第56話『怪力豪腕、人間迫撃砲』

「こりゃまた、凄いな。まるで壁が迫ってくるような迫力だ……」


「へっ! 靴底から、ズンズンと重低音が響いてきやがるぜッ!」


呵呵、血沸胸躍なかなかおもしれぇじゃん!




 王の軍勢は間近にまで近づいてきている。

 陣形を維持し、俺達を面で押し潰そうと迫りくる。

 これは、波だ。飲まれる前に、押し切らねば。



 マルマロの見立てで2万を越える軍勢。



 前列は巨大な盾を構える重装備の兵士。

 その後ろに控える、剣を持つ兵士。

 最後列には、槍兵。




「最前列の重装甲の大盾はちっと、ジャマだ。ユーリ、蹴散らせっかッ?」


「大丈夫だ。おあつらえ向きに、敵さんがプレゼントしてくれた投石機カタパルトの球状の巨岩が、そこらに落ちてる。俺が、ソレをプレゼントぶん投げ返して道を作る」


呵呵、人間投石機すげぇべ。ユーリ、人間カタパルトだべ





 投石機カタパルト。恐ろしい兵器だ。


 500キロを越える球状の岩を飛ばす攻城兵器。

 その飛距離は300メートルを越える。


 付与魔術スペル・エンチャント次第で飛距離は更に伸びる。

 分厚い城壁も一撃で粉砕できる。そんな兵器だ。



 馬鹿げた威力にも関わらずあまり使われない兵器でもある。

 単純に投石機の運用が難しいからだ。


 投石機カタパルト1機の運用に30の兵を要する。

 超重量の巨岩を運搬するのに、更に20の運搬要員が必要。


 50人も割り当てなければ扱えない兵器。





「――まっ、俺なら一人で十分だけどな!!」





 500キロの球状の巨岩を片手で鷲掴わしづかみにする。

 巨岩が手のひらにピタリとフィットする。


 イメージしろ、ボーリングの玉が描く軌道を。

 目の前の軍勢はピンだ。




 狙うは当然、――ストライク。




 巨岩を片手で放る。そんなことが、――できるか?

 人の体の構造は巨岩の投擲に最適化されていない。

 物理的に……そんなことが、人に、――可能か? 



 


「――んなもんなぁ、デキるにキマってんだろぉガァッ!!!!」





 500キロの巨岩が――飛翔する。

 直線的な軌道で。突き進む。



 飛翔する巨岩が音速の壁を破る音が、聞こえた。



 これは、超高速で飛翔する巨大な、ボーリング玉。

 最前列の大盾を構える重装甲兵に、着弾。 



 瞬間、重装甲の大盾兵がれた。


 

 吹き飛ぶでも、砕くでもなく、れた、パンッて。

 当然だ。高速で飛翔する巨岩を、人が受けきれるはずがない。




 前世にも、1メートルを越える砲弾は存在しなかった。

 近い兵器は、914ミリ超重迫撃砲、リトル・デーヴィッド。


 着弾地点にクレーターレベルの壊滅的な損壊をもたらす。

 人でなく、陣そのものを、破壊するために造られた兵器。

 

 テレビ世界仰天SHOWの人が、そう言ってた。

 それを越える大きさの玉を、俺は歩兵相手に用いる。




 大盾もフルプレートアーマーも何の意味も持たない。

 付与魔術の物理耐性強化も、気休めにしかならない。


 防ぐのに必要なのは、対人用の盾ではない。

 城壁3枚、そのあたりが妥当なとこだろう。





「本気で投げりゃ、城壁5枚はいけるかもな」





 前列の大盾兵、中列の剣士、後列の槍兵が、爆散。

 赤色インクが詰まった水風船のように破裂。

 敵の陣形を力ずくで、強制的に破る。


 

 

 理解不能な破滅的な攻撃。

 戦場に生じたわずかな硬直。陣形の乱れ。

 だが、いまだ敵兵達の士気は、高い。





(今の一撃にビビって逃げてくれたら、楽だったんだがなぁ……)




 

 相対する敵は、俺達への恐怖より、闘志が勝っている。

 これだけ理不尽で圧倒的な暴力を見て、なお引かない。


 時間を与えれば、即座に陣形を立て直される。

 その時間を与えてはならない。





「粋だねぇッ! 漆黒の舞台に相応しい鮮血の絨毯レッドカーペットだぜッ!」


我戦場駆鮮血絨毯ユーリ、道作ってくれてサンキュ。これで突っ込めるべ





「オッケー。俺は、後方から石をぶん投げて、敵陣を崩して、団長とエッジが通る道を作る。玉が無くなり次第、俺も突撃する。それでいいか?」





「ユーリの案に乗るぜッ! 今こそ好機ッ! 見逃せねぇよなァッ! エッジ」


不不不、不不不不、不不不不不殺まず、俺が戦場に疑心暗鬼を作る。その後、団長が正面から突っ込むべや

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