第7話『ギルドの受付嬢に相談』

 俺たちはなんとかして村へ客を呼ぶために努力をした。

 なかなか結果がでなかった。


 商売は、一筋縄にはいかないものだ。

 打開策を探るため俺たちは王都の中央ギルドを訪れていた。



「ユーリさんじゃないですか! 元気にしてましたか?」


「おう。アルテ。ちょっと相談があってな。購入した廃村の件なのだが・・・(中略)・・・かくかくしかじかでな?」


「……それは。なかなか……厳しい状況ですね」




「だろ? なんと客、ゼロ。うん。そうなんだ。まだ一人も客を呼べてないんだ――自慢じゃないけど」


「……本当に自慢じゃないですね」


「うん。……泣きたい」


「ユーリさん。本格的に私のヒモになることを検討してみてはいかがでしょうか? 職が見つかるまではせめて……」




 自分で言っていても辛くなるが、事実だ。

 だけどな。アルテ。俺は大丈夫だ。



 金はなくても――意地はあるッ!!

 まぁ、だからなんだって。話だけどな?!





「辛いですね、ユーリさん。あまり気を落とさないでください。商売なんてそんなものですよ」


「思ったより、厳しかったな。なかなかスローライフとはいかねぇもんだなッ。ははっ」



 ……笑っている場合ではないが?

 

 

「ギルドの受付をしていると、引退した元冒険者のことが自然と耳に入ってきます


「ほう」


「ユーリさんと同じように、第二の人生で新しい商売を始める方も多いのですが、なかなか?」




「俺以外にも商売を始める奴は多いのか?」


「はい。意外と多いんですよ。……成功するのは本当に、ごく一握りです」


「まぁ。そんなもんだよな。舐めてたわけじゃないが、なかなか甘くないな」




「そうですね。ですが、みなさん、他に新しい仕事を見つけて元気にやっています。失敗したおのはユーリさんだけじゃないです」


「アルテ。おまえ、イイやつだな」


「……ユーリさんなら、大丈夫です。絶対! だからそんなに落ち込まずに、元気をだしてください!」


「ありがとう。俺頑張るぜッ! 意地と気合で乗りぬくぜッ!!」



「……その言葉。ユーリさんが言うと。説得力あるんですよね。ボソッ」


「なんて?」


「いえいえ! なんでもないです! こっちのことです」




「なかなか気持ちを切り替えるのは難しいとは思いますが、たとえばギルドの新人冒険者の教官に志望してみてはいかがですか? 推薦状なら書きますよ」


「教官ねぇ。俺に教官なんて務まるでかねぇ」




 真当な冒険者としての経験は少ない。

 極悪な犯罪者を秘密裏に処刑するのが漆黒の仕事。



 ……一応、ギルドのクエストをある程度はこなしたが。

 そっちはあくまでも、表向きの理由を作るためのもの。

 



