれば、もうそれだけでも人生が有利になるというのに、こんなに便利なスキルを複数おもちだとは。ナナセ殿は神の寵愛を厚くお受けなのだな。」


 そう言って、バルガーム・パシャは笑った。

 初めてこいつの笑った顔を見たな。


 「それでは大分遅くなってしまいましたが、夕食にしましょう。ささやかながら、我が故郷の料理も用意させました。お口に合うとよいが。」


 バルガーム・パシャはそう言って魔道具を持ちながらソファーから立ち上がろうとして、ふと黄金の髪の美少女に目を止めた。彼は何かを思いついたようで、俺に振り向いてこう告げた。


 「ナナセ殿、この娘を紹介しましょう。

 名はエリクシア。17歳の人族で、処女です。

 剣術と魔術のスキルを持っており、風と水の魔法を操ります。

 御覧の通りです。」


 エリクシアと紹介された少女は、一歩前に進み、軽くワンピースの裾をつまんで優雅にお辞儀をした。カーテシーって言うんだっけ?

 俺はますます少女の魅力に虜にされていくのが自分でもわかった。彼女の一挙手一投足から目が離せない・・・。

 これが本当のボーイ・ミーツ・ガールってやつなのか?都市伝説だとばかり思ってたよ。金色の微笑みに、胸のドキドキが止まらない。人はこうして恋に落ちてゆくものなのか・・・。


 サーシャが「ムーッ!」と膨れながら、俺の太腿を強くつねってきた。サーシャさん、痛いです。皮膚だけつねるのは、ヤメテクダサイ・・・。


 でも、俺は今の紹介で嫌でも現実を突きつけられてしまった。これまでは、目に写っても見えない振りをしていたんだ。彼女の首にはまっている、彼女に不釣り合いで無骨な。やっぱ奴隷の首輪ってやつですかね。


 「エリクシアにはこの国の通貨の説明も含めて、明日この街を案内させましょう。

 良いな、エリクシア?」エリクシアは優雅に首を縦に振った。


 「バルガーム・パシャ、ありがたい申し出だ!感謝するよ。」


 俺は決して彼女とデートできると喜んだわけではない!決してだ・・。

 俺はにやけそうな頬を何とか抑えて、何か恐ろしい気配を発しているサーシャから必死に顔を逸らした。サーシャの強烈なプレッシャーに俺は思わず一歩足を引いててしまったよ。

 なんかサーシャがコワイデス。

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