第102話『命の重さ』
「ベオっち! 僕を助けに来てくれたのかッッ! 僕ぁねッ……この奇跡を、……信じていた……僕ぁ、キミが来てくれると……信じてたッ!!!」
傭兵王に向かって突きだされた人差し指。
その指をベオウルフは握る。
そして、小枝のようにポキリと、折る。
「あああ……痛い……ベオっちの敵は僕じゃないッ! 後ろの偽りの四天王ッ! キミと城オジの敵だろッッッ?! 僕ぁキミたちのために身を粉にして頑張ったッッっ! だからそろそろ選手交代ッッ! ね?」
「挨拶なしに人差し指突きつけるの、感心しねぇなぁ――ひひっ」
「めんごッ! 性剣セクスカリバーだッ!……今こそ僕にッッ!!」
「あるわけねぇだろ。ボケ」
「ベオっち……キミは、僕を――友である、この僕を――騙したのかッッッ!!! 信じてたのにッッッ!!! 僕ぁ、……裏切られたッッッ!!!!!!」
「そう。どうでもいい。あとな。俺、今……キレてっから」
「えぇ……ッ!? どうでもいい?! 酷すぎるッ!! 僕ぁキミと城オジのためにこんなボロボロになるまで働いたのにそんな冷たい事を言うのかいッッッ?!」
「——約束、破ったな。俺の国の民は殺すな。俺との唯一の約束——破りヤガッタナァッ!――俺はぁあァァッ——マジキレてっかあぁ———ブチキレてっから!!」
「…………違うッ………僕じゃないッ! アイツらだッ!…………偽りの四天王が、殺したんだッ! 本当に卑劣で酷いヤツラだよッ。ね?……ベオっちの仲間の仇ッ! アイツらは———江戸の仇ッ!——僕と一緒に、長崎を討とうッ! ね?」
「調べた。裏も取った。…………遺体も俺の目で確認した。俺が埋葬した。テメェ『千円殺』とか叫びながら殺しまわってたんだってな。裏は取れてんだ。……埋葬する時に、傷跡を直接見た…………斬られた跡、証言と符合した。円形に斬られた跡だった。テメェだよ、テメェだよ、テメェッ……テメェだよ……メェだよッッッッ!!! ああああぁあああああああああッッ!! 許さねぇ。許さねぇ。許さねぇ。許さねぇ。許さねぇ。許さねぇ。——————絶対にッッ許さねぇッ!!!」
「…………おいおいなにキレてんの? そういうのベオっちのキャラじゃないでしょ。ね? いつも皮肉な感じのベオっちに戻ってよ。その顔、怖いよ。ケアレスミスだよ。間違って殺しちゃうことだってあるよね……ね?」
「俺はなぁ、戦争、任務の最中であれば俺の国の民が誰に殺されても文句は言わねぇ。そりゃ筋違いだからなぁ。こっちだって殺そうってしてるんだ。だから、殺した相手を恨むような事はしねぇ。それが傭兵なりの筋の通し方だ。だけどよぉッ、———テメェ——————俺の家族を、遊びで殺しヤガッタッテナァッッ!!!」
「——————ベオウルフ、さん? ……ね? どうしたの?」
「……ウズ……ヤナ……ラタ。テメェが遊びで殺した俺の家族の名前だ。俺の民は、俺の家族も同じ。ソレを殺したってことは、俺の手足を切り落としたのも同じだよなぁッ!? 絶対に許さねぇッッッ!!!! テメェはいままでに、何千兆だか、
「……落ち着こう。ほら僕も深く謝罪する。めんごめんご。……ね?」
ベオウルフの瞳からは血の涙。
鼻や耳からも血が流れ出ている。
顔中が血まみれになっている。
血管も浮き出て人の顔ではない。
ユーリは一回だけ肯定の意を示す。
傭兵王ベオウルフは小さく一礼をする。
茶々を入れられる雰囲気ではなかった。
「ウズ———愛嬌のあるいいヤツだった。話はうまくねぇ、でもなぁ、アイツが居るだけでみんなが楽しい気分になる。ムードメーカー。そんな気さくで楽しい良いヤツだった。アイツが居ると周りの笑顔が増えた。————————ヤナ、傭兵国に来た最初のときは、血の気の多いアイツはまわりの仲間と口論するは、殴り合いの喧嘩をするはで、俺も扱いに戸惑ったもんだ。——————うぅうがぁッうううう……——————だけどなぁッ…………ッッッ…………アイツは親から捨てられたもう一人の家族———弟のために意地を通して死ぬほどなぁ———頑張ってたんだよッ!!! 奥歯がすり減るほどに歯、食いしばってナぁッ!! 弟には一切、殺しには、関わらせなかったッ!! ソレが奴の見せた意地だ。——————ラタ。……アイツはなぁ…………こんな人殺しの世界に…………身を置きながら……亡くなった仲間たちのために涙を流す…………そんな心優しい男だった……アイツには将来を約束した女だっていた……テメェの下らねぇ遊びが、未来を閉ざした——————許さねぇッッ!!!!!!!!!! テメェのようなゴミ溜めのようなクズに——————俺の家族を殺されたッ!! ——————テメェが『千円殺』って笑いながら遊びで殺した奴らの———あああああああああああああああああああああああああああああああ———俺は——————俺はッッッッ!!!!!!!!!!!! ぐぬぅああああぁああああああああッッッッ!!! テメェが死ねばよかったんだッッッッ!!!!! なんでだ———なんでテメェがイキテイヤガルッッッ!!!!!」
ベオウルフは狂犬のように歯を剥きだしに。
歯茎からは血が溢れ出ている。
体は怒りで痙攣し。
口からは……血の混じった泡が。
全身が抑えきれぬ憤怒の塊になっていた。
全身に血管が浮き上がる。
顔全体に血管が浮き上がる。
地獄の鬼もこんな恐ろしい顔はしていない。
月夜が————人の
ポツリポツリと雨が降ってきていた。
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