第30話 ワンサイド・ゲーム
俺は
高機動車の車長席にはエリクシアがサーシャを抱っこして座っている。この二人、いつの間にこんなに仲が良くなったんだ?
そして後席には魔獣の皮、何の皮かは不明、で出来た皮鎧に身を包んだバルガーム・パシャと、こちらは大剣を背負ったイシュマルとカグファ爺さんが座っている。
後席でカグファ爺さんとイシュマルが子供の様にはしゃいでいるんだけど、ウルサイ!
バルガーム・パシャがそんな二人をニタニタしながら眺めている。誰しもが通る道なのかね?
時間はまだ、夕方には早いが、東の城壁には既に家屋の影が伸びていた。
[目標が捕らえられている建物まで誘導します。戦術マップのナビに従って進んでください。到着予想時刻16:45]
「後10分で目的の建物に到着する。到着したら俺の指揮に従ってくれ。それから俺が許可するまで、一切口を開くな。良いな?
何か質問は?」
「敵は何人じゃ?」「どうやって突入する?」「見張りはどうなってる?」「なぜ口をきいてはいかんのじゃ?」
三人は一気に質問してきた。そりゃ質問あるわな、作戦説明してないし、俺。
「ベルちゃん、敵は把握できてる?」
[敵は52名、倉庫内に集結しています。内見張りが2名、入り口で哨戒中。この街に居るサラマンド傭兵団全員がこの倉庫に集合しています。
敵の装備は、タワーシールド装備7、バックラー装備8、弓兵6、ソーサラー4、残りは剣士です。
子供たちは三人ずつ木箱に詰められて、倉庫の一番奥に積まれています。
倉庫内にはこれと同じ木箱が50積まれており、入り口から奥にかけて左右に分かれて蔵置されています。
目標の木箱は右側一番奥に段積みされています。]
「倉庫内の見取り図と敵の配置を見せてちょうだい。」とベルちゃんにお願いすると、左目の戦術マップに見取り図が映し出された。
しまった!運転の邪魔だったよ。
俺はベルちゃんからの情報をバルガーム・パシャ達に伝えてあげた。
状況から判断し、慎重な人質救出作戦を立案した。派手なヤツはこの次な!今回は自重しよう。
俺は皆に作戦を伝えた―――。
□□□サラマンド傭兵団副団長 オゴシュ
この街に来てから、ケチが付きっぱなしだ。面白くねえ!
バルガーム・パシャを待ち伏せに行ったゴロチ隊は戻って来ないし、代わりにバルガーム・パシャが帰ってきやがった!ひょとしてヤラレちまったのだろうか?だとしたら大損害だ!
今日市場へ脅しに行ったサッシュたちも、重傷を負って戻ってきたし。ガキにやられたなんて与太話は信用しないとしても、計画が何もかも上手く行かない。
そもそも初めからこのヤマは気に入らなかったんだ!
団長はダゴスの旦那と一緒にホーラントのド田舎に行っちまうし。確かに、あの計画がどんだけ価値があるかは分かっているが、俺ははなから傭兵団を分けて、こんな依頼をこなすのは反対だったんだよ!お貴族様が絡むとまったく碌な事にならないぜ!
しかもナグルトに来た俺の隊も二つに分けて、主力をゴロチに持っていかれる始末!本当に気に入らねぇ!
こうなったら、もう回りくどいやり方は捨てて、一気に目標を脅すことに決めた。この方が断然俺達らしいってもんだぜ。
街の中にいた根無し草共のガキどもを十一匹程かっさらってきた。人攫いは俺達の本業みたいなものだからな!ハハっ!どうってことねえぜ。
これで明日、根無し草共が市場から出て行ったら、ダゴスの旦那の手下たちに店を出させて、それでお仕舞だ。
後はこの根無し草のガキ共を奴隷としてダゴスの旦那に売っぱらって、このヤマのご褒美ってことにするのも名案かもな!
なーに、根無し草共との約束を守る奴なんて、どこにもいやしないし、誰も気にも留めないわさ!ハン!
