第100話『シン・チュートリアル』
そして親から授かった本来の命も失った。
シンは死亡して異界に転生した転生者ではない。
異界の神に召喚された――転移者である。
故に、その命は失われていなかった。
それが最後の復活のカラクリ。
だが、――もうシンの復活はあり得ない。
———――シン、復活。
「ひぃやっはぁッ!!……なぁーんちゃっってネッ!!!!! 僕ぁ絶対に死なないよッ!! 理由? 知らねぇよ。僕ぁすごい人間だから死なない! 神を超える。ね? さぁてさぁて……まずは、あの生意気なクソガキを見つけて……僕を睨みつけて脅した、あの憎らしい目玉を抉り取ってやろう。僕のステル・スローライフが幕をあけるッ!!!! ひぃひぃ……ひゃひっひひッ!!!」
……だが、シンは復活した。
スキルによるものではない。
生まれ落ちた時の命も使い潰した。
だから復活するはずはありえない。
――シャドウから奪った
種子を持った者の死亡時に自動的に発芽。強制復活。
マナの経路を通して芽が経路を覆い不死を与える。
脳、精神、思考に負った損傷すら自動的に復元させる。
肉体に負った傷も強制的かつ自動的に復元させる。
身体能力は1000倍に跳ね上がる。
これら一切の種子によってもたらされる能力。
それは世界樹の機能を果たすためのもの。
器を壊れにくくするための、おまけに過ぎない。
世界樹として生きるということ。
……それは人の魂で耐えられる物ではない。
拷問などという生易しい言葉では済まされない。
もう、取り返しがつかない。元には戻れない。
シンは、少しずつ少しずつ、木に変わる。
おそらく木になるまでに千年はかかる。
そして瘴気をマナに変換する木に変わる。
世界のための……樹木になる。
……幼いマキナがスキルと誤解したのを責めるのは酷だ。
だが、うまい話には裏がある。
子供にはまだ早い話だった。
世界樹の種子が発芽したら最後。
———二度と人には戻れない。
シャドウは世界のために死後犠牲になる。
その過酷なる運命を受け入れていた。
だが、何の因果かその『呪い』は敵に摘出された。
シャドウが、爆発する直前に残した最後の言葉。
『あーあ。マジでオレ、知ぃらネッ』
覚悟はしていたとはいえそりゃシャドウも嫌だった。
その役割を進んでしてくれるというのだから。
『あ~あ』という気分にもなって当然。
シンは瘴気をマナに変換するだけの装置となった。
やがて……長い時間をかけて木になる。
世界樹として生きること。
それは人にとっては呪いだ。
シャドウは遠い先祖に世界樹の祖先を持つ。
外界と呼ばれる瘴気の海を航った先にある大陸。
彼の祖先はそこからやってきた。
だが時は経ち、彼の古い祖先も、
その後多くの者と混血を繰り返すことで、
世界樹の血は薄まっていった。
その事実にシャドウの両親、村の人々は大いに嘆き悲しんだ。
人として真当に生きて死ぬ。それが出来ない。
世界樹は自動的に思考、精神を復元する。
だから、虚無、狂気、絶望、諦観すら不可能。
明瞭な意識のまま……生き続ける。
死ぬことは絶対にできない。
どんなに破壊しても燃やされても無限に蘇る。
人ではなく世界樹生まれた者はもとより覚悟がある。
種族が違うのだ。当然といえば当然だ。
樹齢千年の大樹も別に苦痛を感じている訳ではない。
当然だ。植物だからだ。だから耐えられる。
だが、その役割を人間が負うのは、
あまりに過酷が過ぎる。
――――そのことをシンは知らない。
それは、取り返しのつかないこと。
本来はシャドウが背負っていた巨大な十字架。
呪われた巨大な十字架を盗んでしまっった。
もう……捨てることもかなわない。
全ては『瘴気を浄化させる』。
そのために与えられた機能。
頑強な肉体も、不老不死の体も、千倍も、
『責務』とまったく釣り合わない。
人には耐えられない。
シャドウの村人は先祖返り現象を『呪い』と呼んでいた。
そのあまりの残酷で過酷な運命を知っていたから。
これほど残酷なことはないのだ。
まだシンはそれを知らない。
死ぬことができないなんてのは、ただの拷問だ。
たった千倍になる程度では取り返しが付かない。
*
