第100話『シン・チュートリアル』

 シン・黄金道十二宮シン・アンヘルゾディアックの13の命を破壊された。

 そして親から授かった本来の命も失った。



 シンは死亡して異界に転生した

 異界の神に召喚された――である。

 故に、その命は失われていなかった。



 それが最後の復活のカラクリ。

 だが、――もうシンの復活はあり得ない。

 






 

 

 


 ———――シン、復活。












「ひぃやっはぁッ!!……なぁーんちゃっってネッ!!!!! 僕ぁ絶対に死なないよッ!! 理由? 知らねぇよ。僕ぁすごい人間だから死なない! 神を超える。ね? さぁてさぁて……まずは、あの生意気なクソガキを見つけて……僕を睨みつけて脅した、あの憎らしい目玉を抉り取ってやろう。僕のステル・スローライフが幕をあけるッ!!!! ひぃひぃ……ひゃひっひひッ!!!」









 ……だが、シンは復活した。 

 スキルによるものではない。



 生まれ落ちた時の命も使い潰した。

 だから復活するはずはありえない。




 ――シャドウから奪った世界樹の種子ティファレトの発芽。

 世界樹の種子ティファレトで得られる力は凄まじい。





 種子を持った者の死亡時に自動的に発芽。

 マナの経路を通して芽が経路を覆い

 脳、精神、思考に負った損傷すらさせる。

 肉体に負った傷も強させる。

 に跳ね上がる。





 これら一切の種子によってもたらされる能力。

 それは世界樹の機能を果たすためのもの。

 器を壊れにくくするための、




 世界樹として生きるということ。

 ……それは人の魂で耐えられる物ではない。

 拷問などという生易しい言葉では済まされない。

 もう、取り返しがつかない。元には戻れない。

 



 シンは、少しずつ少しずつ、木に変わる。

 おそらく木になるまでに千年はかかる。



 そして瘴気をマナに変換する木に変わる。

 世界のための……樹木になる。




 世界樹の種子ティファレトで得られる力は凄まじい。

 ……幼いマキナがスキルと誤解したのを責めるのは酷だ。



 だが、うまい話には裏がある。

 子供にはまだ早い話だった。



 世界樹の種子が発芽したら最後。

 ———二度と人には戻れない。



 シャドウは世界のために死後犠牲になる。

 その過酷なる運命を受け入れていた。



 だが、何の因果かその『呪い』は敵に摘出された。

 シャドウが、爆発する直前に残した最後の言葉。




 『あーあ。マジでオレ、知ぃらネッ』




 覚悟はしていたとはいえそりゃシャドウも嫌だった。

 その役割を進んでしてくれるというのだから。

 『あ~あ』という気分にもなって当然。 



 シンは瘴気をマナに変換するだけの装置となった。

 やがて……長い時間をかけて木になる。




 世界樹として生きること。

 それは人にとっては呪いだ。




 シャドウは遠い先祖に世界樹の祖先を持つ。

 外界と呼ばれる瘴気の海を航った先にある大陸。

 彼の祖先はそこからやってきた。



 だが時は経ち、彼の古い祖先も、

 その後多くの者と混血を繰り返すことで、 

 世界樹の血は薄まっていった。




 世界樹の種子ティファレトを我が子が授かって生まれた事。

 その事実にシャドウの両親、村の人々は大いに嘆き悲しんだ。



 人として真当に生きて死ぬ。それが出来ない。

 世界樹は自動的に思考、精神を復元する。 

 だから、虚無、狂気、絶望、諦観すら不可能。



 明瞭な意識のまま……生き続ける。

 死ぬことは絶対にできない。

 どんなに破壊しても燃やされても無限に蘇る。


 

 人ではなく世界樹生まれた者はもとより覚悟がある。

 種族が違うのだ。当然といえば当然だ。

 樹齢千年の大樹も別に苦痛を感じている訳ではない。

 当然だ。植物だからだ。だから耐えられる。




 だが、その役割をが負うのは、

 あまりに過酷が過ぎる。








 ――――そのことをシンは知らない。

 それは、取り返しのつかないこと。



 本来はシャドウが背負っていた巨大な十字架。

 呪われた巨大な十字架を盗んでしまっった。

 もう……捨てることもかなわない。


 全ては『瘴気を浄化させる』。

 そのために与えられた機能。



 頑強な肉体も、不老不死の体も、千倍も、

 『責務』とまったく釣り合わない。

 人には耐えられない。




 シャドウの村人は先祖返り現象を『呪い』と呼んでいた。

 そのあまりの残酷で過酷な運命を知っていたから。



 これほど残酷なことはないのだ。

 まだシンはそれを知らない。


 死ぬことができないなんてのは、ただの拷問だ。

 たった千倍になる程度では取り返しが付かない。












 *












「いぇーいッ! すっげぇぜッ! 今の僕ぁ、2000倍だぜッ! それに不老不死! しかも自動的に体が復元ッ! 僕ぁついに最強を超える。ね? 神すら超える。うん。今後は、超越シンと名乗ろう。いひっ……うん。ついに本当の僕になったッ! サイッコーの気分だねッ! サンキュー、イカレ野郎。キミの意味不明なチートが僕をハッピーにするよッ! いひっ! さぁガキ……目玉を抉って……手足をゆっくりもぎ取ってあげるからね。……まだそんなに遠くに行っていないはず? ね? 隠れんぼかな? それとも鬼ごっこかなぁ? いひひひひっ! ね? ワクワクするねぇ……楽しいねぇッ! 僕が一番好きな遊びの一つだよ。子供をあえて逃して捕まえて……絶望を思い知らせれうゲーム。あれはめちゃハマるよ。ね?」