どれ、根無し草共からの返事が来たら、馴染みの娼館にでも行って楽しんで来るか。今日はどの女にしようか・・・。
◇◇◇◇◇
俺達は目的の倉庫から一ブロック離れた場所で高機動車を降り、倉庫に回収して目的地に向かってた。わざと一本裏の道を回り込んで進んだ。
裏通りの路地を曲がり、倉庫の有る表通りに出る曲がり角で最終確認を行った。
ベルちゃんの情報通り、二人の男が倉庫の前で警戒している。剣を腰に下げているが、椅子に腰を下ろしてだらけている。
距離50メートル。
俺はサプレッサーを取り付けたMP7を構え、ドットサイトを覗き込んで男の頭に照準を定めた。
「プシュ、プシュ」
MP7の発射音と共にサーシャが全速でダッシュする。
サーシャは一瞬で50メートルの距離を駆け抜け、椅子から男たちが崩れ落ちるのを抑えた。
そして倉庫入り口の気配を確認してから、「クリア」のハンドサインを送ってきた。
俺達は無言のままで「前進」とハンドサインを出し、静かに倉庫の入り口まで移動した。
俺達が倉庫の入り口にたどり着くと、サーシャは哨戒に立ってた男達を倉庫の壁際に横たえていた。
そしてサーシャは
俺が入り口の引き戸に手を掛けて、門扉に鍵が掛かってない事を確認した。良し、予想通りだ!
俺はカウント3のハンドサインをサーシャとエリクシアに出す。
3・2・1
『ヤレ』
俺はバルガーム・パシャに合図のハンドサインを出すと、奴が素早く門扉を横に引いて1メートル程度の隙間を開けた。
俺とエリクシアは扉が開くと同時に、スタングレネードをその隙間から倉庫の中に放り込んだ。
「バーン、バーン」
グレネードの炸裂音と共にサーシャ、俺、エリクシアの順で倉庫内に突入して行った。
突入すると、倉庫内の敵の殆どが床に倒れてのたうち苦しんでいる。屋内の閉鎖環境で、100万カンデラの閃光と、180デシベルの爆発音が傭兵達を襲ったのだ。こうなって当然だ!
俺とサーシャは素早く中央通路の敵を排除しながら前進し、エリクシアは入り口付近で倒れ悶えている敵を排除していった。
俺は左目の戦術マップに表示されている赤いマークを確認しながら、木箱の陰に潜んでいる敵に不意を突かれない様、お互いにカバーしつつ敵を制圧し続け、倉庫の一番奥の開けた空間まで前進した。
そこには、スタングレネードの衝撃から回復していないが、俺とサーシャに向かって剣を抜こうともがいている男が数人いた。俺はMP7を素早く連射し、立ち上がろうとしていた男を全て排除した。
その間、サーシャは未だ床で苦しんでいる敵に、容赦なく銃弾を浴びせ続けた。
床でもがいていた敵の中に、銀の胸当てを付けた男がいたが、俺に気づくこともなく、MP7の4.6mm弾を撃ち込んで沈黙させた。
「クリア」「クリア」「クリア」
俺とサーシャとエリクシアは敵の制圧を確認し、状況を終了した。
「状況終了!サーシャとエリクシアは倉庫の入り口で哨戒。衛士達が来たら、迎撃しろ。」
「「了解」」二人は倉庫の入り口まで駆け戻って行った。
「イシュマール!」俺はイシュマルを呼び、子供たちを箱から救出させた。
箱から助け出された子供たちは、皆泣きながらカグファ爺さんに抱き着き、バルガーム・パシャとイシュマルでなだめながら、十一人全員無事に救出した。
[人攫いを討伐しました。功績ポイントを2,600 ポイント獲得しました。功績ポイント:4,907 →7,507 ポイント]
[サラマンド傭兵団副団長オゴシュを討伐しました。功績ポイントを500ポイント獲得しました。功績ポイント:7,507→8,007 ポイント]
[功績ポイントが合計8,007 ポイントになりました。3等陸曹に昇級出来ます。昇級しますか?]
「よし、昇級お願いします!」
[七瀬冬馬は3等陸曹に昇級しました。昇級した事により次の装備が使用可能となりました。また、看護師の技能を取得しました。
「110mm個人携帯対戦車弾」
「*各弾薬x1」
「輸送防護車(ブッシュマスター)」
以上です。功績ポイント:8,007 →2,507 ポイント]
よし、これで皆を安全に脱出させる手立てを手に入れたぞ!
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