第101話『小さな惑星』
「ふっざけんなッ!! いまの僕は2000倍だッ! 20倍の頃の僕とは強さの次元が違う。何人だろうが怖くないねッ! キミたちに僕が裁きを下すッッ!!」
ユーリが掴んだ肩。
肉が削ぎ落ちた箇所が復元。
治癒ではない。
元通りに復元されている。
治癒ではない。
発芽した時の状態に復元するのだ。
シンは4千万倍で撃ち止め。
進化も弱体化もない。
鍛え成長しても全てが元通り。
——復元される。
一見、非常に強力な能力。
……うまい話なんてない。
――人が背負うには重過ぎる、十字架。
だが身体が強化されている事は事実。
暫らくすれば全身の神経を木の根が蹂躙する。
耐えがたい激痛がシンを襲うだろう。
意思の強いシャドウが幼い頃は痛みで絶叫した。
幼い頃は泣いている姿を見られないよう。
シャドウは山の奥深くへ一人向かった。
絶叫を聞かれぬよう口にタオルを含み。
痛みは、タオルを噛みしめ、声なき絶叫をあげ涙した。
神経に極小のガラス片が多量に流される感覚。
全身がズタズタに切り裂かれさたと錯覚する痛み。
幸いなことにその痛みには前兆がある。
だから幼少期は前兆を感じたら人前から消えた。
ダサい姿を見られたくない。だから意地を通す。
彼が痛みで涙したことを知るのは本人だけ。
そしてその本人であるシャドウも語らない。
秘密は墓場まで持っていく。
だから幼い頃に流した涙を知る者は誰もいない。
指をへし折らようが、全身が燃えようが。
どんな拷問にも屈っせず、意地を通すシャドウ。
そんな————シャドウが人知れず絶叫した。
もちろん幼少期のことだ。
突発的に起こる激痛を克服した。
シャドウは成長した。
シンは成長できない。
……幼少期のシャドウのような意地も見せない。
痛みがシンを襲うまで猶予が残されている。
だから———上機嫌でシンは漆黒に襲いかかる。
「まずは、マシュマロ――よくも僕に呪いをかけたねッ。神罰を下す。ね?」
まるで瞬間移動のように唐突にマルマロの前に現れる。
拳神の補正を得た4千万倍。その力でマルマロを……。
―———―貫かれたのは、シンの腹部。
「ユーリさん昔、漆黒を引退するまえにダイエットしろって言ってたっす。だから、頑張って拙者、鍛えたっす。この黒い法衣の下は全て筋肉っす」
マルマロは微笑みを浮かべたまま剛腕が貫く。
……シンには見えない。
マキナの母親を肉眼で捉えることができた理由。
それは
だがいまのマルマロは数多の霊魂の器になっている。
———憑依させている霊魂の数は億を超える。
那由他の中では砂粒より少ない数。
謙虚なマルマロらしい一撃。
「…………嘘だッ!! あのマシュマロに貫かれるって……話が違うッ! 僕の2000倍はどこにいったんだよッ!! また不良品スキルを押し付けられたのか? 僕ぁなんてかわいそうなんだッッ!! 神様は僕に試練を与えすぎるッッ!!!」
———不良品スキル。
そもそもスキルでないという点を除けば、正しい。
不良品なんて生易しいモノではないが……。
「まッ……。俺も鬼じゃねェ。自業自得とは言え———これから先のテメェの人生を想うと、1ミリくらいは同情するぜッ。…………それは不良品何てモンじゃねぇ。とんでもねぇ……呪いだ。———ザマァみやがれ、クソ野郎ッ」
「———————————ハズレスキルを押し付けたキミを僕は絶対にッ! 絶対にッ……許さないッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
拳神と武神の二重クラス補正を付与。
神速の一撃を……
「————遅ぇッッ」
シャドウのクロスカウンター。
拳が顔に触れた途端、爆散。
…………————元通り復元。
恐ろしい再生能力。
「——————ふーん。あっそうッ。バイバイ! ね?」
シンは、頭上の月に向かって跳びあがる。
300メートルをひとっ跳び。
これだけ実力差を見せつけられシンは笑っている。
シンは飽きたオモチャを完全に破壊する。
————その切り札を今、使う。
「——————はーいはーい!!! はいはいッ!!!! たのしい10回目の転移でしたッッッッ!!!!! なんちゃら王とかいう、オッサン相手にしてたせいで一度も現地の女を犯せなくてね……僕ぁ死ぬほど残念だよッッ!!! ガキの目玉も手足ももぎ取って無いッ!!! 僕のこの苦しみがキミたちにわかる。ね? ——————我慢するよッッッッッ!!! 僕の得た2000倍の神忍耐力で。ね? キミたちにボコボコに虐められたこの仇はどっか違う世界で晴らすッ!!! 江戸の仇を長崎で討つッ! ね? この世界はここで終わりッ! オシマイッ!!! バイバッッッ!!! ——————
シンの手のひらに宝石のように綺麗な球体。
かわいらしいビー玉ほどの大きさの球体。
それを大きく振りかぶり地面に向け投げる。
———世界を破壊する最後のしめに使う最強兵器。
1センチ落ちるごとに倍の大きさになる。
…………ここは高度300メートル。
アレが地表に着く時には世界より巨大になる。
その質量は大地を砕く。
さらに世界の星々を破壊しなお拡大。
そうなれば世界の崩壊まで止まらない。
「——————
300メートルを超える長大な剣。
——————いや、木剣。
指先から伸ばした黒い木で出来た剣。
シャドウの手品の仕掛けは体質に依るもの。
激しい痛みを伴うが我慢すればこんな芸当も可能。
さらにシンを、縦から真っ二つに引き裂いた。
月すら両断しかねない勢いの、鮮やかな一太刀であった。
「あれだけは、……マジで駄目だ。アレはマジでヤベェ……。俺の勘がそう告げてるッ。———お前ら、あの球体に最大警戒だ」
シャドウの本能が告げていた。
あのビー玉を高所から落とさせてはならないと。
———正しい判断だ。
あのビー玉に見える球体。
アレは世界を破壊する兵器。
1センチ下降するごとに体積と質量が倍になる。
天井の低いダンジョンにしたのは正解だった。
屋外であればとっくに癇癪を起し切り札を使っていた。
そうなれば終わり。あの球体はシンのリセットボタン。
それが落とされれば全てが終わる。問答無用の最終兵器。
「奴を地面に縛り付けろ。あの野郎に高所に行くことを絶対に許すな。アイツには地を這う虫がお似合いだッ」
漆黒一同団長の意見に同意。
真っ二つに切り裂かれ落ちてきたシン。
大地を赤く染める。——————復元。
ユーリがその頭を掴む。
「随分、投げごたえの良さそうなボールだ。地球ほどじゃない、が」
ユーリはシンの首を捻じ切る。
——————そして、投げるッッ!!!
投げた頭は投石機で放たれた岩に叩きつける。
爆散。スイカが砕けた。
「ういっす。元気だねぇ。やっぱ、若いって羨ましいわ。ひひっ」
燃え盛る水平線の向こうに、百を超える兵。
遠目でも分かる。誰一人として尋常な者は居ない。
臨時徴用された採掘王の兵とは違う。
100人。——だが侮って良い人数ではない。
彼らは殺しのエキスパート。
……その先頭に立つ男。
———傭兵王、ベオウルフ。
「よう、あんちゃん。おめぇの頭。いつも爆発してんな。———ひひっ」
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