 ———死ねない。終わりがない。その意味。

 千年、万年、ゆっくり考えればいい。

 発狂、錯乱、現実逃避も不可能。

 思考は世界樹の特性で自動的に正常化される。

 ――これほど恐ろしいことなどない。

 





「そうそう……僕がどれだけ強くなったか計算だッ! 死んだ回数は10回。つまり、2✕10。つまり200倍。さらにその――1000倍。つまりいまの僕ぁ、2000倍強くなっているってことだよねッ? さすがにヤバすぎるッ! やったぜッッ!!」





 ・・・・・あまりに間違っているので訂正しよう。

 まず、200✕1,000は2,000ではない。

 20,000。……それすら前提が間違えているのだが。





 シンがどの程度強化されたか正しく記す。





 2倍になる救世主福音書シン・ニューゲームプラスで12回復活。

 10倍になるシン・救世主福音書シン・ニューゲームプラスで1回復活。

 1000倍になる世界樹の種子ティファレトで1回復活。

 なお、親から授かった元からの命を失ったことで得られた強化はゼロ。





 ①2の12乗――――――=4,096

 ②4,096×10――――=40,960

 ③40,960×1000―=40,960,000


 




 シンは正確には強くなっている。

 まぁ……説明しても一生理解しないと思うが。





 シンに言っても理解させることは不可能。

 彼のなかではなのだ。

 それで歌いながら満足しているのだからそれで良い。


 否定したらただヒステリーを起こすだけだ。

 説明しても無駄。放っておこう。



 二度とシン・救世主福音書シン・ニューゲームプラスは発動しない。

 何故なら――シンは二度と、死ねないから。

 だから40,960,000倍これが、シンの最後の力。




 シンは2000倍正しくは四千万倍の力を得た。

 マキナをして痛めつけためにウキウキ気分。









 ――――――巨大な門












「……嘘だろ……なんで……なんで……だって……消滅したはずだろッ?!」







 月明かりに照らされた巨大な門。

 そのの前に4つの影。

 ――否。5つ。







「ようこそいらっしゃいました、冒険者シン。この門の先がチュートリアルを執り行う、教室部屋クラスルーム。僭越ながら私たちが、四つの基礎的な授業を指導いたします」


「はぁ……おいおい……どういうことだ……僕は……キミたちを皆殺しにした。だから……間違いなく……なのになんで……なんでッッッ!!!!!!」







「おや? 冒険者シン。どうされました? 『さぷらぁいず』はまだ早いです。四天王は一度死に強くなるものです。何も不思議なことはございませんが。はて?」


「……なんで……なんで……ありえな……僕ぁ……こんな……認めなっ……!!」






「いえいえ。貴方には驚かされました。まさかチュートリアルの脱落者が出るとは。これが――貴方の得意な『さぷらぁいず』ですか?」


「僕ぁ何を見せられてるッ?! ループ? 時間遡行? 死に戻り? 幻術ッ?」





 どれも不正解。

 シンのいう通り一度は殺された者たち。

 だが蘇った。




 ――――によって。

 




「ごちゃごちゃうるせぇ野郎だ。感謝しろよ。おら。もう1回遊べるドンッ! 黙ってオモテナシを喰らいやがれ。———こほん。……失敬。最後の授業は課外授業。この月夜の下で貴方に敗北を教えましょう。きっと、喜んでいただけるはずです」


「…………嫌だ………僕ぁ逃げる……こんな理不尽。許されてたまるものかッ!」








「シンは逃げ出した・・・・・・だがにげられないッ!」







 ユーリはゆらりと動きシンの前に立つ。

 ユ逃げだそうとしたシンの肩を掴む。止め……ッ。



 ――否。ユーリはシンの肩ごと、抉りとっていた。

 そして……世界樹の力。抉った肩は復元。

 ユーリは驚愕しない。その復元を見て悪鬼の如く嗤う。






 門の前の影は少しずつシンの前に歩みを進める。

 全員……シンの見知った顔だ。


 





「よォッ!! 元気してたかァッ――――テメェに会いに行くために煉獄山れんごくさんをマッハで駆け登ってきたぜッッ!! まだ殴り足りねぇからナァッ!!!」


「拙者、勉強になったっす。生と死を司る呪術師。一度、死ぬのも悪くないっすね」


「――――目下星辰正刻哉。禁忌語我真姿呪禍分かってるな? 俺の事は、言うなよ――マジ、テケリ・リるぞ?







「そんな訳で、シン・チュートリアルの始まりだ。ワクワクするだろ? ここから先が真のサプライズパーティーだ。遠慮するな。嬉しいだろ? 今度は――4人……いや5人で、オモテナシを喰らわせてやる。頑張れよ——不死身なんだもんなぁ?」

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