第36話 月下の花嫁

 オークのコロニーを壊滅させた後、俺達は更に黒き森の深層を目指して歩き続けた。森に入ってから七日目も終わろうとしている。

 昨日から、森の様相は一変していた。これまでも大きかった巨木がさらに巨大になり、そして、地面は全面が分厚い苔に覆われて、巨木の幹の中頃までもびっしりとその苔で覆われていた。

 そして上を見上げれば、巨木の枝葉に覆いつくされ、空はもはや見る事も叶わなかった。

 

 そして、この森の深層部は空気が違っていた。


 昨日からずっとこの森の深淵には、漫然とした敵意で満たされており、敏感なサーシャはこの森を覆う敵意に満ちた気配に怯えていた。


 「ベルちゃん、そろそろ今晩の野営地を見つけたいんだが、どこか適した場所はないかな?」と尋ねた。


 「ここから北北東に200メートル進んだ場所に泉があります。ここから半径5キロメートル以内で野営に適した場所はその一か所だけです。」


 「分かった、ありがとう。さあ皆、そういう訳でもう一頑張りしようか!」と俺は皆を励ます。


 マップを確認すると、黒き森の中心まであと一日程度の距離だった。そう、あともう少しで運命に手が届く!


◇◇◇◇◇


 ベルちゃんが示した泉に到着した。

 そこは、何と言ったらいいのか・・・そうシ〇神の泉、正にその神々しい泉が目の前にあった。

 そんなに大きな泉ではないが、この泉の上だけは木々が遠慮しているように空が覗いており、既に夕日が沈みかけているのであろう空からは、茜色の光が泉に差し込んでいる。

 ここだけはほっと気を休められるような穏やかな雰囲気に満ちており、先ほどまで感じていた敵意は微塵も感じなかった。


 「トーマ様、ここはホッとします~。」そう言ってサーシャは泉の畔に腰を下ろした。


 「本当ね。」エリクシアも同じ気持ちなのか、88式鉄帽テッパチを脱いでサーシャの隣に腰を下ろした。


 「じゃ、みんなも気に入ったようだから、今日はここで野営しよう。」

 

 俺はそう言って、泉から少し離れた平らな苔の上に宿営用天幕テンちゃんを出して、ペグを打ちテントを固定した。

 そして、テント中にエアマットを並べて、シーツとタオルケットを出してベッドメーキングした。サーシャとエリクシアに気持ちよく寝てもらうためには、俺は労を厭わないぜ!

 俺がエアマットの上で、シーツに包まりゴロンゴロンしてると、テントの入り口からエリクシアが顔を覗かせて、俺に声を掛けてきた。


 「ねえ、トーマ様。一緒に水浴びしませんこと?」


 エリクシアはニッコリ笑いながら、俺に手を伸ばして誘っている。俺はエリクシアの手を取りながら「いいけど、サーシャは?」と尋ねた。するとエリクシアは指を唇に当てながら思案して、そしてこう答えた。


 「サーシャちゃんは、えーと、疲れたので先に休むそうです・・・・・・。ごめんなさい、嘘を付きました。

 本当は、お嫁さん会議で皆にお願いして、今晩はトーマ様を独り占めにさせてもらったんです。

 二人だけなのはお嫌ですか?」


 俺は全力で首を左右に振った!「全然!」首がポキポキ鳴った。

 エリクシアは柔らかく微笑みながら、俺の手を引いて泉の畔まで俺をいざなった。


 エリクシアは泉の畔に立つと、黙って自分の装備を脱ぎだして、全てを倉庫に回収して行った。そして一糸まとわぬ美しい裸体を惜しげもなく晒しながらこう言った。


 「トーマ様も黙っていないで、さっ、お召し物を脱ぎましょう。」


 そう言ってエリクシアは俺の胸に手を触れて、俺の装備を外していった。

 そして、俺の全ての装備を外して倉庫に回収すると、エリクシアは俺の胸に自分の胸を軽く触れさせながら、自分の綺麗に編み上げた金髪を解き始めた。

 ああ、金木犀の爽やかな香りがする・・・。

 

 俺はエリクシアの細い腰に手をそっと回して、エリクシアが髪を解き終わるのを見つめていた。

 俺の全神経が、エリクシアの胸が押し付けられている俺の皮膚に集中している!!

 ドント・シンク!ヒィール・イット!!