「ユーリさん、なんだかんだ言いながら面倒見良いじゃないですか。一緒にいる女の子たちも、……事情は知りませんが、ユーリさんが面倒みているんじゃないですか?」


「ははっ。まっ、なんっつーか、成り行き上な。いまは俺のもとで働いてもらってるわけだ」


「ユーリさん。格好いいじゃないですか! もはや一国一城の主ですね!」


「――いまは、二人のために俺の貯金を切り崩し……なおかつ、王都の金貸しから借金をしながらなんとか乗り切っているけどなッ! キラッ」


「なるほど。……乗り切れていませんが、――さすがユーリさん。素晴らしいです!」





 今は俺だけではなく、ルナとユエも居る。

 みんなが生活できる場所を確保する必要がある。



 物価の高い王都ではそれが難しい。

 独り身なら話は別だが……。

 それではあまりにも情がない。




「私は、ユーリさんのそういうところ、嫌いじゃないですよ。その……格好いいと思います」


「ははっ。俺をおだてても何もでねーぞ。こちとら無一文だ。自慢じゃないけどな?」


「ですね。――ですか、ユーリさんに食事にでも誘ってもらえるのではと期待していたのですが、あてがはずれちゃいましたね。ちょっと、残念です」




「ぜひともそうしたいところだが、こちとら自慢じゃないが、スッカンピン。おしゃれな店は難しい」


「それなら、……今度、お茶、おごってください」


「……茶ね。まぁ、茶くらいならいつでもいいぜ? 急ぎの用事はないしな」


「……約束、ですからねっ」


「ああ」





「ところで、ユーリさん今日はどういったご用件でいらしたんですか? 廃村に作ったダンジョンの件での相談とお見受けしましたが」


「さすがだな、話が早い。廃村のゴブリンぶっ殺して、村もコイツらと掃除して、ダンジョンも作った。だけど、客を呼び込むのがなかなかうまくいかなくてな」


「王都内にもダンジョンはあります。ただのダンジョンというだけでは足を運ぶ冒険者さんは少ないでしょうね」




「それはその通りだ。だからこそ、差別化のために回復の泉に特化したダンジョンを作ったんだ。みんなが肩まで湯に使って傷や疲れを癒せる大衆浴場だ」


「ユーリさんの着眼点は面白いと思います。あとは、宣伝方法ですかね……」


「そこだな、まさに、そこが問題なんだよ……。呼び込みとかも、みんなで頑張ってみたんだけど、なぁーかなか、足を止めてくれなくてな。途方にくれてんだよ」




 なんだかんだ、ユエもルナも宣伝の手伝いをしてくれた。

 ルナが協力してくれるのはちょっと意外ではあった。



 美少女二人が呼び込めばいけるとは思ったのだが。

 そうそううまくはいかない。



 連れ込み宿と勘違いしてほいほいくる男達を除けばゼロ。

 確かになぁ、怪しいっちゃ怪しいもんなぁ。




「冒険者は忙しい方が多いですからね」


「そうなんだよな。誰かが一度でも温泉を体験してくれれば、口コミで良さが広がりそうな気はしているんだけどさ、最初の一人がなかなか見つからないんだよな」


「なら、私がその『最初の一人』になってあげましょうか」


「マジか?」


「マジです」


「まじか! それは、めっちゃ助かるぜ」




 感極まって思わず肩をつかんでしまった。

 これってセクハラなのだろうか。

 前世なら訴えられて懲戒免職されそうなものだ。





「……まっ、まぁ……ギルド職員としては、新しくできたダンジョンの安全性の確認も業務の一つですしぃ…それに、冒険者にとって有益な施設となるのであればギルド職員としては積極的に周知しないといけないですからね。……あくまで業務の一環として行くだけですし……現地調査は当然の責務といいますか、そのまぁ……」





 急に早口になったな。

 そして最後の方は歯切れが悪くなったな。




「……おおっ、助かるぜ。っても業務で忙しいんじゃないか?」


「大丈夫です。今日の業務を終えたら、調査のためお伺いします」


「ありがたいが、女の子が一人で夜道を出歩くなんて危ないぞ」


「大丈夫です。私も、中央ギルドの職員として魔獣を倒す訓練はしています」


「魔獣はともかく、だな。夜は野盗や人さらいとかも居るからな」




 ある程度のクラスの冒険者ですら夜歩きは危険が伴う。

 女性であればなおさらのことである。



 複数の野盗に襲撃された場合の生還率は極めて少ない。

 単純な殺意と食欲、本能で動く魔獣より人はやっかいだ。



 人を殺して奪うことでしか生きられない人間もいる。

 一度その楽さに慣れたら、もう二度と戻れない。

 脅威度は対魔獣を基準としたクラス《強さ》だけでは測れない。




「確かにユーリさんのおっしゃるとおりですね。ちょっと、気が焦りました」


「気持ちだけでもありがたい」


「そうですね……今日の夜以外だと、しばらくバタバタしていて動けなさそうなんですよね……なんとか、ユーリさんのお役に立ちたいのですが、どうしましょうか」


「それなら、俺と一緒に行けばいい。道中の護衛くらいなら余裕だ」


「仕事で遅くなるかもしれませんよ?」


「終わるまで、中央公園でコイツらと待ってる」




「あたい、おねーさんのこと串肉たべながら、まってるねーっ」


「あの、ボクたちのことは気にしないでくださいっ」


「ほら、コイツらもこういっているから気にするな」


「それでは、お言葉に甘えさせてもらいますね」





「まぁ、いまは辺鄙なところだが、寝る場所だけはたくさんある。お湯に使ってゆっくり休んだあとは寝ていけばいい。朝は仕事場まで俺が送る」


「ユーリさんと、お泊り……ですか。ふつつかモノですが、よろしくおねがいしますっ!」


「?……ああ。よろしく!」

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