第53話 愚者の饗宴 その1

 昨晩俺はエリーゼの体に溺れた。

 自分の体が溶けて、エリーゼの体と一体になる。そんな快楽に溺れた。


 そんな幸せの余韻を含んだ俺の眠りを覚ましたのは、ベルちゃんだった。


 「天誅――!」ベルちゃんの掛け声と共に、腰に掛けられたエリーゼのシルクのガウンで威容を誇っているマイ・チョモランマに、ベルちゃんのドロップキックが炸裂した!


 「イテー!」俺の胸に体を預けて寝ていた裸のエリーゼまで起こしてしまったじゃないか!


 「悪い子はいねーがー!

 いた!こいつだ!こいつだ!」


 ベルちゃんパンチがマイサンのサミットに炸裂する!


 「うがー!」俺はレッドオーガの断末魔の叫びの様な悲鳴を上げていると、天使たちが苦笑いを浮かべながら入室してきた。


 「ベル様、もうそれくらいで許してあげましょう。」


 サーシャが笑いながらベルちゃんの止めに入ってくれた。

 しかし、ベルちゃんのデンプシーロールがフィニッシュブローを決めた!


 「ウゴッ!」俺は股間を押さえて絹のマットに沈んだ。


 「旦那様。エリーゼ様。おはようございます。」


 エリクシアはキラキラ光る笑顔で、マイサンにアクアヒールを掛けてくれた。

 よし、これで我が軍はあと十年は戦える!


 セレナもニコニコ笑いながらシロを抱いて入室してきたので、これで家族がみんな揃った。


―・―・―・―


 俺達は隣の豪華なリビングで一緒に朝食を取った後、皆でソファーに寛いでいた。そこへカテリナ婆さんが入室してきた。


 「おやおや随分賑やかだねえ。」


 そう言って婆さんはソファーに腰掛け、エリーゼの表情を見ては何か満足そうに頷いた。

 それを見たエリーゼは、赤面して俯いた。


 「ところでナナセ様、お前様に面会したいとスティバノの若旦那が使いをよこしたんだが、どうなさるね?良かったら昼前にここで会いたいとの事だったよ。」


 婆さんは、持ってきた小さな人形をセレナに渡しながら俺に尋ねた。


 「ああ、あの男か。俺も聞きたいことがあるから、これから来るよう伝えてくれないか?」


 そう答えながら、俺は紅茶を一口啜った。


 「はいよ。お安い御用さね。」


 そう婆さんは答えて、俺達の朝食を下げに来た禿に伝言の指示をだした。

 そして、改まった雰囲気で俺に向き直った。


 「それでナナセ様。アネモネの新しい名前をお聞かせくだされ。」


 婆さんは真剣な眼差しで俺に問いかける。

 俺はエリーゼに向き直って、エリーゼの手を取り優しく告げた。


 「君の新しい名はヴァイオラ。俺の故郷に咲くスミレの花の名前だよ。その花には『誠実』と『信頼』って意味があるんだ。どうだい、もらってくれるかな?」


 「はい。ご主人様。謹んでお受けいたします。」


 ヴァイオラは涙を一粒零しながら、可憐な笑みを浮かべて答えた。


 カテリナ婆さんの目にも涙が光っていた。


―・―・―・―


 その後しばらく俺達と寛いだ後、カテリナ婆さんは仕事に戻って行った。

 それとすれ違うように、禿がスティバノの来訪を告げ、部屋に案内してきた。


 「いやーナナセ殿。この度は助かりました!」


 入室早々この長身の男は明るい声でそう切り出した。


 「どうやら上手く行ったようだな?」


 そう言って俺はスティバノに席を勧めた。

 ヴァイオラが手で禿を制して、自分で皆の分の紅茶を入れてくれた。これからは俺の家族として振舞いたいのであろう。

 

 「それはもう!いやー、出てくるわ出てくるわ!ゲルフの供述、騎士団がどうやって口を割らせたかは尋ねませんがね、奴の供述と奴の商館から出てきた隠し帳簿を徹底的に調べて、この街に張りめぐらされたセントニアのスパイ網を一網打尽にできました。

 まあ、お陰様でこの三日間は一睡もできてないのですがね!は、ははは!」


 どうやら徹夜明けのハイテンションってヤツなのか?


 「おかげでアネモネ嬢の身請け道中を見逃してしまいましたわ!ハハハ!

 しかし、この成果にはプロセピナ侯爵閣下をはじめ、小都ティアナのジョヴァンニ小王陛下も大変満足しているとの事です。」


 「ん?ティアナのジョバニ・・・」


 その時、スティバノの配下の者が慌ただしく入室してきて、何かをスティバノに耳打ちした。


 「何ですって!セントニア国軍三万が対岸のビザーナの街郊外に集結して、ゲルフ一味の身柄とナナセ殿の引渡しを要求してきたですって!」


 サーシャとエリクシアは静かに俺を見つめ、ヴァイオラとスティバノは心配そうに俺を見つめている。

 セレナとシロはお構いなしに人形で遊んでいるか・・。

 

□□□セントニア国軍司令官トゥール・フォン・アンドエル軍務卿


 「使者はどうか?」

 

 ビザーナの街郊外の小高い丘の頂に設置した、懲罰軍一万八千の司令部で、私は隷下の参謀や軍団長たちを前にして副官に尋ねた。


 「は、現在プロセピナの川港沖に停泊してプロセピナ侯爵からの返答を待っております。回答期限まで後四十五分となります。」


 「プロセピナ側が我らの要求に応じなかった場合、如何なさいますか?軍務卿司令官閣下。」


 アルビンツェ領軍の軍団長が尋ねてきた。


 「我が国の忠良な臣民を不当に逮捕し、ナグルトの大虐殺の大罪人を匿っているのだ、高貴なるプロセピナ侯爵ならば我等に協力し、速やかに引き渡してしかるべきではないのかね?