「いぇーいッ! すっげぇぜッ! 今の僕ぁ、2000倍だぜッ! それに不老不死! しかも自動的に体が復元ッ! 僕ぁついに最強を超える。ね? 神すら超える。うん。今後は、超越シンと名乗ろう。いひっ……うん。ついに本当の僕になったッ! サイッコーの気分だねッ! サンキュー、イカレ野郎。キミの意味不明なチートが僕をハッピーにするよッ! いひっ! さぁガキ……目玉を抉って……手足をゆっくりもぎ取ってあげるからね。……まだそんなに遠くに行っていないはず? ね? 隠れんぼかな? それとも鬼ごっこかなぁ? いひひひひっ! ね? ワクワクするねぇ……楽しいねぇッ! 僕が一番好きな遊びの一つだよ。子供をあえて逃して捕まえて……絶望を思い知らせれうゲーム。あれはめちゃハマるよ。ね?」
———死ねない。終わりがない。その意味。
千年、万年、ゆっくり考えればいい。
発狂、錯乱、現実逃避も不可能。
思考は世界樹の特性で自動的に正常化される。
――これほど恐ろしいことなどない。
「そうそう……僕がどれだけ強くなったか計算だッ! 死んだ回数は10回。つまり、2✕10。つまり200倍。さらにその――1000倍。つまりいまの僕ぁ、2000倍強くなっているってことだよねッ? さすがにヤバすぎるッ! やったぜッッ!!」
・・・・・あまりに間違っているので訂正しよう。
まず、200✕1,000は2,000ではない。
20,000。……それすら前提が間違えているのだが。
シンがどの程度強化されたか正しく記す。
2倍になる
10倍になる
1000倍になる
なお、親から授かった元からの命を失ったことで得られた強化はゼロ。
①2の12乗――――――=4,096
②4,096×10――――=40,960
③40,960×1000―=40,960,000
シンは正確には4千万倍強くなっている。
まぁ……説明しても一生理解しないと思うが。
シンに言っても理解させることは不可能。
彼のなかでは2000倍なのだ。
それで歌いながら満足しているのだからそれで良い。
否定したらただヒステリーを起こすだけだ。
説明しても無駄。放っておこう。
二度と
何故なら――シンは二度と、死ねないから。
だから40,960,000倍これが、シンの最後の力。
シンは
マキナをして痛めつけためにウキウキ気分。
――――――巨大な門
「……嘘だろ……なんで……なんで……だって……消滅したはずだろッ?!」
月明かりに照らされた巨大な門。
そのの前に4つの影。
――否。5つ。
「ようこそいらっしゃいました、冒険者シン。この門の先がチュートリアルを執り行う、
「はぁ……おいおい……どういうことだ……僕は……キミたちを皆殺しにした。だから……間違いなく……なのになんで……なんでッッッ!!!!!!」
「おや? 冒険者シン。どうされました? 『さぷらぁいず』はまだ早いです。四天王は一度死に強くなるものです。何も不思議なことはございませんが。はて?」
「……なんで……なんで……ありえな……僕ぁ……こんな……認めなっ……!!」
「いえいえ。貴方には驚かされました。まさかチュートリアルの脱落者が出るとは。これが――貴方の得意な『さぷらぁいず』ですか?」
「僕ぁ何を見せられてるッ?! ループ? 時間遡行? 死に戻り? 幻術ッ?」
どれも不正解。
シンのいう通り一度は殺された者たち。
だが蘇った。
――――奇跡によって。
「ごちゃごちゃうるせぇ野郎だ。感謝しろよ。おら。もう1回遊べるドンッ! 黙ってオモテナシを喰らいやがれ。———こほん。……失敬。最後の授業は課外授業。この月夜の下で貴方に敗北を教えましょう。きっと、喜んでいただけるはずです」
「…………嫌だ………僕ぁ逃げる……こんな理不尽。許されてたまるものかッ!」
「シンは逃げ出した・・・・・・だがにげられないッ!」
ユーリはゆらりと動きシンの前に立つ。
ユ逃げだそうとしたシンの肩を掴む。止め……ッ。
――否。ユーリはシンの肩ごと、抉りとっていた。
そして……世界樹の力。抉った肩は復元。
ユーリは驚愕しない。その復元を見て悪鬼の如く嗤う。
門の前の影は少しずつシンの前に歩みを進める。
全員……シンの見知った顔だ。
「よォッ!! 元気してたかァッ――――テメェに会いに行くために
「拙者、勉強になったっす。生と死を司る呪術師。一度、死ぬのも悪くないっすね」
「――――
「そんな訳で、シン・チュートリアルの始まりだ。ワクワクするだろ? ここから先が真のサプライズパーティーだ。遠慮するな。嬉しいだろ? 今度は――4人……いや5人で、オモテナシを喰らわせてやる。頑張れよ——不死身なんだもんなぁ?」
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