 エリクシアは黄金の微笑みを浮かべ、俺の手を取り泉の中に二人で入って行った。

 泉の水は腰ほどの深さで、少しひんやりと感じたが、火照った体には心地よかった・・・。


 俺とエリクシアは泉の中央で、お互い激しく唇を求めあった。

 

 静かな波紋が二人の周りに広がる・・・・。


 いつの間にか昇った二つの月が、泉の中の二人を照らし、エリクシアの体を銀色の光のベールで包み込んだ・・・。

 エリクシアの身体は、狂おしい程に美しかった。


 俺はエリクシアの手を取り、そっとエリクシアを泉の中央の小島へ誘った。

 エリクシアを分厚い苔の絨毯に横たえ、そして優しく体を重ねた。


 「エリクシア、良いのかい?」アメジストの瞳を見つめながら尋ねる。


 「はい、トーマ様。明日の事は運命の女神フォルトゥーナしかあずかり知らぬ事。

 もし、死ぬのが定めなら、この身にトーマ様の愛の証を刻みつけてから死にとうございます。

 もし、生きる定めなら、この地でどうかお情けを下さいませ。この地で授かった命なら、きっと強い稚児ややことなりましょう。

 愛しております。トーマ様・・・。」


 そして俺達は唇を重ね、そして永久の契りを二人の肉体に刻み付けた。


□□□サーシャ


 トーマ様とエリクシアさんが手をつないで泉の中へ入って行くのが見える。

 二人の慈愛の心が泉に溶け出したように、月の光が二人を染め上げて水面に広がるさざ波と一緒に広がっていく・・・。


 激しくお互いを求めあう二人を見ていると、何でだろう胸がキュンキュン痛む。私は二人から顔を背け、テントの中に戻ってエアマットに倒れ込んだ。


 「よくエリクシアちゃんにマスターの事許しましたね。」


 ベル様が尋ねてきた。


 「サーシャはまだ幼いから、トーマ様のお子を孕めません。ですからエリクシアさんにトーマ様の一番をあげました。

 でも、魂の契りはサーシャが一番なのです。私が一番最初なのです。だから、それさえ忘れなければ、どんなことだって耐えられます・・・。」


 あれ、おかしいな・・・目から涙がこぼれてくる。

 私がタオルケットに顔を埋めていると、ベル様が私の頭に乗って頭をやさしく撫でてくださった・・・。


 「優しい子よ。あなたのその思いは必ず実を結び、あなたの花園は花で満たされ実を結びますよ。そう遠くない未来に・・・


 ・・・・・・・ああっ、星の旅人よ!万歳!!」


 ベル様はピンク色の光を発したかと思うと、突然お隠れになられた・・・。


―――――


 翌朝、俺とエリクシアは泉の小島で目を覚ました。


 昨夜、俺は何度もエリクシアの中で果て、エリクシアは悦びの涙を流した・・・。


 俺達は昨夜裸で抱き合ったまま、苔の絨毯の上で眠りに落ちた。

 俺は俺の胸に顔を埋めて寝息をたてているエリクシアの頬を軽く指でなぞり、そのまま首筋から背中、脇腹へと指を這わせていった。

 も、もう少しで横チチに・・・た、堪らんっ!


 「ふふふっ。くすぐったいです旦那様。」エリクシアがアメジスト色の瞳を開くと、エリクシアが黄金の光を纏ったように輝く。旦那様って・・・なんか興奮するな!

 モーニングスタンダップしてるマイサンが、エリクシアにトントンして、おはよーしている。フフフ、ヤンチャモノメ!

 「あら、まあ」エリクシアはそう言って、愛し気に優しい手つきでマイサンを撫でまわしてくれる・・・・。


 「海の~声よ~♪空の声よ~♪ラララ~ラララ~♪・・・」


 「あら、旦那様を独り占めにできる時間はもうお仕舞みたいですね。」エリクシアはニッコリ微笑んでそう言った。本当にいい女だな~。今更ながらだけど、よく俺なんかに惚れてくれたものだ。


 俺はエリクシアに軽くキスをしてから、身を起こした。


 「ちがーう!こうだ! 海の~声よ~♪空の声よ~♪ラララ~ラララ~♪」歌いながら、俺はエリクシアの手を引いて、泉の中で水浴びしているサーシャの元に近づいて行った。

 それから俺達は、泉の中でキャキャと水浴びを楽しんだ。1/12ツルペタベルちゃんもすぐに参戦してきた。


 早朝の泉は急に賑やかになり、祝福するように黄金の朝日が泉の中で煌めいていた。

 暖かな黄金の光が、俺と俺の家族を包んでいた。

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