第55話『迫りくる王の軍勢』

 因果応報鏖殺陣フィード・バッカー

 ありゃ、とんでもなくヤバい呪術だったな……。


 敵陣、閻魔様の茹で釜引っくり返したような有り様。

 ……巨岩、火球、矢の豪雨。



 さすがにあんなモンは、勘弁だ。

 敵陣が一瞬であんな壊滅的事態になるなんてな。


 まぁ、村の施設、家屋も、完全にめちゃくちゃだ。

 負傷者はいないが、被害は甚大。


 敵陣の地獄絵図と比べりゃマシだが。





「いやぁ、……すげぇ威力だったぜ。マルマロ、やるじゃん!」


「にゃりーん☆ ユーリ殿、サンキュっす! 拙者の最強の術っす」




「ははっ、さすがは、漆黒の団員だぜッ! いやぁ、豪快ッ! 痛快ッ!」


「ふひひ。拙者は初手からあそこまで、壊滅的な攻撃をしてくるとは思わなかったっす。これが、王の戦い方なんっすね。気を引き締めていかないとっす!」





「これが傭兵王の戦いってヤツかッ! 敵ながら、スゲェ、豪快な奴だぁッ!」


油断大敵こっからが本番だべ!





 燃え栄える水平線の向こうから、地鳴りの音。

 一歩一歩、村に向け歩みを進めている。


 燃えさかる大地を、踏みしめ行軍する王の軍勢。

 聞こえる足音の間隔に乱れはない、安定している。



 もう少し混乱してくれると、ありがたかったのだが。

 まだ奴らも戦う意志がある、ということか。

 




「近接部隊が来やがったぜぇッ! あんだけ死者だしても、まだ進軍を続けるっつーんだから、傭兵の王。ハッ! 敵ながらなかなかに大したタマしてやがるぜッ!」


「こりゃ、また。はは、凄い数を送ってきやがったな。マルマロ、ざっくりで構わないから、どれくらいの軍勢が送られているか分かるか?」




 魔力操作でマルマロの視力は強化されている。

 さらに自壊式で魔力と集中力が超強化されている。


 距離が離れていても敵陣の様子はある程度は把握可能。

 因果応報鏖殺陣フィード・バッカーに不可欠な能力だ。




「そっすねぇ……拙者の見立てでは、……ざっと、2万くらいだと思うっす」


「サンキュ」




 ――2万。

 マルマロの見立てだ。

 大きく間違ってはいないだろう。




「最終任務の対象、使い魔は確認できるか?」


「確証はないっすが、今見えている中には居なそっすねぇ。少なくとも、目立った格好や動きをしている兵は、今のところは確認できないっす」




 一騎当千には一騎当千を当てると期待したのだが。

 なかなか思いどおりには動いてくれない。

 切り札は、温存するということか。


 考えても、無駄だな。頭脳戦で傭兵王に勝てるはずない。

 俺たちゃあくまで、現場の人間だ。


 俺たちには、時間制限がある。

 過激に暴れて注意を引く、それができることだ。

 



「マルマロ、あの術はまだ、使えるか?」


「使えるっすが、拙者の因果応報鏖殺陣は、あくまで迎撃魔法っす。かなり集中力を使うっす。一分が限界っす……近接戦の使用は厳しいっす」




「マルマロ、冷静な判断ありがとう! 長距離攻撃部隊を壊滅させてくれたのはマジ助かった! 団長、エッジ、それに俺も遠距離攻撃には対応できないからな」


「ククッ! アイツらもアレにビビって、もう遠距離攻撃できねぇしなァッ!!」


我戦友大感謝マルマロ凄ぇべ!





 いや、……本当ラッキーだった。

 チクチク長距離攻撃されてたら、中々に面倒だった。


 最優先の任務は、使い魔を巻き込んでの自爆。

 俺達は、ダンジョンのあるこの村から動けない。



 無闇に敵陣に突っ込むことはできない。

 敵陣で死ねば、超広域爆発で瘴気地帯グラウンド・ゼロに変わる。


 地表での死亡。

 それだけは、絶対に許されていない。

 





「まっ、もう一暴れしないと、本丸さんは現れてくれないってことかね。やれやれ、なかなか楽にはいかないもんだぜ。おっしゃ! 気合入れていこうぜ!」


「ユーリ、エッジ、俺たち近接組もマルマロにゃ負けてられねぇぜッ!」





 敵は、王の軍勢。指揮を執るは、不敗の傭兵王。

 戦術、戦略、頭脳戦で太刀打ちできる相手ではない。

 

 俺たちにできることは大暴れして本丸を引きずり出すこと。

 現場の俺にとっちゃ、その方が分かりやすくていい。


 最凶の使い魔を確認次第、誘いつつダンジョンに後退。

 あとは、ダンジョン内で相討ちに持ち込む。


 



「おっしゃぁっ!! やったろーぜ! おあつらえ向きに、俺たち近接組向きの、敵さんが歩を進めているみたいだ。漆黒流の、おもてなしをしてやろうぜ!」


不不不不殺フフフフフフッ……

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