 万が一拒否しようものなら、オキシデンテ諸国中に侯の不義・不正を広め笑いものにしてくれよう。

 かの目障りなプロセピナの街に然るべき制裁を加えた上で!

 参謀長、どうか?」


 「はっ!軍務卿司令官閣下の御慧眼、誠に恐れ入ってございます。プロセピナ侯も必ずや恥じ入り、相応の賠償を持って両者を差し出す事でしょう。

 もし侯がこの様に明白な理を理解できないような、蒙昧の輩であったなら遠慮は必要ございません。我等が祖国より不当に略奪した富をプロセピナから奪還し、その正当なる持ち主である国王陛下に献上するだけであります。

 我等将兵は、軍務卿司令官閣下の正義の出帥に参加できる事、皆喜びに打ち震えております。」


 「叔父上!いや、軍務卿司令官閣下!ロナー川渡河の先陣は、是非我が第六軍団にお任せください!必ずや、金もうけに現を抜かしておるアラン連合王国の弱兵共を蹴散らし、真っ先に敵の領城に叔父上の軍旗を掲げて見せます!」


 「イヤ我が第二軍にお任せください」「いえ、ここは我がアルビンツェ領軍に!」

 

 皆が目前の勝利を渇望しておる!この戦勝ったな!


 「プロセピナ侯爵の返答を催促する為に、軍艦を更に六隻出港させよ!我が軍精鋭艦兵の鋼の様に鍛えられた練度を見せつけ、堕落したアラン連合王国の愚民共を震え上がらせてやるが良い!」


 「「「「はっ!」」」」



◇◇◇◇◇


 ホルトスとカテリナが顔を青くして部屋に飛び込んできた。


 「ナナセ様・・・。」


 俺はスティバノとホルトスとカテリナを順番に見渡してから語った。


 「セントニアでは、俺に直接危害を加えなかったアルビンツェ領軍や国軍には手出ししなかった。どうやらそれが間違ったメッセージを伝えた様だ。

 いい加減、奴らのしつこさにはうんざりするよ!

 だから今度は奴らに誤解しようのないメッセージを伝えてくる。

 三人にはすまないが、家族だけで話したいから席を外してくれないか。」


 三人が退室すると、俺はまずヴァイオラとセレナに向かって話しかけた。


 「いきなりこんな事になって、二人にはすまないと思っている。

 俺達はこれから自分たちの身に降りかかった火の粉を払うため、セントニアの軍勢を撃破する。

 当然自分たちの手を血で汚すことになる。

 だから二人には強要しない。

 俺と共に手を血で汚す道を選ぶか。それともここで別れるか。

 別れるなら二人の身が立つよう、十分なお金を残していこう。」


 「ご主人様!どうか見損なわないで下さいませ!

 私もセレナもご主人様と共に歩むことを誓いました。

 ご主人さまが修羅の道を歩まれるなら、私たちは黙ってご主人様の後を付いてまいります。」


 ヴァイオラはその決意を視線に込めて俺を睨みつけている。


 「ごしゅじんさま。私もねえ様についていきます。

 子供でも群れのためにできることをやるんです。」


 セレナはヴァイオラを服をつまみながら、真剣な眼差しで俺に群れの掟を語ってくれた。


 「セレナ、素晴らしいです!その通りですよ!

 皆一人一人が全力で群れの為に尽くす!

 そして群れは全力で皆を守る!

 これこそが私達獣人の正しい生き方なのです!」


 サーシャは高々と宣言した。サーシャさん、それ何の宗教すか?


 「旦那様、御心配には及びませんでしたね。

 ヴァイオラ様もセレナちゃんも既に立派な家族の一員ですよ。今更家族にそれは水臭すぎます。」


 エリクシアが優しく俺の腕に触れてくる。


 「すまなかった。ヴァイオラ。セレナ。

 これからも家族で助け合っていこう。」


 俺はそう言って膝を付き、ヴァイオラとセレナを抱きしめた。そして俺は二人にゆっくりと語って聞かせた。


 「俺はこの世に創造神様によっていざなわれた。その時、創造神様の祝福を受けてある特殊なスキル恩寵を得たんだ。

 それは俺の故郷の軍隊の強大な力を使えるというものなんだ。

 そして俺にはその力を俺が信頼した人間に分け与える事が出来るんだ。

 だから、二人にはどうか自分自身と家族を守る為に、この力を受け入れて欲しい。」


 「はい、喜んで!その力は家族の為に使います。」「私も群れの為に戦える牙が欲しいです!」


 俺は二人に頷いてベルちゃんにお願いした。


 「ベルちゃん!分隊長の権限で、ヴァイオラを3等陸曹に任官し、看護師の技能を付与する!それからセレナを2等陸士に任官する!よろしく!」


  [長瀬冬馬はワンマンアーミー『分隊長』の権限に於いて、固体名ヴァイオラを3等陸曹に任官しました。 固体名ヴァイオラは3等陸曹までの装備を使用する事が出来るようになりました。それに伴い、倉庫の使用権を分隊長から付与されました。

 また、看護師の技能を獲得しました。]


 [長瀬冬馬はワンマンアーミー『分隊長』の権限に於いて、固体名セレナを2等陸士に任官しました。 固体名セレナは2等陸士の装備を使用する事が出来るようになりました。それに伴い、倉庫の使用権を分隊長から付与されました。]


 さあ、お仕置きタイムだ!


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